2. 各知財庁・機関のインターネット上の発信
2.3. 欧州連合知的財産庁( EUIPO )
EUIPO のインターネット上の発信は、①年報(Annual Reports)、②プレスリリース(Press
Release)、③ニュース(News)によって行われている。
EUIPOの記事(ニュース及びプレスリリース)においては、商標/意匠五庁に関するものが比
較的多く見られるが、最も多く登場するのは USPTO である。次いで記事数の多いのが SIPO で、特徴的な記事として、中国に対する協力プロジェクト(IP Key Project)に関する報道があ る。商標/意匠五丁以外ではARIPO・OAPIの両アフリカ機関の記事数が多く、JPO、KIPOと 肩を並べる頻度である。
EUIPOとJPOのバイの取組のうち、調査対象期間中にEUIPOが紹介した記事(ニュース)は
2 件(商標/意匠データベースへの参加)、他方、JPO側に掲載されている EUIPOとのバイの 取組はWIPO総会における二国間会合(2017年10月)と第7回JPO-EUIPO商標専門家会合(2017 年9月)の2件であり、両者の情報はいずれも対応していない。
(1) 政策動向や情報発信方針に影響しうる背景
EUでは1996年に、域内全域で効力を持つ「共同体商標(Community Trade Mark:CTM)」が導入 され、スペインに設置された欧州共同体商標意匠庁(Office for Harmonization in the Internal Market: OHIM)による管理・運営が開始された。OHIMは2003年より「共同体登録意匠(Registered Community
Design:RCD)」も管轄し、さらに、2012 にはEU 理事会によって「知的財産権の侵害に関する欧
州監視部門(European Observatory on Infringement of Intellectual Property Rights)」を委任され、EUに おけるあらゆる知的財産権の権利行使において重要な役割を担うこととなった。2016年3月に、共 同体商標(CTM)は「欧州連合商標(EUTM)」に、欧州共同体商標意匠庁(OHIM)は「欧州連合 知的財産庁(EUIPO: European Union Intellectual Property Office)」に改称された48。
EUIPOは、2016年6月に2020年までの同庁の活動指針を定める「戦略計画2020(Strategic Plan 2020)」を発表した。同計画は、2020年までの「ユーザー主導の欧州知的財産ネットワーク」の実 現をビジョンに掲げ、その下に3つの戦略的目的と6つの行動方針を設定している。この中で、国 際的な取組に関連する戦略的目的と行動方針は以下のものである。
戦略的目的3.グローバルな影響を伴うネットワークの収束の構築(Build network convergence with global impact)
行動方針4.ネットワーク関与の強化(Intensify network engagement)
具体的には、欧州委員会との協力のもとで、同庁の有する知財関連ツール(TMview、Designview
及びTMclass)をEU域外の展開し、特に中小企業をターゲットとしてより良い知財サービスを提供
すること、知財権の執行にかかわる情報、ツール及びデータベースを提供していくこと等が想定さ れている。また、地域的スコープとして、アフリカ地域(ARIPO及びOAPI)や、既に取組を実施 している知財庁・機関に加えて、ラテンアメリカ及びASEANにおける23の新知財庁・機関が明示 されている49。
(2) 国際連携の状況
① 主要国との連携状況 1) 日本
商標及び意匠の分野において、JPOとEUIPOとの間では、主に日米欧中韓の商標/意匠五庁(TM5
/ID5)会合や日欧専門家会合を通じて意見交換、協力を行っている。
48 ジェトロ・ウェブサイト「EU 技術・工業および知的財産権供与に関わる制度」
(https://www.jetro.go.jp/world/europe/eu/invest_08.html)、および特許庁『特許行政年次報告書2017年版』264頁。
49 EUIPOの戦略計画2020の全体については右ウェブサイトを参照。
https://euipo.europa.eu/ohimportal/en/strategic-plan。
28 2) 中国
