中小企業が東アジア経営、さらにはグローバル経営に向かう道筋は、組織学習のプロセスであ り、企業の成長の度合いに応じ、企業の形を決め、東アジア・グローバルな企業グループでの組 織設計、経営方式の下で、ダイナミックな競争力を確保するために自社の組織能力を形成してい くものである。リスクを最小にし、組織学習を最大限にする必要がある。
以下、ガルブレイス(2002)のフレームを改良して、東アジア経営、グローバル経営に向けての レベル的発展の必要条件を明らかにしよう。知識経済化時代においては、業種に応じ、従来から の発展段階的アプローチを取らず、一気に東アジア経営、グローバル経営に向けた取り組みが可 能となってきているが、経営資源を獲得して、組織設計し、必要な経営方式を定めて必要な組織 能力を形成する必要がある。
なお、記述の基本スタイルを下記レベル4以降は、製品の現地生産化を行う世界的製品別事業 部制をベースに記述している。イノベーションについては、本国・本社で新製品のコアの研究開 発、設計を行う。また、各レベルの記述は、レベルが向上する毎に、本社と子会社とが連携する 組織能力が追加的、累積的に加えられて記述されるスタイルを取っている(参考図表(7)参照)。
レベル 1 ( 輸出 ) 1-1 本国からの輸出
本社が、関連する企業との間で構成する企業グループが保持する経営資源(組織能力、経営資 産)をベースに、自国の産業・経済集積の利益、等を活用して実現した「製品供給の優位性」を 体現する製品・サービスを輸出する。海外では主に現地の販売代理店に現地販売を委託する。こ のままでは現地でのブランド構築、マーケティング活動に支障をきたすので、現地販売会社の設 立に向かう。
1-2 海外に販売子会社を設置して輸出
現地販売子会社は、現地でその優秀さをもって国際ブランドを構築し、マーケティング活動を 行う。また、国内での「イノベーションチェーン」に関連して、海外子会社は、本社に対し、現 地市場に向けての製品改良・新製品開発の提案を行う。本社は、これら情報提供を国内の「イノ ベーションチェーン」に繋げ、本国と外国との間の2国間の国際的な「イノベーションチェーン」
の形成とマネジメントを実施する。
ⅰ 子会社の役割 現地での販売、マーケティング
ⅱ 営業方式 輸出
ⅲ 組織体制 国内本社と現地販売・サービス会社
ⅳ 移動する優位性 製品・サービスに体化した「製品供給上の優位性」の移転
ⅴ 連携する組織能力
国際的なブランド管理等のマーケティング 国際的なイノベーション
レベル 2 ( 現地での合弁会社の設立 )
パートナーを選んで投資に共同参加をして貰う場合で、現地パートナーを利用して市場へのア
クセスを果たす。パートナーを利用して新市場での事業のやり方を学び、自社のどの優位性が移 転可能か、どう修正するかを学び取る。本社が、この会社を買収すると次のレベルに移行する。
国際的なイノベーションマネジメントは、ほぼ同様であろう。
ⅰ 子会社の役割 ローカルパートナー
ⅱ 営業方式 パートナーシップ
ⅲ 組織体制 国内本社と現地合弁会社
ⅳ 移動する優位性 本国からの「製品供給上の優位性」の一部を移転、パートナーからの資 源優位性を移入
ⅴ 連携する組織能力
国際的なブランドの管理等のマーケティング 国際的なイノベーション
国際的なパートナー構築と連携 レベル 3 ( 現地生産の新規立ち上げ )
本社が、海外直接投資により、海外子会社に生産、販売、等の複数の機能を持たせる。現地で 部品供給企業を育成する、また、本国から部品企業を移転させる等によりトータルな「供給チェ ーン」を設ける。これは、本国での「製品供給上の優位性」を、異文化・異言語の国に修正して 移転することであり、本社各部と現地サイドとの連絡調整、現地での事業のオペレーションと組 織の管理運営を行うことになる。国際的なイノベーションについては、現地生産が開始する事に より、本社の研究・開発部門と連携した現地ニーズにあった新製品開発と生産、販売、等が開始 される。
ⅰ 子会社の役割 外国での生産、販売、等
ⅱ 営業方式 外国での営業
ⅲ 組織体制 海外事業部門による子会社の管理
ⅳ 移動する優位性 本国からの「製品供給上の優位性」の多くを修正移転
ⅴ 連携する組織能力
国際的なブランドの管理等のマーケティング 国際的なイノベーション
国際的なパートナー構築と連携
