第 4 章 わが国の滞納の実態と税務行政
4.2 滞納の実態
滞納や租税回避である脱税はなされるべきではないが、実際には滞納や脱税等が発生して おり、そのために日本の税務行政では、滞納については「滞納の圧縮は税務行政の最重要課 題」として滞納整理に努力している。それでは、わが国の滞納がどの程度存在するのか、滞 納の実態を把握する。
現在の滞納状況であるが、まず、どの税目に滞納が発生しやすいのかということを、表 4.1 で本年度徴収決定済額に占める60)、本年度新規発生滞納税額割合61)(本年度新規発生滞納税 額/本年度徴収決定済額)を見てみる62)。言い換えると、その年度に納税される金額のうち、
その年度に発生した滞納税額の割合ということである。これによると、滞納税額割合は 1995 年から 2002 年まで全体では 2%~3%で推移しており、滞納割合としてそれほど高い数値で はないように見える。しかし、これを税目別に見ると源泉所得税、法人税が 1~2%台の推移 であるのに対し、申告所得税は7%~8%台の推移を示し、税目間で申告所得税の発生が他の 税目に比較して高いことがわかる。源泉所得税が最も低い 1%台での推移であることを見る と、制度の違いである源泉徴収制度と申告納税制度による徴税効率の差が表れているのでは ないかと推察され、源泉徴収制度が滞納発生を低くおさえている一面があるのではないかと 考えられる。
表 4.1
本年度徴収決定済額に占める本年度新規発生滞納税額割合 (%)年 源泉所得 申告所得 法人 相続 消費 その他 全体 1995 1.2 7.5 2.0 7.9 3.3 0.6 2.9 1996 1.2 7.4 2.1 8.6 5.6 0.2 2.9 1997 1.3 7.8 2.2 6.8 4.6 0.2 2.8 1998 1.3 8.1 2.2 6.6 5.5 0.1 3.1 1999 1.2 8.2 1.8 6.6 4.7 0.1 2.8
59) 2005 年以降も構造は変わっていないので、現在もこの議論が成立していると考えられる。なお、
本研究に当たり、石村(1993),大野・芥川(2003),杉ノ内(2005),税務大学校研究部編(1996),林(2003), 林(2004),木村(2006),中井(1992)を参考にしている。
60) 本年度に納税義務の決定した国税で、その事実の確認(徴収決定)を終了した金額をいう。
61) 本年度に発生した滞納の金額をいう。
62) 本年度新規発生滞納税額が資料により 1995 年からしか採れないという制約上、過去8年間の時系 列になった。
73
2000 0.9 8.0 1.6 6.2 4.7 0.1 2.5 2001 0.9 7.2 1.6 4.8 4.6 0.1 2.4 2002 1.0 7.0 1.5 3.8 4.3 0.1 2.3 (出所)国税庁(1995~2002)『国税庁統計年報書 平成 7 年度版~平成 14 年度版』より作成.
