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第 3 章 磁気ポリマーコンポジットの物性評価 21

3.2. 機械的特性評価

3.2.2. 機械的特性の評価結果

作製した試験片については,その端部を万能試験機によって固定し,引張力を加え,

試験片を変位させることで粒子含有量と機械特性の関係について評価を行った。固定 部の圧力は試験片にすべりが生じず,固定部での破壊が生じない圧力であった0.13 MPa と決定した。また,試験片の引張速度については1.0 mm/minで試験を実施した。Figure 3-2は粒子含有量と破断応力の関係を表したグラフであり,縦軸は試験片が破断した際 の応力,横軸が粒子含有量である。リファレンスとなるSU-8では,試験片が破断に達 するまでの応力が80~100 MPaと非常に高い値を示していることが分かった。この SU-8 内に磁性粒子が含有されることによって破断応力が大きく減少し,最大で約 50 MPa まで減少している。これはリファレンスである SU-8 と比較して約 50 %の強度低下で ある。この破断応力の低下はさらに粒子含有量が増加した場合(含有率20 wt%)にお いても大きな変化は現れず,飽和する傾向があった。この結果から,本研究で提案する 調製方法で作製されたコンポジットの破断強度は,実験した範囲内の含有率領域にお

いて,50 MPaとみなすことができる。

次に,パターン形成後のキュア処理と含有粒子の種類による破断応力の変化につい て検証する。はじめに,キュア処理が試験片に与える影響について考える。本研究では,

磁気ポリマーコンポジットのパターン形成後のキュア処理として真空 UV キュアとハ ードベークの 2 種類のキュア処理を行った。真空 UV キュアはレジスト表層の材料特 性や硬度を変化させ,プラズマ耐性を向上させる手法として用いられている[3-1],[3-2]。ハードベーク処理はパターン形成後の構造物の特性を向上や構造物と基板の接合強 度を向上させるために用いられる手法である[3-3]。Figure 3-2の試験結果より,リファ レンスとなるSU-8では,ハードベークを行った試験片は真空UVキュアと比較して高 い値を示していることがわかる。この結果について,レジストの機械特性を改質・改善 させる範囲が影響していることが考えられる。真空UVキュアはレジスト表層の200~

500 nm での特性を変化させる手法であり,構造物全体の特性を変化させることはでき

ない。一方で,ハードベークはレジスト内部まで処理を行う手法である。そのため,レ ジスト全体の機械特性が変化したハードベーク処理の試験片の方が,破壊強度が向上 したと考えられる。よって,通常のSU-8構造体では,キュア処理が破断強度へ影響を 与える要因であることが分かる。しかしながら,SU-8 内へ磁性粒子が含有されること でキュア処理による効果は小さくなり,粒子含有量10 wt%以上では,キュア処理によ る違いは見られない。また,この現象は純鉄と酸化鉄の両者に観測されている。すなわ

3.2 機械的特性評価 25

ち,磁気ポリマーコンポジットにおいては,含有された粒子が破壊強度へ最も支配的な 影響を及ぼす要因であり,キュア処理による影響は,粒子含有率が低い場合に限定され ることが分かった。次に,含有した粒子種類が破壊強度に与える影響について検討する。

Figure 2-1へ示す試験結果から,粒子の種類による破断応力の大きな変化は見られなか

った。本研究で使用した磁性粒子である純鉄Fe と酸化鉄Fe3O4は両者ともに主成分が Fe であり,同一の球形状かつ直径 5 μm 以下,粒子状態がパウダー状態である(Table 2-2)。そのため,同じ重量比・体積比において,同様の破壊強度を示したことが考えら れる。ただし,純鉄Fe と酸化鉄Fe3O4では比重が大きく異なるため,破断に至るまで のポリマーコンポジットの変位量や破断メカニズムについては双方で異なることが考 えられる。

(a) 重量比での評価

(b) 体積比での評価

Figure 3-2 粒子含有量と破断応力の関係

10 20

20 40 60 80 100

0

Magnetic particles content rate [wt%]