中国に対しては、欧州委員会の指揮のもとでIP Keyプロジェクトを実施している。同プロジェク トの狙いは、特に欧州企業の利害を考慮に入れて、企業やイノベーターの中国市場へのアクセス円 滑化を支援することにある。このため、欧州委員会は中国商務省をカウンターパートとして、知財 執行制度の透明化と改善のために協力を行うとともに、EU中国知財対話メカニズム(EU-China IP
Dialogue Mechanism)を構築している。同プロジェクトは第1 フェーズ(2014~17年)が終了し、
2018年1月から第2フェーズが開始されている50。EUIPO本部に専属チームを設置し、北京に専門 家を常駐させる他、CPVOやEPO等他のEU知財機関からも短期専門家を動員することが予定されて いる51。
3) ASEAN
欧州委員会は、ASEANに対する知財保護協力プロジェクトとしてECAP I(1993-97年)、ECAP II
(2000-2007年)を実施し、2013-17年にはECAP IIIを行った。同協力プロジェクトは「アセアン知
的財産権行動計画」に沿ったもので、ASEAN地域における知的財産の想像、保護、管理、及び行 使の観点から、ASEAN地域の統合を支援して制度の改善や調和を進めるものである。ECAP IIIは
EUIPOによって運営され、ASEAN地域における商標、意匠、地理的表示(GI)及びそれに関連す
る知的財産権の保護及び行使、能力構築活動、法的・政策的枠組みの向上等を主要な分野として実 施された。また、2017年2月17日のEUとASEANの会合において、2017年から2021年までの新た な協力プロジェクトについても議論が行われ、同年後半より開始されるとの見解が示された52。
4) ラテンアメリカ
IP Key Latin Americaプロジェクトの実施に当たって、EUIPOは2017年9月から12月にかけて4 つのファクト・ファインディング・ミッションを派遣した。この結果、プロジェクトの開始につい て関係者の正式な合意を得るとともに、現段階での主要な支援領域について、以下のように想定し ている53。
・現在交渉中のいくつかのFTAの締結から生じる義務の履行に対する支援。さらに、商標に関す るマドリッド議定書等の登録システムの実施に対する支援。
・各種知的財産の地域的な検査ガイドラインの改訂もしくは作成支援。
・EUの経験・優良事例の共有、知財権保護の重要性に関する意識向上
・知財権の執行支援(プラットフォーム、ツール、データベース構築等を含む)
(3) 調査項目に基づく調査結果
① 「調査対象の知財庁・機関による発信情報を掲載したソースの調査」
EUIPOのウェブサイトにおいて、国際的取組に関する情報発信は以下の方法によって実施されて
いる。ウェブサイトは英語、フランス語、ドイツ語を含む 23 カ国語によって構成されているが、
本調査では英語版のみを調査対象とした。国際的取組に特化したウェブページとして「International
cooperation」というページがあり、そこでは EU のファンドを用いた域外協力、二国間協力、多国
間その他の国際協力の枠組み等が紹介されているものの、常時更新される情報発信のツールではな いため、本調査の対象から除外した。また、EUIPO加盟国との取組も本調査の対象から除外してい
50 IP Key China, https://ipkey.eu/en/china.
51 EUIPO, “Launch of IP Key China project to support EU firms doing business in China”, Press Release, 17 January 2017,
https://euipo.europa.eu/tunnel-web/secure/webdav/guest/document_library/contentPdfs/about_euipo/press_releases/
Launch_of_IP_Key_China_en.pdf.
52 ジェトロ「欧州連合(EU)とアセアン(ASEAN)、知的財産権に係る協力プロジェクトを総括」2017年2月21日、
「欧州委員会のアセアン知財保護協力プロジェクトが年次作業計画を承認」2014年3月6日。
53 EUIPO, “Successful Conclusion of the Fact Finding Missions for IP Key Latin America”, March 2, 2018, https://ipkey.eu/en/latin-america/news/successful-conclusion-fact-finding-missions-ip-key-latin-america.
