日本における中小企業の資金調達は、現在もなお金融機関からの借入が主流であり、金 融機関に依存したものである。いわゆる間接金融主体の資金調達方法であり、その状況は 現在も継続している。その一方で大企業においては、これまで市場における株式発行によ る調達をはじめとした様々な資金調達手法が発展してきている。このような大企業と中小 企業との資金調達の選択肢の有無という面での格差は、選択肢の増加という面では解消す る方向性に向かってはいるものの、依然として中小企業の資金調達問題とし認識できるも のである。
大企業は資金調達手法が多様化しており、選択可能である。たとえば、金融機関からの 借入か株式による資金調達か社債かなど、その企業の状況に見合った資金調達を選択可能 である。その中で何が一番コスト面で有利か、すなわち財務の機能の「収益性」を「利用 可能性」が保証された上で検討することができる。資金調達が多様化しているということ は、資金調達におけるポートフォリオの構築が可能なのである。また、坂本(1990)が指 摘しているように、大企業と資金供給先である金融機関を企業集団としてとらえるならば、
個別の企業の財務の評価ではなく企業集団全体の財務評価を行うことも必要となってくる。
このように大企業の場合は資金調達の選択肢があること、また多くの場合、金融機関との 密接な関係から資金供給が保証されていることが特徴であるといえよう。
しかし、一般的に中小企業は独立した企業であり企業集団の一員でもないため、金融機 関の資金供給が保証されてはいない。そのために中小企業は金利といった調達コストの最 小化よりも、資金調達の可能性を基準に行動する傾向にある。つまり金利コストの高低で はなく、借入の可否に重点を置かざるを得ない。これは中小企業の資金調達の選択肢が金 融機関からの借入に限定されており、かつ金融機関にその資金を大部分依存していること が要因である。その結果、中小企業においては金融機関に依存した資金調達が主流となり、
それと同時に金融機関は中小企業に対して優位な関係を形成してきたのである。このよう な金融機関優位な関係のもと、金利コストの上昇は「財務の機能」の「収益性」の低下に っながる可能性がある。
一50・
そのような状況下で、中小企業の資金調達において直接金融の選択肢が多様化してきて いる。例えば、新興市場や未公開株市場といった株式による資金調達、東京都や大阪府な どにおいて行われているCLO(ローン担保証券:Collateralized Loan Obligation)による資 金を供給する方策などがその一例である。また、金融機関の中には無担保無保証のビジネ スローンを積極的に展開している現状もある。
このように表面的には中小企業の資金調達の手法が多様化し、中小企業には円滑に資金 が回っているかのように見える。しかし、そのような中で大企業との比較ではなく、中小 企業の内での二極化が生じてきている。中小企業が金融機関から借入れる際に、借入の可 否はもちろん、金利の設定など条件面にも格差を設定する傾向が見られる。つまり資金調 達が多様化している中小企業群とそうではない中小企業群が存在し、それは中小企業の資 金調達における新たな問題であると指摘できる。
また金融機関は中小企業向け融資に表面上は積極的であるが、その実態を検証すると、
金融機関が迫られている収益性向上という目標と関連している。中小企業向け融資の残高 は減少傾向にあることも事実である。現在の金融機関における中小企業向けビジネスへの 関心の高まりは、かつて見られた企業の金融機関離れによる代替的な中小企業向け融資残 高の増加とは異なっていると考えられる。これは金融機関を取り巻く環境が収益性追求と いう動きと重なり、それに対応し収益を得られる可能性が高いという観点から、中小企業 をターゲットとしたビジネスの拡大として把握することが可能である。
以上のような点を鑑み、本章では仮説を「中小企業の資金調達環境は悪化している」と 設定し、金融機関における中小企業向け融資を中心に、金融機関(特に都市銀行)の中小 企業向けビジネスの実態を把握する。そして中小企業の資金調達環境を把握した上で中小 企業が今後取り得る方向性を示唆することを目的とし、資金調達において、中小企業群の
中でその可能性が二極化していると結論付けるものである。
