本章では事例企業を中心に展開する。本研究は、現在、非財務情報の開示で不足してい る自然資本に関する開示の現状を確認するにあたって、実践的な企業の現状を把握する。
その結果をもって自然資本の可視化の必要性を明示し、企業の開示情報に自然資本会計の 開示を検討する。
事業活動が環境に与える負荷と効果を「見える化」しているのが環境管理会計情報であ り、それらの情報を公開・公表するツールは、環境・CSR報告書やアニュアルレポートで る。近年では統合報告が加わり、企業においてはどの報告タイトルで発行するかが選択可 能になったといえる。次に、第5章で取りあげる企業の選定について説明しておく。まず、
企業選定にあたり、環境経営と自然環境との関連性が高いこともあるが、事例企業の選定 理由は以下を考慮している。
① グローバルに事業展開している。
② 製品や技術に高い評価がある。
③ 環境経営に積極的である。
④ 社会的な貢献活動を通して地域への配慮している。
⑤ 環境経営データの蓄積や管理、情報量が豊富である。
⑦ 統合的な報告書を発行している。
本研究は事例企業の環境経営が異なることを前提とし、各企業の開示情報を分析する。
企業の環境管理会計情報をそれぞれ見ていきながら、自然資本に関する情報の必要性と自 然資本会計の開示の可能性を示していく。そして、自然資本が企業の共通する資源である ことで企業間比較の可能性を示す。
第1節 事例企業 清水建設
1-1 企業概要 SHIMIZU
清水建設株式会社44 (以下、SHIMIZU)は創業210年の歴史と高い技術力を誇るグロ
44)SHIMIZUは1903年に京橋に本店を施工した。1923年9月関東大震災で本店焼失し、その後1932
-筑波由美子- 147 ーバル企業である。
SHIMIZU の建物は、建物が人を守るというコンセプトにある。近年、世界各国で災害
が驚異的は破壊緑災害が品パルするようになり、災害に備えるにはリスクを把握すること が重要な取組みの前提となる(SHIMIZU, 2014)。どのように取組みを評価するのか「シ ミズ海外ハザード評価システム」は、建設前に的確な判断を可能にする(同上書, 2014)。 同評価システムは、大規模災害の 4 割はアジアで発生しているという。「毎年のように大 規模災害に見舞われるアジアは、全世界の自然災害の実に 4 割がアジアで発生している
(2002-2012 年)。アジアの人々にとって、自然の脅威といかに折り合いをつけるかは、
まさに生命線そのものである」(同上書, p.12)アジアの地域で安全・安心届けたいという ことから評価システム導入している。
SHIMIZUは、日本・アジア・欧州・北米の28カ国(2015年4月1日現在)に事業展
開するグローバル企業である。子会社61社及び関連会社11社という大手企業である。
主要事業は、建設事業、開発事業及び各事業に附帯関連する事業を展開している。従業 員数(2016年3月31日現在)は、セグメント別に建設に9,420人、投資開発に88人、
その他は5,423人、全社共通45は661人が従事している。全体で総従業員数は15,587人で
ある。建設事業の受注・売上高は国内・海外比率:建設事業受注高(単体)で、建設(73.3%)、 土木(26.7%)、国内12,960億円(91.2%)、海外1,253億円(8.8%)。建設事業売上高(単 体):建設80.5%、土木(19.5%)、国内11,836億円(90.9%)、海外1,180億円(8.8%)
である(SHIMIZU,同上書, 2015)。財務データ(国内ランキング)/地域別売上の調査で は、清水建設は株価ともに6位である(図表5-3)。地域別調査では、アジア地域国内の売 上高は1割程度である(図表5-4)。
SHIMIZ では未来志向について、シミズグループとして10年後のあるべき姿を示す、
長期ビジョン「Smart Vision 2010」で5年間の方針を定め「中期経営方針」に基づいて いる(eolデータベース, アクセス2016.6.1)。
中間経営方針は、①建設業の進化、②重点3事業、④経営基盤の一層の強化に取組むこ とを目標設定している。④経営基盤の一層の強化に「CSR推進強化」入れており、企業の 社会的な取組みの強化促進をもって経営体質を強化すると挙げている。
年7月に本店復興することができたが、1992年12月室町本店解体し、2009年4月新本社(中央区京 橋)着工し2012年5月同竣工している。
45)全国共通と記載している従業員数は、清水建設の管理無紋及び技術研究所に所属している(eol デー タベースより)。
-筑波由美子- 148 図表5-1 会社概要 SHIMIZU
社 名 清水建設株式会社 会 計 方 式 日本基準
事業セグメント 2015年03月期
当社建設:83%、その他:28%
当社投資開発:1%
調整額: -13%
所有者別株式状況 2015年03月期 株主数合計:43,141 所有株式数合計:785,677 所有株式数の割合
政府及び地方公共団体: -- 金融機関の割合:29.41%
金融商品取引業者の割合:1.87%
その他の法人の割合:24.51%
外国法人等(個人以外)の割合:20.75%
外国法人等(個人):0.01%
個人その他の割合:23.45%
(出所)eolデータベース, 2016.6.1より引用。
図表5-2 建設業界財務データ/業種分析(売上高上位6社)
企業名 連/単 売上高(百万円) 株価
大和ハウス工業㈱ 連結 2,810,714 1,999,380 積水ハウス㈱ 連結 1,858,879 1,295,882
