−3 −2 −1 0 1 2 3
−1.5
−1
−0.5 0 0.5 1 1.5 2
xi tanh(x
i) log(cosh(x
i))
O
図 4.7: 双曲線関数を使った U(xi)と ϕ(xi)
第 5 章
ノミナル軌道追従 SP–D 制御
マニピュレータの基本的動作である位置決め(定置)制御問題に対するSP–D制御の考察
は,文献[15, 16]などが詳しい.しかし ,マニピュレータに行わせようとするすべての作
業が定置制御だけで実現できるわけではない.溶接や塗装などの作業を達成する場合には,
軌道追従制御を考える必要がある.
本章では,定置制御に用いられていた従来のSP–D制御法を,軌道追従制御問題に適用 できるよう拡張する.一般に,追従制御問題では誤差のフィード バック補償だけを行うよ りも,モデルを使ったダ イナミクス補償項を加えた制御則の方が良好な追従を期待できる.
第3章で述べたようにダ イナミクスモデルにはモデル化されない動特性やパラメトリック な不確かさの問題があるが,本章ではこれらの不確かさが存在しない仮定の下,ダ イナミ クス補償項を加えたノミナル軌道追従SP–D制御則を提案し,その有効性を実験的に検証 する.
5.1 ノミナル軌道追従 SP–D 制御則
マニピュレータダ イナミクスにパラメトリックな不確かさが存在しない,すなわち θ˜=0 の仮定の下,2階連続微分可能な目標軌道 qd∈ <n が与えられるとする.また,位置誤差 および 速度誤差をそれぞれ次のように定義する.
e:=q−qd, e˙ := ˙q−q˙d (制御目的)
時刻 tが t→ ∞ のとき,位置誤差e および 速度誤差e˙ を e→0 かつ e˙ →0 とすることである.
(ノミナル軌道追従SP–D制御則)
ノミナル軌道追従SP–D制御則を次式で与える.
τ = ˆM(q)¨qs+ ˆC(q,q) ˙˙ qs+ ˆg(q)−Ks (5.1) マニピュレータダ イナミクスの性質(P3)を用いると,上式は
τ =Y(q,q,˙ q˙s,¨qs)ˆθ−Ks (5.2) と簡単に記述できる.ただし,θˆ=θ であり,仮想目標軌道を次式で定義する.
q˙s := ˙qd−Λϕ(e) (5.3) 右辺の第2項に非線形な飽和関数ϕ を含む点が,従来の仮想目標軌道と異なる.また,行 列 KおよびΛは,
K := diag{k1, . . . , kn} , ki >0 Λ := diag{λ1, . . . , λn} , λi >0 で定義されるゲ イン行列である.
さらに,仮想目標軌道との誤差を補助変数
s:= ˙q−q˙s (5.4)
で定義する.(5.4)式の q˙sに仮想目標軌道(5.3)式を代入すると,補助変数には次の関係が あることが分かる.
s= ˙e+Λϕ(e) (5.5)
上式は補助変数に非線形な飽和関数を含むことを表しており,この関係式が本研究の基 本的アイデアとなっている.ノミナル軌道追従SP–D制御則(5.2)式は,右辺の第1項が マニピュレータのダ イナミクス補償項,第2項が追従誤差のフィード バックである.(5.5) 式を第2項 Ksに代入すれば,位置ゲインが KΛ,速度ゲ インが K のフィード バックと なっており,PD制御を基盤にした簡単な構造であることが分かる.(5.5)式は変数sが飽 和特性を有する位置誤差 ϕ(e)と速度誤差e˙ で構成されることも表している.e˙ を q˙ に置 き換えれば,従来の定置制御[12, 13]で用いられていた誤差変数に一致する.
注意 1 前章の(4.3)式で表すように ϕ(e)は C1 級の関数であり,∂ϕ(e)
∂e が連続となるから q¨s = ¨qd−Λ∂ϕ(e)
∂e e˙ (5.6)
は連続である.むしろ,制御則を含めた閉ループ系が連続であるための条件が(4.3)式とし
て表れていると言える. 2
次に,制御則(5.1)式をマニピュレータの運動方程式(3.1)式に代入して,閉ループ系を 構成する(図5.1参照).
M(q)¨q+C(q,q) ˙˙ q+g(q) = Mˆ (q)¨qs+ ˆC(q,q) ˙˙ qs+ ˆg(q)−Ks
いま,不確かさが存在しない,すなわち,Mˆ (q) =M(q),C(q,ˆ q) =˙ C(q,q),˙ ˆg(q) =g(q) と仮定しているので
M(q)(¨q−q¨s) +C(q,q) ( ˙˙ q−q˙s) +Ks=0
となる.ここで,(5.4)式を上式の第2項に
q¨−q¨s = (¨q−q¨d) +Λ∂ϕ(e)
∂e e˙
= ¨e+Λ∂ϕ(e)
∂e e˙
= s˙
Robot
ϕ Λ
. .
τ .
-
++
-+
+ +
-θ ..
SP-D feedback loop
Dynamics compensator
q
K
q s qdqd
qd
e
e
図 5.1: ノミナル軌道追従SP–D制御 (ブロック図) の関係を第1項に代入すれば,次式の閉ループ系が得られる.
M(q) ˙s+{C(q,q) +˙ K}s=0 (5.7) 補助変数 sは(5.5)式のように e˙ と eで構成されるので,上式は
M(e+qd) ¨e+Λ∂ϕ(e)
∂e e˙
!
+{C(e+qd,e˙ + ˙qd) +K}( ˙e+Λϕ(e)) =0 (5.8) と変形できる.目標軌道 qd,q˙d,¨qdが入力であり,ある時刻においてこれらが零のとき,e と e˙ が定まればその後の運動が定まるので,変数 e と e˙ を閉ループ系の状態と考えるこ とができる.