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第2章  本論文における問題意識と全体的目的

2.2 本論文の全体的な目的

   

  先に記した問題を意識しながら,本論文では,高校生を対象として青年期中期における 自己愛の構造を分析し,学校不適応との関連を検討することが全体的な目的である.その ために以下の3項目の課題を設定して検討するものである.

  (1) 本論文で問題にする自己愛障害の中核的指標は,自然な自己顕示性を表出できない ことであり,傷つきやすさを伴うものである.そのために,Kohut(1971,1977)の自己心理学 に基づいて作成された2類型の自己愛尺度(大学生用)を,高校生を対象とした傷つきや すさを含んだ過敏なタイプの自己愛傾向尺度に再構成しなおし,見いだされた下位尺度の 側面を反映する尺度を作成する,そして,この自己愛傾向尺度と他の尺度との関連を検討 し,信頼性と妥当性の基礎的検討を行い,自己愛傾向尺度の下位側面の諸特徴を明らかに することである.

 

(2) 自己愛傾向は,他者からの評価を強く欲しており,これが学校生活への適応にも大 きな影響を与える可能性があることを検討する.また,学校忌避感情が自己愛傾向と基本 的な信頼感に対してどのような影響を及ぼしているのかを検討することで,自己愛傾向者 の自己および他者との関係について明らかにできると思われる.すなわち,学校生活では,

環境への適応感を得るための関連要因が多く存在するが,その要因の一つである性格傾向 の諸特徴はどのような影響を及ぼすのかを検討するものである. 

(3)自己愛傾向と親子関係,学校生活への適応の関連を検討する.Kernberg,(1975)やKohut

(1971,1977)は,こどもが母親との情緒的関係がほとんどない状態で養育された場合は,自 己愛に障害がおきることを指摘している.そのうえ,宮下(1991)も,親の受容的な養育態 度が自己愛傾向を抑制することを示している.一方,鈴木ら(1995)は,高校1年生で中途 退学する生徒は,親や教師などサポ−ト源を持たないため学校においてストレス反応を起 こしやすいことを指摘している.そこで,自己愛傾向と親の養育態度との関係が,学校生 活への適応に対してどのような影響を及ぼしているのかを検討するものである. 

第3章         

本論文における自己愛傾向尺度の作成 

 

現在,自己愛を測定する尺度としては,NPI (Raskin & Hall,1979)やその日本版(大石,1987;

小塩,1998a;宮下・上地,1985;佐方,1986)がよく用いられる.これらの尺度は,DSM-Ⅳで

診 断 され る自 己愛人 格障害 を測定す るには 有 用である と思わ れる.し かし,

Kohut(1971,1977)理論では,自己愛的な要求や自己への誇示を強くもち,共感性欠如がある 自己愛と,軽蔑への過敏さや抑うつ傾向,自発性の乏しさ,心気傾向を特徴とする自己愛を 挙げており,両タイプの患者を自己愛人格障害として扱っている.すなわち,Kohutの唱え る自己愛者は,自己の成熟が小さいことや弱々しく傷ついた自己を抱えていることを隠す ため,自己への誇示を表す人々であり,他人のことを考える余裕のない人であると考えら れる. 

そして,人は成長する過程で,常に周囲からの評価によって自分自身を確かめながら成 長している.このように考えると,成長期にある高校生にとって外的な評価を自分自身の 評価として捉える機会が多いと思われる.また,先に記したように自我の確立という重要 な時期であり,自分への信頼感も揺れ動くことになる.つまり,彼らは,自分で思ってい る理想自己像と現実的な自己像にずれを感じているので,他者評価を受けなければいけな い場面に出会うと自己イメージが揺れることになるのである.ゆえに,自己愛的となり傷 つきやすくなる.このように高校生にとって外的自己と内的自己とのギャップは,対人関 係での傷つきにつながり,他者とのかかわりを避けることになることが予想される.それ ゆえに,高校生の秘めた誇大性を伴い,過敏で傷つきやすい自己愛傾向を測定するには,

NPIやその日本版ではそぐわないと考えられた.

そこで本章では,Kohut 理論に基づく自己愛の尺度を再構成し,その信頼性および妥当 性の検討を試みることとする.