本国からの「製品供給上の優位性」を修正移転し、管理運営。
レベル 4 ( 子会社の戦略活用 )
このレベルの企業は複数国での生産拠点を持つ東アジア経営、更には複数大陸の市場を目指す グローバル経営の性格と組織能力を持ち、子会社に多くの責任を与え、子会社間を多次元に亘る ネットワークに組織化している。子会社の役割は、事業本部単位での海外での販売・サービス、
生産、研究、開発、等の戦略の実行にあたる。その役割はまだ、本国で生み出された多様な優位 性と戦略の実行に止る。
本社の「供給チェーン」のマネジメントにおいて、各事業部の各機能とグローバルに展開した
販売・サービス、生産、等の各拠点間のグローバルな「供給チェーン」の効果的、効率的なオペ レーションが実施される。また、「イノベーションチェーン」のマネジメントの面でも、本社の 研究開発部局とグローバルに展開した補完的な研究・開発上の拠点との間を含むグローバルな
「イノベーションチェーン」の効果的、効率的なマネジメントが実施される。これらの活動によ り、グローバルにダイナミックな競争力の確保を目指す。
ⅰ 子会社の役割 本社の海外戦略の遂行
ⅱ 営業方式 東アジア域内、グローバルな販売・サービス
ⅲ 組織体制 世界的地域別事業部制、世界的製品別事業部 等
ⅳ 移動する優位性 本国からの「製品供給上の優位性」の多くを、「イノベーション上の優位 性」の一部を移転
拠点国から知識・技術の移入
ⅴ 連携する組織能力
東アジア域内、グローバルなブランドの管理等のマーケティング 東アジア域内、グローバルなイノベーション
東アジア域内、グローバルなパートナー構築と連携 本国からの「製品供給上の優位性」を修正移転、管理運営 海外の子会社の業務統合
レベル 5 ( 本社機能の子会社での分担 )
子会社に本部機構の内の機能面での研究開発、マーケティング、等が分散配置され、子会社が 事業戦略、経営上の優位性の開発に高い貢献を行い、東アジア内で、また、グローバルに統合的 な経営上の優位性を形成しうる。このレベルの経営の最大のネックは複雑性であり、各地に分散 する本部機能等の調整を文化・言語の異なる国との間で東アジア域内、また、グローバルに行う 必要がある。この調整の一部は最近のインターネット等の長距離通信技術の進展により、可能と なっている。また、価値観の共通化等の規範的な統合も必要になろう。
具体的には、「供給チェーン上」の各機能、「イノベーションチェーン」上の各機能についても、
国家を跨り、各機能のグローバル最適な場所に立地される傾向にあり、これらのグローバルな連 絡調整と統合が不可欠である。
ⅰ 子会社の役割 本社機能の分担と連携
ⅱ 営業方式 東アジア域内、グローバルな販売・サービス
ⅲ 組織体制 国家を跨る本社機能の分担配置
ⅳ 移動する優位性 優位性は相互交流し、本国での本社機能の分担執行 と東アジア域内、グローバル機能統合
拠点国子会社での本社機能の分担執行
ⅴ 連携する組織能力
東アジア域内、グローバルなブランドの管理等のマーケティング 東アジア域内、グローバルなイノベーション
東アジア域内、グローバルなパートナー構築と連携
本国からの「製品供給上の優位性」と「イノベーション上の優位性」を 修正移転、管理運営
海外の子会社間の統合
各国に分散配置される本部機能の統合・管理 レベル 6 ( バーチャルな本社の設置と運営 )
東アジア経営、グローバル経営のレベルの高度化に伴い、本国・本社の地位が相対化されてバ ーチャルな本社を本国以外の適切な国・地域に設置するケースが見られる。
例示としては東アジア域内、グローバルな持株会社を本国以外の国・地域に設置する。東アジ ア域内、グローバルな合弁企業を設置する場合に、その本社を両当事国以外の国に設置する。
これらの場合においては、本社組織はバーチャルに存在し、各取締役は本社における機能的役 割を付与され、定例会議等で各取締役は一堂に会するが、実態的には各国に駐在して、それぞれ が業務を分担して実行することとなる。
グローバルなIT企業においては、研究、開発、生産、販売・サービスの各層において、必要 な経営資源のグローバル最適な調達を行って、グローバルにダイナミックな競争力の確保に成功 している企業がある。
日本の中小企業にはこの事例が多くないとみられるので、詳細な役割分担の記述は今後の課題 である。