はじめに
オフィスビルの空調には、執務環境の快適性向上と地球環境に配慮した省エネルギー推 進の両立が求められおり、こうした背景から、最近では、よりパーソナル化を進展させて 個人を対象に「快適性」を維持する「タスク空調」と、それ以外のゾーンは「省エネルギ ー性」を重視する「アンビエント空調」を組み合わせ、より効率化を図ったタスク&アン ビエント空調方式への期待が高まっており、様々な方式が考案され、基礎的な研究も進ん でいる。
一方、空調機サイズや機械室スペース、吹出口のレイアウト計画などの建築計画への影 響も極めて大きく、こうした条件に配慮した上で、実現可能な実務的な側面からタスク&
アンビエント空調方式を検討することも必要であり、実際の建物への導入を前提とした各 種研究や開発、そして実際に導入したシステムの特徴や効果などの情報を蓄積することも 重要な課題といえる
。
本章では、空調システムを構成する機器等のうち、空間スケールとしては最も小さな単 位となる個々人を対象としたパーソナルな空調システムを対象として、実際のオフィスビ ルに導入したタスク&アンビエント空調方式の全体概要およびタスク空調システムに関し ての設計段階と竣工後の実建物での双方の性能検証の結果について示す。
84 4.1.既往研究の概要
タスク&アンビエント空調方式に関する研究は、被験者実験やサーマルマネキンを用い て、在室者に与える生理的影響、心理的影響を明らかにしようとする基礎的研究が中心と なり行われてきた。
李ら1)は、机下に付加する等温気流型ユニットを用いサーマルマネキンおよび被験者実 験を行い、等温気流でも冷却効果が得られることや被験者に気流調整を可能とさせる仕組 みが重要と提案している。
秋元ら2)、3)は、既製品である PEM(Personal Environmental Module)を用い、被験者実験 により、タスク&アンビエント空調方式の有効性を示している。加藤ら 4)は、従来のタス ク空調が人体局部のスポットクーリングを目的とした方式であるのに対し、より広い範囲 でタスク空調を行う、ワイドカバー型を提案し、熱的中立状態以降に使うなど、各々の状 態で適した使い方があることを提案している。
一方、実大建物を対象としたタスク&アンビエント空調方式の研究に関しては、橘ら5) が、既往技術である全面床吹出し空調に付加するパーソナル用床吹出口を開発、また、仁 志出ら6)、三浦ら 7)は、天井吹出方式をベースとしたタスク&アンビエント空調方式の提 案を行っているが、いずれも実験的に限定された導入事例である。
以上に示す様、タスク&アンビエント空調に関しては、研究室実験や限定的な導入事例 によりその特徴や機能を明らかにしようとする研究が主流となっている。一方で、実際の 建物への導入を前提として、従来、採用されている汎用的な空調システムと連携したタス ク空調の提案や実際のワークプレイスでの執務者がどのような使い方をするか等の調査・
分析を行った事例は、未だ少ない状況にある。
以上の背景から、筆者らは、従来技術である加圧式の床吹出空調方式を採用したオフィ スビルの設計において、家具であるパーティションに設置したタスク吹出口を用いたタス ク&アンビエント空調方式に関して、その設計・施工・開発に際して検討したモックアッ プによる性能検証および竣工後の実建物における各種性能検証、快適性および知的生産性 に関する調査を行った。
85 4.2.研究の対象とする建物の概要 4.2.1. 建築・設備設計概要
表 4-1に、本研究の対象とするタスク空調システムが導入されている建物の建築および 設備計画の概要を示す。
延べ床面積、約 20,000 ㎡、地上 4 階・地下 1 階建ての中規模中層の本社機能を備えた 事務所ビルである。熱源システムは、ブラインターボ冷凍機による氷蓄熱システムとガス 焚き冷温水発生機を組み合わせた中央熱源方式を採用しており、後述する各階設置の床吹 出空調機へ年間冷水と冬期の温水を供給する 4 管方式を採用している。
建物内観・外観を写真 4-1に、図 4-1に基準階平面図および空調システムの平面計画を 示す。タスク空調を導入した基準階平面は、東西に各々約 40m×40m、床面積 1,500 ㎡に及 ぶ間仕切り壁や柱の無い大平面形状のワークプレイスを計画している。
40m 近い無柱空間を構造的に成立させるため、ボイドスラブを用いた計画となっており、
このボイドスラブが、後述するよう、空調計画とも関連し、この建物の特徴の一つとなっ ている。
写真 4-1 建物内観(左)・外観(右)
用途 事務所
建築面積 4,782㎡
延べ床面積 19,169㎡
階数 地下1階 地上4階 塔屋1階 最高高さ 25.81m
構造 SRC造(免震構造)
熱源方式 ブラインターボ+氷蓄熱+ガス冷温水発生機 加圧式床吹出空調方式(外気冷房、全熱交換器)