また、滞納については、本年度に新規発生した額が全て回収されるわけではなく、過去の 繰越分が存在しているため、繰越分を加えた要整理滞納税額残高63)もみる必要がある。そこ で、表 4.2 に要整理滞納税額残高を時系列で税目別に比較する形で示している64)。それによ ると、どの税目も 1983 年~2002 年では滞納税額が累積していることがわかる。その中でも、
消費税は 1989 年の導入後、306 億円から著しく増加し、2002 年度では 1 兆 1525 億円とこの 20 年間で約 38 倍になり、2002 年度滞納税額全体の約 30%を占め、他の税目に比較して高い ことが示されている。
表 4.2
要整理滞納税額残高(繰越分+本年度分) (百万円)年 源泉 申告 法人 資産 消費 合計
1983 258,585 542,388 381,451 133,135 0 1,380,418 1984 276,907 554,402 397,449 146,642 0 1,445,735 1985 305,115 583,135 426,534 164,069 0 1,551,813 1986 330,596 619,983 510,485 180,627 0 1,716,823 1987 344,882 685,567 720,348 190,881 0 2,015,561 1988 329,166 749,473 823,243 195,819 0 2,172,318 1989 311,661 796,512 878,655 190,181 30,620 2,252,118 1990 309,891 878,895 1,064,292 236,165 185,298 2,707,562 1991 352,655 975,731 1,134,119 336,273 282,317 3,110,524 1992 434,949 1,050,809 1,137,134 452,178 488,046 3,595,067 1993 525,484 1,061,377 1,130,712 458,403 640,146 3,847,392 1994 576,075 1,061,964 1,068,061 475,992 712,160 3,925,129 1995 617,082 1,071,757 1,031,083 518,881 762,181 4,053,923 1996 645,420 1,099,324 1,046,463 538,261 816,148 4,190,133 1997 680,847 1,109,401 1,007,862 476,815 963,769 4,296,340 1998 696,879 1,095,697 874,609 469,279 1,236,108 4,421,321 1999 682,980 1,031,877 745,354 501,913 1,243,857 4,246,471
63) 要整理滞納税額残高=繰越分+本年度新規発生分
64) 酒税、その他間接税は表中に記載していないが、合計には含まれる。
74
2000 652,070 998,380 688,777 502,577 1,230,205 4,107,538 2001 621,504 933,025 605,007 484,194 1,209,352 3,882,756 2002 587,869 863,319 523,030 434,799 1,152,501 3,588,840 (出所)国税庁(1983~2002)『国税庁統計年報書 昭和 58 年度版~平成 14 年度版』より作成.
申告所得税については、表 4.1 で滞納発生割合の高さが示されたが、表 4.2 に示すように 滞納残高でも、1983 年から 2002 年では約 1.6 倍の増加で、2002 年度では消費税の次に残高 が高くなっている。また、源泉所得税は源泉徴収という制度から発生は起こりにくい税目で あったにもかかわらず、それでも要整理滞納税額が 1983 年に比較して 2002 年には 2 倍超に 累積していることは注目され、回収の困難さが伺える。また、税全体の要整理滞納税額残高 合計については、1983 年の 1 兆 3804 億円から増え続け、2002 年度では、3 兆 5888 億円と約 2.6 倍の増加になる。この金額は、2002 年度租税収入決算額65)の約 12.2%にあたり、2002 年度の申告所得税決算額 2 兆 5630 億円をはるかに超える金額であり、また、消費税率 1%分 の税収 2 兆 92 億 71 百万円をも超える高い金額になっている。これを、各税目で納税される べき税収に対しどの程度の滞納割合に上るか、ひいてはどの程度圧迫しているか、図 4.1 に 示している。
図 4.1
2002 年度 徴収決定済額に対する滞納税額残高(出所)国税庁(2002)『国税庁統計年報書 平成 14 年度版』より作成.
65)『事務年報』平成 14 年版p105 租税収入決算額
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000
源泉 申告 法人 相続 消費 酒 間接
(億円)
2002年度徴収決定済額に対する滞納税額残高
本年度徴収決定済額 滞納税額残高
4.2% 31.5% 4.9% 23.4% 9.3% 0% 0.6%
75
2002 年度各税目の徴収決定済額と対比させて見ると滞納残高が、各税目の徴収決定済額 に対して、源泉所得税で 4.2%、申告所得税 31.5%、法人税 4.9%、相続税 23.4%、消費税 9.3%にあたる。申告所得税は本年度発生 7.0%であったので、その発生の 4.5 倍に上る滞納 残高が累積している。申告所得税は発生も高く、整理も進みにくく回収が難しい税目と言え るだろう。申告所得税については、公平性に配慮され、累進税率がとられ、各種控除が設定 されているにもかかわらず、滞納税額がこれほどまでに膨らむことは現状で認識されている 以上の問題があるのではないだろうかと予想される。
また、相続税の 23.4%も非常に高い数字となっているが、相続税は資産税であることを 考えると、その性格から他の税目とは一線を画して考えることが妥当であるだろう。また、
消費税については、9.3%という値であるが、徴収決定済額が大きい税目であるので、滞納税 額は 1 兆 1525 億円と最も高い金額になり、金額の高さが問題である。これらのことから、消 費税、申告所得税の要整理滞納税額残高が際立って高いことが示された。