• 検索結果がありません。

標数 p の完全体上の変形環

ドキュメント内 志村多様体の整モデル (ページ 73-78)

Step 6. 次元の計算

A.3 標数 p の完全体上の変形環

kを標数pの完全体とし,G0k上のp可除群とする.剰余体がkとなる局所 Artin W(k)代数Rに対して,G0R上の変形(GR,GRRk∼=G0)のなす集合を 対応させる関手F を考える.

定理 A.37Illusie 剰余体がkとなる局所Artin W(k)代数のなす圏から集合の 圏への G0 の変形関手F は表現可能(pro-representable)である.すなわち,ある W(k)代数Runivが存在して,任意の剰余体がkとなる局所ArtinW(k)代数R 対して,

F(R) = HomW(k)(Runiv, R)

が成り立つ.さらに Runiv (dimG0)(dimG0) 変数形式的羃級数環 W(k)[[tij]]

(1≤i≤dimG0,1≤j≤dimG0)と同型である.

証明は余接複体の理論を用いてIllusieにより与えられた([Ill85, 4.8]).なお変 形理論の観点からみて自然な同型Runiv =W(k)[[tij]]をとることができる([Ill85, 4.8.2]).

以下ではFaltings による Runiv のより具体的な表示を述べる.議論の詳細は

[Fal99, § 7]および[Moo98, § 4.1-4.4]を参照せよ.

簡単のためW =W(k)とおく.Cris(Speck/Σ, I, γ)上のDieudonnéクリスタル D(G0)を考える.またMk := D(G0)(k),MW := D(G0)(W)とおく.クリスタルの 性質よりMW W k=Mk となる.

ωG0 D(G0)SpeckMk の部分ベクトル空間Fil1k を定める.Mk = Fil1k⊕Nk

となる部分ベクトル空間Nk Mk を固定する.また W 加群の直和分解MW = Fil1W ⊕NW で,Fil1WWk= Fil1k,NW W k=Nkとなるものをとる.

W 上の代数群GL(MW)を考える.NW ⊂MW の固定部分群はGL(MW)の放物 型部分群となる.これをPとおく.Pの冪単部分群をUとかき,Uの単位元で の完備化をUˆとおく.

このとき次が成り立つ.

Uˆ上へのG0の変形が自然に定まる.

変形環Runivの普遍性より定まる射RunivΓ( ˆU,OUˆ)は同型である.

議論の詳細については[Moo98, 4.5]を参照せよ.以下では Γ( ˆU,OUˆ)Runiv とかくことにする.またRuniv上の普遍変形をGRuniv とおく.

注意 A.38 なお上の事実の証明や第5.2小節のStep 4の議論ではW 上形式的に滑 らかな完備局所環R上でもDieudonnéクリスタルを考え,それをR加群と付加構 造(接続,Frobenius,フィルトレーション)で記述することが重要になる.本稿で はこれに関する議論は全く触れずに導かれる結果のみを述べている.詳細については [Moo98, 4.1-4.5]および[Kis10, 1.5]を参照されたい.

練習 A.39 Grothendieck–Messing理論が使える状況で Hom Γ( ˆU,OUˆ), R が R上へのG0の変形全体と対応することを確かめてみよう.

R を剰余体が k となる局所 Artin W 代数とする.また Speck ,→ SpecR

(冪零)PD構造が与えられているとする(特に Dieudonné クリスタルの理論や Grothendieck–Messingの理論を適用できる).MR := D(G0)(R) とおくとMR = MW W Rが成り立つ.Fil1R := Fil1W WR,NR :=NW W Rとおく.

このとき次の集合の間に自然な対応があることを示せ.

(1) G0R上への変形全体.

(2) 自由R部分加群Fil1⊂MR であって,Fil1Rk= Fil1k かつMR/Fil1も自R加群になるもの全体.

(3) {f HomR(Fil1R, NR)|f⊗Rk= 0}. (4) HomW Γ( ˆU,OUˆ), R

ヒント:(2)(3)の対応の構成は以下の通り.(2)Fil1が与えられたとする.

Fil1 ,→MR = Fil1R⊕NR ↠ Fil1Rは同型であることがわかる.よって,これの逆写 像Fil1RFil1Fil1,→MR = Fil1R⊕NRNRの合成は(3)の条件を満たす.逆 に(3)f: Fil1R →NRが与えられたとき,(idFil1

R ⊕f)(Fil1R)Fil1R⊕NR=MR

は(2)の条件を満たす.

