特集2
津波被害のあった沿岸部に近い石巻専修大学は、被災した住民を施設内に受け入れ、き め細かい支援を行った。大学のグラウンドは自衛隊や支援の NPO のヘリコプターが使 用する臨時着陸場になった。NPO などのボランティア機関の活動の拠点でもあった。
石巻市などとの連携による研究プロジェクトも進めており、住民とともに歩む息の長い 活動が目標だ。
坂田 隆
(さかた・たかし)
石巻専修大学 学長
石巻市、女川町、東松島市とは平成 20 年に包括連 携協定を結んでおり、日ごろからさまざまなレベルで 顔の見えるお付き合いをしていた。また、大学の元地 権者が中心になって設立された東北総合サービス株式 会社に大学の管理、清掃、警備などをお願いしている が、この方たちを通じても近隣の市民とお付き合いを している。
2010 年にチリ地震による津波警報が発令された が、この時も「近所の人が避難してきたら、入っても らって下さい」という指示を学長名で出しており、事 務職員や近所の人もこのことを覚えていた。そこで、
発災直後から近隣からの避難者を収容した。11 日には、学内の学生・教 職員約 200 名、学外者約 200 名が大学に避難した。学生の保護者の組織 である育友会から寄付をしていただいた備蓄食糧を放出した。また、実験 棟の安全を確認し封鎖した。
翌日になるとヘリコプターやバスによって多数の被災者が大学に避難し てきた。石巻専修大学のグラウンドは宮城県警や東北電力のヘリコプター が使用する臨時着陸場になっていたのと、自衛隊の基地となった石巻市の 総合グラウンドから近かったことがきっかけであった。濡れたままの方も 多かったが、学生・教職員の私物の衣料などを提供した。
最大で学外者千人以上、学生・教職員約 200 名が学内に避難をした。
学外者は4号館の教室を利用してもらった。教室は天井も低く、窓が大き いので、日差しも良く入った。特に階段教室が好評であった。自家発電に よって避難所には明かりがともり、水の供給も一定量は可能であったが、
初期の段階では食糧や毛布の公的配布が遅れた。発災当日に市内の建設業 者から仮設トイレを6基借用して4号館近くに設置し、のちに石巻市から も仮設トイレを設置してもらった。避難所の管理は石巻市が行ったが4月 28 日に閉鎖となった。
3月 14 日には日本赤十字社の臨時救護所が設置された。石巻赤十字病 院の負担を軽減するためである。毎日 100 人を超える人を診療し、4月 10 日まで活動した。
かねてから石巻市とはボランティアセンターの設置などを旨とする防災 協定を準備し、3月 30 日に調印予定であった。この内容に沿って石巻市 から本学にボランティアセンター設置の依頼が3月 14 日にあり、3月 15 日に石巻市社会福祉協議会が5号館1階に事務所を開設した。
その後、社会福祉協議会は石巻復興支援協議会などをはじめとするさま ざまな NPO と協力して、「石巻モデル」と呼ばれるボランティア活動を組 織し、10 月末までに 25 万人のボランティアが石巻地域で活動すること になった(写真1)。本学も駐車場やキャンプサイト、野球部の室内練習 場を転用した倉庫などを提供した。キャンプサイトは9月に閉鎖となり、
ボランティアセンターは 11 月末に学外に移動した。また、NPO 等と石巻 市の間の調整をする石巻復興支援協議会にも会議室を提供している。
上記の協定の趣旨に沿って、飲酒の禁止や自動車の通行規制など大学の 規則をボランティアの方たちにも守っていただいた。
写真1 ボランティア活動の拠点となった大学敷地
(撮影日:平成 23 年 4 月 8 日)
3月 18 日には石巻市長から、自衛隊の一部駐屯を 依頼され、これも直ちに了承し、グラウンドの一部と 本館南側の路上を提供した。
