繊維製品の輸入増加に伴い、その増大が懸念されている「消費されない衣料品(=衣料品在庫)」 の発生量と、その消費流通ルートや、焼却処理などの状況把握を試みた。
2.1 衣料品の生産・流通フロー
繊維衣料品の生産・流通フロー図(図2.1-1)は、機能的要素を主体として作成したものである。
しかし実際には、1社1業種ではなく、例えばアパレル業者が製造機能をあわせ持ったり、小売 業者が通販事業を行うなどの複合企業も存在する。特に、90年代前半から、一部のアパレル業 者が直接小売へ参入し成功を収めていることもあり、他のアパレル業者が追従する傾向が顕著で ある。さらに最近、小売業者が自ら企画機能を持ち、製造業者に直接製品発注する企業も出てき た。このアパレル業者が小売を兼ね備えたり、小売業者が企画機能を持つ業態はSPA(製造小 売業)と呼ばれている。また、海外製品の輸入が従来に比べ、著しく増大し、国内製造業が苦戦 を強いられるなど、衣料品の生産・流通フローは大きな転換点にさしかかっている。
次に、各業種別に受注、発注、仕入、販売、在庫の形態を述べる。
発注 製品 発注 製品 発注 製品
発注 製品
発注 製品
発注 製品 製品
在庫処分品 発注 製品
製品 発注
図2.1-1 衣料品の生産・流通フロー
アパレル業者
商 社
小売業者 (アパレル業者の直営含)
通信販売業者 Web販売業者
消 費 者
輸出業者
二次問屋 現金問屋
製 造 業 者
縫製メーカー ニット製造メーカー
輸入業者
(海外メーカー含)
(1) 製造業者(縫製メーカー・ニットメーカー)
製造業者自らが企画機能を持ち、小売業者と取引を行う、または直接に小売を行うところも少 数ながら存在するが、多くの製造業者はアパレル業者や商社の下請けである。
① 受注
アパレル業者や商社から生産依頼の発注を受け、納期と製品単価(原料代・付属品代・工賃・
マージンの積み上げ)の折り合いがつけばOEM生産を行う。生産する製品の仕様及び型紙は発 注元から指示・支給される。製造業者は、受注先として1社あるいは数社のアパレル業者あるい は商社の指定メーカーとなり、安定受注を図っている。
② 発注
製品の製造に必要な原料(テキスタイル・糸)、付属品(裏地、ボタンなど)は、発注元からの 支給も一部あるが、多くは指定された原料メーカー(紡績・生地コンバーター・糸商など)や付 属メーカーに、自ら必要量を発注し購入する。これらの原料・付属品代は製品単価に算入される。
また、原料発注の際の要尺(一着に要するメーター数)の見積誤差や必要糸量の誤差により製品 の増減産が発生する。
③ 生産
原料、付属品の納期及び指定された製品の納期を鑑み、生産計画をたて、製造する。製造品質
(縫製不良など)の責任は製造業者が負うのが通例である。
④ 販売
原料・付属品代に工賃・マージンを加えた製品単価で、発注元に販売する。増減産はその都度、
発注元と調整を行う。
⑤ 在庫
製造業者の在庫は、下記iの受注生産中の製品以外は正規価格での販売が困難であり、下記ⅱ
〜ⅳについては、従業員へ販売されたり、発注元を特定させないためにブランドネームをはずし て現金問屋等に販売される。
ⅰ.受注生産中の商品、及び納期待ちの商品
ⅱ.縫製・編みたて不良品(B品)
ⅲ.納期遅れで発注元からキャンセルされた製品
ⅳ.要尺の見積誤差や糸量の誤差による増産の未引取り製品
なお、未裁断の原料、裏地、芯地、肩パッド、ボタン、テープ、ファスナーなどの付属品のオ ーバー発注分が製品以外の在庫となる。
(2) アパレル業者