第2節 先行研究と本章の位置づけ
中小企業の資金調達に関する研究は数多く存在するが、ここでは代表的なものを例示す る・。村本(2000、2001aおよび2001b)は、中小企業金融という分野を金融仲介機関に よる情報の非対称性を克服するためにもっとも適合する分野と指摘している。IT技術の進
・51・
展により、スクリーニング、コントラクティング、モニタリングといった情報生産機能を 活用することが可能となった。スコアリングという技術が確立されることになり、中小企 業向け金融でも利用されるようになった2。その結果として、金融機関から中小企業に資 金が円滑に供給されるようになったと指摘している3。
佐藤(2003)によれば、BIS規制および金融検査マニュアルの弊害を指摘している4。
BIS規制には、海外業務を行う金融機関とその業務を国内業務に限定している金融機関と に対してそれぞれ異なった基準を適応している。海外業務を行う金融機関には自己資本比 率が8%以上あることを要求し、その一方で業務を国内に限定している金融機関には自己 資本比率が4%以上であることを要求している。この二っの基準の存在、いわゆるダブル スタンダードが問題を内在しているとし、都市銀行の多くはこのBIS規制によって中小企 業向けの貸出を抑制し、その結果として 貸し渋り 、 貸しはがし と言った状況へと結 びついていると指摘している。また、金融検査マニュアルに関しては、先ほどのBIS規制
とは反対に、金融機関の大企業向けおよび中小企業向け貸出に対して同じ基準で判断して いる点が問題であるとしている。大企業と中小企業向け融資とが同.V基準で判断されるた め、特に中小企業に対する貸出の検査が厳しくなっており、これが 貸し渋り 、 貸しは がし の温床となっていると述べている5。
このように先行研究をレビューすると、中小企業向けの資金調達は改善されていると指 摘しているものと、厳しくなっていると指摘するものとに大きく分けて二つに分類できる。
しかし、中小企業の資金調達の現状を観察すると、金融機関(ここでは特に都市銀行)の 中小企業向けビジネスの拡大という実態を把握することができる。こういった現象を勘案 すると、スコアリングの技術の向上により中小企業に円滑に資金供給されていると把握し て良いのか、 貸し渋り という状況のなか、金融機関は中小企業向け貸出に積極的に行動 している側面も存在しているのではないか、といった点の検証が不十分であり、これを検 証する必要があると考える。本章では金融機関の中小企業向けビジネスを中心に検証する
こととして、金融機関が今日中小企業向けビジネスを拡大している要因を分析する。それ により中小企業の資金調達の現状を把握し、その実態を考察することにする。
第3節 中小企業の資金調達の現状
一52・
第2章でみたように金融機関全体の中小企業向け貸出の残高は減少傾向にあるが、ここ ではより詳細に都市銀行に焦点を当てて中小企業向けの貸出状況を分析する。図3・1は金 融機関の業態別に1990年3月末から2004年3月末までの中小企業向け貸出金の残高の 推移をグラフ化したものである。これによると、金融機関全体では1995年3月には365 兆1,553億円とピークになっており、都市銀行は1994年3月末に113兆3,475億円でピ ークとなっている6。しかし2001年3月に回復はするものの減少傾向にあることがうかが える。他の業態では地方銀行、第二地方銀行および信用金庫は1996年3月に、また信用
図3・1 金融機関別中小企業向け貸出推移(グラフ)
億円
1,200,000
(出所)表1・と同じ
(注) 金融機関別データは2003年まで公表されている
+都市銀行
噸一地方銀行 de第二地方銀行
→P・信用金庫
・−魔=Ek信用組合
・一ュte政府系金融機関
Ptその他
組合と政府系金融機関は1995年3月にそれぞれピークを迎え減少傾向にある。
次に国内銀行(都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行、長期信用銀行を含む)
の数値を利用して規模別貸出残高、貸出平均、比率を見てみる(表3・1)7。これによると 国内銀行の中小企業への貸出残高は1996年度末の255兆4223億円がピークとなってい
・53・