• 検索結果がありません。

水質浄化・リン除去の事業化

ドキュメント内 CONTENTS (ページ 50-53)

◆炭屋から水屋へ転進

 喉が渇いた。コップを水道の蛇口に置き栓をひねる。透明で、キラキラ する水が勢いよく流れ出る。ぐいと飲む。日本全国、どこでも見られた光 景であったが、昨今は変わった。

 講演する時、会場の方々にお聞きする。「水道水をそのまま飲みますか?

ペットボトルの水を飲みますか?」。水道水をそのまま飲む方が、年々少 なくなってきた。水の汚染が進行し、安全な水が無くなったことを示す市 民の行動で、環境水が汚染されたことによる。

 筆者は、炭素材料の研究を中心に進めてきた。炭素人工歯根材、補助心 臓用皮膚ボタン、繭活性炭の開発などであった。1995 年ごろ、炭素繊維 を池水の中に落とし、炭素繊維への微生物の急速固着現象を発見。これを 契機に、炭素繊維は水質浄化材、魚類蝟集(いしゅう)材として日本各地、

海外でも利用されるようになった。

◆緑の壁

 夏場、湖沼の水面が緑色になる。水面に細かい藻がびっしりと発生する。

異臭もする。魚も死ぬ。夜にはユスリカが大発生し自動車の前方が見えな くなる。緑色の藻はアオコ。植物プランクトンの異常増殖による。なぜ、

アオコが発生するか。水の富栄養化、窒素成分とリン成分の高濃度化によ る。炭素繊維製浄化材でアオコ除去に挑戦したが、全て失敗。緑の壁にぶ つかった。この問題を解決しようと、正面から緑の壁突破に突き進んだ。

なぜ、アオコが出るか。発生要因は、水中の窒素 成分、リン成分、太陽光照射であった。3要素の 1つでも無くなれば、アオコは発生しにくくなる と考え、リンを除去することにした(図1)。

◆鉄屋からの脱却

 アオコ除去に奮戦中、高崎市内にある石井商事 株式会社から鉄系スクラップで水質浄化ができな いか相談を受け共同研究を開始。同社では、スク ラップ産業の 20 年後を見据え新分野への展開を

模索していた。 図1 アオコの発生と防止のメカニズム

 アオコを発生させないためには、水中のリンを水に不溶 にする。リン(P)は、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、アルミニウ ム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)の塩を 添加すれば、金属リン酸塩を作り水に不溶となる。これら 金属の中で安全、安価な金属、それは鉄。そこで石井商事 に鉄材の供給を依頼し共同研究が始まった。

 鉄を水に溶かす。鉄は水中に浸しただけでは溶けない。

どうすれば溶けるか? 20 年前、炭素繊維強化コンクリー トの研究中、炭素繊維を混ぜたコンクリートを鉄製の型枠 に流し1日後、型から取り出すと、鉄の型枠が腐食してい

た。鉄棒(直径3センチ)に炭素繊維を巻きつけて海水中に入れ1カ月後 に引き上げた。鉄棒は針金になっていた。この2つの現象から、鉄と炭素 材を接触させると鉄が溶けることに気付いた。鉄は、水中のリン成分と反 応し不溶性のリン酸鉄になり水中のリン濃度が低下した。早速、炭素繊維 織物製の袋(50 センチ×50 センチ)中に鉄板を挿入してアオコ発生防止 材を作成した。アオコに苦しんでいた群馬県沼田市のゴルフ場の池(1,200 平方メートル)にロープを渡し、炭素繊維織物/鉄材(図2)30 枚をつ り下げた。それ以降、3年間アオコの発生は全くない。アオコが発生して いる高崎市内公園の池(800 平方メートル)でも 20 枚設置して実証試験 を実施。設置後2年間アオコのない快適な水面を維持した。回収したリン 酸鉄は、リン資源として化学品、リン肥料、2次電池材料として再利用を 図る。石井商事は、リン(P)を効率良く取るので、商品名を「すーぱーぴー とる」と名付けた。

◆環境水から産業排水へ

 群馬県は、科学技術振興機構(JST)の地域結集型研究開発プログラム を 2006 年から 2010 年までの5年間取り組んだ。テーマは「畜産環境改 善技術の開発」。研究員 80 数名、研究費5年間で 24 億円の巨大プログラ ム。筆者は、代表研究者として全体をまとめるとともに、脱臭技術および 畜産排水の浄化技術開発に取り組んだ。畜産農家の排水基準は、暫定的で 数年後には改定されるため、新基準に対応できる安