アパレル業での商売は、大きく分けると卸と直営の2形態がある。卸は小売業者に商品を卸す 形態であり、80年代まではこの形態が主流であった。90年代に入り、一部のアパレル業者が 直接小売に参入し、直営店を運営するようになり、成功を収めつつあることから多くのアパレル 業者がこの形態を模索している。
小売業者とアパレル業者間の売買契約としては、買取契約、委託契約、売上仕入(消化)契約 がある。買取契約はアパレル業者から小売業者に納品された商品のリスク、すなわち値下げリス ク・売れ残りリスクをすべて小売業者が負担する契約であり、委託契約はアパレル業者からの商 品の納品時に、商品代金の支払いが発生するものの、売れ残り商品は返品され、支払金から相殺 される契約である。店頭で値下げされた差損もアパレル業者が負担する。売上仕入(消化)契約 は小売業者において実際に売れた時点でその分だけの支払いが発生する契約であり、小売業者の
店頭にある商品在庫はアパレル業者の在庫である。以下の受注等は買取契約、委託契約の場合で あり、売上仕入(消化)契約及び直営の場合は、すべてのリスクをアパレル業者が負担するため、
受注等の業務は発生しない。
① 受注
受注は卸の形態をとるアパレル業者で行われる。通常、展示会を開催し、その時点で小売業者
(百貨店・専門店・量販店など)から受注(注文)を受ける。しかし、受注を受けたからといっ て、そのままの量で生産指示されることはほとんどない。これは、小売業者との売買契約に起因 している。買取契約であれば受注分がそのまま生産されるべきであるが、通常買取契約であって も、その契約が守られることが少なく、アパレル業者の自衛として、そこに何らかの裁量が入る。
まして委託契約であれば、シーズン末の未消化在庫はアパレル業者の負担によって処分しなけれ ばならず、受注分がそのまま生産されることはない。小売業者もそのことを認識しており、発注 した商品の一部に未納または量の不足があっても、積極的に問題にはしないのが現状である。
② 発注
アパレル業者の発注形態は、発注先が、国内原料メーカー及び付属品メーカーの場合、国内製 造メーカー(縫製メーカー、ニット製造メーカー)の場合、海外メーカーの場合とで異なる。
国内原料メーカー及び付属品メーカーへ発注する場合、アパレル業者は、展示会での受注状況 を参考にして、自らの意思で型別の生産予定数を決定し、その生産予定数に見合う原料(テキス タイル、糸)及び付属品を原料メーカー及び付属品メーカーに発注する。
国内製造メーカーへの発注は、「売り増し」と「売り減らし」に区別できる。「売り増し」では、
製造業者の生産能力(キャパシティー)を考慮しつつ、展示会以前に先行発注(仮発注)を行う が、展示会後に先行発注分のうち、実際には、まず、初回展開分と若干の追加分を見込んだ量の みを発注する。その後、販売シーズンに入り、店頭からの売れ行き情報を把握し、原料及び付属 品の発注済ストックを見ながら、必要なものをその都度製造業者に発注する。これは売上を上げ るとともに、最終の売れ残りを極力少なく抑える方式と言える。それに対して、「売り減らし」は、
展示会終了後に決定されたそのシーズンの生産予定数の全量を、そのまま製造業者に発注する方 式である。
一方、海外メーカーへの原料発注及び製品発注は展示会以前に行われ、商品展開納期に遅れを 生ずる原因ともなる展示会後の量の調整は、通常行われない。
③ 仕入
国内製造業者及び海外メーカーから直接仕入れる場合と商社を経由して仕入れる場合がある。
一旦仕入れた商品は、不良品及び納期遅延商品を除き、製造業者へ返品されることはほとんどな く、アパレル業者のリスクにより、値下げなどによる再販も含め、売れ残りの最終的な処分まで 行われる。
④ 販売