付録 B Breuil–Kisin 加群

本付録では第 5 節の証明で必要となる Breuil–Kisin 加群の定義とその性質を [Kis06][Kis10, §1]に沿って簡単に説明する.

pHodge理論の表現論的な立場ではQp やその有限拡大体の絶対Galois群の p進表現を理解することが大きな目標の1つである.Fontaineはエタールコホモロ ジーを用いて幾何学的に構成されるp進表現を捉えるため周期環Bcris,BdR を構成 し,クリスタリン表現,de Rham表現というp進表現のクラスを定義した.例え ば,よい還元をもつ代数多様体のエタールコモロジーや,よい還元をもつp可除群の Tate加群から得られるp進表現はクリスタリン表現になる.また,クリスタリン表 現に対してその不変量としてフィルトレーション付きϕ加群が定義され,さらにクリ スタリン表現のなす圏と,弱許容という性質を満たすフィルトレーション付きϕ 群のなす圏とが圏同値になる.

この付録で扱うBreuil–Kisin加群とはクリスタリン表現のGalois作用で安定な Zp格子を記述する理論であり*36,整pHodge理論の基礎理論になっている.例 えば応用としてよい還元をもつp可除群をBreuil–Kisin加群で記述することができ る(定理B.6).

なお本稿では周期環やクリスタリン表現,de Rham表現の基本性質について割愛 せざるを得なかった.これらについては日本語による解説([][中村])もあるの で,本付録を読む際には上記の文献を参照していただきたい.またBreuil–Kisin 群が導入された論文[Kis06]については[望月]で詳しく解説されている.

kを標数pの完全体とする.W :=W(k)kWittベクトルのなす環とし,そ の商体をL0とおく.LL0の有限完全分岐拡大体とする.Lの素元π1つ固定 する.πL0上の最小多項式(Eisenstein多項式)をE(u)∈W[u]とおく.

定義 B.1 S:=W[[u]]とおく.さらにS上のFrobeniusϕW 上には通常の Frobenius射であり,ϕ(u) =upとなるものとして定める.

S上のBreuil–Kisin加群とは,有限自由S加群MS同型 1⊗ϕ:ϕ(M)[1/E(u)]−→= M[1/E(u)]

の組 (S,1⊗ϕ) をいう.ここで ϕ(M) := Sϕ,S MM[1/E(u)] := M S

S[1/E(u)]とおいた.

Breuil–Kisin加群の間の射はS準同型であって,1⊗ϕと可換なものとして定め る.S上のBreuil–Kisin加群のなす圏をModϕ/Sとおく.

*36より一般に半安定表現についてもBreuil–Kisin加群で捉えることができるが,本稿では省略する.

Breuil–Kisin加群(S,1⊗ϕ)について,ϕ(M)のフィルトレーションを Filiϕ(M) := (1⊗ϕ)1 E(u)iM

∩ϕ(M)

で定める.

注意 B.2 Breuil–Kisin加群は[Kis06]において導入された.なお[Kis06]の定義で はS準同型1⊗ϕ:ϕMMであって,Coker(1⊗ϕ)E(u)の冪で消えるもの のみを考えている.本稿で与えた定義は[Kis10, 1.2]による.

注意 B.3 Breuil–Kisin加群(M,1⊗ϕ)に対しS同型1⊗ϕ:ϕ(M)[1/E(u)]−→= M[1/E(u)]を環準同型S W, u7→0により底変換することでL0= FracW 上の 同型

ϕ(M/uM)[1/p]−→= (M/uM)[1/p] (B.1) を得る.この同型により (M/uM)[1/p]は(L0 上の)ϕ加群とみなせる.同様に (B.1)をさらにW Frobeniusで底変換した射を考えることで,ϕ(M/uM)[1/p]

ϕ加群となる.さらに(B.1)ϕ加群ϕ(M/uM)[1/p](M/uM)[1/p]の間の 同型となる.

次にクリスタリン表現とde Rham表現の定義を思い出そう.簡単のためLの絶対 Galois群をGalLとかくことにする.Bcris,BdRをFontaineの定義したLに伴う周 期環とする.BdRはGalLが作用する体で,降下フィルトレーションをもつ.また BcrisはGalLが作用するBdRの部分環で,BdRから定まるフィルトレーションをも ち,さらにGalL作用と可換なFrobenius射をもつ(より詳しい説明は[][中村] をみよ).