ダブルスキンによるペリメータレス 受電方式 高圧受電(本線・予備線2回線)
給排水方式 県水、井水、雨水再利用、CO2給湯 建
築 概 要
設 備 概 要
空調方式
表 4-1 建築・設備設計概要8)
86
図 4-2に建物断面パースを示す。中央にはアトリウムが計画されており、1 から 4 階の 各ワークプレイスが、このアトリウムを介して連結されていて、建物全体が空間的には一 体化した特徴を持つ。
ワークプレイス内部は、天井懐がなく、上階の床スラブが下階では、天井の役割をして いる。従って、天井高さも、通常の事務室空間が 2,700~2,900mm 程度に対して、本計画で は、3,600~4,000mm と非常に高くなっている。
図 4-1に示すように、外皮計画に関しては、南北面は全面ガラスファサードとし、眺望 と採光に配慮した計画になっており、熱負荷抑制および窓周りの熱環境改善の視点から、
ダブルスキンを採用するとともに、側近のペリメータゾーンは、通路空間と位置づけ、熱 的な緩衝ゾーンを計画している。東西に関しては、機械室等のコアを多数配置して、熱負 荷低減を図っている。
以上、外皮からの熱負荷の影響を出来るだけ緩和し、インテリアゾーンへ影響を及ぼさ ないように配慮した計画となっている。
階段3 階段2
吹抜 階段
自販機 打合せ コーナー リフレッシュ
スペース
ワイ ヤリング クローゼット1 倉庫1 ワイヤリング
クローゼット2 倉庫2
PS
倉庫
SS
SS
SS SS SS
会議室1 人荷用EV
メインアイル
メインアイル 会議室2
メインアイル
メインアイル
廊下
機械室7 機械室5
EPS+PS
機械室4
女子WC 男子WC
給湯室 廊下
1
人荷用 EV附室 乗用EV 喫煙
・休憩室
廊下 2
階段1
機械室8 機械室6
喫煙
・休憩室
機械室3
PS
EPS3
EPS1
機械室2 機械室1
EPS2
EPS6 EPS4
EPS7 EPS5
階段3 階段2
吹抜 階段
自販機 打合せ コーナー リフレッシュ
スペース
ワイ ヤリング クローゼット1 倉庫1 ワイヤリング
クローゼット2 倉庫2
PS
倉庫
SS
SS
SS SS SS
会議室1 人荷用EV
メインアイル
メインアイル 会議室2
メインアイル
メインアイル
廊下
機械室7 機械室5
EPS+PS
機械室4
女子WC 男子WC
給湯室 廊下
1
人荷用 EV附室 乗用EV 喫煙
・休憩室
廊下 2
階段1
機械室8 機械室6
喫煙
・休憩室
機械室3
PS
EPS3
EPS1
機械室2 機械室1
EPS2
EPS6 EPS4
EPS7 EPS5
図 4-1 平面計画と空調システム概要
図 4-2 断面パース
87 4.2.2.空調設備計画の概要
空調設備計画に関しては、外皮にダブルスキンを計画していることからペリメータレス 方式として、ペリメータ専用の空調機は設置せず、インテリア空調機のみで対応している。
図 4-1の右側に、空調システムの平面ゾーニングを示す。高天井+大空間のワークプレ イスに対して、居住域空調を意図した加圧式床吹出空調をベースの空調システムとして計 画している。片側約 1,500 ㎡の空間を 4 分割し、4 台の空調機を設置している。
一台の空調機が、約 375 ㎡程度を受け持つが、更に個人の空調ニーズにきめ細かに対応 するために、家具であるパーティションから空調空気の給気が個人個人で可能なタスク空 調システムを導入している。タスク吹出口は、2~4F のワークプレイス約 7,500 ㎡に約 700set 導入している。次に、空調システムフローを図 4-3に示す。
気化式加湿器
還気ファン(INV)
外気VAV
プレフィルタ 給気ファン(INV)
冷却コイル
排気VAV 全熱交換器
加熱コイル 電気集塵機
予冷コイル
MD
MD MD
MD 躯体蓄熱 SAダクト
通常床吹 SAダクト
非居住域
ボイドスラブ(天井)
タスク吹出口 床吹出口 自然換気口
居住域
図 4-3 空調システム概要
【空調システムの概要】
1)風量制御:外気 VAV 及び排気 VAV によるエアバランス制御、床下~室内差圧による給気風量制御、
ペリメータ、アトリウム部分の可変風量型床吹出口による吹出風量制御 2)温度制御:予冷コイルによる外気除湿、室内温度による給気温度リセット制御 3) 湿度制御:気化式加湿器による加湿、予冷コイルによる除湿制御
4) 外気取入制御:外気状態に応じ、外気及び排気ダクトの MD の切り替えによりクールピット/屋上 での外気取入ルートを変更
5) 熱回収制御:全熱交換器による排熱回収制御 6)外気冷房制御:外気風量可変による外気冷房制御
7) 躯体蓄熱制御:MD により給気/還気ルートを切り替え、躯体蓄熱を行なう 8)その他:予冷予熱(最適起動)制御