前述の卸し商品(展示会での売約数をもとに展開時期に合わせて納品)と直営商品(消化契約 含む)に分けられ販売される。いずれの形態にしても、正規の販売価格で売れ残った商品は、値 下げなどによる再販も含めた処分品となる。衣料品はファッション商品であるがゆえに、鮮度が 優先され、そのシーズンの内に販売してしまうことが重要視されている。値下げ価格は、その商 品の生産量に対する正規価格販売率(消化率)によって決められる。消化率が高ければ、売れ残 り商品が少ないので、かなり思い切った安い価格での再販が行えるが、消化率の悪いものは、た とえシーズン中であっても、早くから値下げ販売される。委託契約、売上仕入(消化)契約の場 合の値下げ価格はアパレル業者が決定している。
ただし、ブランド・イメージが重視される商品は、安易に値下げをしないで、クローズ販売で
再販される場合がある。
アパレル業者の中には、取引のある小売業者の店頭で再販することを控え、自前で「アウトレ ット・ショップ」を運営し、そこで再販品を安価に販売する手法をとるところもある。
本章2.3に示した表 2.3-5「衣料品の業種別・種類別販売状況」において、重衣料・中衣料・
軽衣料を問わず、アパレル業者のバーゲン販売率が他の業種よりも比較的高率なのは、流通在庫 の多くがアパレル業者リスクにより流通していることにほかならない。
⑤ 在庫
アパレル業者にとって、「在庫は悪」と言われるように、そのシーズンに作られた商品はそのシ ーズンの内にゼロにすることが目標となる。本章2.3に示した表 2.3-6「衣料品の業種別・種類 別在庫状況」の具体的な内容としては、以下のようなものが挙げられる。
ⅰ.次シーズン用の準備商品
ⅱ.売上仕入(消化)契約による店頭商品及び直営店の商品
ⅱ.今シーズンでこれから展開される商品、または追加フォロー用商品 ⅲ.今シーズンでの値下げ再販中の商品
ⅳ.旧品:今シーズン以前の商品(評価変更されている場合が多い)
ⅴ.キズ・汚れで販売不能商品
(3) 小売業者
① 発注
アパレル業者が開催する展示会(内見会含む)で発注するのが主ではあるが、他店との差別化 を図るために、その他に以下のような発注方法がある。
ⅰ.アパレル業者に別注と呼ばれる独自商品を発注する
ⅱ.自ら生地産地で原料を調達し、自社リスクで製造業者に発注する
ⅲ.海外の展示会で商品を買付ける
ⅳ.海外ブランドと提携し、国内で独占的に販売する
上記のⅱ・ⅳの発注は、所定のロットがまとまらないと生産ができない上に、完全買取となる ため、大手百貨店、量販店などの資力のある小売業者のみで行われている。専門店ではアパレル 業者の展示会商品に加え、少量でも買い付け可能なⅲの方法も併せ行う企業もある。
② 仕入
アパレル業者に発注された商品は、品揃えされ、販売可能な状態で納品される(コーディネー ト商品であればトップスとボトム、それに合わせるブラウス等のインナー、アクセサリーが同時 に納品される)が、①のⅱ〜ⅳにより発注された商品は、各々単品で別々に納品されたり、予定 販売時期に納品にならないなど、販売に支障をきたす場合も多い。また、売れ筋商品の追加フォ ロー発注なども、アパレル業者への発注はおおむね順調ではあるが、ⅱ〜ⅳの商品ではほとんど 考えられない。
③ 販売
アパレル業者から納品された商品の販売は、通常そのアパレル業者から派遣された販売員が販 売に係わり、売れ筋、売れ行き不振商品(死に筋)がアパレル業者に連絡され、追加フォロー、
返品、値下げ(売値変更)などの措置がとられる。
①のⅱ〜ⅳの商品は、小売業者の社員がその販売を担当し、売り減らしが中心となる。売れ行 き不振商品は、小売業者の自社リスクで値下げ措置がとられる。
④ 在庫
小売業者の在庫は、店頭に置かれているものがほとんどであり、若干の商品が倉庫、ストック