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第 2 章 GaSe の溶液成長における結晶成長速度高速化

2.2 温度差法

2.1 節では溶液成長における結晶化の駆動力である過飽和について説明した。

溶液成長には過飽和を形成する方法が 3 つあり、溶液から溶媒を蒸発させる蒸 発法と、溶液の温度を下げる徐冷法、溶液に濃度差(温度差)をつけ、低濃度側に 溶質を拡散させることで過飽和を形成する温度差法である。第一章において GaSeの溶液成長の例として紹介した蒸気圧制御温度差液相成長法は温度差法で あることから、この節では特に温度差法の成長メカニズムと成長速度に寄与す るパラメーターについて説明する。

2.2.1 温度差法の成長メカニズム

図2.3に温度差法の模式図を示した。結晶の成分元素である溶質の原料が溶媒 の飽和溶解量以上に溶媒に接することによって溶液全体が溶質の飽和溶解状態 となる。ここで溶液の液面の温度THを溶液の底部の温度TGよりも高くすること で、溶液の液面と底部の間に溶液に対する溶質の飽和溶解度に差が生じる。こ れは溶質の濃度差となり、濃度が高い液面から濃度が低い底部に溶質が拡散す る。また、高温側と低温側の溶液中の溶質の運動速度の違いにより、運動速度 の速い高温側から遅い低温側への拡散現象が生じ、図2.3内にこれを熱拡散とし て示した。それぞれの拡散現象により底部に溶質が拡散することで底部では溶 質が過飽和に達し、この過飽和解消に伴い、結晶の核生成が生じる。核生成後 の結晶の成長速度については結晶表面近傍における物質移動、表面集積、伝熱 の三つの結晶化過程の速度と底部の過飽和度の大きさで支配される。ここで、

底部の過飽和度の大きさが結晶化の駆動力であり、過飽和度の大きさは原料の 存在する液面から溶液の底部の間の溶質の拡散速度に依存している。よって TH

2.3 GaSe結晶の成長速度高速化に向けた溶媒の探索

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と TG の間の温度差が小さい場合や飽和溶解度の温度係数(温度差に対する溶解 度の変化量)が小さい場合には濃度勾配も小さくなり、液面から底部への溶質の 拡散速度が遅くなることから、核生成に必要な過飽和度を得ることが困難であ り、結晶が成長しないまたは成長速度が遅くなる。溶質が結晶に取り込まれる 速度(結晶付近で生じる三つの速度過程)と液面から拡散してくる溶質の拡散 速度で与えられる。つまり、三つの速度過程に対して液面から底部への溶質拡 散速度が遅すぎる場合には過飽和度が小さいため、結晶の成長速度は遅く、逆 に三つの速度過程に対して液面から底部への溶質拡散が速すぎる場合には過飽 和度が大きくなることで多くの核生成が生じ、多結晶化してしまう。

図2.3 温度差法の成長の流れと成長条件ごとの成長後の結晶の違い

よって大きな単結晶の育成には、結晶付近での速度過程と液面からの溶質の 拡散速度を調整することで成長雰囲気を準安定領域に維持する必要があると考 えられる。この溶質の拡散速度を制御するためには温度差を調節することによ り飽和溶解度差を調節する必要がある。以上のことから大きな単結晶の成長に

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適した溶媒と溶質の関係としては結晶が準安定的に成長するだけの過飽和度を 得るために十分な飽和溶解度差を現実的な温度差で生み出せる(大きな溶解度 の温度係数を有する)ということが一つの条件となる。

2.2.2 結晶への溶質の取り込み速度

2.2.1 節では主に原料の存在する液面と結晶の存在する成長部の間の大きなス

ケールにおける溶質の濃度差と拡散について触れたが、図2.4と図2.5に示され ている通り、結晶表面近傍においても温度差と結晶の成長に伴う溶質の消費に より生じる濃度差などから物質と熱の移動が生じる。この移動現象は 3 つに分 けられ、物質移動、表面集積、伝熱と呼ばれる。これらの速度過程はどれも結 晶近傍で生じるものである。まず、「物質移動」とは溶液(母液)から結晶表面へ の溶質の拡散のことであり、「表面集積」は結晶表面に吸着した溶質がキンクや ステップ位置までの表面上での泳動である。そして「伝熱」は溶質が結晶に取 り込まれ、結晶化した際に発生した熱が移動することである。以下では物質移 動、表面集積、伝熱の速度を表す式を示し、それぞれの速度が何に依存するか を説明する。

① 物質移動速度 [1]

物質移動速度N:

𝑁 = 𝑘

𝐷

𝐴𝜌(𝐶

G

− 𝐶

S

) /𝐶

BM

(2.4)

物質移動係数𝑘𝐷

𝑘

𝐷

= 𝑆ℎ

𝐷

(結晶の径)

, (2.5) (

拡散係数D:

𝐷 = 𝐷

0

exp (−

∆𝐸

𝑘𝑇

) (2.6))

𝐴:結晶の表面積, ρ:母液の密度, 𝐶G− 𝐶S:母液と結晶表面の結晶成分濃度差, 𝐶BM:結晶化しない成分の濃度(1-𝐶G), 𝑆ℎ:シャーウッド数

2.3 GaSe結晶の成長速度高速化に向けた溶媒の探索

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上記の式(2.4)より物質移動速度は母液と結晶表面の溶質濃度差に比例して大 きくなることがわかる。母液𝐶Sは結晶表面上における溶質濃度であり、結晶の 成長が物質移動律速である場合には結晶の成長が速いほど結晶表面上の溶質の 消費速度も速く、𝐶Sは小さくなると考えられる。一方で、溶液中の溶質濃度𝐶Gは 溶質の溶解度により決まった値であることから、溶解度が小さい場合には、そ の他の結晶化過程が速く、結晶表面上で溶質成分が零に近い状態であったとし ても、濃度勾配が小さいために物質移動律速となり、成長速度が遅くなってし まうといえる。また、溶解度が小さい場合は温度差を大きくし、原料側から拡 散する溶質の量を増やしたとしても、過飽和度が大きくなり、多結晶化してし まうため、成長量は増えても単結晶にはならない。これは物質移動速度だけで はなく、他の結晶表面近傍の結晶化過程の速度が遅い場合でも同じである。式