F ra c ture s tre ss [M P a ]

SU-8 Hard bake SU-8 Vaccum UV cure Pure iron Not treat Pure iron Hard bake Pure iron Vaccum UV cure Oxide iron Hard bake Oxide iron Vaccum UV cure

1 2 3

20 40 60 80 100

0

Magnetic particles content rate [vol.%]

F ra c ture s tre ss [M P a ]

SU-8 Hard bake SU-8 Vaccum UV cure Pure iron Not treat Pure iron Hard bake Pure iron Vaccum UV cure Oxide iron Hard bake Oxide iron Vaccum UV cure

3.2 機械的特性評価 27

Figure 3-3は粒子含有量とヤング率の関係について評価した結果を表している。全て

のサンプルにおいて,磁気ポリマーコンポジットのヤング率は2.5~3.0 GPaとなり,粒 子含有率による変化はほとんどなかった。これより,本研究で使用する磁気ポリマーコ ンポジットにおいては,測定した範囲内の粒子含有率ではヤング率に与える影響は非 常に小さく,弾性域における機械特性の変化は現れていないことが分かった。引張試験 を行った試験片について,応力とひずみの関係を表したグラフをFigure 3-4に示す。通 常のSU-8では,明確な弾性域と塑性域を有する延性材料の破壊傾向を示している。ま た,試験片全体の伸びは約2.0 mm と非常に大きなものである。この SU-8内へ磁性粒 子が含有されることで塑性域における変位量が大きく減少した。10 wt%以上の含有率 の場合には塑性域が現れる前に試験片が破断する脆性材料の破壊挙動を示している。

通常のポリマー材の破断メカニズムは,引張りによってポリマー表面からのき裂の発 生・伝播による破壊,くびれの発生と伝播によってポリマー内でボイドとフィブリルが 現れ,フィブリルが全て破壊されることで破断につながるクレイズ破壊である。これら の破壊挙動では明確な弾性域と塑性域,降伏点が観測される。しかし,粒子を含有され ることで塑性域が観測されなくなる現象が発生した。この要因として,き裂の伝播から 破壊までの速度であるき裂進展速度が増加したこと,破壊起点の増加が要因として考 えられる。ポリマーの表面または内部で発生したき裂は接合強度が著しく低下する SU-8と粒子の界面に沿って伝播し,通常のSU-8と比較して,き裂の伝播速度が速くなり,

破断したことが考えられる。また,粒子の含有量が高くなるにつれてSU-8内での粒子 間距離の減少と多数の破壊起点の発生によって,き裂の伝播速度が速くなり,塑性域が 現れる前に破断していることが考えられる。そのため,高含有量である10 wt%以上で 作製した試験片では塑性域が観測されなかったと考えられる。

以上の結果から,本研究で使用する磁気ポリマーコンポジットは,測定した含有率の 範囲内において,破断応力50 MPa,ヤング率2.5 GPa であることが分かった。この物 性値を指標とし,MEMSデバイスの構造設計に適用する。

(a) 重量比での評価

(b) 体積比での評価

Figure 3-3 粒子含有量とヤング率の関係

10 20

1 2 3 4 5

0

Magnetic particles content rate [wt%]

Y oung' s M odul us [G P a ]

SU-8 Hard bake SU-8 Vaccum UV cure Pure iron Not treat Pure iron Hard bake Pure iron Vaccum UV cure Oxide iron Hard bake Oxide iron Vaccum UV cure

1 2 3

1 2 3 4 5

0

Magnetic particles content rate [wt%]

Y oung' s M odul us [G P a ]

SU-8 Hard bake SU-8 Vaccum UV cure Pure iron Not treat Pure iron Hard bake Pure iron Vaccum UV cure Oxide iron Hard bake Oxide iron Vaccum UV cure

3.2 機械的特性評価 29

Figure 3-4 応力とひずみの関係