第 6 章 負荷特性と水界生物生産性
6.4. 流入リンの形態と生物生産性の関係
流入リン濃度およびその無機態比率と生物生産量比の関係を図 6-15に示す.なお,図 6-15 は一定の流入炭素濃度 1.4gC m-3(貧栄養段階での代表的流入条件)のもとで流入リン濃度お よびその無機態比率を変化させた場合生物生産量と代表流入条件の生物生産量の比を示した ものであり,代表流入条件のリン無機態比率は「2.3.3(4)」に示したように実フィールド流 出水観測結果をもとに 0.4 としている.
図 6-15からは,流入リン濃度に比例して生物生産量が変化しているが,等しいリン流入濃 度の場合においては,流入リン無機態比率が高いほど生物生産量が小さく,無機態比率が低 い(有機態比率が高い)ほど生物生産量が大きいことがわかる.
無機態比率が高い場合(DIP が主に増加),流入したリンを植物プランクトンと細菌がとも に利用する.一方で,無機態比率が低い場合(有機物に含まれる有機態リンが主に増加),流 入したリンは有機物摂取により細菌に取り込まれる割合が高くなる.そのような異なるリン フローは炭素フローの違いとなって現れるものと考えられる.
図 6-15 流入リンの無機態比率と生物生産量比の関係(貧栄養,流入炭素 1.4gC m
-3)
リン流入 0.01gP m-3と炭素流入 1.4 gP m-3における異なる無機態比率での炭素とリンフロ ーを図 6-16,図 6-17に示す. 両図の比較から,上位栄養段階生物への炭素フローにおいて 最も大きな違いが見られるのは,ナノ・ピコ植物プランクトンから原生生物へのフローであ り,原生生物から動物プランクトンに繋がるフローの変化が生物生産を左右しているものと 考えられ,このことに対する流入リン形態比率の作用は次のように考えらえる.
無機態比率 0.8 の場合(図 6-16),有機物として流入するリンが少ないために流入有機物 の C:P 比が高い(C:P モル比 1808).有機物を摂取する細菌は必要とするリン量を有機物から 十分に摂取できないため,DIP を積極的に摂取することとなる.それにより細菌と植物プラ ンクトンのリン摂取の競合関係が強まり,リン摂取において細菌が優位に立っている.この ような貧栄養環境に対して添加された無機態リンは植物プランクトンよりも細菌によって優 占摂取されることは Zohary & Robarts(1998)によっても確認されている.リンを十分に摂 取できないことで植物プランクトンバイオマスが低下し,それを捕食する原生生物から動物 プランクトンへのフローが低下していると考えられる.
無機態比率 0.2 の場合(図 6-17),流入リンの多くは有機物に含有されることになるが,
貧栄養環境における流入有機物 C:P 比(C:P モル比 452)は,無機態比率 0.8 の場合と比較し て低いものの,細菌にとって十分なリン量ではなく,細菌は DIP に依存することとなる.し かし本ケースの場合,流入リンの多くが有機態であるため,DIP から摂取できるリンも少な く,その結果として,細菌 C:P はモル比 135(初期値 49)まで上昇している(無機態比率 0.8 の場合は 70).先述のとおり細菌は自身 C:P 比に応じたリン量を摂取するため,増殖に必要 とするリン量も小さくなる.それに対して植物プランクトンは,細菌等によって再生された リンの多くを摂取できるためにバイオマスが増加し,原生生物の豊富な餌資源になっている と考えられる.
以上から,流入リンの無機態比率は,細菌のリン摂取過程に影響をおよぼすことで,それ を発端とする植物プランクトンから原生生物を経て動物プランクトンに至る炭素フローを変 化させる要因であると考えられる.このことが,図 6-15に示した流入リンの無機態比率と生 物生産性の関係を変化させる要因であると考えられる.
