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条約の改正による権限の見直し

ドキュメント内 制度運営の観点から (ページ 32-43)

 まず、リスボン条約によって実施されたのは

EU

の権限の明確化である。

EU

は自らの権限行使について以下の内容に取り組んでいる:個別授権原則・

権限の類型化・補完性原則・比例性原則(庄司, 2013)53)

 第1に「個別授権原則」とは、

EU

が条約において加盟国によって授与さ れた権能の範囲内においてのみ行為することを指す(

TFEU

第5条2項)。

つまり、そもそも

EU

に行動する権限が存在するかどうかを問うものである。

第2に「権限の類型化」とは

TFEU

第2条―第6条に従って、

EU

の権限を 排他的権限・共有権限・補充的権限の3つに分類することを指す54)。第3に、

53) 以下の原則の説明に関しては庄司(2013, pp. 28-41)に依拠している。

54) 「排他的権限」とは、EUのみが立法を行い、法的に拘束力を持つ行為を採択できることを 指す(詳細はTFEU第3条を参照)。「共有権限」とはEUと加盟国に共有される権能がある場 合、両者に法的拘束力を持つ法を立法し、採択できることを指す(詳細はTFEU第4条を参照)。

「補充的権限」とは、EUが加盟国の行動を支援・調整・補足するための権限を指す(詳細は

補完性原則である。これは「個別授権原則に従って

EU

に権限が存在する場 合、EUが実際にその権限を行使すべきかどうかを決定する際の基準」を指 す55)。「

EU

における多元多層的な秩序を基礎づける構成原理」ともいわれ、

最も注目されてきた

EU

の原則の1つである(遠藤, 2013, p. 293)56)。第4に、

比例性原則である。これは補完性原則によって

EU

の権限が必要と判断され た後、どのようにその権限を行使するのかを示す。なお審査の際には、①当 該行動が意図された目的の達成に適切か、②当該行動が意図された目的達成 のために必要か、③当該行動が意図された目的に比して過剰な負担を課した のか、という3点が基準となる57)

 このように

EU

の権限は厳格に示されており、抜け目がないようにも見え る。しかし、

EU

は現在でもその権限に曖昧性を抱えている。以下では、特 にその権限の濫用が問題視されている

TFEU

第114条と第352条に焦点を当 てて検証する。権限の濫用が証明されれば、

EU

に対する拘束力は限定的な ものであり、抜け穴が用意されていることを示すことになる。それはすなわ ち、

EU

がその市民の意図していなかった目的を設定し、達成する恐れを示 唆することにもなる。

TFEU第6条を参照)。

55) 詳細はTEU第5条3項を参照。

56) 補完性の議論については既に庄司(2013)や遠藤(2013)にて議論されているため、ここで は詳細に触れないが、一例として補完性原則を援用したEUの行動が合理的に正当化されるか という点について紹介したい(庄司, 2013, p. 37)。言い換えると、コストが一つの判断期基準 になり得るかという点である。その代表例としてVodafone事件(2010)が挙げられる。争点 は「ローミング規則」であり、EUレベルでローミング料金に上限を設定することができるか という点が問われた。裁判所はEUレベルで最も効率的に達成できるとして補完性原則に違反 し な い と 判 断 し た( 詳 細 は:Opinion of AG Maduro delivered on 1 October 2009 in Case C-58/08 Vodafone [2010] ECR, para. 33)。ただし、EUが好き勝手出来るというわけではなく、

その理由付けを補完性議定書に従って示す必要がある。

57) 比例性原則に関する裁判所の考えについては、Case C-157/96 The Queen v Ministry of Agriculture, Fisheries and Food, Commissioners of Customs & Excise, ex parte National Farmers’ Union, David Burnett and Sons Ltd, R. S. and E. Wright Ltd, Anglo Beef Processors Ltd, United Kingdom Genetics, Wyjac Calves Ltd, International Traders Ferry Ltd, MFP International Ltd, Interstate Truck Rental Ltd and Vian Exports Ltd. (1998), I – 2258,para. 60.

⑴ 第114条について

 第114条1項は、欧州議会および理事会は、通常立法手続き(以下、OLP と表記する)に従って、経済社会委員会と協議した後、域内市場の確立およ び行政行為により定められた規定の接近のための措置を採択すると規定して おり、私法における調和のために最も重要な法的根拠となっている58)。なお 第114条の本来の目的は、域内市場の確立と機能に関連する各国の規則との 調和について、

EU

に制定権限を付与することである(

Mańko

, 2015,

p

. 5)。

 しかし本条項の活用に際して、いくつかの課題が挙げられる。第1に、調 和の必要性を訴えるための十分な証拠を欧州委員会が提示できていない点で ある(

Collins

, 2013,

p

. 910)59)。第2に「調和」の曖昧さである。確かに第 114条第2項が示すように、財政規定・人の移動に関する規定・被雇用者の 権利と利益に関する規定に第1項は反映されない。しかし、第3項では、科 学的事実に基づくあらゆる新たな発展を考慮した上で、委員会は健康・安全・

