SK(G, X)のxにおける完備化を記述したい.そのためにG0=Ax[p∞]のϕ不 変テンソル付きの変形環として得られる形式的滑らかな完備局所環を考え,それと比 較することにする.
引き続きMW =D(G0)(W)とおく.命題5.10で示したように{s0α}の固定部分群 G0はGL(MW)の連結簡約部分群である*28.このとき次が成り立つ(証明は[Kis10, 1.4.3 (4)]を参照せよ).
補題 5.13 Mk:=MW ⊗W k=D(G0)(k)のフィルトレーション Fil1k := Fil1D(G0)(k)⊂D(G0)(k)
は G0⊗W k を経由する指標µ0:Gm → GL(Mk) によって定まる.すなわち,あ る直和分解Mk = Fil1k⊕Nk が存在して,それに対応する指標µ0:Gm → GL(Mk)
(µ0(z)はFil1k上z倍で,Nk上idで作用する)はG0⊗W k⊂GL(Mk)を経由する.
補題の条件を満たす直和分解Mk = Fil1k⊕Nk を固定する.このときW 加群の直 和分解MW = Fil1W⊕NW であって,Fil1W ⊗Wk= Fil1k,NW ⊗W k=Nkが成り立 ち,さらに対応する指標µ:Gm→GL(MW)がG0⊂GL(MW)を経由するようなも のが存在する.
G0 の普遍変形環の記述(付録A.3)を思い出そう.NW ⊂ MW の固定部分群を P◦とおく.P◦はGL(MW)の放物型部分群であり,その冪単部分群をU◦とかき,
U◦の単位元での完備化をUˆ◦とおく.このときRuniv := Γ( ˆU◦,OUˆ◦)はG0の普遍 変形環と自然に同型になる.以下ではRuniv上の普遍変形をGRuniv とおく.
次にϕ不変テンソル{s0α}付き変形環について考えよう*29.G0におけるNW の固 定部分群P0◦ ⊂G0は放物型部分群となる([Kis10, 1.1.1]).この冪単根基をU0◦と おき,U0◦の単位元における完備局所環をRunivG0 とおく.構成より次が成り立つ.
命題 5.14 RunivG0 はRunivの商であり,W 上形式的に滑らかでその相対次元は dimU0◦ = rankW gr−1LieG0
となる.
RunivG0 加群MRunivG0 :=MW ⊗W RunivG0 を考える.また,{s0α} ⊂MW⊗ の像としてテ ンソルの集合{s0α,Runiv
G0 } ⊂MR⊗univ
G0 を定める.このとき各s0α,Runiv
G0 はRunivG0 上の自明
*28本稿のG0は[Kis10]ではGW とかかれる.
*29[Fal99]ではTateサイクルという概念が導入され,本稿のϕ不変テンソル付きの変形環は,Tate サイクル付きの変形環とよばれている.
なクリスタルからの射1 →D(GRuniv⊗RunivRGuniv0 )⊗ を与えることがわかる([Kis10, 1.5.4]).
L の素元 π ∈ L をとり,E(u) ∈ W[u] を π の最小多項式とする.W 代数 W[u, E(u)n/n!]n≥1⊂(FracW)[u]のp進完備化をSとおく*30.Sはϕ(u) =upを 満たすFrobenius射ϕをもつ.またu 7→π により定まる全射S → OLの核は自然 なPD構造をもつ(例えばγn(E(u)) =E(u)n/n!となる).
このとき次が成り立つ(証明は[Kis10, 1.5.8]および[Kis17, (E.1)-(E.4)]を参照 せよ).
命題 5.15 p >2とする.$:Runiv→ OLがRuniv →RunivG0 を経由することと,次 の条件は同値である:ϕ不変なテンソルの集合{˜s0α} ⊂D(G$)(S)⊗で,以下を満た すものが存在する.
(1) ˜s0αはs0α∈MW⊗ =D(G0)(W)⊗ の持ち上げである.
(2) ˜s0αのD(G$)(OL)⊗への像をs0α,OL とおくとき,
s0α,OL ∈Fil0(D(G$)(OL)⊗) が成り立つ.
(3) (˜s0α)の固定部分群G0S ⊂GL(D(G$)(S))は連結簡約部分群である.
命題 5.16 L0をLの有限拡大体とする.また射$: Runiv → OL0 が与えられたと し,Λ0 := Tp(GR∨univ ⊗Runiv,$OL0)(−1)とおく.さらにGal(Qp/L0)不変なテンソ ルの集合{sα,´et,$} ⊂Λ0⊗ であって次を満たすものが存在すると仮定する.
(1) {sα,´et,$}の固定部分群はGL(Λ0)の連結簡約部分群を定める.
(2) 比較同型
Λ0⊗Zp Bcris
∼=
−→MW ⊗W Bcris
で,sα,´et,$はs0α∈MW⊗ にうつる.
このとき$:Runiv → OL0はRuniv→RunivG0 を経由する.
証明 必要ならLおよびFracW をとりかえることで,L0=Lの場合に帰着できる.
G$ :=GRuniv ⊗Runiv,$OLとおく.
*30このSは付録Bでも用いられる.
