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第 4 章 アプリケーションⅠ:マイクロバルブ 57

4.2. 側面封止型マイクロバルブ

4.2.5. 性能評価

高粘度の液体を制御する際には粘性抵抗を無視することができないため,液体によっ て検証する必要がある。

(a) 磁場ON (b) 磁場OFF (c) 磁場ON

Figure 4-16 試作したマイクロバルブの駆動試験

Figure 4-17 バルブ構造体のトルク概算用モデル

4.2 側面封止型マイクロバルブ 79

分岐させ,圧力計測を行う。バルブ構造体の駆動観測については3Dデジタルマイクロ スコープ(キーエンス社製,VHX-1000)を用いてPDMS上から観察する。その後,下 流のエタノールはシャーレ内へ排出され,その排出されたエタノールをマイクロバル ブからリークしたものとして電子天秤により測定する。バルブ構造体の駆動について はチップ底面部に設置した永久磁石(材質:ネオジウム,直径:5 mm,高さ:3 mm,

表面磁束密度:0.28 T)を操作することによって OPEN/CLOSE 状態の遷移を行う。以 上の評価系を用いて,試作した側面封止型マイクロバルブの性能評価を実施する。評価 内容は,バルブ構造体をCLOSE状態とした際の圧力・リーク量計測実験による耐圧性 能と流量制御性能の評価,外部磁場によるOPEN/CLOSE切り替え実験による磁気応答 性の2項目を評価する。

Figure 4-18 バルブ性能評価の実験構成とチップ断面の状態

はじめに,OPEN/CLOSE 状態での圧力差を計測し,耐圧性能について評価した。本 実験では,チップ内へエタノールを送液する前に永久磁石を用いてバルブ構造体を

Syringe Pump

Valve Chip

Pressure Gauge

3-way stopcock

3D digital microscope

Dish

Electronic balance

Inlet Outlet

Permanent magnet Chamber

Thickness:150μm

PDMS

Substrate Composite structure

Thickness:70μm

Microchannel

Thickness:40μm

Magnetization direction

OPENまたはCLOSE状態まで遷移させる。送液開始後はOPEN状態における圧力計測 では,チップ底面部へ永久磁石による磁場を印加し続けることによって OPEN 状態を 維持させる。CLOSE 状態での圧力計測では,永久磁石を取り除き,流れ場によって作 用する圧力でCLOSE状態を維持させる。Figure 4-19は OPEN/CLOSE状態でのチップ 圧力計測結果を示している。10分間エタノールを送液し,10秒毎に圧力の計測を行っ た。OPEN状態での最大圧力は約 1.1 kPa,CLOSE状態での最大圧力は約 9.0 kPaであ

り,約 8.0 kPa の圧力差が発生していた。また,リーク量の計測結果はそれぞれ,132

μl,49 μlであった。ここで,以下に示す式を用いて排出量の低減率Rdiffを算出する。

]

% [ 100   

 

open close open

diff

R

R R R

(4-3)

ここで,RopenはOPEN状態でのリーク量,RcloseはCLOSE状態でのリーク量である。上 式へ実験によって得られたリーク量を代入し,流量制御能力を評価した結果,最大で 63 %のリーク量の低減があることが分かった。試作した側面封止型マイクロバルブは 送液時間10分間の実験では,耐圧性能が約 9.0 kPa,排出量を最大で約63 %低減する ことが可能である。しかし,試作したマイクロバルブではバルブCLOSE状態において,

リーク量を 0 μl にすることができなかった。この要因として,バルブ構造体形成時の 側面の粗さによる流路封止時の接触不良,PDMS マイクロ流路とシリコン基板の酸素 プラズマボンディングにおけるPDMS圧着時のチャンバ領域のゆがみ等が考えられる。

また,試験結果ではCLSOE状態で送液を続けた場合には圧力は上昇し続けたが,圧力 は飽和する傾向が見られた。10 分間の実験結果を用いて,以下に示す近似曲線を用い て飽和値を求めた。

] kPa [ exp

1 )

(   





 

 

 

 



b

P t t

Pclose s

(4-4)

ここで,tは送液時間[s],Psは飽和圧力[kPa],bはフィッティングパラメータ,Pclose(t) は送液時間tにおける圧力の実験値[kPa]である。本実験では,計測時間を10分間とし ているが,式 4-4 を用いて飽和圧力と飽和圧力までに達する経過時間を近似したとこ

ろ,b=469.4において,飽和圧力は約12.4 kPaとなった。以上の結果から,試作した側

面封止型マイクロバルブは耐圧性能が9.0 kPa,飽和圧力が約12.4 kPa,流量低減率が約 63 %の性能を有することが分かった。

次に,磁場によるOPEN/CLOSEの切り替え評価を行った。チップの底面から磁場を

4.2 側面封止型マイクロバルブ 81

印加し,バルブ構造体をOPEN状態で維持する。OPEN状態となっているマイクロバル ブチップ内へシリンジポンプを用いて流量5 μl/minでエタノールを流し込み,OPEN状 態で圧力が安定した後に磁場の印加を止めると,流体の流れ場による圧力でバルブ構

造体がCLOSE状態へと遷移し,圧力を上昇させる。圧力上昇後,再度,マイクロバル

ブチップの底面部へ磁場を印加させることでバルブ構造体をOPEN状態に遷移させる。

以上の行程の圧力変化を計測することによってマイクロバルブの応答性を評価する。

Figure 4-20は上記の行程の圧力変化を計測した実験結果を示しており,縦軸はチップ内

の圧力,横軸は送液時間である。送液開始(0s)から50 sでは磁場を印加させた状態と し,バルブ構造体をOPEN状態にする。50 sから180 sでは磁場印加を停止し,OPEN

状態からCLOSE状態へと遷移させた。180 s~400 sでは再度,磁場を印加させ,OPEN

状態とした。また,実験結果では段階的に圧力が上昇しているが,これは圧力センサの

分解能が0.1 kPaのためである。実験結果では,磁場を印加している50 sまでの圧力は

0.1 kPaで一定値を示していた。磁場印加を停止し,バルブをCLOSE状態へ遷移させた

際には圧力が最大で0.7 kPaと大きく上昇し,また,再度OPEN状態へ遷移させた際に は圧力の減少がみられた。以上の結果から,定常流中において磁場によるバルブ構造体 の駆動が可能であり,かつ,圧力変化の発生によってバルブとして機能できることが分 かった。ただし,制御しようとする流量が大きくなっていくと,マイクロバルブチップ 内の圧力が増加することで外部磁場によるバルブ構造体の OPEN 状態への応答が遅れ る傾向が見られた。また,チップ内の圧力が 1.5 kPa を超えた際にはバルブ構造体の

OPEN/CLOSE 状態の遷移が困難であった。これは流れ場によって形成される圧力が磁

場による磁気吸引力を上回ったことが要因と考えられる。よって,追従性能を向上させ るためには,磁気ポリマーコンポジットの粒子含有量を増加,またはバルブ構造体の体 積を大きくすることで磁気吸引力を増加させる必要がある。

Figure 4-19 OPEN/CLOSE状態における耐圧性能評価結果

Figure 4-20 バルブ構造体のOPEN/CLOSE状態による圧力変化

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