石巻市には東部地方振興事務所など宮城県の諸機関 があり、石巻駅の北にある石巻合同庁舎に入っている が、ここも浸水したので大学への移転を要請され、ほ ぼ全機関を体育館に9月末まで収容した。復旧に関わ る手続きをする被災住民の利益を考えた判断である。
海岸近くにあった石巻赤十字看護専門学校の校舎が 著しく損壊したために、今年度いっぱい石巻専修大学 に移転している。
◆復興共生プロジェクト
石巻専修大学では「被災地域の防災と復興に関わる 事業を行い、これを通じて石巻専修大学の研究と教育 の高度化を図る」という「復興共生プロジェクト」を 開始した。地元の2市1町や宮城県、石巻圏域の諸企 業、国内外の諸団体と協力して、地域支援、産業支援、
講演会・研究会・演奏会などの支援、施設提供、研究
(表1)などを行っている。また、本学の震災直後の 対応をまとめて、石巻専修大学研究紀要の特別号とし て発行予定である。
経費のほとんどを学納金で賄う私学として、事業の 成果が現在や将来の学生諸君に還元されることを指標 に企画を立てている。迅速な対応のため学長と、共創 センター長、大学開放センター長が随時相談して運営 している。また、若手の教職員にも運営に参加しても らって、後の世代に状況が伝わるようにしている。さ らに、プロジェクトの進行状況を伝えるために、学内 外で「共生プラザ」を催して、肩の凝らない形で発信 している(図1)。
◆災害対応拠点としての大学
石巻専修大学は震災直後から復旧・復興 に積極的に関与してきたが、これには広大 で安全な敷地と頑強な建物、私学ならでは の迅速で柔軟な判断、地域連携についての 教職員の共通理解、職員と管理会社の高い 能力が重要であった。
被災地の最前線に位置する石巻専修大学 は被災地域の復興のために住民と共に歩む 息の長い活動を進める。そして、こうした 活動によってしかできない研究と教育を元 にして、これまでになかった形の大学を目
指す。 図1 復興共生プロジェクトの概要
共創研究センター
①研究プロジェクト(石巻市との連携による主な事業)
・石巻専修大学・東日本大震災デジタルアーカイブ 制作のための調査研究
・牡鹿半島に生息するニホンジカの北上ルートの解 明
・石巻地域における東日本大震災後の教育および教 育支援に関する調査研究
・換金作物による農地の塩害および重金属汚染の除 去ならびに農家の収入確保に関する研究
・東日本大震災の被災地石巻圏における復興初期の ボランティア・ツーリズムの円滑な実施のための 条件の研究
・東日本大震災の津波による自動車災害の発生状況 調査
・石巻ボランティア情報センターの設立・運営によ る石巻市復興支援の実証的研究
・生活活動量を基軸とした健康介入プログラムが石 巻市高齢者の健康管理度と自己効力感に与える影 響
・有用海産微細藻類の大量培養に関する応用研究
・エンジョイ・スーパーサイエンス
② サテライトキャンパス企画(石巻市との連携によ る主な事業)
・復興活動の関係者の状況報告と意見交換とを目的 とした 共生プラザ の開催
IS 奨学研究員(石巻信用金庫からの若手研究者向け 研究助成)
・ヒラメ無眼側体色異常の発現機序解明および同防 除法の検討
・細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum の RNA 結合 性タンパク質 DlaA の分子遺伝学的解析
・3D プリンタ活用による石巻市沿岸部の復元立体模 型の製作に関する研究
IK 地域研究員(石巻地域高等教育事業団からの研究 助成)
・仮設住宅に居住する買い物弱者に対する地域商店 街・地域事業者のサービス創出に関する研究
・石巻地区被災体験アーカイブ化と復興まちづくり に関する研究
学外学術研究助成
・小形の風力発電機を大学や住宅に設置しその緊急 時電源としての有用性を検証する
・環境調和型の新しい太陽電池の作製と評価 表1 現在進んでいる復興共生プロジェクトの研究