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欧州議会

ドキュメント内 制度運営の観点から (ページ 43-56)

 次に欧州議会と正統性とのかかわりに検討する。リスボン条約を通じた権 限拡大によって欧州議会は「『勝ち組』として位置づけられ」、「代表民主主 義と市民を代表する」機関へ発展したと指摘されている(児玉, 2009,

p

. 16)。その欧州議会にかねてより期待されていたのは「民主主義の赤字の解消」

であった(児玉, 1997)。そこで本章では、まず「民主主義の赤字」の定義を 検討する。その上でフォレスダールとヒックスによる民主主義の赤字の類型 を軸に、欧州議会がどのような役割を担うと期待されていたのか、そしてな ぜその期待を満足させる結果を出せていないのかについて検討する。

 内容に入る前に、改めて民主主義という言葉について押さえておく必要が あるだろう。ボッビオによると、「『民主主義体制』とは何よりもまず、利益 関係人の最大限の参加を可能にし、容易にすることで、集合的決定に到達す るための一連の手続き上のルール」である(

Bobbio

, 1987,

p

. 19)。したがって、

民主主義は国家という枠にとらわれず、集合的な決定を行うどのような体制 にも当てはまるのであり、超国家的かつ多層的側面を持つ

EU

にも適用可能 である(

Smismans

, 2013)。

⑴ 民主主義の赤字

 民主主義の赤字については様々な論者から定義づけがなされているが、一 般的にジョセフ・ワイラーらによる「標準的(

“Standard Version”

)」民主主 義の赤字がその起点とされている(Weiler

et al

., 1995)。端的には、欧州統 合を通じて政府の重要な機能が「ブリュッセル」へと移され、

EU

が独占的 責任を持つことによって生じる弊害を指す(1995, p. 6)80)

 さらに、ワイラー以降の民主主義の赤字について体系的に整理したのがフ ォレスダールとヒックスである(

F

ø

llesdal and Hix

, 2006)。特に彼らは欧州 議会に着目することで、民主主義の赤字の類型化を試みた。その類型は次の 通りである。①欧州統合による排他性の増加と加盟国議会によるコントロー ルの減少、②欧州議会の弱さ、③「欧州」議会選挙の欠落、④欧州議会の権 限が増加し、欧州議会が開催されたとしても、

EU

と有権者の「距離が遠す ぎる」という問題、⑤欧州統合が、有権者の理想的な政策選好から「政策ド リフト(

policy drift

)」を生み出すこと、である(

pp

. 534-537)。

 すなわち、民主主義の赤字とは欧州議会の不在という事態に端を発してい

80) ワイラーはその弊害の例として次の4点を示す。第1に反転した地域主義(Inverted Regionalism)である。それは、加盟国数の増加や新たな政治的な境界の線引きを行うことに よる個人や加盟国の権限低下を示す。共同体または同盟の達成は以下3点の反動を引き起こす。

①伝統的な国家の枠組みでは「外国人(foreigners)」とされる者たちが、「私たち(us)」の生 活に影響を及ぼすべきではない。②個人や地域の問題に関し、「政府(government)」が「私 たち / 住民(us/people)」の生活に影響を及ぼすべきではない。③従来国家や個人の領域であ ると認識されていたエリアに、共同体または同盟が関与する分野に対し効果的な抑止策がない という不安に基づく反対、である。

   第2に、前述した新たな政治的線引きによる加盟国議会の形骸化に対する危惧、それを代替 するはずの欧州議会の権限不足である。その抽象的な代表制・非効率的なパワーの組み合わせ・

時間や場所の問題・言語的障害・メディアによる取り扱いの問題など、欧州議会は多くの問題 を抱えている。

   第3にガヴァナンスが抱える問題である。ガヴァナンスは確かに、重要なアクター数の増加 をもたらす。だがその一方で、加盟国単位では手放しに喜ぶことはできない。ワイラーは、国 家がトランスナショナルな環境で組織を形成することの難しさを、企業の自由な活動と対比さ せる。

   最後に透明性の不足である。ガヴァナンスの多層性と遠隔性の拡大、そして政策決定過程に おける秘匿性をワイラーは問題視する(Weiler,et al., 1995,pp. 6-9)。

るといえよう。彼らが提示した5つの問題は、リスボン条約発効以前に提示 されたものである。では条約改定は、こうした欧州議会に対する懸念を払拭 に至ったのだろうか81)。そこで上記に挙げた類型に、現在のデータを当ては めることで、欧州議会が抱えている課題について検証したい。

⑵  欧州議会による排他性の増加と加盟国議会によるコントロールに関する 検証

 まず①についてだが、フォレスダールらが問題視していたのは、

EU

全体 としての権限強化に伴う国内議会の相対的な弱体化であった(2006,

p

. 534)。自国の政府を監視し管理する役割を担っていた加盟国議会は、

EU

を 効果的には監視することができないという欠点を抱えていた。歴史的な背景 を振り返ると、欧州議会は権限増加を果たしてきた。だが、加盟国議会の完 全な代替とは至っていない状況が継続していたことも事実であった。

