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生命保険会社の経営破綻誘発要因の定量分析

日本のバブル期とその清算過程において 7 社もの生命保険会社の連続破綻が発生した。

この経営破綻に至るプロセスや要因については、多くの先行研究があるものの、複数の要 因が相互に影響することもあり、その主因は定性的に一時払い保険の大量販売や高い予定 利率の設定、解約の増加とされることが多かった。ただ、各要素のインパクトの大きさが 定量的に捕らえられておらずALM 運用などの有無により結果が異なるなど一様でない状 況が存在する。

そこで、本章では、バブル期からバブル清算期までの金利の動きを想定できる理論モデ ルを作成することにより、一時払いの保険や高予定利率の保険の大量販売や解約が経営破 綻に与える影響等を検証する。

1.はじめに

戦後、日本の生命保険業界は20社でスタートし、経済成長とともに保険会社も順調に 業績を伸ばした。大きく成長段階に仕分けると、戦後の復興期(1946年~1958年)、高 度成長期(1959年~1972年)、安定成長期(1973年~1984年)、バブル期(1985年~

1990年)78、バブル清算期と低成長期(1991年~現在)と分けられるが、業界の最大の 試練は、1990年代後半のバブル崩壊後の20社中7社が連続して経営破綻したバブル清 算と低成長期である。経営破綻原因については、多くの要因が指摘されている。①一時払 い養老保険の大量販売、②高い予定利率の設定、③リスクの高い資産運用、④ALMの不 在、⑤解約の増加等である。ただ、その多くは確かに現象としては存在したものの、破綻 への影響度などを計量的に計測した研究は少ない。

そこで、本章では、資産と負債を同時決定する保険会社モデルを用いて、多くの先行研 究で取り上げられた「一時払い養老保険の大量販売」などがバブル期およびバブル清算期 と類似の金利変化に直面した場合に、経営破綻に与えた影響はどの程度であったか、ま た、そもそもそれは主要因であったのかを計量的に計測することとする。

7大塚忠義・(2014)「生命保険業の健全経営戦略」、6頁参照。

8ただ、大塚(2014)は戦後から最初の破たんが起きるまでの50年間を復興期(1946年

~58年)、高度成長期(1959~72年)、安定成長期(1973~84年)、バブル期(1985~95 年)の4つの時期に分け、日本国内20社生命保険会社の主な事業、料率・配当率、監督 官庁の規制方針の変遷およびその影響を分析している。

54 2.先行研究

バブル清算期の生命保険会社の破綻の原因について、先行研究から総括的な判断を見 ると、茶野(2002)は1990年以降のバブル清算期には長期にわたる経済の停滞と金融緩 和政策により長い低金利局面と株価低迷等が発生し、①生命保険会社の投資環境の悪化と

②既存契約の高予定利率から逆ザヤ(資産運用利回りが平均予定利率を下回ること)が、

一部の生命保険会社の経営破綻を誘発したとしている。また、久保(2005)はバブル期 初期の一時払い養老保険など高予定利率の貯蓄商品の積極販売やALMと乖離した資産ポ ートフォリオの構築などが破綻原因であるとし、その根底には経営判断に基づく誤った販 売戦略や財務戦略があったとした。

一方、武田(2008)は連続的に破綻した7社の破綻とその処理過程を整理し、生命保 険会社破綻原因は、①経済的環境の激変を想定していない保険料率の設定、②商品政策の 失敗、③無理な資産運用の3つが要因としている。また、植村(2008)は、破綻した中 堅生命保険会社と破綻しなかった中堅生命保険会社を比較する中で、①バブル崩壊後の厳 しい経済環境など外部要因と②経営等の保険会社の内部要因を詳しく検討している。その 結果、外部要因が生保経営に与える影響は小さくないものの、破綻誘発要因はむしろ個別 の経営(内部要因)にあるとした。

そして、大塚(2014)は、バブル期に発生した要因のみでは破綻の連鎖を説明するこ とは困難であるとし、それ以前の生命保険会社が高い成長を謳歌した過程で内包した構造 的な問題が重要な要因であるとした。

さらに、この中から経営の関与が大きいとされる「予定利率と逆ザヤの形成」と「一 時払い養老保険などの販売」の2点について更に詳しく先行研究を見てみよう。

(1)予定利率と逆ザヤの形成

茶野(2002)は、日本の生命保険業は1990年代以後の長期間に及ぶ持続的な低金利政 策により発生した逆ザヤが保険会社の財務健全性を損壊し、更に逆ザヤが累積する事態が 国民の生命保険業に対する信頼を低下させたとしている。その中で、信用力が相対的に劣

