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 米国 FDA は 2013 年 1 月に,オーファンドラッグ法成 立後 30 周年を迎えた.この間 2,700 品目が指定され,オー ファンドラッググラントプログラム(Orphan Products Grants Program)によって 2.9 億ドルの助成金の援助によ 表 8 最近 10 年間に承認されたオーファンデバイス(Approved Orphan Medical Devices from April 2003 to March 2013)

指定番号 承認日 一般名 販売名 申請者名 使用目的(審査報告書からの抜粋)

(11 具)第 6 号 2009/11/18 植込み型補助人工心臓 植込み型補助人工心臓

HeartMate XVE LVAS ニプロ(株)

本左室補助人工心臓システムは,重症心不全患 者で,従来の治療法(薬物療法や既存の補助循 環法)にも関わらず継続した代償不全に陥っており,

かつ,心移植以外には救命が困難と考えられる症 例に対する循環改善に使用される.

(13 具)第 9 号 2008/9/2 吸着型血液浄化

器 アダカラム (株)JIMRO

栄養療法及び既存の薬物治療が無効又は適用で きない,大腸の病変に起因する明らかな臨床症状 が残る中等症から重症の活動期クローン病患者の 緩解促進に使用する.

(13 具)第 10 号 2005/3/25 その他の医薬品 注入器(植込み

型ポンプ) シンクロメッド ELポンプ 日本メドトロニック

(株)

脳脊髄疾患に由来する重度の痙性麻痺(既存治 療で効果不十分な場合に限る)患者を対象に,ギャ バロン髄注を髄腔内投与するために使用する薬 液注入用ポンプである.

(17 機)第 12 号 2010/1/8 中心循環系血管 内塞栓促進用補 綴材

コッドマン エンタープライ

ズ VRD ジョンソン・エンド・

ジョンソン(株)

コイル塞栓術時のコイル塊の親動脈への突出・逸 脱を防ぐために使用される.対象患者:外科的手 術(クリッピング術など)又は塞栓コイル単独のコ イル塞栓術では治療困難なワイドネック型(ネック 部が 4mm 以上又はドーム/ ネック比が 2 未満)

脳動脈瘤のうち,2.5~4mm 径の親動脈に最大径 7mm 以上の未破裂脳動脈瘤を有する患者.

(19 機)第 13 号 2010/12/8 植込み型補助人

工心臓システム 植込み型補助人工心臓

EVAHEART (株)サンメディカル 技術研究所

心臓移植適応の重症心不全患者で,薬物療法や 体外式補助人工心臓などの補助循環法によっても 継続した代償不全に陥っており,かつ,心臓移植 以外には救命が困難と考えられる症例に対して,

心臓移植までの循環改善に使用される.

(21 機)第 18 号 2010/12/8 植込み型補助人

工心臓システム DuraHeart 左心補助人

工心臓システム テルモ(株)

心臓移植適応の重症心不全患者で,薬物療法や 体外式補助人工心臓などの補助循環法によっても 継続した代償不全に陥っており,かつ,心臓移植 以外には救命が困難と考えられる症例に対して,

心臓移植までの循環改善に使用される.

(21 機)第 19 号 2012/6/25 血球細胞除去用

浄化器 アダカラム (株)JIMRO 全身治療における既存内服療法が無効又は適用 できない,中等症以上の膿疱性乾癬の臨床症状 の改善に使用する.

(21 機)第 20 号 2013/1/28 気管支用充填材 気管支充填材 EWS 原田産業(株)

外科手術による治療が困難で,かつ,気管支充填 術が適応となる続発性難治性気胸,肺切除後に 遅延するエアリーク及びその他の瘻孔を有する患 者の気管支に充填し,瘻孔を閉鎖するために用い る.

(22 機)第 21 号 2011/12/20 胎児胸水排出用シャント 胎児シャント (株)八光 胎児胸水に対し,胸腔穿刺術が奏効しなかった 場合に,胸水を羊水腔に持続的に排出することを 目的とする.

り 400 品目が承認,市販され,難病患者の治療に重要な役 割を担っている1)

 井上39)は,最近の米国でのオーファンドラッグをめぐ る 2 つの注目すべき動きとして,FDA の新規成分承認新 薬におけるオーファンドラッグの比率が高まっているこ と,もう一つは,欧米メガファーマが続々と希少疾病分野 への参入を表明して,その開発パイプラインを充実させ始 めていることを指摘した39).我が国においても,抗悪性腫 瘍薬における最近のファイザー,グラクソ・スミスクライ ン,ノバルティスファーマ社等の承認状況を見ると確かに その傾向が見て取れた(表 4).

 高田,森本ら7)は,我が国のオーファン制度 10 周年に 当たり,米国,豪州,韓国,欧州(EU)の制度比較を詳 細に行った.その総説で,我が国は米国とは 10 年遅れで スタートし世界で 2 番目に古い歴史を有しており,それな りの成果も出ているが,今後の課題として同制度の啓蒙・

情宣活動や患者団体との連携の強化の必要性を指摘した.

