第 3 章 微分作用素環と線型偏微分方程式系 41
3.4 特性多様体
(2) すべての k∈Z について Mk⊂ Mk+1 かつある `∈Z に対して M` = 0;
(3) すべての k, `∈Z に対してD(`)Mk ⊂ Mk+`;
(4) ∪k∈ZMk=Mすなわち, すべての p∈X に対して∪k∈Z(Mk)p =Mp; (5) あるk0 ∈Z があって, すべての k ≥k0 に対してMk =D(k−k0)Mk0. このとき各 Mk/Mk−1 は自然に O-加群の構造を持つ. gr(M) を直和
gr(M) := ⊕
k∈Z
Mk/Mk−1
で定義すると, gr(M) は D の M への作用から導かれるO[ξ]'⊕k≥0D(k)/D(k−1) の 作用でO[ξ]-加群となる. こうして定義されるO[ξ]-加群 gr(M)のことをMの filtration {Mk} に付随する graded module と呼ぶ.
M0 を M= DM0 を満たすような M の局所有限生成 O-部分加群とすると, Mk :=
D(k)M0 とおけば{Mk} が good filtration であることは明らかであろう. なお, 上の条 件 (5) において k1 ≥k0 ならば k ≥k1 のとき
Mk=D(k−k0)Mk0 =D(k−k1)D(k1−k0)Mk0 =D(k−k1)Mk1
であるから k0 を k1 にとりかえても (5) が成り立つことに注意しておく.
補題 3.4.3. {Mk} と {M0k} を X 上の連接 D-加群 M の2つのgood filtration とする と,任意の p∈X に対して, pのある開近傍 U とある`∈N が存在して, すべてのk ∈Z に対して U 上で
Mk−` ⊂ M0k⊂ Mk+`
が成立する.
証明: 定義 3.4.2 の (5) から, すべての k ≥ k0 に対してMk = D(k −k0)Mk0 かつ M0k =D(k−k0)M0k0 が成り立つような k0 ∈N をとれる. 任意の p∈X に対して, p の 近傍U と u1, . . . , ur ∈ Mk0(U)が存在して U 上で
Mk0 =Ou1+· · ·+Our
が成立する. 同様にして v1, . . . , vs ∈ M0k0(U)が存在して U 上で M0k0 =Ov1+· · ·+Ovs
が成立しているとしてよい.
M0k0 ⊂ M = ∪
k≥k0
Mk = ∪
k≥k0
D(k−k0)Mk0 =Du1+· · ·+Dur
であるから,必要ならpの開近傍U を小さく取り直すことにより,Pij ∈ D(U)が存在して vi =
∑r j=1
Pijuj (i= 1, . . . , s)
60
が成立する. 従ってPij 達の階数の最大値を ` とおけば M0k0 ⊂ D(`)Mk0 =Mk0+`
である. 定義によってM0k1 = 0なる k1 ≤k0 がある. このときすべての k∈ Z に対して M0k ⊂ M`+k0−k1+k が成立する. 実際, k≥k0 のときは
M0k =D(k−k0)M0k0 ⊂ D(k−k0)M`+k0 =M`+k⊂ M`+k0−k1+k, k1 < k < k0 のときは
M0k ⊂ M0k0 ⊂ M`+k0 ⊂ M`+k0−k1+k,
k ≤ k1 のときは M0k = 0 であるから明らか. 従って `+k0−k1 を改めて ` とすればよ い. Mk と M0k を取り替えて同じ議論をすれば補題の主張が示される. 2
定理 3.4.4. M を X 上定義された連接 D-加群, {Mk} と {M0k} をM の2つの good filtration として
gr(M) := ⊕
k∈Z
Mk/Mk−1, gr0(M) := ⊕
k∈Z
M0k/M0k−1
とおくと,
Supp(µ(gr(M))) = Supp(µ(gr0(M))) = Char(M) が成立する.