( ):Biomass composition rate Carbon flow :mgC m-3 day-1 0.00
0.41
0.00 0.00
IP ratio 0.8 0.61
0.15 0.10
14.00 33.40 mgC/m3 0.19
(0.0%) mgC/m3
0.0 0.71
13.50
mgC/m3
Carbon flow 0.24
(26.9%) 0.00
3.17 0.00 41.2
0.77
318.0 0.44
0.77 21.77 15.50
(29.0%) mgC/m3 7.44
44.3
0.06 0.14 2.29
36.9
0.01
mgC/m3 (24.1%)
(4.0%) 6.1 mgC/m3
1.58
0.00
0.16
Pin 0.01gP m-3
(16.0%) 0.11 5.83 2.76
mgC/m3
Biomass :0.15 gC m-3
14.20
5.92 5.13
24.5
Carbon inflow Meso-zooplankton
Organic matter Bacteria Protists
Nano/Pico-phytoplankton Micro-phytoplankton
Micro-zooplankton
:Consumption relations
:Excretion・Mortality
:Respiration
:Extracellular release
:Inflow・Outflow
Phosphorus flow :mgP m-3 day-1 0.020 IP ratio 0.8 T-P:0.011 gP m-3
0.217
0.000
0.001 0.137
0.137
0.003 mgP/m
3
0.006
0.000
0.003 0.004
mgP/m3 0.000
0.000
0.097
0.664 0.578
0.015 0.832
0.003
0.502 0.191
mgP/m3 0.003 0.630
0.007
0.000 0.000
0.012 0.135
0.254 mgP/m3
0.772 0.578
0.757
0.006
mgP/m3 6.320
0.707 mgP/m3
0.063 0.527
1.530mgP/m3 Phosphorus flow Pin 0.01gP m-3
0.005 0.038
0.019 mgP/m
3
0.073 0.059
0.080 Meso-zooplankton
Phosphorus
Bacteria
OP Protists
Nano/Pico-phytoplankton Micro-phytoplankton
Micro-zooplankton
:Consumption relations
:Excretion・Mortality
:Respiration & Extracellular release
:Inflow・Outflow
図 6-16 炭素とリンのフロー(IP 比率 0.8)
( ):Biomass composition rate Carbon flow :mgC m-3 day-1 IP ratio 0.2
0.21 0.14
14.00 0.43
Carbon inflow Carbon flow 0.29
(22.6%) 0.00
43.2 0.00
38.70 mgC/m3 0.33
(0.0%)
10.70
1.47 14.90
0.00 0.00
mgC/m3 0.0
0.15 11.50
0.00
1.30
445.0 0.64
1.30 27.92 26.00
(33.4%)
0.08 0.19 3.35
(3.9%) mgC/m3 0.01
mgC/m3 (23.8%)
64.0
7.5
mgC/m3
2.36
0.00
0.88
45.6
Pin 0.01gP m-3
(16.3%) 0.15 8.98 4.18
mgC/m3
Biomass :0.19 gC m-3
18.10 5.24 31.3
mgC/m3 4.44 Meso-zooplankton
Organic matter Bacteria Protists
Nano/Pico-phytoplankton Micro-phytoplankton
Micro-zooplankton
:Consumption relations
:Excretion・Mortality
:Respiration
:Extracellular release
:Inflow・Outflow
IP ratio 0.2 T-P:0.011 gP m-3
0.266
0.000
0.002 0.168
0.168
0.002 mgP/m
3
0.003
0.000
0.005 0.004
mgP/m3 0.000
0.000
0.188 0.008
1.030
0.004
0.284 0.100
mgP/m3 0.004 0.801
0.345
0.825mgP/m3 Phosphorus flow Pin 0.01gP m-3
0.007 0.057
0.027 mgP/m
3
0.024 0.086
Meso-zooplankton
Bacteria Protists
Micro-phytoplankton
Micro-zooplankton
:Consumption relations
:Excretion・Mortality
:Respiration & Extracellular release
:Inflow・Outflow
次に,リン負荷削減とその無機態比率変化に応じた生物生産性の変化について考察した.
流入リン無機態比率の違いによる生物生産量比の変化を図 6-18に示す.
流入リンの無機態と有機態の比(I:P 比)が 4:6 で一定としたパターン 1 では流入リンが 削減されるに従い生物生産は低下している.流入リンの削減にあわせて I:P 比が変化する場 合はパターン 1 と同様に生物生産が低下しているが,I:P 比が次第に上昇するパターン 2(流 入リンのうち無機態の割合が上昇する)では流入リン削減による生物生産性の低下がパター ン 1 と比べて大きく,一方で I:P 比が次第に低下する(流入リンのうち無機態の割合が低下 する)パターン 3 では流入リン削減による生物生産性の低下がパターン 1 と比べて小さいこ とがわかる.各パターンとも,流入リンが削減されることで基礎生産者が不活性化し,それ により高次栄養段階の生物生産性が低下するが,リン削減過程での無機態比率の変化は,先 述した細菌のリン摂取過程を変化させ,生物生産性の低下を大きくも小さくもすることが示 された.
a)
b)
1.00
0.89
0.78 1.00
0.70
0.61 1.00
0.90
0.84
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0% -10% -20%
Change ratio of P inflow
Change ratio of Biomass
Pattern1 Pattern2 Pattern3
IP:OP = 4:6 2:8 0:10
IP:OP = 4:6 IP:OP = 4:6 6:4 8:2
4:6 4:6
Biomass : Zooplankton & Microphytoplankton
0.010 0.009 0.008
P inflow (gP m-3)
1.00
0.90
0.80 1.00
0.70
0.59 1.00
0.90
0.84
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0% -10% -20%
Change ratio of P inflow
Change ratio of Biomass
Pattern1 Pattern2 Pattern3
IP:OP = 4:6 2:8 0:10
IP:OP = 4:6 IP:OP = 4:6 6:4 8:2
4:6 4:6
Biomass : Zooplankton & Microphytoplankton
0.010 0.009 0.008
P inflow (gP m-3)