第1節 環境経営と環境マネジメント指標
環境省の「環境にやさしい企業行動調査」によれば、参照する報告書のガイドラインは 環境省の「環境報告ガイドライン」を利用する企業が多く(66.2%)圧倒的な支持を得て いる。IIRCの<IR>フレームワークを使用している企業は(5.7%)一部の企業に留まって いる。注目される IIRCの統合報告を意識しているものの、わが国ではまだ本格的に普及 するには至っておらず、報告書の開示情報が客観的に評価されることが重要である。
わが国では、統合報告に追い風となる制度が2年続いて導入されているという。昨年に はコーポレート・ガバナンス・コード(企業統治指針)が導入されており、一昨年には、
チュワードシップ・コードが導入されている。
導入の狙いは「企業価値の向上に向けて積極的な役割を果たすことが求められている」
(日経朝刊,2016.5.19, p.17)ようになり、わが国でも「投資家を意識する企業が多く」(日 本経済新聞朝刊, 2015.910)なった。「欧州では国際展開を進める企業の多くが統合報告書 を作成している」(同上紙, 2015.910)。
企業が統合報告へと向かう理由・背景として、加賀谷(2014)は「統合報告に注目が集 まる背景には3つの潮流がある」という。まず、(1)企業が提供する財務情報が十分に企 業価値評価に資する情報を提供していないのではないかという懸念が増大していること。
(2)経済的価値のみではなく、企業活動が環境や社会に与える影響に対する責任をより 積極的に果たすことが求められること。(3)投資家と経営者のコミュニケーション・ギャ ップが企業の短期志向を増幅させ、企業経営や市場経済にネガティブな影響を与えている という懸念が増大している点にあるという。
なぜ IIRCの概念が企業報告に必要なのか。現在の企業報告モデルが形成された後、経 営のあり方や事業価値の創造、環境への変化は相互に関連しており、このような情報を反 映する(IIRC, 2013)こととして次の6つを挙げている。
(1)ローバル化、(2)金融、ガバナンス、その他の危機に対応する形で世界的に広がる 政策対応、(3)企業の透明性と説明責任への期待の高まり、(4)現在及び将来の資源の枯 渇、(5)人口増加、(6)環境問題といった諸事情を関連づけることによって、企業を取巻
-筑波由美子- 114 く経営環境を把握する。既存の財務報告でカバーできないものを盛り込んでいく報告書。
である。このような開示情報が要請されるのは、「組織の過去・現在の業績及びその将来の 対応力(レジリエンス)を評価するために必要となる情報は、現在の企業報告モデルが提 供する情報よりも広範囲である。」(同上書, 2013)。
IIRCの報告書に関する調査も多く、Black Sun Plc33(2012)はIIRCの統合報告がビジ ネスにどのようなメリットがあるのか明確にするための研究チームで企業分析をした結果 を報告している。
PwCではグローバルな連携の下、長年にわたり積み重ねてきた統合的な企業分析のフレ ームワークに関する調査・研究を基に、企業・組織の統合報告への挑戦を支援している。
IIRCは統合報告という新たな報告アプローチを開発する目的として、21世紀の持続可 能性の高い未来ニーズに答える報告書を作成することである。統合報告とは、「組織が事業 を行う商業上、社会上及び環境上のコンテクストを反映しつつ、組織の戦略、ガバナンス、
業績及び見通しに関する重要な情報をまとめ上げるものである。それにより。組織がスチ ュワードシップをどのように果たしているか、また、組織がどのように価値を創造・維持 するかに関して簡潔である。
統合報告書は、組織の主たる報告書となるべきである」と定義している(同上書, 2013)。 統合報告の便益は、「統合報告では伝統的な報告よりも広範な業績の説明を行うことになる。
組織による様々な資源とその関係又は「資本」(金融、製造、人的、知的、自然及び社会)
の利用と依存、及び組織によるそれへのアクセスと影響を可視化する。これらの情報を報 告することは、以下において不可欠である」と述べ、次の3つをあげている(同上書, 2013)。
① 組織のビジネスモデルと戦略に係る長期的な実行可能性に関する意味のある評価。
② 投資家及びその他のステークホルダーの情報ニーズへの対応。
③ 最終的には、乏しい資源の効果的な配分。
国際的なフレームワークは、「今後数十年にわたる報告の発展を推進するものとして、国 際統合報告フレームワークを開発している。フレームワークの主たる目的は、明瞭、簡潔 かつ結合された、比較可能な形で、組織の長期的見通しを評価するために、投資家及びそ の他のステークホルダーが必要とする広範な情報を組織が伝達できるようにすることであ