証明: 補題3.4.3によりある `∈N があって, すべてのk ∈Z に対して Mk−` ⊂ M0k⊂ Mk+`
が成立するとしてよい. ⊕k∈ZMk+`/Mk+`−1 =⊕k∈ZMk/Mk−1 であるから,{Mk}の添 字をずらすことにより, すべての k ∈Z について
Mk−` ⊂ M0k ⊂ Mk
が成立すると仮定しても一般性を失わない. このとき, 定理の主張を ` に関する帰納法で 証明しよう.
(1) ` = 1 のとき: 各 k ∈Z について, O-加群の2つの完全系列 0−→ M0k/Mk−1 −→ Mk/Mk−1 −→ Mk/M0k−→0, 0−→ Mk−1/M0k−1 −→ M0k/M0k−1 −→ M0k/Mk−1 −→0 が自然に定義される. ここで
L :=⊕
k∈Z
M0k/Mk−1, N := ⊕
k∈Z
Mk/M0k
とおくと,M0k−1 ⊂ Mk−1 かつMk−1 ⊂ M0k だからL,N は自然なO[ξ]-加群の構造を持 つ. 従って上の完全系列からO[ξ]-加群の完全系列
0−→ L −→gr(M)−→ N −→0, 0−→ N −→gr0(M)−→ L −→0 を得る. OT∗X は π−1O[ξ] 上平坦であるから,
0−→µ(L)−→µ(gr(M))−→µ(N)−→0, 0−→µ(N)−→µ(gr0(M))−→µ(L)−→0 は OT∗X-加群の完全系列である. これから
Supp(µ(gr(M))) = Supp(µ(L))∪Supp(µ(N)) = Supp(µ(gr0(M))) を得る.
(2) `≥2のとき: M00k:=Mk−1+M0k とおくと{M00k}は Mのgood filtrationである. 定義からすべての整数k に対して
Mk−1 ⊂ M00k ⊂ Mk, M00k−`+1 ⊂ M0k⊂ M00k
が成り立つことがわかる. gr00(M) :=⊕k∈ZM00k/M00k−1 とおくと, 帰納法の仮定から Supp(µ(gr(M))) = Supp(µ(gr00(M))) = Supp(µ(gr0(M)))
を得る. 2
例 3.4.5. O を Cn 上の D-加群とみなす. M0 :=O とすれば Mk :=D(k)O =O であ るから{Mk} は O の good filtration で, このfiltration に付随するgraded module は
gr(O) =O =O[ξ]/(O[ξ]ξ1+· · ·+O[ξ]ξn) であるから
µ(gr(O)) =OT∗X/(OT∗Xξ1+· · ·+OT∗Xξn) となり,従って
Char(O) = Supp(µ(O)) = {(x, ξ)∈T∗X |ξ1 =. . .=ξn= 0} である.
次の2つの補題の証明は省略する. 例えば, [Kash1] を参照のこと.
補題 3.4.6. M0 を連接 D-加群 Mの局所有限生成の O-部分加群とすると, M0 は連接 O-加群である.
補題 3.4.7. M を連接 D-加群で {Mk} は定義3.4.2 の (1)—(4) をみたすものとして gr(M) := ⊕k∈ZMk/Mk−1 とおくと, gr(M) が連接 O[ξ]-加群であるための必要十分条 件は{Mk} が定義3.4.2 の (5) も満たすことである.
62
定理 3.4.8.
0−→ L −→ M−→ N −→ϕ 0
を連接D-加群の完全系列とするとChar(M) = Char(L)∪Char(N) が成立する.
