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本章のまとめ

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弾性環境に接触するマニピュレータの力 制御

第5章および第6章では自由空間におけるマニピュレータの制御問題を扱ってきた.しか し,マニピュレータに行わせる作業には手先が物体(環境)と接触し,動作に拘束が生ずる 場合がある.文献 [15]では剛体環境により拘束を受ける場合のSP–D制御を使った力制御 について主に調べられている.本章ではマニピュレータの手先が弾性環境に接触する場合 の力制御問題に対してSP–D制御の適用を考える.研磨やバリ取りなど ,ある方向に一定 の力で押さえつつ他方向に目標軌道を描かせる作業を想定する.このとき,マニピュレー タの動作は接平面から拘束を受ける方向の力/位置制御問題,接平面から拘束を受けない方 向の軌道追従制御問題として捉えることができる [20, 21].これら 2つの制御問題を同時 に達成するようなエネルギー整形にもとづいたSP–D制御則を提案する.提案する制御則 は,ダ イナミクスモデルに含まれるパラメトリックな不確かさに対してロボット特有の適 応制御を利用して対処する.また,環境と接触する手先に加わる外乱外力に対して,制御 系の誘導L2ゲ インを用いたロバスト性(外乱抑制性能)を解析する.

7.1 制御問題の定式化

マニピュレ ータの手先が弾性環境に接触する場合(図7.1参照)の制御問題を明確にして おく.本章では,問題を簡単にするため n≤ 3とする.このとき,手先に加わる回転力に 関する成分は考慮しなくて済む.6自由度を扱う場合は,手先位置姿勢の表現形式によっ て幾何学的ヤコビ 行列と解析的ヤコビ行列を意識し,両ヤコビ行列の対応関係を把握して おく必要がある [4, 7].

図 7.1: 弾性環境に接触する2自由度マニピュレ ータ

マニピュレ ータの台座に設定した基準座標から見た外力 f ∈ <n や外乱としての外力 w ∈ <n が位置 p∈ <n にある手先に働く場合,マニピュレ ータのダ イナミクスモデルは 次式となる.

Mq¨+Cq˙ +g=τ +J(q)T (f +w) (7.1) ただし,右辺第2項の J(q)∈ <n×n は手先の速度 p˙ と関節角速度 q˙ を関連付けるヤコビ 行列である.右辺第2項は手先に備え付けられた力センサにより測定可能な外力 f とセ ンサ部以外の手先に加えられる外力などの外乱外力wが仮想仕事の原理により各関節のト ルクとして加えられていることを意味している.また,位置 pにおいて弾性係数 Ke (各

ここではn3とし ているので幾何学的ヤコビ 行列と解析的ヤコビ行列が一致し,問題が簡単化される.

要素が非負のn×n対角行列) の環境と点接触し,接平面上で摩擦が生じないものと仮定 する.このとき,マニピュレータの制御問題は次のように考えることができる.

接平面により拘束を受ける方向(法線方向)の力/位置制御問題(force/position regu-lation problem)

接平面により拘束を受けない方向(接平面上)の軌道追従制御問題(trajectory tracking probrem)

それぞれの方向に関する制御問題を具体的に示す.

(力/位置制御問題)

接平面により拘束を受ける方向の力/位置制御に関して,基準座標系から見た目標接触 力 fdn ∈ <lが与えられるとする.環境と接触を保持する手先は(3.6)式の関係があるので,

従属的に目標接触位置 pdn ∈ <l が定まる.ただし,l≤n である.一定の力で押さえつけ ることを目的としているので,目標速度 p˙dnl 次の零ベクトルである.法線方向の制御 目標は t→ ∞のとき接触力の法線方向成分 fn ∈ <lfn fdn に,したがって,手先 位置pn ∈ <lpnpdn にすることである.また,速度に関しては手先速度の法線方向 成分p˙n∈ <lp˙np˙dn(=0)とすることである.ただし,0は適切な次数の零ベクトル である.

(軌道追従制御問題)

接平面から拘束を受けない方向の軌道追従制御では,目標位置 pdp ∈ <(nl),目標速度 p˙dp ∈ <(nl) が与えられる.接平面上では摩擦はないと仮定しているので,接触力 fp

<(nl)0 である.したがって,目標接触力 fdp ∈ <(nl)0 と設定するのが妥当であ り,拘束を受けない方向の制御目標は t→ ∞のとき pp pdpp˙p p˙dp となる.

これら2つの制御問題を同時に達成するSP–D制御則を構成するため,制御問題をまと める.接平面に拘束を受ける方向成分(n成分)と拘束を受けない成分(p成分)をまとめて,

手先位置,速度および接触力を次のように記述する.

p:=

pn pp

, p˙ :=

p˙n p˙p

, f :=

fn fp

同様に,各目標値に関しても pd:=

pdn pdp

, p˙d :=

p˙dn p˙dp

, fd :=

fdn fdp

と記述する.手先位置は直接観測できるわけではないが関節角度から計算でき(順運動学),

各変数の時間微分に関しても計算により得られるものと仮定する.また,pdnfdn は一 定で,pdnfdn より従属的に定まり fp =fdp= ˙pdn =0である.

マニピュレ ータの手先が接触する環境についても,ブロック対角行列 Ke= block diag{ken,kep}

でまとめて弾性係数を記述しておく.ただし,各ブロック要素も対角行列となっており,拘 束を受ける方向成分は ken∈ <l×l (各要素が正数の対角行列),拘束を受けない成分kep は (n−l)×(n−l)の零行列として表される.このとき,前述の2つの制御問題は

t→ ∞ のとき

ppd, p˙ p˙d, f fd

とまとめて記述できる.

図7.1にある2自由度マニピュレータでは,図7.2のようにマニピュレータ台座部に設定 した座標系のX軸方向(接平面により拘束を受ける n 成分)に関して力/位置制御,Y軸方

向(接平面により拘束を受けない p 成分)に関して軌道追従制御,すなわち,

t→ ∞ のとき

pX pY

pdX pdY

,

p˙X

˙ pY

0

˙ pdY

, fX →fdX

を達成することが制御目標となる.

X Y

2DOF manipulator

f

d

Compliant environment

X Y

p

0

p

0

p

d

2DOF manipulator

Compliant environment

図 7.2: 水平2自由度マニピュレータによる力/位置制御(X方向)と軌道追従制御(Y方向)