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実湖沼にみる負荷量変化と炭素収支の関係

ドキュメント内 ― 今後の湖沼流入負荷管理に向けて ― (ページ 109-113)

第 5 章 流域汚濁負荷量と湖水中有機物量の関係に関する考察

5.3. 負荷特性と湖水中有機物収支

5.3.5. 実湖沼にみる負荷量変化と炭素収支の関係

[1985]

[2010]

[1985]

[2010]

a)

b)

図 5-15 琵琶湖流入濃度の推移とモデルの炭素解析結果の関係

(a:生物的炭素収支,b:TOC,●:琵琶湖流入濃度,破線矢印は流入濃度の経年推移を表す)

5.3.4節に記述した通り, 琵琶湖水を用いた生分解試験からは,バクテリアによる DOC 分 解は栄養塩濃度により制限されていることが吉田ら(2004)によって,またリン濃度低下に ともなう微生物活性低下が有機物(CODMn)増加に寄与する可能性があることが KISHIMOTO &

UENO(2011)によって報告されている.本モデルの 1985 年琵琶湖に相当する炭素およびリン 流入条件の炭素フロー(図 5-17)と 2010 年相当の炭素フロー(図 5-16)からは,流入リン が削減されることでバイオマスおよび各フローの低下が見られ,有機物生分解の多くを占め る細菌呼吸についてもフローとその速度(バイオマスあたりのフロー)が低下していること がわかる.式 4a(p.30)に示しているように,本モデルの細菌呼吸は炭素摂取速度に非同化 効率を乗じることで算出され,炭素摂取速度は水中リン濃度の低下により制限を受けるかた ちとしている.Michaelis-Menten 型関数で表しているリン制限項は,0.63(1985 年)から 0.41(2010 年)に変化しており,それにより摂取速度が低下し,呼吸速度も低下しているも のと考えられる.つまり,2 つの年の本モデル結果からも,リン制限が強まることで細菌活 性が低下し,有機物分解が減少してきたことが示されている.一方,本モデルで計算した易 分解性 TOC はこの 2 つの年の間で大きく減少しており,KISHIMOTO & UENO による報告とは相 反した結果となっている.本モデル炭素フロー(図 5-16,図 5-17)では,2 つの年で流入 リン濃度が低下するなかで,細菌呼吸による有機物分解速度の低下(1985 年;135mgC m-3 day-1

→ 2010 年;42.2mgC m-3 day-1)が水中炭素量の増加に寄与する一方で,1次生産速度の低下

(1985 年;269mgC m-3 day-1 → 2010 年;104.4mgC m-3 day-1)が炭素量の減少に寄与してお り,本モデルにおいて TOC が減少したのは1次生産低下による炭素量の減少が勝っているこ とで説明がつく.一方,KISHIMOTO & UENO により示されている炭素収支に関する考察は暗所 培養試験によって得られた結果であり,1次生産の変化を加味したものではない.これらの 本モデル結果と暗所培養試験によって得られた結果の違いは,実水域での現象に例えると次 のように考えられる.本モデルの植物プランクトン増殖には日射制限項を設けていないこと から,植物プランクトンは日射を受けて1次生産を行うことができる環境におかれていると 考えることができる.このことにより,本モデルの結果は,1次生産と生分解が主となり炭 素収支が決定される状況と捉えることができる.一方で KISHIMOTO & UENO により示されてい る結果は生分解が主となり炭素収支が決定される状況と捉えることができる.両者の違いは 1次生産が行われる状況であるか否かであることから,本モデルの結果は有光層での炭素収 支であり,KISHIMOTO & UENO による結果は無光層での炭素収支と捉えることができる.なお 本モデルにおいても,図 5-13A に示したように1次生産が小さい貧栄養段階においては細菌 の分解能低下による炭素蓄積が示されていることから,本研究とこれらの実験研究との間に 不整合なところはないと思われる.

以上のように,琵琶湖を対象とした本モデルの TOC 計算結果と実測 TOC の経年変化傾向の 相違から得られた湖水中炭素増加要因と,生分解試験により示されている有機物増加メカニ ズムから,琵琶湖においては,水深別に,有光層では難分解性炭素の流入や湖内生成,無光 層では細菌の不活性化という異なるメカニズムが炭素収支に寄与している可能性が示唆され た.

( ):Biomass composition rate Carbon flow :mgC m-3 day-1 Carbon inflow 42.20 0.84

gC m-3

(16.2%) 0.10 42.80 TOC : 1.156 gC m-3

38.80 22.30

90.7mgC m-3 1.22

0.37 1.61 75.6

mgC m-3

Carbon flow of Lake Biwa

Biomass :0.56 0.08

0.05

mgC m-3 (13.5%) 5.94

6.06

26.80

P inflow : 0.04

16.60

99.1

3.18

596.0

110.00

5.21 104.99

63.70 40.70

0.30 0.05

2.01

(17.7%) mgC m-3

(7.7%) 43.3 mgC m-3

15.30

44.90

0.04

5.59 2.03

3.53

2.23 0.88

75.1mgC m-3 (13.4%)

0.22 1.46

(31.4%) mgC m-3 176.0

0.30

gP m-3 Meso-zooplankton

Organic matter Bacteria Protists

Nano/Pico-phytoplankton Micro-phytoplankton

Micro-zooplankton

:Consumption relations

:Excretion・Mortality

:Respiration

:Extracellular release

:Inflow・Outflow

bacterial degradation

primary production primary production

図 5-16 2010 年琵琶湖に相当する流入条件の食物網モデル炭素フロー

(流入リン 0.04gP m

-3

,流入炭素 0.6gC m

-3

( ):Biomass composition rate Carbon flow :mgC m-3 day-1

2.95 P inflow : 0.10 gP m-3

gC m-3 Carbon flow of Lake Biwa

0.10 8.76

Biomass :1.03 gC m-3

91.9mgC m-3 (8.9%) TOC : 3.83

9.89 0.30 1.61

0.06 1.13

mgC m-3 (13.6%)

33.40 97.20

60.6 mgC m-3 (5.9%) 140.0 0.16

1.11 102.00 31.20

21.60 4.45

4.05 1.47

0.44 346.0mgC m-3 (33.6%) 139.0mgC m-3 (13.5%) 3.65

22.80

0.07

52.70 89.00 154.00 321.00 135.00

0.13 252.0mgC m-3 (24.5%) 2800.0mgC m-3 Carbon inflow 0.80

1.40

42.30 180.00 9.01 308.41 13.46

Meso-zooplankton

Organic matter Bacteria Protists

Nano/Pico-phytoplankton Micro-phytoplankton

Micro-zooplankton

:Consumption relations

:Excretion・Mortality

:Respiration

:Extracellular release

:Inflow・Outflow

bacterial degradation

primary production primary production

図 5-17 1985 年琵琶湖に相当する流入条件の食物網モデル炭素フロー

(流入リン 0.10gP m

-3

,流入炭素 1.6gC m

-3

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