証明: L は Mの D-部分加群とみなせる. {Mk} を Mの good filtration として Lk :=Mk∩ L, Nk :=ϕ(Mk)
とおくと, Mk =D(k−k0)Mk0 ならば Nk =ϕ(D(k−k0)Mk0) =D(k−k0)Nk0 が成り 立つから,{Nk} は N の good filtration である. 各整数k について定義から
0−→ Lk−→ Mk
−→ Nϕ k −→0 (4.1)
は O-加群の完全系列である. 従って補題3.4.6 により Mk と Nk は連接 O-加群だから,
命題3.2.9 により Lk も連接 O-加群, 特に局所有限生成である. (4.1) からそれぞれの filtration に付随するgraded moduleをとって, O[ξ]-加群の完全系列
0−→gr(L)−→gr(M)−→gr(N)−→0
を得る. {Mk} , {Nk} は good filtration だから, 補題3.4.7 と命題3.2.9 により {Lk} も good filtration であることがわかる. 従ってOT∗X-加群の完全系列
0−→µ(gr(L))−→µ(gr(M))−→µ(gr(N))−→0 と定理3.4.4 から結論を得る. 2
次に, 特性多様体のもう少し具体的な表示を導こう. M を X 上の連接 D-加群とする と, p∈X の開近傍 U でD-加群の完全系列
0←− M←− Dϕ r
が存在する. このとき Mk :=ϕ(D(k)r) とおくと {Mk} はMの good filtration である. N :=Ker ϕ, Nk :=Ker ϕ∩ D(k)r
とおくと,
0←− M ←− Dϕ r ←− N ←−0
は D-加群の完全系列だからN は U 上の連接 D-加群であって, 定理3.4.8 の証明からわ かるように{Nk} はN の good filtration である. これらの filtration に付随するgraded module をとれば OT∗X-加群の完全系列
0←−µ(gr(M))←−(OT∗X)r ←−µ(gr(N))←−0 を得る. 従って µ(gr(N))を (OT∗X)r の部分加群とみなしたとき,
Char(M)∩T∗U ={p∗ = (x, ξ)∈T∗U |µ(gr(N))p∗ 6= (OT∗U)rp∗} を得る. 特に r= 1 のときは
µ(gr(N))p∗ 6= (OT∗U)p∗ ⇐⇒ ∀f ∈gr(N)p∗, f(x, ξ) = 0
⇐⇒ ∀P ∈ Np∗, σ(P)(x, ξ) = 0 であるから, 次の命題が証明できた.
命題 3.4.9. M をある u ∈ M(X) によって M =Du となっているような連接 D-加群 として,D の左イデアルの層 I をI(U) :={P ∈ D(U)|P u= 0}で定義すると,
Char(M) = {(x, ξ)∈T∗X |任意のP ∈ Ix に対して σ(P)(x, ξ) = 0} が成立する.
定理 3.4.10. M を X 上の連接 D-加群とすると, その特性多様体 Char(M) はT∗X の 斉次な解析的部分集合である. すなわち (x, ξ)∈Char(M) ならば, すべての c∈C\ {0} に対して (x, cξ)∈ Char(M) であり, Char(M) は局所的には (x, ξ) の有限個の正則関数 の共通零点である.
証明: Mの生成元の個数 rについての帰納法で証明しよう. まずr= 1とする. M=Du なるu∈ M をとって
I :={P ∈ D |P u= 0}, Ik :=I ∩ D(k)
とおけば, 前の議論からわかるように {Ik} は I のgood filtration であって, graded ideal gr(I) は局所有限生成だから, 有限個の P1, . . . , Ps ∈ I が存在して, gr(I) は O[ξ] 上 σ(P1), . . . , σ(Ps) で生成される. 従って命題 3.4.9 により
Char(M) ={(x, ξ)|σ(P1)(x, ξ) = . . .=σ(Ps)(x, ξ) = 0} が成り立つから, Char(M)は T∗X の斉次な解析的部分集合である.
r >1 のときは,M の U における生成元u1, . . . , ur をとって, N :=Du1+· · ·+Dur−1 ⊂ M
とおくと,N は連接D-加群 Mの D-部分加群だから連接である. そこでL :=M/N と おけば,
0−→ N −→ M −→ L −→0
は連接 D-加群の完全系列である. L = D[ur] ([ur] は ur の M/N における剰余類を 表わす) であるから, L と N に対しては帰納法の仮定が使えて, 定理 3.4.8 によって Char(M) = Char(L)∪Char(N)も斉次な解析的部分集合であることがわかる. 2