第 6 章 論理体系を用いた命題概念の分析 135
6.2 様相同伴とベーシックロジックを用いた分析
第6章 論理体系を用いた命題概念の分析 145
N, w|=P ⇔ w∈U(P) (⇔w∈V(2P)) N, w|=⊥ 成り立たない
N, w|=A&B ⇔ N, w|=A かつ N, w |=B N, w|=A∨B ⇔ N, w|=A または N, w|=B
N, w|=A ⊃B ⇔ ∀v∈W(wRv かつ N, v|=A ならばN, v|=B)
直観主義論理の|=は複合式に関しても単調な形で定めるのが自然であり,この定義は,
S4翻訳とも整合的である.
第6章 論理体系を用いた命題概念の分析 146 これは,古典論理よりも弱い論理であるところの直観主義論理などを必然性演算子を用い て,強い論理である古典論理へと埋めこむことで,それらがどのような論理体系であるの かを比較検討する試みであると言える.このことによって,各々の体系が持つ含意を中心 とした結合子によって特徴付けられていた各論理体系の命題概念を,古典論理の含意と必 然性演算子を用いて比較可能になったということである.これはまた,必然性演算子を用 いて,命題概念が持つ性質を説明することが可能となったということも表している.
このように必然性演算子を用いて,非様相論理が扱う命題の多様性を統一的な仕方で扱 うことができるのであるが,様相同伴関係を用いて扱うことができるのは,基本的には含 意に着目した論理体系の分類についてのみであり,構造規則の有無が関係する分類,連言 や選言に関わることについては,現状では詳細に扱うことができない.そのため,様相同 伴関係を用いた議論では,構造規則を明示的に操作することによって与えられる線形論理 については,その比較を行うことが十分にはできないと考えられるのである.しかし,構 造という観点からの分類は,ベーシックロジックを用いることによって行うことが可能で ある.そのことについて,以下で再度見ていくことにしよう.
6.2.2 ベーシックロジックによる分析
ベーシックロジックは,第5章において見たように,そのシークエントの環境に付され る条件を調整することで,様々な論理を形式化することができるのであった:
B BL BR BLR
BC BLC BRC BLRC
BW BLW BRW BLRW
BCW BLCW BRCW BLRCW
様相同伴関係に関連する論理体系は,古典論理BLRCW,直観主義論理BLCWの二つ だけである.このとき,古典論理と直観主義論理の違いは,右辺の可視性を崩しても良い かという点の違いだけである.この違いはシークエントの後件の複数性を許すか許さない かによる違いである.ベーシックロジックを用いて論理体系を分析しようとするときに基 準として用いられている概念は,シークエントの環境,つまり,構造である.シークエン トの環境を調整することで,様々な論理体系を扱おうとしているのである.これは,構造 について何も条件を課されていない論理体系を考え,そこに構造に関する条件を加えてい くことで,様々な論理体系を一様な仕方で扱おうとする試みであり,この構造という観点 からすると,線形論理はBLRとして与えることができ,直観主義論理や古典論理と比較
第6章 論理体系を用いた命題概念の分析 147 することが可能となる.直観主義論理や古典論理では,弱化と縮約を用いることが許され ている(好きな命題を導入したり,まとめたりすることができる)ため,これらの体系の 命題は,推論の中で何度も用いることができるのである.一方,線形論理が扱う命題は,
一度消費されてしまえば消えてしまうような命題である.構造に対する条件を変えること は,シークエントの環境を変えることになる.それが結果として,命題が持つ性質を変え ることになるのである.
ベーシックロジックを用いた論理体系の分析は,様相同伴を用いた場合の分析とは異な り,諸論理体系を構造という観点から分類しようとする試みである.このように述べる と,様相同伴とベーシックロジックを用いた命題についての分析との間には,大きな隔た りがあるように思われるかもしれないが,実際にはそうではなく,これら二つの見方は,
非様相論理を分析する際の視点の違いにすぎないと考えることができる.
6.2.3 二つの分析
本論では,様相同伴とベーシックロジックという二つの尺度を持って形式体系が持つ性 質の分析を行ってきた.様相同伴の議論の際には,埋め込み先の必然性演算子の振る舞い を見ることで,もとの非様相論理の命題が持つ性質を考察できる.さらに,様々ある非様 相論理の体系をすべて,一様な仕方で,対応する様相論理に埋め込みができたことによ り,共通の基盤の下で,非様相論理の体系を比較検討することができるようになったと考 えられる.そのことによって,命題概念に多様性があること,またその多様性の中にも一 定の構造があることを明らかにすることができた.つまり,各論理体系の特徴を埋め込ん だ先の様相論理の違いとして特徴づけることが可能であるということが明らかになったと いうことである.様相同伴関係を用いた,各論理体系の間の比較は,ベーシックロジック の考え方を用いて,その特徴づけを行う場合よりも,広範囲の論理体系について考察でき るという利点がある.
一方,ベーシックロジックでは,論理体系Bを基本とし,シークエントの環境に対す る条件を変化させることで,様々な論理体系を手にすることができた.ベーシックロジッ クでは,結合子をシークエントの構造を反映したものと考え,論理結合子を固定し,その 違いを構造の反映のされ方の違いに帰着したのである.そのため,論理体系を分類する際 に用いた基準は,構造についてのものである.ベーシックロジックを用いた分析では,様 相同伴関係を用いたときには考察することのできなかった,連言や選言に関わる性質を変
第6章 論理体系を用いた命題概念の分析 148 化させることによって生じてくる論理体系を分析することができるという利点がある.
このようにそれぞれの視点から述べると,その二つの分析の方向性は全く相容れないよ うに思われるがそのように考えるの早計である.次の点について考えてみよう.
様相概念は,到達可能な世界の間の関係についての制約が変化することで各論理体系で 扱うことのできる命題が持つ性質を変化させることができるのである(ラベル付きシーク エント計算の二項関係について考察した際に見たように,ラベル付きシークエント計算を 用いたときの各体系の違いは,二項関係の違いに集約され,到達可能な世界の間の関係に ついての制約が変わると,命題が持つ性質が変わるのであった).一方,構造は,シークエ ントの環境を変えることによって,命題が持つ性質を変化させることができるのである.
この二つの見方は,一方は意味論の観点からの考察であり,もう一方は,証明論の観点か らの考察であるという点で,未だ隔たりはあるが,直観主義論理をS4にも線形論理にも 埋め込むことができるという事実から,全く無関係ではないこと,ある一定の共通の概念 を有していると考えるのはそうおかしな見方ではないように思われる.
また,線形論理とS4では,それぞれ,!と2が直観主義論理の命題が持つ性質をカバー していると考えられるのであるが,ジラール翻訳とS4翻訳の違いは,その尺度が異なっ ているだけで,どちらも,直観主義論理の命題が持つ性質をカバーしていると考えること ができるのである.このように考えることは,線形論理の!の推論規則とS4の2の推論 規則が全く同じ形で与えられていることからも,自然な見方であるということがわかる.
このことから,様相同伴で見たような必然性演算子を用いた論理体系の分析と,構造に 着目したベーシックロジックの分析とが,全く無関係ではないであろうという予想が立 つ.では,これらの点を踏まえ,以下で,これら二つの分析の中心概念とされる,様相と 構造が命題概念が持つどのような性質を表現することができるのかということについて見 ていこう.