29 る。
図表 38 英語ウェブサイトにおけるソース
① 年報(Annual Reports) 2018年2月2日現在、1999年から2016年まで17本の年報が掲載されて いる。2013年以降の年報についてみると、“International Cooperation”のタ イトルを付した一節を中心に国際的取組に関する情報が掲載されている が、その他の箇所でも国際的取組に関する記載は散見される。
② プレスリリース
(Press Release)
2011年9月から現在まで、数か月に1、2本の割合で発表されている。「ニ ュース」で取り上げられた情報をPDFでより詳しく紹介する形をとっている。
ただし、国際的取組に言及したものはほとんどなく、本調査期間(2013 年 から2018年1月)では1件のみであった。
③ ニュース(News) 2013年11月11日から現在までの記事が掲載されている。時系列順に全 ての記事を閲覧する以外に、いくつかのカテゴリ別に閲覧することができ、
その中に“International Partners”というカテゴリも設けられている。二国間 や多国間(商標/意匠五庁を含む)の会合等の記事がまとめられている が、最新記事は2015年1月16日であり、それ以降の記事は未分類の模 様。
② 「国際的な取組に関する情報(文章等)の調査」
1) 年報
2018年2月2日現在、1999年から2016年まで17本の年報が掲載されている。2013年以降の年 報についてみると、「International Cooperation」のタイトルを付した一節を中心に、当該年の国際的 取組を概括する記事が掲載されているが、その他の箇所でも国際的取組に関する記載は散見される。
2016年年次報告書は、国際協力の推進がEUIPO の知財戦略である「戦略計画2020(SP2020)」 の中心的な原則であること、それがとりわけ中小企業の利益になること、商標/意匠五庁の多国間 協力の枠組みにおいて12の新プロジェクトを採択し、中国の商標データをEUIPOの商標データベ ースであるTMviewに統合するための F/Sを実施したことなどを紹介している。また、EU の資金 拠出プロジェクト(EU-Funded Projects)として、ASEAN、中国及びインドに対して技術協力を実 施したこと、商標、意匠のデータベースであるTMview、Designview、および商標類別ツールTMclass の参加機関が各々56、54、62に拡大したことが紹介されている。
2015年版では、欧州商標・意匠ネットワーク(ETMDN)をグローバルに展開し、商標/意匠五 庁との協力の下で TMview、Designview 及び TMclassの利用範囲を ASEAN、BRIC 諸国を含む37 の非EU機関に拡大したことが紹介されている。その他、EU-Funded Projects、WIPO、EPO、TM5&ID5 のタイトルの下に、各々の活動が紹介されている。特に、WIPO との関係については MoU を更新 し、データ交換・収斂及び執行が実施作業計画として組み込まれた。
2014年版は、通常の「International Cooperation」以外に、ETMDNに関する国際協力に一節を割 いて紹介を行っている。そこでは2 国間協定の下でチュニジア、アイスランド、中国等10カ国が
TMview、TMclassに参加したこと、OHIM Academyとして非EU諸国に技術協力を実施したこと、
ASEAN10カ国を対象にEU-Funded Projectを行い、中国、ロシアにも提供準備を行ったこと、ASEAN
に対してはこれとは別にECAP IIIと呼ばれる技術支援のフェーズ2(2013~15年)を実施している ことを紹介している。さらに、中国に対する協力(IP Keyプロジェクト)、ロシアに対する協力に ついても個別に取り上げて記載をおこっている。他方、Observatory章に設けられた国際協力の節に
おいてもECAP III2、IP Key及びロシアに対する協力が言及されているほか、欧州委員会(貿易総
局)と共同で第三国における知財権執行に関する調査を実施したこと、この一環として ECAP III プログラムの下でワークショップを実施したことが紹介されている。
2013 年版においてもETMDNに関する国際協力とObservatory/Academyにおける国際協力の二つ
の記載がある。前者については、クロアチア(2013年5月まで非加盟国)、メキシコ、ノルウェー
等8カ国がTMview、TMclassに参加したこと、ASEAN10カ国と中国及びロシアを対象にEU-Funded
Projectを行ったこと、中国に対してはIP Keyプロジェクトのために北京のEU代表部にIPアタシ
ェを配置したことを紹介している。後者については、ECAP III、IP Key及びロシアに対する協力が 簡潔に言及されている。
なお、2014年版では「ECAP III PHASE II」「IP KEY」「RUSSIA PROJET」の見出しのもとに、各々、