 欧州の同制度の歴史は,1999 年 12 月 15 日オーファン ドラッグに関する EU(European Union)規則が承認され,

2000 年 1 月 22 日より施行された.即ち,米国に遅れるこ と 17 年,我が国からも数年の遅れでスタートした.欧州 では,オーファンドラッグに対するインセンティブが乏し く,欧州の希少疾病患者には平等な治療機会が与えられて 来なかったことへの認識に立っての施行であった7).  2011 年 4 月欧州議会と米国 NIH(National Institutes of Health)の主導により国際希少疾病研究コンソーシアム

(International Rare Diseases Research Consortium : IRDiRC)が組織され40),2020 年迄に殆どの希少疾病の診 断法の確立と患者のために新たに 200 の治療法が開発され ることを目指している.

 児玉と冨田41)は,難病・希少疾病対策の国際的な動向 の総説の中で,EU の動きとして,1999~2003 年 EU 難病・

希少疾病対策プログラム(Community action program on rare disease)が「難病に関する知識の蓄積,情報入手手 段の確立」を達成したこと,更に 2008~2013 年に「健康 分野における第二次 EU 対策プログラム」として,研究を 推進しつつ情報を共有し,専門家が対応できるようにレ ファレンスネットワークが形成され,本ネットワークは,

オーファネット(Orphanet)の HP で患者の紹介や研究 者の情報交換に役立ち,国家間の専門家や難病センターの 連携が強化されていることを報告した.

 EMA(European Medicines Agency)の希少疾病 HP サイ ト(Medicines for rare diseases)でも,米国 FDA と我が国厚

生労働省(MHLW : Ministry for Health, Labour and Welfare)

を国際パートナーとして連携を密にしていくことの重要性を強 調しており17),我が国の欧米との協力関係の一層の強化が重要 と思われる.

7. お わ り に

 神原は,我が国の医療と医薬の動きを新刊書にみる 10 年の視点から纏めた42).話題の本 155 冊の中に,「新・現 代免疫物語」も登場し,ハーセプチン,アバスチン,リツ キサン,レミケード,ヒュミラ,アクテムラ等の抗体医薬 の紹介や 2007 年の世界市場は 330 億米ドルと推定され,

全医薬品市場の 4.6% のシェアに急拡大している現状が紹 介されている.

 即ち,最近まで我が国で承認された抗体医薬品は,アク テムラを除き全て海外発で,我が国は欧米に後れを取って いる時期が続いた25).しかし,2012 年ポテリジオ点滴静 注 20 mg が承認を受け,二番目の国産抗体医薬品となっ た25, 29)

 メトレレプチン皮下注用 11.25 mg「シオノギ」は,2013 年世界に先駆けて承認されたが,我が国で患者数が 100 名 程度のウルトラオーファンである13)

 小児医療の分野でも,一酸化窒素,フェノバルビタール,

各種のライソゾーム病薬,カナキムナブ(遺伝子組換え)

等が承認され新生児・幼児への大きな福音となった.

 中村43)は,世界に約 7,000 の希少疾病があるといわれて いるが,その約 65% が重篤かつ回復の見込みのない疾患 であり,その 3 分の 2 は,2 歳までに発症,1 歳までにそ の 35% が死亡,1~5 歳で更に 10% が死亡すると記述した.

このような重篤な疾患の中には,まだ診断基準や有効な治 療法が十分にないものも存在することを指摘した.今後も 本分野でのオーファンドラッグの貢献の重要性を認識させ る指摘である.

 木村44)は,難治性疾患における性差の興味ある事例と して,慢性血栓栓塞性高血圧は女性に多い難治性動脈炎で あり,また末梢動脈の血栓塞栓を来すバージャー病は圧倒 的に男性患者に多いこと,全身性エリテマトーデス(SLE : systemic lupus erythematosus),グレーブス病等の自己 免疫疾患は一般に女性が多いこと,このような性差は,今 後ゲノムの構築性や発現性における性差の観点からの研究 が進展すれば光明が見えてくるかもしれないと指摘した.

 Nabel45)は,HIV 感染症ワクチン開発において,エンベ ロープ糖タンパク質の立体構造の解明と宿主細胞への侵入 の研究が進展することにより変貌しつつある現状を解説し,

次世代ワクチン開発の将来展望について述べた.

 今後の 10 年間に新たな発想で医薬品が開発されて,難 病患者に喜びの福音が届くことが期待される.

 金谷,武村ら46)は,我が国におけるオーファンドラッ グ開発の促進に向けて,開発を迅速かつ着実に推進するた めの研究体制の整備として,領域別臨床研究分野,同基礎 研究分野,そして,ゲノム解析研究,タンパク質解析研究,

疫学的研究,患者主体の研究支援体制に係わる研究を進め る横断研究分野,実用化研究分野の 4 分野を設定し相互に 連携することで,開発を迅速かつ着実に推進するための研 究体制の整備と,患者及びその家族への情報公開が重要に なると述べた.

