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co2濃度と813Cの経年変化から求めた地球規模の

炭素循環

地球表層における大気一海洋間、大気一陸上生物圏間のCO2交換量の時間的変

化を見積もるために全球の炭素収支式を用いた解析を行った。地球表層におけ

るCO2循環を考える場合、 CO2中の炭素の収支は保存される。したがって、全 球の炭素収支式は下記のように書ける。

孟(ca) ‑Ff・Ns・Nb       (41,

ただしCAは大気中の炭素量(GtC)、 f‖ま化石燃料放出(GtCyrll)、 N8は正味の 海洋のCO2交換量(GtCyrll)、 N.は正味の陸上生物圏のCO2交換量(GtCyr‑I) である。

また、質量数13の炭素安定同位体の存在量(cx∂13C)も保存されることよ

り、炭素同位体に関する式が以下のように書ける(Francey etal.,1995)。

孟(caao) ‑ ∂o i(ca) ・coi(80)    (42)

‑Ff6/ ・Ns(∂a ・ cu)・ Nb(∂a ・Cab)・Gs(∂08 ‑∂a)・Gb(aab ‑∂a) (4‑3)

ここで、 fは化石燃料、 aは大気、 Sは海洋、 bは陸上生物圏を表しており、 caB はC02が大気から海洋に移動する際に起こる動的同位体分別効果(%o)、 cabは 光合成により陸上生物圏が大気中のC02を取り込む際の同位体分別効果(%o)、

aJは海から大気へ放出されるC02の813C (%o)、 aAbは陸上生物圏から大気へ放 出されるC02の813C (‰)、 88は大気のC02の813C (%o)である。また、 (4‑3)式

の右辺第一項は化石燃料放出、第二項は正味の海洋交換、第三項は正味の陸上

生物圏交換、第四項と第五項は同位体非平衡を表している(単位は全

て%oGtCyr‑1)。 (4‑1)式と(4‑3)式をNsとN.について解くと下記のようになる。

Tb ‑よ‡F/(8/ ‑∂0 ‑A‑6‑i(co)‑cai(80)・GI Ns ‑よ‡‑F/(6/ ‑∂a ・cd)・Cdi(ca)・coi(80)‑G)

この式では、同位体非平衡項をまとめてGとした。

Ff (化石燃料放出)は、 Marland etal.(2∝辺)によって発表されている統計値 を用いた。 ar (化石燃料燃焼時のC02の同位体比)は、 1986年時点で̲28.2%o

(Francey etal・,1995) 1995年時点で‑29.4%o (Battle etal.200)を直線で内挿、

外挿計算をして求めた。 e舶(C02が海洋に取り込まれる際の動的同位体分別効

漢)は、 Sieghethaler and M血mich(1981)によって出されたll・8‰を用いた。 Cab (陸上生物圏の光合成の際の同位体分別効果)は、 Francey et al.(1995)やBattle etal・(200)でも使われている‑18.0%oを代入した。 G (非平衡項)は、水爆実験起 源の14C02の海洋への浸透から求めた渦拡散係数を与えたbox‑diffusionモデ ルを用いて推定した。ただし、非平衡項は炭素交換の総量(gross nu又)と同位 体比の積であり、直接測定できないため、モデルに入力する値の中で特に推定 が困難な項である。このため、非平衡項については後であらためて考察する。

他は、本研究で観測されたデータを使用している。

本研究の船舶観測で得られたCO2濃度と813Cを上記のモデルに適用すること によって計算された大気と陸上生物圏間および大気と海洋間のCO2交換の変動 を図5に示す。この図は正が正味のCO2放出を示し、負が正味のCO2吸収を表 している。これによると、陸上生物圏は1987年から1988年の間と1990年、 1995 年および1997年から1998年の間にC02を大気に放出しており、それ以外の期 間は大気からC02を吸収していたことがわかる。また、観測期間を平均した吸 収量は約1・2GtC/yrであった。一方、海洋はほぼ全期間を通してC02の吸収源

となっており、観測期間を平均した吸収量は約1.6GtC/yrであった。また、大 気と海洋間のCO2交換量の変動は、大気と陸上生物圏間の交換量の変動に比べ てやや小さく、比較的安定していることも明らかになった。

さらに、図にはエルニーニョ現象が起こっていた期間が明示されている。こ の情報を参考にすれば、エルニーニョ現象に伴って海洋はむしろ大気のCO2吸 収をやや強化する働きがあり、陸上生物圏は逆に大量のC02を大気に放出する ことが明らかになった。エルニーニョ時には熱帯海洋の湧昇が止まるため、こ

の額域での海洋から大気へのCO2放出が抑えられる結果、海洋全体としての C02の吸収が強化されるものと推定される。また、エルニーニョに伴って干ば つや集中豪雨などの異常気象現象が世界各地で起こるため、陸上生物圏につい ては光合成活動が抑えられることや、温度変化に伴って呼吸が活発化する結果、

