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第 3 章 磁気ポリマーコンポジットの物性評価 21

3.3. 磁気特性評価

3.3.2. 磁気特性評価結果

3.3 磁気特性評価 37

本実験で使用した酸化鉄Fe3O4はFeに対して O2が共有結合し,純粋なFeと比較して 不対電子数が少なくなっている。そのため,共有結合をしていない純鉄は酸化鉄と比較 して不対電子数が多いため飽和磁化が高くなっていることが考えられる。また,粒子含 有量の増加に伴い,この不対電子数も多くなるため,飽和磁化も増加している。次に,

磁性粒子内に含まれる純鉄Feの体積比での磁化特性の評価を行った。はじめに,酸化 鉄 Fe3O4内に含まれる純鉄 Fe の体積比を計算する。酸化鉄Fe3O4の 1 molにおける分 子量は231.537であり,その内訳は,純鉄 Feが167.541,酸素Oが63.996 である。酸 化鉄Fe3O4内に含まれる純鉄Feと酸素O分子の質量と磁気ポリマーコンポジットを調 製する際に使用した酸化鉄 Fe3O4の質量を基に酸化鉄 Fe3O4内に含まれる純鉄 Fe の体 積比を以下の式によって算出した。

] O [

Fe

Fe O

Fe Fe

4 3 4

3 g

の分子量 酸化鉄

の分子量 純鉄

の質量 の質量 酸化鉄

純鉄  

(3-2) ここで,純鉄Feの分子量は167.541,酸化鉄Fe3O4の分子量は231.537である。SU-8内 へ充填させた酸化鉄Fe3O4の質量とSU-8 の質量を利用し,酸化鉄Fe3O4内に含まれる 純鉄Feの体積比を計算した。また,それぞれの重量比に対応した純鉄の含有率(体積 比)についてはTable 3-4へ示す。算出した純鉄Feの体積比と磁化特性の関係について 評価する。Figure 3-10 (b)に示す磁性粒子内に含まれる純鉄Feの体積比と飽和磁化を評 価したところ,純鉄Fe と酸化鉄Fe3O4の飽和磁化は同等の値を示していた。これらの 結果から,本研究で使用する磁気ポリマーコンポジットの飽和磁化は磁性粒子内に含 まれる純鉄 Fe の体積比に大きく影響し,純鉄 Fe の体積比によって発生力が大きく変 化することが考えられる。Figure 3-11 (a)に示す磁性粒子の体積比と透磁率の関係では,

両者の磁気ポリマーコンポジットにおいて,同体積比で比較した際には同等の透磁率 を有しており,評価を行った体積比において最大で約3.4×10-7 H/mを示している。一

方で,Figure 3-11 (b)に示す磁性粒子内に含まれる純鉄Feの体積比と透磁率の関係では,

酸化鉄Fe3O4は純鉄 Feと比較して高い透磁率を持っていることが分かった。しかし,

両者の磁気ポリマーコンポジットともに磁気アクチュエータとしての応答性となる透 磁率は低い値を示している。この結果については M. Suter らが紹介しているナノ粒子 を分散させた磁気ポリマーコンポジットにおいても同様の結果を示しており,3 vol.%

における磁気ポリマーコンポジットの透磁率を計算したところ,約2.1×10-7 H/mの値 を示している[4]。通常の磁性バルク材料は原子が密集しており,その原子間距離が非 常に小さいため,原子間での相互作用の働きが大きく,高い磁気応答性や磁化速度を示 している。一方で,微粒子として利用し,さらに常磁性体であるポリマー内へ分散させ

ている磁気ポリマーコンポジットでは粒子間の距離が大きく,相互作用が小さくなる ことが考えられる。これによって,通常のバルク材料と比較して透磁率や磁化の強さが 小さい値を示していることが考えられる。また,粒子含有率の増加によって,粒子間距 離が小さくなり,相互作用も高くなることから磁化特性が向上ていると考えられる。

以上の磁気特性評価結果から,純鉄Feを含有させた磁気ポリマーコンポジットは高 い磁気発生力を有したアクチュエータを形成することが可能であることがわかった。

また,すでに酸素と共有結合している酸化鉄を利用したアクチュエータでは,時間経過 による磁気発生力や応答性の変化が小さいことが考えられ,磁気安定性の高いアクチ ュエータを形成することができる。また,同一の磁性粒子の体積比では,同等の透磁率 を示していることから,磁気応答性に大きな変化は無いことが考えられる。

3.3 磁気特性評価 39

(a) 酸化鉄Fe3O4

(b) 純鉄Fe

Figure 3-9 磁場-磁化特性評価結果

-400 -200 0 200 400

-20 -10 0 10 20

M a gne ti z a ti on M [m T ]

Applied magnetic field [kA/m]

3wt%

5wt%

7wt%

10wt%

@ Fe3O4

-400 -200 0 200 400

-50 0 50

M a gne ti z a ti on M [m T ]

Applied magnetic field [kA/m]

3wt%

5wt%

7wt%

10wt%

@ Fe

(a) 磁性粒子の体積比と飽和磁化

(b) 磁性粒子内に含まれる純鉄Feの体積比と飽和磁化

Figure 3-10 飽和磁化の変化

1 2 3

20 40 60 80

0

Particles content [vol.%]

S a tura ti on m a gne ti z a ti on [m T ]

Fe Fe

3

O

4

1 2

20 40 60 80

0

Pure iron content [vol.%]

S a tura ti on m a gne ti z a ti on [m T ]

Fe

Fe

3

O

4

3.3 磁気特性評価 41

(a) 磁性粒子の体積比と透磁率

(b) 磁性粒子内に含まれる純鉄Feの体積比と透磁率

Figure 3-11 体積比と透磁率の関係

1 2 3

1 2 3 [10

-7

] 4

0

Particles content [vol.%]

P e rm e a bi li ty [H /m ] Fe

Fe

3

O

4

1 2

1 2 3 [10

-7

] 4

0

Particles content [vol.%]

P e rm e a bi li ty [H /m ] Fe

Fe

3

O

4

Table 3-4 酸化鉄Fe3O4内に含まれる純鉄Feの体積比 酸化鉄の重量比

[wt%]

調製時にSU-8内 へ

充填させた質量 [g]

酸化鉄に含まれる 純鉄の質量

[g]

純鉄の体積比 [vol.%]

3 0.542 0.393 0.324

5 0.816 0.591 0.551

7 1.28 0.927 0.784

10 1.74 1.260 1.155