 FDA の A. Pariser と L. Bauer47)は,オーファンドラッグの 承認には,フレキシビリティ(Flexibility)が大切であること,

開発プロセスにおいて,規制当局,開発業者・スポンサー,患者,

難病患者団体の協力的な様相(collaborative dimensions)が大 変重要であることを強調した.

 フランスをベースに発展したオーファネットは18),37 か国が加盟して活発な動きをしている.

 我が国でも,患者団体の活動は活発になりつつある.

2009 年 1 月順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授の樋野興 夫博士は,特定非営利活動法人「がん哲学外来」を立ち上 げた48).現在 31 か所でがん患者や家族の安心につながる 対話の場が設定されている49).また,悪性リンパ腫50),小 児脳幹部グリオーマ51),卵巣がん52),前立腺がん53)等の患 者支援ネットワークもそれぞれ立ち上げられており,患者 と医療関係者との連携が図られつつある.

 今後の 10 年を考える時,国の内外でのこのような連携 による collaborative dimensions が大変重要な推進キー ワードであることが認識された.

 なお,本稿は,著者の個人的見解に基づくものであり,

独立行政法人医薬品医療機器総合機構の公式見解を示すも のではない.

 謝  辞

 本稿を纏めるに当たり,貴重なご助言を賜りました昭和 薬科大学の山本美智子教授および帝京平成大学・薬学部の 齋藤充生准教授に厚く感謝いたします.

 また,本研究の機会を与えて下さり,折々に暖かいご助 言を賜りました PMDA 審査マネジメント部吉田易範部長 及び宇山佳明課長に御礼申し上げます.

引用文献

1)Gayatri R.Rao, FDA Commemorates 30th Anniversary of the Orphan Drug Act, : http : //blogs.fda.gov/fdavoice/

index.php/2013/01/fda‑commemorates‑30 th‑anniversary‑of‑

the‑orphan‑drug‑act/

2)オーファンドラッグ研究会 : 希少疾病用医薬品ハンドブック 2009・オーファンドラッグ指定制度等の概要,東京,じほう

(2009).

3)高田幸一,森本和滋,谷地 豊,橋本さとみ,矢澤達哉,池 田年仁:オーファンドラッグの開発振興 10 年の歩みと将来 展望 —パート 1:我が国の 10 年の歩み—,医薬品研究,

35, 235-249(2004).

4)平井俊樹,浦山隆雄:オーファンドラッグの指定制度と指定 の状況,薬局,46, 933-941(1995).

5)森本和滋,藤原康弘,川原 章:医薬品医療機器審査センター

(PMDEC)から医薬品医療機器総合機構(PMDA)への 15 年の歩み:設立初期を振り返って,薬史学雑誌,46, 38-50

(2011).

6)白神 誠,中井清人:オーファンドラッグ開発の現状の分析,

臨床薬理,30, 681-688(1999).

7)高田幸一,森本和滋,谷地 豊,橋本さとみ,矢澤達哉,松 岡隆介,山崎勝彦,池田年仁,揚松龍治:オーファンドラッ グの開発振興 10 年の歩みと将来展望 —パート 2:オーファ ンドラッグ制度の国際比較と今後の課題—,医薬品研究,36, 13-31(2005).

8)医薬基盤研究所・研究振興部・開発振興課:オーファンドラッ グの開発振興,薬事,50, 867-870(2008).

9)厚生労働省難病対策:http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/

bunya/kenkou_iryou/kenkou/nanbyou/

10)難病医学研究財団/難病情報センター:http://www.nanbyou.

or.jp/

11)疾病対策研究会:難病の診断と治療指針 3 改訂版,東京,(株)

六法出版社(2001).

12)医薬基盤研究所・研究振興部・開発振興課:http://www.

nibio.go.jp/part/

13)PMDA/医薬品承認情報:http://www.info.pmda.go.jp/info/

syounin_index.html

14)PMDA /医 療 機 器 承 認 情 報:http://www.info.pmda.go.jp/

approvalSrch/MedicalDeviceSrchInit

15)医薬基盤研究所:平成 24 年度 オーファンドラッグ・オーファン デバイスの開発振興について,pp1-39(2012).

16)FDA : http://www.fda.gov/

17)EMA : http://www.ema.europa.eu/ema/

18)オーファネットの HP : http://www.orpha.net/consor/cgi‑bin/

index.php

19)森 昌朋,柳瀬敏彦,小川佳宏,大磯ユタカ:内分泌系 4 難 治性疾患研究班の研究成果とその展望,最新医学,67, 1939-1952(2012).

20)金石ゆいか:ムコ多糖症Ⅰ型治療剤ラロニダーゼ,日病薬誌,

43, 252-253(2007).

21)三浦愛子:遺伝子組換え糖原病Ⅱ型治療剤 アルグルコシダーゼ