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る生命保険会社の解約が増加し、これが最大の連鎖破綻の原因であるとした9。また、外 部要因のインパクトの大きさを観察するため、主要国の1955年から2000年までの長期 金利推移を考察し、1980年代後半の日本の公定歩合操作は、地価上昇の抑制を目的とし た急激な引き上げとその後の景気減速に対応した急速な引下げが特徴的であったとした。

この金融政策のオペレーションにより日本の長期金利はピーク水準からの低下幅は極めて 大きく、外部要因のインパクトは相当大きいとしている。加えて、1995年の保険業法改 正により標準責任準備金制度が導入されるまでは、明示的に予定利率と市場金利との関係 を規定する規制は存在せず、日本の生命保険会社が1980年代後半以降におかれてきた状 況は、当時の欧米の生命保険会社より健全性リスクに対して脆弱であったことを明らかに した。そして、このような局面への対応は、既契約の予定利率の変更という手段以外は効 果が限定的であるしている。

武田(2008)も1997年から2001年にかけて発生した7社生命保険会社の経営破たん に共通する破綻要因は、生命保険会社が相対的に安い保険料率(高予定利率)を設定した ことにあるとしている。その結果、新規契約とは別で、契約の大半を占める既契約の安い 保険料率(高予定利率)の改定が進まず、逆ザヤが発生した。これは保険会社の経営判断 に問題があったとしている。

同じ予定利率の設定問題について、茶野は外部の経済・金融要因や監督規制という保 険会社の外部要因が経営破綻に色濃く反映したのに対し、武田はその厳しい外部環境は認 めるにしても、保険会社の経営責任は重いと判断している。一方、大塚(2014)は、

1970年代から1990年代までの生命保険会社予定利率の変化を観察し、保険会社にとっ て予定利率の引き上げは競争上不可避なものであったと考え、また、逆ザヤの発生は、予 定利率の引き下げ時期の遅れや機動性の無さではないとした。10

(2)高い予定利率の生命保険商品販売の影響

予定利率の設定や引下げに関する問題が、保険会社を取り巻く外部環境や監督規制にあ ったとしても、保険商品の販売そのものは保険会社の固有の問題である。そこで、商品政 策と経営破綻の関係をみると、久保(2005)は経営破綻した7社計とそれ以外の会社計 に分け詳細な業績比較を行う中で、①破綻7社は80年代後半のバブル期に大量の一時払

9茶野努(2002)「予定利率引き下げ問題と生保業の将来」、9頁参照。

10 大塚忠義・前掲注1 20-24頁参照。

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い商品を販売し売上高の押上げに奔走した、②その後、解約・失効による流動性リスクが 顕在化した、2点の特徴をあげている11

武田(2008)も、1970年代後半の国民の生命保険に対する貯蓄ニーズに対応した「短 満期」保険の位置付けが経営破綻に直接的、間接的に関連しているとしている。「短満 期」商品の積極的販売は経営を圧迫し、健全性にも影響を与えたとしている。また、大塚

(2014)は、逆ザヤの発生の主因はバブル期に一時払い養老保険および一時払い個人年 金を大量に販売したことにあるが、バブル期の貯蓄性商品販売の重視は、破綻会社などの 一部の会社のみで見られた現象ではなくすべての会社で見られた。貯蓄性商品の販売拡大 による逆ザヤと財務損失の拡大は、中堅生保が有する業界の「横並び体質」から自社の体 力や特性を生かしきれなかったことによるとしている。

以上から、経済・金融等の外部環境、監督規制、バブル期の商品政策、その源にある 経営判断等が逆ザヤの原因と破綻へのプロセスが示されている。ただ、定性的な判断が多 く、各要因の計量的な影響度は不透明である。そこで、次節では、多くの指摘があった商 品政策、とりわけ、「一時払い」養老保険の大量販売が経営破綻にどのような影響を与え たかをモデル保険会社を用いて検証する。

3.モデル保険会社を用いた破綻原因の考察

1.の先行研究から、高予定利率契約や一時払い保険の大量販売が各社の経営破綻に深 く影響している可能性が高い。そこで、その大きさを計量的に評価するため、モデル保険 会社を用いたシミュレーションを行う。

(1)モデル保険会社の特徴

生命保険会社は、保険商品の販売とその結果発生する責任準備金などの資産運用とが連 動しており、それらは分離して計測することには合理性に乏しい。保険商品の保険料や責 任準備金は死亡率、予定利率、事業費率12、そして解約率などに基づき計算される。その責 任準備金は、経営としての投資戦略に基づき資産ポートフォリオを組み、運用される13

11 久保英也(2005)「生命保険業の新潮流と将来像」93-96頁参照。

12 事業費は本研究の対象ではないため、モデル保険会社に派事業費率を勘案していな い。今後の研究にはこれも反映したい。

13 実務上利益が出るとき含み益という形で計上されているが、本研究では資産の現在価 値(時価)に反映する。

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