注意 2. 34 主偏極とは限らない場合でも同種類によりモジュライ問題を定式化し,
4.1 不分岐 PEL 型の志村データ
この小節では以後の議論で必要となる記号を導入する.以下のようなPEL デー タ*13(B,∗, V,h,i, h)およびそれに伴うデータを考えよう([今井, §4.1]).
Bを有限次元半単純Q代数とし,B の中心をF とおく.またBのZ整環OBで あって,OB⊗ZpがBQp の極大整環となるものを1つとる*14.Wedderburnの定
*13ここでは偏極(Polarization)および自己準同型(Endomorphism)に関するデータのみを考えるの でPEデータとよぶべきかもしれない.
*14[Kot92]のOBは本稿のOB⊗ZZ(p)に対応する.
理より,体k上の有限次元半単純代数は有限次元単純k代数の直積であり,有限次元 単純k代数はk上の斜体の行列環で尽くされる.特にF はQの有限拡大体の直積で ある.
∗:B→BをB上の正な反対合であって,OBを保つものとする.ただしB上の反 対合が正であるとは任意の0でないBR:=B⊗QRの元xについてtrBR/R(xx∗)>0 となることをいう.このような組(B,∗)の分類は知られている(Albertの定理).特 にF の∗不変部分環をF0とおくと,これは総実体の直積となる.
V を 0 でない有限生成左B 加群とする.また h,i を V 上のQ 値非退化交代 形式であって,任意の b ∈ B および v, w ∈ V に対してhbv, wi = hv, b∗wi とな るものとする.C := EndB(V) とおく.これは中心がF となる単純 Q代数で,
hf(v), wi=hv, f∗(w)i により定まる反対合f 7→f∗をもつ.
GをQ上の代数群でR値点が以下で与えられるものとする.
G(R) ={x∈CR×|x x∗∈R×}.
またG0をF0上の代数群でR0値点がG0(R0) = {x ∈(C⊗F0R0)×|x x∗ = 1}で 与えられるものとする(F0代数R0についてCR0 := C⊗QR0とC⊗F0R0の違い に注意せよ).最後にG1 := ResF0/QG0とおく.これはQ上の代数群でR値点は G1(R) ={x∈CR×|x x∗= 1}となる.
h:C→CRを∗準同型であって,hv, h(i)wiが正定値となるものとする(Cの反対 合として複素共役を考える).またhのG(R)共役類のなす集合をXとおく*15.こ
のとき組(G, X)は志村データとなる.
E :=E(G, X)を(G, X)のリフレックス体とする.これは次のようにして定義す ることができる.
BC 加群としての分解 VC = V1⊕V2を,h(z) がV1 およびV2 にそれぞれzお よび z で作用するものとして定める(定義より h(z) は B の作用と可換なので V1 および V2 は VC の BC 部分加群となる).このときE ⊂ C は BC の複素表 現 V1 の同型類の定義体である.すなわち,E はAut(C) の部分群{σ ∈ Aut(C) | V1とV1⊗C,σCはBC加群として同型}の固定体である.
最後にm := [F : F0](dimF C)1/2とおく.hが存在することからmは偶数にな る.そこでm= 2nとおく.
*15[Kot92] ではh−1 の共役類をX とかいている.この違いは正準モデルの定義の違いによる
(cf. [越川,注意5.21]).本稿では[Mil05,越川,今井]の定義にしたがう.
Bが単純Q代数のとき,対応するGは次の3つの型に分類される([Kot92, p.391]. B が単純とは限らない場合も[Lan13, 1.2.3.11]で扱われている).
A型:[F :F0] = 2のとき.このときCR ∼=Mn(C)[F0:Q]となり,G1(R)はユニタ リ群となる.
C型:F = F0 か つ G1(R) が シ ン プ レ ク テ ィ ッ ク 群 の と き .こ の と き CR ∼= M2n(R)[F0:Q] となる.
D型:F =F0かつG1(R)が四元数直交群のとき.このときCR ∼=Mn(H)[F0:Q] と なる.
A型およびC型においてGは(連結)簡約群になる.D型の場合,Gは2[F0:Q]個 の連結成分をもつ.以下では簡単のためB が単純Q代数であるとし,さらにA型お よびC型のみを考える.
第3節で扱ったGQp が不分岐かつKpが超特殊部分群という状況を考えるために 以後はさらに次を仮定する.
(1) BQp はQpの不分岐拡大体上の行列環の直積と同型である.
(2) 次の条件を満たすOBの作用で安定なV のZ格子Λが存在する:
h,iはΛ上のZ値非退化交代形式を誘導し,さらにΛZp := Λ⊗ZZp はh,iに ついて自己双対的である.
このときGQp はQp上の不分岐簡約群となる.KpをΛZp の固定部分群として得 られるG(Qp)の超特殊部分群とし,KpをG(Apf)のコンパクト開部分群とする.
最後にモジュライ問題の定式化で必要となる多項式を導入しておこう.OB⊗Z(p)
の Z(p) 基底 α1, . . . , αr を 1つ固定し,detV1 := det(t1α1+· · ·+trαr;V1) とお く.これは t1, . . . , tr を変数とする次数がdimCV1の複素斉次多項式である.この ときdetV1 の係数はCの部分環OE⊗Z(p) に含まれる.実際,リフレックス体E の定義よりV1の同型類はE 上定義されるので,detV1 の係数はE に含まれる.一 方で,V1自体が定義される E の有限拡大体 E0 を1 つとると,適切なV1 の基底 について各αi のV1への作用の行列表示の成分は全てOE0 ⊗Z(p) に入る.よって detV1 の係数はOE0⊗Z(p) にも含まれる.これらを合わせることでdetV1 の係数は OE⊗Z(p) =E∩ OE0⊗Z(p)
に含まれることがしたがう.
以上のデータから志村多様体 ShKpKp(G, X) が考えられる.第 4.2 小節では OE⊗Z(p)上のモジュライ問題SKp を定義してその表現可能性を示す.そして続く 第4.3小節では志村多様体ShKpKp(G, X)がSKp の一般ファイバーの連結成分とし てあらわれることを示し,ShKp(G, X)の整正準モデルの存在を導く.