33)Black Sun Plcは、1991年に設立。ヨーロッパ有数の戦略的な企業コミュニケーションのコンサルタ ント。専門の戦略的な研究チームがトレンドやベストプラクティスを識別し、クライアントに最新の分 析、アドバイスと指導を行う。2012年、IIRCとBlack Sun Plcは、「BUILDING THE BUSINESS CASE FOR INTEGRATED REPORTING」を発行している。
-筑波由美子- 115 る。それによって、当該組織、その投資家及びその他の主体が、より良く短期及び長期の 意思決定をできるようになる。」(同上書, 2013)として、基礎的要素には5つを挙げてい る。①戦略的焦点、②情報の結合性、③将来志向、④反応性とステークホルダーの包含性、
⑤簡潔性、信頼性及び重要性である。
初来の方向性は、「21 世紀における組織の価値評価に必要な情報を提供する情報フレー ムワークに向かうことができる。」として、次の6つを挙げている(同上書, 2013)。
① 投資家が共同で、試行と革新を促すためのパイロット・プリグラムに着手すること。
② Discussion Paperに寄せられた回答と、パイロットプログラムの初年度から得られた
経験を反映しながら、国際統合報告フレームワークの公開草案を開発する。
③統合報告に関連する新たな測定及び報告実務の開発に役立てるために、他の主体と連携 すること。
④投資家その他のステークホルダーの間での関心を高めるとともに、組織に対しては、統 合
報告を採用し、統合報告の発展に貢献するように促すこと。
⑤行政区域内及びその行政区域を超えた報告要求事項を調和させる機会を模索すること。
⑥統合報告枠組みの形成にあたって必要な体制を構築する。
ここまで、Discussion Paperから統合報告とは何かについて、必要性と便益、国際的な フレームワーク、基礎的要素、将来の方向性を読み解いていくと、統合報告は変化する情 報のニーズに応えていくこと向けられた未来志向の報告書ということになる。
1-1 ISO14001とは
国際標準化機構(International Organization for Standardization, ISO)(以下、ISO)
は、平成5年から14000シリーズと言われる環境マネジメントに関わる様々な規格の検討
が開始されている。世界の戦略的な環境マネジメントとして広く活用されている。第三者 の認証を必要とするとするのはISO14001のみになり、他は第三者の認証を必要としてい ない(國部, 2012a)。
2005 年9月にISO14001 の改定が発行されている。改定背景には、地球環境問題とグ
ローバル化から企業の環境活動に対応していくためとされている。改定のポイントは、「戦
-筑波由美子- 116 略的な環境管理」「リーダーシップの強化」「環境問題への貢献」「パフォーマンスの向上」
「ライフサイクルの向上」「ライフサイクルに思考の導入」に焦点を当てている(日経産業 新聞, 2015.11.11, p. 18)。
図表3-1 ISO14001改定ポイント 戦略的な環
境管理
・企業の内外の状況を把握し、環境管理を適用する範囲を決める。
・企業の経営戦略と環境管理を一体化する。
リーダーシ ップの強化
・経営者は環境管理の有効性に説明責任を負う。
環境問題へ の貢献
・従来の「汚染予防」に加え、「持続可能な資源の利用」「気泡変動の緩 和と適応」「生物多様性と生態系の穂護」も対処すべき問題とする。
パフォーマ ンスの向上
・環境管理のシステムの改善から、パフォーマンスの改善に重点が移り 成果を重視する。
・環境目標を評価するための指標を設定する。
ライフサイ クルに思考 の導入
・原料の採取から製品の廃棄までのサプライチェーン全体を対象とする 考えを導入する。
・企業は自社の状況に応じて実際に管理する範囲を決める。
(出所)日経産業新聞 (2015)をもとに筆者作成。
ISO14001 改定は、日本規格協会は、マネジメントシステム規格の共通的な構造を採用
して、複数のマネジメントシステム規格を同時利用する際の利便性を高めることをポイン トとしている。規格を共通することにより、例えば、「品質、環境、情報セキュリティ」を 統 合 し 効 率 的 ・ 効 果 的 に 実 施 す る が 期 待 さ れ て い る ( 日 本 規 格 協 会, 2016.8.29, http://isokaitei.jsa.or.jp/revision/iso14001.html)。
14000シリーズは、環境マネジメントシステムを中心とした環境監査、環境パフォーマ
ンス評価、環境ラベル、ライフサイクルアセスメントなどの環境マネジメントを支援する 様々な手法に関する規格で構成されている。同シリーズで中心となるのが、『環境マネジメ ントシステムの仕様』を定めているISO14001で、平成8年に発行されたものである(環 境省, 2016a)。ISO国際規格の目的は、企業の製品の仕様や業務の手順が各国で異なるの