定義 B.4 V GalLの連続作用付き有限次元Qpベクトル空間とする.

(1) DdR(V) := (BdRQpV)GalL とおく.DdR(V)は次元がdimQpV 以下のL ベクトル空間であり,さらにBdR から誘導されるフィルトレーションをも つ.dimLDdR(V) = dimQpV が成り立つときV de Rham表現であると いう.

(2) Dcris(V) := (BcrisQp V)GalL とおく.Dcris(V)は次元が dimQpV 以下の L0ベクトル空間であり,さらにBcrisから誘導されるFrobeniusをもつ.また Dcris(V)L0L DdR(V)である.dimL0Dcris(V) = dimQpV が成り立つ

ときV はクリスタリン表現であるという.なおクリスタリン表現はde Rham 表現である.このときDcris(V)L0L=DdR(V)となる.

GalLの連続作用付き有限自由Zp加群ΛであってΛQpがクリスタリン表現と なるもののなす圏をRepcrisGalL とおく.例えばOL上のp可除群Gに対し,TpGおよTpG RepcrisGalLの対象となる.

定理 B.5[Kis10, Theorem 1.2.1] 忠実充満テンソル関手 M: RepcrisGalL −→

Modϕ/S で以下の性質を満たすものが存在する:ΛRepcrisGalLとする.

(1) Frobenius作用を保つ自然な同型

DcrisQp)= M(Λ)/uM(Λ) [1/p]

およびフィルトレーションを保つ自然な同型

DdRQp)=ϕM(Λ)SL

がある.ただし2つ目の同型においてS→Luπにうつすものであり,

FiliDdRQp)FiliϕM(Λ)SLに対応する.

(2) 自然な同型

OEurZpΛ−→ O= EurSM(Λ)

がある*37

p可除群の場合にBreuil–Kisin加群とDieudonnéクリスタルを比べよう.W W[u, E(u)n/n!]n1(FracW)[u]p進完備化をSとおく.Sϕ(u) =up 満たすFrobenius ϕをもつ.またFil1S := Ker(S → OL, u7→ π)とおく.このと きFil1は自然なPD構造をもつ.さらにu7→uによりSS代数となる.

Modϕ/S の 充 満 部 分 圏 BTϕ/S を 次 の 条 件 で 定 め る:BTϕ/S の 対 象 は 1 ϕ:ϕ(M)[1/E(u)]−→= M[1/E(u)]が準同型ϕ(M)Mを誘導し,さらにその余 核がE(u)で消えるものとする.

MBTϕ/Sに対し

M(M) :=S⊗SϕM

*37 OEurpHodge理論にでてくる環で,S(p)p進完備化した環上忠実平坦かつ形式的エター ルである.特にS(p)上忠実平坦である.定義は例えば[Kis06, 2.1.1][望月,設定その二]にある.

とおき,さらに

Fil1M(M) :={x∈ M(M)|(idS(1⊗ϕ))(x)∈(Fil1S)⊗SM⊂S⊗SM}

とおく.またM(M)にもFrobeniusが誘導される.

定理 B.6[Kis10, 1.4.2] p > 2とする.OL 上のp 可除群G に対しM(G) :=

M(TpG(−1))*38D(G) :=D(G ⊗OLk)とおく.このときMOL上のp可除群 のなす圏とBTϕ/Sとの圏同値を誘導する.また自然なフィルトレーションを保つϕ 同変な同型

D(G)(S)−→ M= (M(G))

が存在する.特に環準同型S →W;u 7→0でさらに係数拡大することによりϕ同変 な同型

D(G)(W)−→= ϕ(M(G)/uM(G))

を得る.

注意 B.7 定理B.6p = 2 でも成り立つことが知られている.[Kim12, Lau14, Lau19, Liu13]および[IIK18, §11.4]を参照せよ.

謝辞 本稿は2015年度整数論サマースクール「志村多様体とその応用」における筆 者の講演「志村多様体の整モデル」に基づいている.原稿にコメントを下さった伊藤 哲史氏,越川皓永氏,時本一樹氏,松本雄也氏に感謝する.なお本稿の最終校正は筆 者がInstitute for Advanced Studyに所属している間に行われた.その際に筆者は National Science Foundationの研究費DMS-1638352から支援を受けている.

ドキュメント内 志村多様体の整モデル (ページ 73-78)

関連したドキュメント