㈱大林組 連結 1,773,981 751,813 鹿島建設㈱ 連結 1,693,658 725,316 大成建設㈱ 連結 1,573,270 932,330 清水建設㈱ 連結 1,567,843 726,221
(出所)eolデータベース,2016.6.1より引用。
-筑波由美子- 149 図表5-3 地域別売上高46(百万円)
日本 アジア その他 合計
1,396,845 154,752 16,246 1,567,843
(出所)eolデータベース, 2016.6.1より引用。
図表5-4 SHIMIZU 中間経営方針(2014)
① 建設事業の進化
・ 営業・ソリューションの進化・ 技術,人材の進化
・ 現場マネジメントの進化
① 重点3事業(ストックマネジメント,グローバル,サステナビリティ)の着実な成長
・ 投資開発・エンジニアリング事業の収益安定化
・ グローバル事業の持続的成長,安定的な収益の確保
・ 新規事業3分野(eco BCP※1事業,自然共生事業,新事業)の将来の収益化 に向けた重点投資
② 経営基盤の一層の強化
・ 技術力強化・ 人材マネジメント強化・ 企業体質強化・ CSR推進強化
(出所)eolデータベース, 2016.6.1より引用。
中間経営方針の①から②の戦略により、「社会・顧客価値創造への貢献,株主価値向上を 図りながら、企業価値(シミズバリュー)向上を目指す」ことを示し、③も経営基盤の強 化に、環境と共生することや自然資本に関連する取り組みが挙げている。
1-2 SHIMIZUのCSR報告書の特徴
SHIMIZUのCSR報告書の特徴としては、まず2015年度までは一貫してCSR報告書
を発行してきたが、2016年度より統合的な報告書を発行している47。
統合型の報告書を発行する企業が増加する中で、CSR報告書は多くの利用者にとって何 の報告書なのが理解を得やすいという。『シミズCSR報告書第21号』(2015)に掲載して
46)(注)売上高は顧客の所在地を基礎とし、国又は地域に分類している。
47)SHIMIZUのニュールリリース「
-筑波由美子- 150 いるCSR活動の基盤についてCSR経営の3柱をもとに目標並びに取組み方針を定めてい る。
『シミズCSR報告書第21号(2015)』は、総ページ数55ページで、CSRに関する内 容は28ページにわたる。100ページを超える報告書が珍しくない中で、IIRCの簡潔性を 満たす報告書となっている。報告書の見開きから総ページ数 13 ページにわたってトップ メッセージ、目次、CSR 報告の基本的な考え方、事業内容と財務状況を報告し、特集や
TOPICSを報告している。報告書はCSRに関する内容がほぼ7割を占めている。CSRの
掲載コンテンツは次である。
図表5-5 CSR経営の3の柱をもとに目標並びに取組み方針
(出所)SHIMIZU(2014)p.18をもとに筆者作成。
SHIMIZUは報告書のタイトルどおり、持続可能な社会の実現に向けたCSR活動を中心
に構成している。「公正で透明な事業活動」に関連する内容(16~23ページ)、「社会はお 客様の期待を超える価値の実現のために」(25~41ページ)、「社会との共生のために」(43
~48ページ)を報告している。総ページ数は55ページでまとめられており、IIRCの簡潔 性を満たしているものと見ることができる。また2011年~2015年度まで報告書の総ペー ジ数でもほぼ一貫したものとなっている。
図表5-6 SHIMIZUの3本柱に基づくCSR報告書のコンテンツ(2015年版)
CSR活動の活動基盤/活動項目 ページ数
ACTIVITIES:CSRの取組みの実施事項と評価の一覧表 16-17ページ
公正で透明な事業活動のために (18-23)
企業統治 企業統治 18-19ページ
公正な事業慣行 企業環境の整備 19-20ページ 1.公正で透明な事業活動:企業統治、法令順守、公正な取引、情報セキュリティ
2.社会やお客様の期待を超える価値の実現:安心・安全、温暖化、環境汚染、生物多様性 3.社会との共生:人材育成、人材の多様化、少子高齢化、労働環境
-筑波由美子- 151 企業情報の開示 企業倫理・法令順守
企業情報の発信
公正で透明な取引に向けて
21ページ 22ページ 23ページ
社会やお客様の期待を超える価値の実現のために (24-41)
安心・安全 安全・安心への取組み 安全・安心の技術
災害地復旧・復興支援、地域貢献の取組み
24-25ページ 26ページ 28-29ページ 最適品質の提供 最適品質の提供
建築における取組み 土木における取組み
30ページ 30-33ページ 34-35ページ 地球環境への貢献 地球環境への貢献
新規事業への取組み 地球温暖化防止
エコロジー・ミッション 生物多様性への取組み 建設副産物対策・汚染の防止
36ページ 36-37ページ 38-39ページ
40ページ 41ページ
社会との共生のために (42-50)
人権への配慮 人を大切にする企業の実現 42-45ページ 労働環境の向上 安全衛生への取組み 46-47ページ 社会貢献活動 社会とのコミュニケーション・
社会貢献活動
48-50ページ
その他の掲載内容 関係会社の取組み
CSR 報 告 書を 読んで ステ ーク ホルダ ーの 方々のご意見
社外顕彰受賞一覧 第三者保証報告書
ISO認証取得状況
51ページ 52-53ページ
54ページ 55ページ
(出所)SHIMIZU (2015a)をもとに筆者作成。