本研究では,災害対応ロボットの迅速な実用化のために,実用化を見越した研 究段階から考慮すべき課題について検討し,それぞれの課題の解決策を提案す る.災害対応ロボットの,研究成果の実用化のボトルネックとして,実用化フェ ーズにおける実環境での実証実験中の安全性確保の困難さ,信頼性を低下させ ることなく短期間でロボットの仕様変更や改良を実施する困難さ,実運用に耐 えうるセンサの選定の困難さを挙げ,これらを解決することを目的とする.
災害対応ロボットは,サービスロボットの中でも開発が遅れている.原因はい くつかあるが,災害が起きていない平時での用途開発の不足による,事業化の遅 れなどがある.災害対応ロボットの事業化には,警備・巡回型のロボットなどの サービスロボットの災害時の活用も必要となる.また,複雑な災害現場で必要と なる災害対応ロボットの仕様を定めにくいために,実用化の障害となる可能性 がある.さらに,災害対応ロボットには,いくつかの充たすべき基本的な機能が 必要である.災害対応ロボットに必要な,機能や性能評価の研究は進んでいるが
[48] [49],ロボットに搭載する電子デバイスの耐放射線性能に関する情報が不足
しているなどの問題がある.
そこで,開発する災害対応ロボットを事業化する際に必要な,移動ロボットの 公共空間での実証実験における安全管理(リスクマネジメント)について,国際 標準規格の視点から実験での安全上の課題を整理・明確化し,安全管理方策を提 案する.次に,再利用性と開発効率の向上を目的とし,モジュール化したハード ウェアを用いて災害対応ロボットのプロトタイプを構築し,ロボット用ミドル ウェア(RTミドルウェア)を用いてソフトウェア的にもモジュール化すること によるロボット開発の効率化を検討する.最後に,災害対応ロボットの電子部品 に必要な基本機能である,移動ロボットのセンサの耐放射線性能について検証 を実施し評価を行う.
これにより,災害対応ロボットの開発や実用化,活用が加速し,災害時におけ る安全安心の実現や,インフラや産業設備などの老朽化対策など,社会的な問題 の解決に寄与できると考える.
1.5.2 構成
本論文は以下の全5章で構成され,概要は以下の通りである.
第 1 章では,本研究で扱う災害対応ロボットの実用化の課題と必要性,実用 化や,災害対応ロボットの定義について整理する.
第2章では,災害対応ロボットの実証実験における安全性確保について考える.
研究開発途中の災害対応ロボットの実証実験において,製品開発と同等な安全 管理を実施することは煩雑になり,研究開発に支障をきたす.また,安全管理が 実施される場合においても研究者の経験値により,暗黙知的に実施されること が多い.そこで,災害対応ロボットの基本機能の一つである移動機能に焦点を当 て,移動ロボットの安全性について検討する.はじめに,移動ロボットが公共空 間における実証実験を実施するのに必要な安全上の課題を,国際標準規格に基 づくリスクマネジメントの視点から,明確化する.さらに,煩雑な安全管理を安 全規格の枠組みを元に整理し,研究者でも実施しやすい安全管理方策(リスクマ ネジメントとリスクマネジメント)を提案する.提案した方策を元に,移動ロボ ットの実証実験の一つである「つくばチャレンジ」を事例に有効性の評価を行う.
第 3 章では,災害対応ロボットの研究フェーズから実用化への隔たりの問題 について述べ,効率の良い開発方法について考察する.災害対応ロボットは,未 知の環境で使用されることが多い.このため,環境に合わせて,迅速な開発が必 要であるが,模索的な開発となってしまい,開発費や人員,開発時間などの限ら れたリソースで行うには限界がある.そこで,開発時間などを短縮するために,
市販品の製品や他で開発されたソフトウェアモジュールを再利用して開発効率 を上げる方策を提案した.この方策を元に,共通プラットフォームとなりえる,
研究開発用の災害対応ロボットプラットフォーム「MATOI」を構築し,実証実 験により実用性の検証を行った.さらに,他の研究開発ロボットと比較し,開発 方策の有効性を検証した.
第 4 章では,災害対応ロボットの実用化において考慮すべき開発情報の共有 がされにくい問題について述べ,その解決策を提案する.災害対応ロボットには,
走破性能だけでなく防塵・防水など耐環境正などいくつかの基本機能が必要と なる.その中でも,放射線耐性に関する情報は不足しており,研究開発時に考慮 していない機能を,実用化の段階になってから対応を検討するのでは,非常に非 効率である.また,電子部品の放射線性能評価には多額のコストと時間を要する.
このため,放射線性能評価情報は,開発企業のノウハウとなり情報が共有されに くい.そこで,災害対応ロボットの自律移動機能などに多用されている 4 種類 のレーザーレンジセンサモジュールに対して実際に耐放射線試験を実施し,耐 放射線性能を検証した.さらに,実験結果より確認された個々のセンサで異なる 破損特性について,移動ロボットの各機能に対しての信頼性に与える影響につ いて考察し,取るべき方策について検討した.
第5章では,全体の結論と今後の課題を述べる.
なお,本論文では利便性のために規格はJIS規格番号を主とし,JISで制定さ れてない規格についてはISO規格番号で記載する.
公共空間などの実環境での実証実験における リスクマネジメントの方策
本章では,移動ロボットの実証実験における安全性確保の課題について述べ る.研究開発途中の移動ロボットの実証実験において,製品開発と同等な安全 管理では確認・検証作業が煩雑になり,暗黙知的に実施されることが多い.そ こで,公共空間などの実環境での実証実験について,国際標準規格に基づく安 全管理の視点から,屋外の公共空間における移動ロボットの実証実験での安全 上の課題を整理・明確化する.その課題を解決するための安全管理の方策を提 案する.提案した方策を元に,移動ロボットの実証実験の一つである「つくば チャレンジ」を事例に有効性を検証する.