 そこでリスボン条約において採択されたのが、「

EU

における加盟国議会 の役割に関する議定書」である82)。この議定書によって国内議会に対する、

委員会の協議文書・年間立法計画・その他の立法計画・政策文書の送付(

Title

1:

Information for National Parliaments

,

Article

. 1)、欧州議会および理事会に 送られた立法草案の送付(

Article 2

)といった情報提供が規定された。

 さらに「補完性の原理および比例性の原理の適用に関する原理の適用に関 する議定書」によって、早期警戒手続き(

Early Warning System

:

EWS

)、い わゆるイエローカード手続きとオレンジカード手続きが採用された83)。その

81) この解決策の一つとして彼らが提案したのが、リスボン条約以降設立された筆頭候補者制度 の確立である。

82) Protocol (No. 1) on the role of national parliaments in the European Union.

83)  詳 細 は、 ‘Consolidated versions of the Treaty on European Union and the Treaty on the Functioning of the European Union’(2008) C115/01, pp. 206-209. また、鷲江編(2009, pp.

52-55)および庄司(2013, pp. 85-88)の解説を参照。

   なお、議定書自体には「イエローカード」や「オレンジカード」という表記はなされていな い。ただし、2009年12月1日に欧州委員会が加盟国当てに送付した書簡にも、既に「イエロー カード」や「オレンジカード」と表記していた(European Commission, 2009b)。また現在でも、

欧州委員会はこれらの呼び名を使い続けている。例えばEuropeanCommission (2018d)を参照。

目的は、

EU

の政策決定過程に対する加盟国議会による監視の強化である84)。  イエローカードは、2018年までに過去3回行使された85)。最初に行使され たのは2012年の「設立の自由とサービスの提供に関連する集団行動をとる権 利の行使に関する規制」の立法提案に対してである(European Commission, 2012

a

)。デンマーク議会が発起人となり、加盟国議会間で協議がなされた。

その結果、総票数の3分1の理由付意見(

reasoned opinion

)が集められた ため、欧州委員会は再検討を余儀なくされた86)。ところが、補完性の原理に 反していないと欧州委員会は判断した。ただし欧州委員会は、欧州議会と理 事会のからの支持を得られていないことも理解していたため、提案を取り下 げるに至った(

European Commission

, 2012

c

87)

 2回目のイエローカードは、2013年の「欧州検察局(

EPPO

)設立に関す

84) 具体的には以下の通りである。まずイエローカード手続きは、加盟国議会が、欧州委員会に よって提案された立法草案が補完性の原理を遵守していないと判断した場合、伝達日から8週 間以内に、欧州議会議長、理事会議長、および欧州委員会委員長に対して理由を付した意見書 を提出することができる。仮に、意見書の数が加盟国に割り当てられた票の3分の1を超えた 場合は、草案は再検討されなければならない(なお、各国議会は2票を有する。二院制の場合 は上下両院がそれぞれ1票を有する。また自由・安全・正義の領域に関する立法草案の場合は 4分の1である[TFEU第76条])。ただし欧州委員会は当該提案について維持・修正・撤回の 裁量権を有する。また、仮に欧州委員会が加盟国の提案を無視し、草案を維持する場合は、そ の理由を示す必要がある。

   次にオレンジカード手続きである。これはOLPの場合に行われる(TFEU 第294条)。加盟 国議会による総票数が過半数に達した場合、欧州委員会は当該立法提案の再検討を行う必要が ある。オレンジカードにおいてもイエローカードと同様に、欧州委員会が維持・修正・撤回の 裁量権を有する。イエローカードとの違いは、欧州委員会が草案維持を選択した場合、単に理 由を提示するのでは十分ではなく、その提案が補完性の原理を順守していると考える理由を正 当化しなければならないという点である。その後は、第1読会前に理事会と欧州議会は欧州委 員会の意見書を検討する。最終的に理事会構成員の55%の多数もしくは欧州議会の投票数の過 半数によって、欧州委員会の提案が補完性原則に適合していないと判断されれば、廃案となる。

85) なおオレンジカードは一度も行使されていない。詳細は、European Commission ‘Subsidiarity control mechanism’. Available at: https://ec.europa.eu/info/law/law-making-process/adopting-eu-law/relations-national-parliaments/subsidiarity-control-mechanism_en (Accessed 3 December 2018).

86) 従来、加盟国議会の連携は困難であると認識されていたが、クーパーは、加盟国議会間の連 携が緊密であったことを明らかにしている(Cooper, 2015)。

87) なおこの点について、一部加盟国より加盟国議会の声を反映しているとはいえない、との意 見もなされた(COSAC, 2013, pp. 32-34)。

ドキュメント内 制度運営の観点から (ページ 43-56)

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