環境保護・消費者保護について第1項に定める提案をすることが認められて いる。

 一見すると、この調和についてあまり問題は見受けられない。ところが、

第114条は他の条項を考慮したときに矛盾を生む。そこで公衆衛生に関連す る事例を示すことで、

EU

の権限の曖昧性を検討したい。公衆衛生に関して 定めている条約は

TFEU

第168条である。その1項では

EU

として、「高水準 の人間の健康の保護を確保する」ことが記載されている。ただし、

EU

とし ての役割はあくまで加盟国の政策を補足するものである。また第168条5項 によると

EU

は、国境を超える健康被害や、喫煙とアルコールの過剰摂取に

58) 1986年の導入当初、単一市場を理事会における特定多数決によって完成させることが狙いで あった(Wyatt et al., 2011, p. 106)。

59) コリンズは、欧州委員会が加盟国の法の多様性によって起きる障害について十分に説得でき ていない利用を次のように説明する。第1の要因は、言語や通貨、輸送コストと比較すると重 要とみなされていない点や認知度の低さである。第2の要因は、企業が法の違いを利用して利 益を上げていることである。第3の要因は、企業規模が拡大し国際化を果たしても、現地の人々 がその業務を行うため適応力が高いことである(Collins, 2013,pp. 910-911)。

関連した公衆衛生の保護を目的とした措置を

OLP

によって採択できる。た だし、「加盟国の法および規制のいかなる調和化もこの措置には含まれない」

とも明記されている。つまり第5項に示すように、決して

EU

全体での調和 を目指しているわけではないのである。

 その一方で、

EU

条約で第3条1項における「人々の幸福の促進」や、前 述した第168条1項より、EUとしてこれらの目的を達成することが求めら れている(

Alemanno and Garde

, 2013,

p

. 1760)。このように曖昧に表記され ているため、

EU

に期待されている役割について様々な解釈の取り方が可能 である。そこで

EU

TFEU

第114条に基づいて生活習慣にリスクをもたら すもの(タバコ・アルコール・食生活)に関する調和を実現させようとした。

以下では、タバコに関する規制の事例を基に、詳細を確認していきたい。

 タバコに関する規制は指令2014/40にて設定された。本指令では例えば「特 徴的なフレーバーを持つタバコの市場の流通」が禁止された60)。その理由の 1つとして、特徴的なフレーバーによるタバコの消費への影響が挙げられて いる61)。その目的は明らかに、タバコの消費の抑制である(

Delhomme

,

2017

)。しかし

TFEU

第168条5項では、加盟国間でのタバコの消費に関す る調和の権限は

EU

に認められていない。

 指令では「タバコ製品の成分を規制する調和のとれたアプローチの欠落は、

域内市場の円滑な機能に影響を及ぼし、域内の市場移動に悪影響を及ぼす」

と示された(

Directive

2014/40,

para

. 15)。本指令の中で特にフレーバーに 関連する規制の取り消しを求めて争われた裁判では、次の2点を理由に取り 消しの訴えが棄却された62)。第1に域内市場の円滑化である。禁止を含めた

60) Directive 2014/40/EU of the European Parliament and of the Council of 3 April 2014, Article 7. 以下、 Directive 2014/40と表記する。

61) なお、本指令では「特徴的なフレーバー」を「添加物、又は添加物の組み合わせから生じる、

タバコ以外の明らかな匂いや味」を指し、その匂いは「果実やスパイス・ハーブ・キャンディ・

メンソール・バニラに限定されず、タバコの喫煙や喫煙中にその匂いや味が明らかであるもの」

と定義される(Directive, 2014/40, Article 2)。

62) C-358/14 Poland v European Parliament and Council of the European Union (2016)

ECLI:EU:C:2016:323。以下 C-358/14と表記する。

各国のルールの相違点を除去することで、円滑な域内市場を形成することが 目指された(Case-358/14, para. 64)。そして裁判所は、特徴的なフレーバー を持つタバコの市場における流通を禁止することが、円滑な域内市場の形成 につながると判断したのである(Case-358/14,

para. 81)。第2の理由は健康

面である。特に、若い世代を意識していることが裁判から読み取れる63)。な お、

TFEU

第168条5項を踏まえた上で抗議がなされたものの(

Case

-358/14,

para

. 26)、裁判所は十分な回答を出さず、

TFEU

第114条3項や第168条1項 について述べるにとどまっている。

 本事例が示すのは、第114条、つまり域内市場の円滑化によって健康問題 を解決しようとする

EU

の機関(欧州議会・理事会・欧州委員会・欧州司法 裁判所)の姿勢である64)。このような

EU

の姿勢については賛否が分かれて いる。肯定派は、

EU

レベルでの人々の健康状態の改善が優先されるべき事 項だとする(

Alemanno and Garde

, 2013)。一方で反対派は、社会的政策が 市場関連の法律を通じた達成を疑問視し、また生活様式の一律化に対して異 議を唱えている(

Delhomme

, 2017)。

 本研究は、人々の健康や「人々の幸福の促進」のためにタバコの使用を減 らすという、

EU

の理想を問題視しているのではない。加盟国の枠組みにと らわれることなく、

EU

規模で

EU

市民の生活習慣の改善を目指すという姿 勢は重要であろう。しかし、その根拠となる条文の活用が歯切れの悪いもの となっている点、域内市場の論理をほかの事例に無理やり当てはめようとし ている点が問題なのである。

⑵ 第352条について

 柔軟性条項とも呼ばれる

TFEU

第352条も、同様に議論を呼んでいる。柔

63) ただし、若い世代が特徴的なフレーバーに引き付けられて、タバコ消費を刺激していると主 張しているのではない(Case-358/14, para. 82)。

64) 同じくDirective 2014/40について争われたCase C 547/14 Philip Morris Brands and Others v Secretary of State for Health (2016) ECLI: EU: C: 2016: 325においても、同様の結論がなさ れている。

ドキュメント内 制度運営の観点から (ページ 32-43)

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