大気へのCO2放出が大きくなるものと推定される。しかし、 1991年から1994 年まで続いた弱いエルニーニョ期間には、陸上生物圏のCO2放出は見られず、

逆にこの期間を通して吸収が続いていた。これは、 1991年6月に噴火したフ ィリピンのPinatubo火山の影響であると考えられる。 Pinatubo火山噴火後の 2年間は全球的に気温が低下したことが報告されており、これにより、エルニ

「ニヨが起きていたにも関わらず陸上生物圏は正味の吸収源になっていたと推

測できる。これは、陸上植物の呼吸活動が気温に非常に敏感で、気温が高いほ

ど活発になり、低いほど不活発になるのに対して、光合成活動はあまり気温に よらないことが主要因になている。一方、海洋はこの時期にはほとんど変化が なく、 C02を吸収する状態が継続していたため、大気中のCO2濃度増加率が極 端に小さくなったものと推定される。

最後に、本推定によって発生する誤差について述べ、ここで用いた全球の炭 素収支モデルの中で最も推定が困難な項である非平衡項について考察する。こ

こでは誤差は(4‑4)式、 (415)式を元に導いた。ここでは、 Nbを例にとって説明す る。 Nbの誤差をANいCaの誤差をACa、 88の誤差をAaa 、 F,の誤差をAF.、 Gの誤 差をAGとすると、 (44)式は次のようになる。

Nb.ANb三cmi(co ・ACD)‑(CQ ・ACQ)×孟(80 ・Aao)‑(eo ・A∂o ・Eu ‑8/)×(F/ ・d/)・'G・AG' EPS‑Cab

= Nb.堵ACa)‑ACoi(ao)‑Cos(Ado)‑A∂aFf ‑(Bo ・C0 ‑6f)AFJ ・AG

Cas‑Cab

(4‑6)

これよりANbは、

ANb = 8‑i(ACQ)‑ACqi(60)‑Cai(A症A鱗‑(Ba ・ 6‑ ‑∂f)AF/ ・AG (.刀

CasICab

となる。

Nsの誤差であるANsも同様に下記のように書ける。

ws = chi(ACa)‑ACoi(80)‑ Cai(A症A‑(∂a ・cab ‑8/)uI ・AG (¢8,

Cab‑Cas

ここで、 (4‑7)式、 (4‑8)式の右辺第一項と右辺第二項はC02の大気残留量につい

ての誤差を表し、右辺第三項と右辺第四項は813Cの変化率についての誤差を表

̲している。また、右辺第五項は化石燃料放出について、右辺第六項は非平衡項 についての誤差を示している。なお、非平衡項の誤差に関しては振幅の大きさ や位相の挙動とは関連しないため、次で触れる。まず、 C02の大気残留につい

て士0・10GtC/yr、 813Cの変化率について±0.14GtC/yrの誤差を見積もり、化石燃料 放出の統計量の誤差についてはMadand et al・(2002)より』・37GtC/yrとした。こ

れらより推定した全期間を通しての陸上生物圏の吸収量と誤差は

1・21士0・60GtC/yr、海洋の吸収量と誤差は1.59±0.73GtC/yrとなった。

しかし、上記の誤差評価では非平衡項の誤差については無視している。非平

衡項は60‑100GtC%o/yr程度であると推定され(Francey et a1.,1999)、その年々 変動も指摘されており(Francey et a1.,1995)、これまで酸素濃度の測定などを 通して様々な値が見積もられている。例えばTans et al.(1993)の値は1970‑1990

年の平均として49GtC%o/yr、 Francey et al・(1995)は69・6GtC%o/yrを用いており、

Langenfelds et al・(1999)は1980年から1999年の平均値として93±15GtC‰/yrを

導いたoまた、本研究で用いた推定値は89j=21GtC%o/yrであり、 Ciais etal.(1995) の用いた手法で1991‑1997年の非平衡項を導出すると83GtC%o/yrとなる。この ように非平衡項の推定値の幅は±22GtC%o/yrとなり、それを炭素収支モデルの 陸上生物圏と海洋の推定値の誤差に直すと(4‑7)式、 (4‑8)式より、

AⅣb,ANs ‑ ‑ ‑ ±1・29GtC%o/yrAG

Cab‑cos

となるo同様に、 Francey et al・(1995)は非平衡項の誤差として士lGtC%o/yrと

いう値を導いており、本研究での評価とほぼ一致する。

[JLJutD]Xnth1003813tldso!d

[JLJuID]XnuZou3!uCa30

6

4

2

0

12

‑4

‑6

1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998

6

4

2

0

‑2

‑4

‑6

0 0 0 2

1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000

Year

一e∋perat∈reAコ○ヨa‑y【degreen】

4     2     0     2 0   0.  0   0.

図5 CO2濃度と813Cの経年変化から求めた大気と陸上生物圏間(上)、大気と 海洋間(下)のCO2交換量の変動。正の値は陸上生物圏あるいは海洋から 大気への放出量(Net fhx)を示し、負の値は大気から陸上生物圏あるい は海洋への吸収量(Net nu又)を炭素換算量で示す。尚、エルニーニョ発 生時期を肌色で示し、上図には全球気温アノマリーも示した。

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