5.1緒言
安定化ジルコニアと2つの酸素分圧の異なる系をセンサとして応用したものに自動
車の空燃比制御用の酸素センサが挙げられ、広範囲の酸素分圧下で、低温から高温ま で酸素分圧と起電力との対 応性と再現性がよく信頼性が高いため、溶鋼炉中の自由酸 素量測定用センサ、 医療機器用酸素センサなどに使用されている。 また、 安定化ジル コニアを用いたセンサは、 酸素と混在する微量の還元性ガスを検知することも可能で、
ある。 この特性を利用して、安定化ジルコニアに金属酸化物を電極として組み合わせ た混成電位方式の種々のガスセンサが提案されており、 適切な酸化物材料電極を用い ることにより高温での作動を可能にするとともに、 高いガス選択性が得られることが 見出されているト14)。例えば、W03やCdMm04を用いた混成電位検出方式によるセン サは、 空気中の微量なH2S 5,8)やNOx6川0) の検知が可能であることが報告されている。
これは、検知極としての金属酸化物が検知対象ガスに対して固有の電極触媒活性を示 すためと考えられる。従って、前章までに示した半導体型センサと同様に本タイプの センサでも適切な酸化物材料電極を用いることによりN20を検知で、きる可能性がある
と予想、される。
そこで、 本章では、安定化ジルコニアと金属酸化物電極を組み合わせた混成電位型 センサによるN20検知特性についても検討を行った。 まず、 第2章の半導体型センサ の結果から、N20応答に対して電極触媒活性を示すと予想、される11種類の金属酸化物 を検知極材料として用いたセンサ素子のN20 応答特性の検討を行うことにより混成電 位型N20センサとしての検知極材料の選択を行った。 さらに、 第3章で得られた結果 を参考にして、 半導体センサの場合と同様に第二成分を微量添加することによる検知 特性の改善を行った。最後に本センサ素子の分極曲線の測定による 応答機構の解明を 行った。
5.2実験
5.2.1単独金属酸化物試料の調製15-21)
本研究で用いた各種単独金属酸化物試料の調製は第2章で示した方法と同様の方法 により行い、市販品をそのまま用いるかあるいは、 塩化物、酢酸塩、 アンモニウム塩、
硝酸塩を出発原料に用いた。 また、 第二成分添加金属酸化物試料についても第3章で 示した酢酸塩を出発原料とする含浸法により調製した。
-
64-5.2.2 センサ素子の作製方法22,23)
本研究で用いた管型センサ素子の模式 的構造を図5.1に示す。 本素子は以下の 手順で作製した。種々の単独金属酸化物 粉末または第二成分添加金属酸化物粉末
をメノウ乳鉢を用いて粉砕し、エチルセ Y S Z
ルロース(関東化学(株)、 45c p)を5wt% 図5.1 YSZと金属酸化物を用いた管型素子の模式図
添加したαーテルビネオール(石津製薬
(株))と重量比にしておよそ 2:3の割合で混合してペーストを調製した。こ のペースト を固体電解質(8mol%イットリア安定化ジルコニア: YSZ (NKT製)) の一端封止管 (長さ30 cm、外径8mm、 内径 5mm) の先端から約3mm離れた外側表面に幅約7mm の帯状に均一に塗布し、 乾燥器中で乾燥させた後、 合成空気流通下、 3000Cで1 h焼結 させた後、 6000Cで 2h焼結させた。 その際、αーテルピネオール(沸点99,...,1020C) と
エチルセルロースは焼結過程において系外へ取り除カ亙れる。
さらに 、その酸化物層の上に YSZと接触しないようにPt線を巻き付けて検知極とし た。 YSZ管の内部先端にはPt黒粉末(関東化学 (株)) を詰め、 接触をよくする ため にPtメッシュを先端に取り付けたPt 線を挿入して圧着し、大気開放型の参照極を形成 した。
5.2.3 センサ素子の応答特性、 分極曲線の測定
センサ素子は、各作動温度において合成Air中でのセンサ素子の起電力 値が安定した 後に測定を開始した。センサ素子の応答・回復特性の測定は、雰囲気を合成Airから合 成Air希釈の 20-21000p pm N20に切り替え、 その後再び合成Air に切り替えてN20応 答を回復させることにより行った。 これ らのガス流量制御はマスフローコントロー ラー(日本TYLAN)、 またはフローメータ( KOFLOG )により行い、 100cm3/minの流速 で測定セルに導いた。測定セルの温度は電気炉をP IDコントローラー(SINKO)を用い ることにより400-6000Cに制御した。作製したセンサの起電力測定は、高温側から500C おきに順次行い、 P t 参照極に対する検知極 の 電位をデジタル エレクト ロメータ (ADVANTEST R8240、ADVANTEST TR8652)を用いて、 GP-IBインターフェイスに よりパーソナルコンピュータ(NECPC・9801BX3)に出力して応答曲線として表示させ た。 センサの感度はN20中および合成空気中の EMF値の差(ð EMF)で定義した。 ま た、N20中および合成空気中におけるセンサ素子の分極曲線はポテンシオスタットを 用いて測定した。
戸、JぷU
5.3単独酸化物 電極を用いた素子のN20応答特性 5 .3.1集電体の検討
本センサでは、 検知極材料としての金属酸化物特有の電極触媒活性によりガスを検 出できるため、 その電極触媒作用を評価するためには、 集電体である貴金属の影響を できるだけ排除する必要がある。本タイプのセンサ素子は通常、 集電体としてPt電極 を用いているため、 金属酸化物を用いずに、Ptのみを電極材料として用いた素子を作 製し応答特性の評価を行った。 その結果、 Ptを用いた素子は4000C-6000Cにおいて、
N20に対する感度を示さなかったため、Ptは、N20に対する 電極触媒活性を持たない と考えられる。従って、Ptは混成電位型のN20センサの集電体として用いることが出 来ると考えられるため、 以下では、Ptを集電体に用いたセンサ素子の検討を行った。