Breuil–Kisin加群M0 :=M(Λ0)を考える.Step 3の議論と同様にGal(Qp/L)同 変な射sα,´et,$:Zp→Λ0⊗はϕ不変なテンソルs0α,M0 ∈M0⊗を定め,さらにテンソ ルの集合{s0α,M0}の固定部分群はGL(M0)の連結簡約部分群になることがわかる.
定理B.6よりϕ∗M0をさらに係数拡大したM(M0)についてフィルトレーション を保つϕ同変同型
M(M0)−→∼= D(G$)(S)
が存在する.特にϕ∗s0α,M0 から底変換によりϕ不変なテンソル˜s0α ∈ D(G$)(S)⊗ が定まり,{s˜0α} の固定部分群はGL(D(G$)(S))の連結簡約部分群になる.あとは {˜s0α}が命題5.15の仮定(1)(2)を満たすことを示せば十分である.
D(G$)(S)⊗→D(G0)(W)⊗ ⊂(MW ⊗W Bcris)⊗においてs˜0α∈D(G$)(S)⊗はs0α にうつることがわかる.よって仮定(1)を得る.また定理B.5 (2)の2つ目の同型は フィルトレーションを保つので仮定(2)が満たされることもわかる.よって命題5.15 より主張がしたがう.
Step 5. RunivG0 によるS−K(G, X)の完備局所環の記述
SK0(GSp,H±) の x に お け る 完 備 化 を Uˆx0 と お き ,Uˆx0 ,→ SpfRuniv を
SK0(GSp,H±) 上の普遍アーベルスキームに伴うp 可除群から誘導される射とす
る.Serre–Tateの定理(定理A.36)より,アーベル多様体Ax の変形と,p可除群 G0 = Ax[p∞]の変形は等価である.また Ax の変形には Ax の偏極とシンプレク ティック・レベル構造が一意的に持ち上がる.よって,Uˆx0 ,→SpfRunivは閉埋め込 みである.
S−K(G, X)のxにおける完備化をUˆx とおき,その既約成分でx˜の像を含むもの をZとおく.これにより閉埋め込み
j:Z ,→Uˆx ,→Uˆx0 ,→SpfRuniv
を得る.特に,Z はアフィン形式スキームであり,Z = SpfRZ とかける(RZ は Runivの商である).RZがW 上形式的に滑らかであることを示せば定理5.4の証明 は完了する.
命題 5.17 jはSpfRGuniv0 ,→SpfRunivを経由する.
証明 射Runiv →RZ,Runiv →RunivG0 はともに全射なので,次を示せば十分である:
L0をLの有限拡大体とする.任意の射 $:Runiv → OL0 はRuniv → RGuniv0
を経由する.
F の有限拡大体F0 ⊂ E を任意にとる.F0 ,→ E ,→v Qp もv とかく.F0値点
˜
x0 ∈ShK(G, X)(F0)をSpecFv0 → SpecF0 →x˜0 ShK(G, X)の特殊化がZ に入るも のとする.
Λ0:=Tp(GR∨univ⊗Runiv,$OL0)(−1)とおくと,Λ0=H´et1(Ax˜0,Q
p,Zp)である.Step 1の議論をy = ˜x0に適用することでGal(Qp/L0)不変なテンソルsα,´et,˜x0 ∈Λ0⊗を 得る.{sα,´et,˜x0} ⊂ Λ0⊗が命題5.16の仮定(1)(2)を満たすことを示せば主張がした がう.
Step 1におけるsα,´et,˜x0 の構成より,{sα,´et,˜x0}の固定部分群はGZ(p) ⊗Z(p) Zpに 同型となるので,GL(Λ0)の連結簡約部分群である.よって仮定(1)が成り立つ.
仮定(2)を確かめるには比較同型 H´et1(Ax˜0,Q
p,Zp)⊗ZpBcris
∼=
−→Hcris1 (Ax/W)⊗W Bcris
でsα,´et,˜x0がs0αにうつることをいえばよい.
比較同型H´et1(A˜x0,Q
p,Zp)⊗ZpBdR
∼=
−→HdR1 (Ax˜0)⊗F0,vBdRでsα,´et,˜x0はsα,dR,˜x0
にうつることを思い出そう(定理 5.9).したがって Berthelot–Ogusの比較同型 HdR1 (Ax˜0)⊗F0Fv0 −→∼= Hcris1 (Ax/W)⊗W Fv0 でsα,dR,˜x0がs0αにうつることをいえば よい.
s0αの定義と定理5.9より比較同型HdR1 (Ax˜)⊗F Fv
∼=
−→ Hcris1 (Ax/W)⊗W Fv で sα,dR,˜x はs0αにうつる.よって仮定(2)は次の主張からしたがう.
主張 sα,dR,˜xとsα,dR,˜x0の(Hcris1 (Ax/W)⊗W Fv0)⊗ での像は一致する.
主張は[Ogu84, Theorem 3.10]を用いて次の2つを比較することで示される*31:
• Gauss–Manin接続付き相対1次de RhamコホモロジーV|ShK(G,X)F0
v
.
• S−K(G, X)上の普遍アーベルスキームから定まる収束アイソクリスタル.
*31[Kis10, 2.3.5]では[BO83, 2.9]を引用しているが,この結果にはZの平滑性が必要なためそのま ま適用することはできない.この事実および[Ogu84, Theorem 3.10]を用いる議論については伊 藤和広氏,伊藤哲史氏,越川皓永氏にご教示いただいた.