(2.4)も物質移動速度は溶液中の結晶化成分(溶質)の濃度(𝐶G)が高いほど速いこと

を示しており、成長速度を高速化するためには結晶化成分の高い溶解度が必要 であることがわかる。

また、物質移動速度は図2.3に示した濃度勾配の大きな区間である濃度境界層 の厚さによっても変化する。濃度境界層は薄いほど濃度勾配は大きくなるため、

物質移動速度は高速化し、物質移動速度で律速な成長においては濃度境界層を 薄くすることで成長速度を高速化することができる[3]。濃度境界層を薄くする 方法としては、成長容器を回転させることで対流を発生させる Accelerated Crucible- Rotation Technique (ACRT)と呼ばれる方法があり、物質移動速度と成長 速度の高速化に成功している[4, 5]。

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② 表面集積過程 [2]

結晶面の前進速度G:

𝐺 ∝ 𝑘

𝑅

(𝐶

S

− 𝐶

S

)

𝑔

(2.7)

成長速度係数𝑘𝑅

𝑘

𝑅

= 𝑘

𝑅0

exp (−

∆𝐸

𝑅𝑇

) (2.8)

𝐶S− 𝐶S : 結晶表面の過飽和度(飽和溶解度と実際の溶質濃度の差), g : 1~2の値を取る

表面集積過程の速度式は結晶面の前進速度の式として工学的によく使用され る。この式はBCF理論やNaNモデルといった成長モデルにより式の形が異なり、

また、過飽和度の大きさにより g の値が変化する[2]。どのモデルでも共通して いることとして、過飽和度が大きいほど、また、成長温度が高いほど表面集積 過程の速度は速くなる。

③ 伝熱過程 [1]

伝熱速度Q:

𝑄 = ℎ𝐴(𝑇

G

− 𝑇

S

) (2.9)

伝熱係数h:

ℎ = 𝑁𝑢

𝜆

(結晶の径)

(2.10)

A:結晶の表面積, 𝑇G− 𝑇S:母液と結晶の温度差, Nu:ヌッセルト数, λ:母液の熱伝導率(温度が高いほど小さい)

これまでに説明してきた物質移動と表面集積の速度は温度が高いほど速くな る傾向にあったが、伝熱過程の速度は熱伝導率が高温ほど小さいために、温度 が高いほど遅くなる。しかし、低温での成長である溶液成長においては、溶質 濃度の高い溶液や有機混合物の系などを除き、伝熱により成長が律速されるこ とは少ない[1]。

2.3 GaSe結晶の成長速度高速化に向けた溶媒の探索

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以上で説明した結晶近傍の物質移動、表面集積、伝熱の速度の速くなる条件 について以下にまとめる。

①物質移動 :溶質濃度が高い、結晶周囲の対流が大きい、温度が高い

②表面集積過程:結晶表面の過飽和度が高い、温度が高い

③伝熱 :温度が低い(溶液成長では影響が小さい)

2.2.3 GaSe の温度差法における課題

2.2.1節と2.2.2節において温度差法の速度過程について紹介したため、これを

踏まえて、1.5.3 節において紹介した蒸気圧制御温度差液相成長法の成長速度を 高速化する方法について考察する。

まず、蒸気圧制御温度差液相成長法によりGaSe結晶を成長する方法について 説明する。蒸気圧制御温度差液相成長では、図2.4に示すようにGa溶媒中に原 料であるSeを飽和溶解させ、成長温度を640 ℃として10 ℃/cm の温度差をつ けてSeを底部に拡散させることで温度差法によりGaSe結晶の成長を行った[6]。

溶液高さは3 cm程であることから、液面の温度は670 ℃ほどである。

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ここで図2.5のGaとSeの二元系状態図からGa中のSeの溶解度として2 点 読み取ると811℃で1.8 at%、858 ℃で3.3 at%のSeがGa溶媒中に溶解すること がわかる。また、この2点の間で溶解度の温度係数を計算すると0.032 at%/℃と なる。このGa 溶媒中の Se の溶解度及び溶解度の温度係数は前述した蒸気圧制 御温度差液相成長法の成長温度 640~670 ℃の温度範囲ではさらに小さい値にな ると考えられるが、Synthesis solute diffusion (SSD) 法などにおいてGaを溶媒と して温度差法によりインゴットの結晶が成長している GaP[8]や InP[9]の例と比 較すると、溶解度及び溶解度の温度係数(濃度勾配)が小さい。

2.2.1節と2.2.2節より、結晶化成分の濃度である溶解度が小さいほど溶液中か

ら結晶表面に溶質の移動する速度は遅くなり、溶解度の温度係数が小さい場合 には濃度勾配が小さくなり、成長部への溶質の拡散速度が遅いため、成長の駆 動力となる過飽和度も小さくなってしまう。よって、Ga 溶媒中から GaSe 結晶 を温度差法により成長する場合に成長速度が遅い原因は溶解度とその温度係数 が小さいことであると考えられ、成長速度の高速化に向けては Ga及び Se の溶 解度とその温度係数の大きな溶媒を使用する必要がある。SiC や GaN の成長に

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