5.3.2 P型お よび、n型酸化物 電極を用いた素子のN20応答特性
まず、 検知極材料としてp 型の金属酸化物(CuO, C0304, NiO) の検討を行った。 こ れらの酸化物を用いて作製した管型センサ素子を作動温度4000C-6000CにおいてAir中 及び200ppm N20中に対する応答特性の評価を行った。 これらの素子はいずれも、
4000C-6000CにおいてN20に対する応答が見られなかった。 同様の測定をn型の金属 酸化物(Fe304, CdO, In203, Sn02, ZnO, Ti02, Mn203, W03)を用いて行ったところ、Sn02 を検知極として用いたセンサ素子以外は4000C-6000CにおいてN20に対する応答が見 られなかった。
このように、Sn02だ、けがN20応答を示す理由としては、CuOやMn203のようにN20 分解活性が高い24,25)とされている金属酸化物を用いた場合には、 金属酸化物/YSZ界 面にN20が到達する前にN20が分解されてしまう可能性が高いし、 また、N20に対す る分解活性が低い酸化物では、N20に対する吸着性や電気化学活性が低いためにN20 検知が小さく、十分な感度が得られなかっ
たと考えられる。
Sn02を 電極材料に用いた管型センサ素 子の作動温度4000C-6000CにおけるAir中 及び200ppmN20中のEMF値を図5 .2 に示 す。これより、 作動温度4250Cにおいて最 大の電位変化を示した。また、 測定を行っ た温度範囲では、 Air中のEMFは温度が低 くなるにつれて、OmVからのずれが大きく なった。図5.3に各温度における、200ppm
-66-20 15
〉 10 E
� 5
:::E 凶o
-5
-10
300 350 400 450 500 550 600 650 700 Temperature / oc
図5.2 管型Sn02素子のair中及び200ppm N20中 における作動温度依存性
5
ムEMF/mV Oxides
200ppm N20
CuO くl
NiO くl
C0304 く1
Mn02 くl
Fe304 くl
In203 く1
Sn02 27
CdO くl
ZnO くl
Ti02 くl
W03 く1
R くl
N20に対するEMFの 電位変化を示す。 これより、作動温度が高くなるにつれて 電位変 化量が減少する傾向を示した。 これは、 高温ではN20が気相分解(N20→N2+ 1/202)
されてしまうためと考えられる。 また、低温側ではN20に対する応答・回復速度が遅 くなる傾向を示したため、 Air中のEMFがOmVに近く、 応答・回復時間が 比較的短い 4750C付近が最適作動温度であると考えられる。
検知極に 11種類の各種金属酸化物を用いた管型素子の4750Cにおける合成空気希釈 の200ppmN20に対する起電力応答値を表5. 1に示す。 これより、半導体型センサの応 答特性の結果とは異なりSn02を検知極材料として用いた素子だけが唯一27 mVの比 較的良好な感度を示したため、混成電位型
表5.1 種々の酸化物を電極として用いた素子の475"C
の 管型素子ではSn02をN20検知極材料と における200ppm N20に対するEMF応答
して選択した。
20
〉E 15
� 10
2 凶 寸
。
400 425 450 475 500 525 550 600
Temperature / "C
図5.3 管型Sn02素子の200ppm N20に対するEMFの 電位変化
5.3.3 Sn02 電極を用いた素子の N20検知特性
Sn02電極を用いた素子について応答特性を詳しく調べるため、起電力応答のN20濃 度依存性について検討を行った。 起電力値の測定は、作動温度4750CにおいてN20 濃 度を20ppm-200ppmまで変化させることにより行った。 図5.4にN20 濃度を変化させ た時の階段応答を示す。これより本素子はEMF値がN20濃度に依存した比較的良好な 階段応答を示した。 また、 図5.5に本素子のEMFのN20 濃度依存性を示す。 これより 7 5ppm-200ppmの 濃度範囲でEMF応答はN20 濃度の対数に比例することがわかった。
図5.6に本素子の4750Cにおける50ppm、1 00ppm及び150ppmN20に対する応答・回 復曲線を示す。本素子は、 いず、れのN20濃度に対しでも90%応答時間、90%回復時間 はとも に約50秒と比較的良好な応答回復特性を示した。 また、 100ppmN20に対する
-
67-繰り返し応答曲線を図5.7に示したが、 約5分おきのAirと N20の切り替えにおいて、
いず、れの場合も一定の感度と迅速な応答がみられた。 このことから、 短時間に繰り返 し行われるN20ガ、スに対する応答に対しでも感度が低下する ことなく安定な応答を示 すことがわかった。以上のように、Sn02単独電極を用いたセンサ素子は比較的良好な 特性が得られたが、 低濃度のN20に対する 感度は十分な値とは言い難い。従って、 本 センサ素子も半導体型センサ素子の場合と同様にセンサ感度の改善が必要である。
(475t)
5min. 200 ppm
air -・E・-・E・-・E・level
図5.4 管型Snα素子の475tにおけるN20に対する階段応答
25
。 (47St)
20 15
〉E lO
、、、
弘2凶司 5
。 。
。 -10
10 100 1000
N20 concentration / ppm
図5.5 管型Sn02素子の475tにおけるEMFのN20濃度依存'性
(47St) 150 ppm N20
100 ppm N20
50 ppm NzO
5min.
図5.6 管型Sn02素子の475tにおける50,100,150ppm N20に対する応答曲線 -