価、簡単、安全、安心な畜産排水浄化装置を石井商 事と開発した。すーぱーぴーとるを付けた装置は、

養豚農家からのしょうゆのような色の排水を脱色 し、リンを除去し、COD(水の汚れを表す指標の1つ)

および全窒素濃度が低下した。開発した畜産排水浄 化装置(図3)は、群馬県内3カ所(鶏1カ所、豚 2カ所)で1年間実証試験を行い満足できるデータ を蓄積した。寒冷地での実証試験は、岩手大学農学 部附属御明神牧場で1年間、肉牛からの排水で実証 した。浄化装置は、水産加工業、食品加工業の排水

でも効果を発揮した。すーぱーぴーとるを装備した 図3  畜産排水浄化装置の外観(群馬県桐生市 養豚農家に 設置)

図2 すーぱーぴーとるの外観(炭素繊維/鉄)

浄化装置は、石井商事で製造し、大手総合商社の阪和興業株式会社が全国 から世界にまで販売する。同社ではビジネスモデルを作成し、販売体制を 構築中である。すでに中国、台湾などから引き合いがきている。

 すーぱーぴーとるの知的財産は、これまでに5件、国立高等専門学校機 構と石井商事とで共同出願済み、内1件は PCT 出願、内2件は特許査定 済み。2011 年 11 月、群馬県地域結集型研究開発プログラムチームは、

日刊工業新聞社の「第6回 モノづくり連携大賞 中小企業部門賞」を授 賞。すーぱーぴーとるは、大賞受賞の原動力となったといっても過言では ない。

◆これからの可能性

 すーぱーぴーとるは、環境水のアオコ対策に有効であった。群馬県では この技術のさらなる展開を図るべく河川でのリン除去実験を行った。群馬 県東部の観光名所・城沼は、夏場になるとアオコが大発生し、緑の湖とな る。これまでさまざまな方法で取り組んだが、決定打は無かった。筆者は 城沼の汚濁負荷を少なくするため、城沼に流れ込む鶴生田川にすーぱー ぴーとるを 100 枚設置し、河川中のリンがどの程度除去できるか1年間 実験を行い、全リン濃度を 85%除去しアオコのない城沼が誕生する可能 性を見いだした。

 海面が赤くなる現象、アカシオと呼ばれるプランクトンの異常発生は、

水中に存在するリンに起因する。新潟県佐渡島に加茂湖がある。この湖は、

海と連結した汽水湖で、カキの養殖が盛んに行われている。しかし、湖水 の汚濁が進行してアカシオが発生。それによってカキが死滅することが あった。これを憂えた加茂湖漁業協同組合、新潟県、佐渡市は対策を検討 し、すーぱーぴーとるに注目、カキ筏(いかだ)からつり下げた。海水中 の鉄濃度は増加し、全リン濃度は低下した。カキ養殖の救世主としてこれ からが楽しみである。静岡県浜松市の猪鼻湖の一部にもすーぱーぴとるを 設置。そこにはボラ、タイ、スズキなどが集まり海洋牧場となった。魚を 集める、良質のカキができる、これら漁業関連の技術は、震災で大きな被 害を受けた宮城県、岩手県の水産業関係者の復興への大きな力となる。早 急に実証試験を同地で実施し、水産業復活の一助となるべく準備中である。

 すーぱーぴーとるは、極めてシンプルな構成で、高い効果を示した。環 境水ではアオコの発生防止、水質浄化に威力を発揮。下水、畜産、水産加 工業などの産業排水でも浄化作用を示した。湖沼や海域では、藻場を再生 し魚類を蝟集した。これからの漁業は、獲る漁業から、育てる漁業に変身 する。すーぱーぴーとるは、ますます威力を発揮する。長崎県の海で実験 を行ったとき、地元の漁師からパワーをもらった。「俺たちの海に入れて よいのは、木と炭と鉄だ。他は全てゴミだ」。炭と鉄によって、地球の水 資源を再生する。群馬工業高等専門学校と石井商事との協働で、世界の水、

特にアジアやアフリカの水を再生したい。地球の水資源は、危機状態にあ るが、炭と鉄とのコラボレーションによって水道水をそのまま飲む、これ を夢見て研究に取り組んでいる。

食中毒の原因となる人獣共通感染症菌のカンピロバクター属菌は、その重要性が認識さ れるようになってまだ三十数年だ。家畜の腸管内に生息している。食中毒菌が付着して いない食肉を提供するために、感度の高い迅速な検査法が求められていた。

山崎 伸二

(やまさき・しんじ)

大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 教授

話題の食中毒細菌、カンピロバクターの

ドキュメント内 CONTENTS (ページ 50-53)