閉ループ系(6.4)式はパラメトリックな不確かさが存在するため,平衡点の漸近安定性を 示すことは難しい.代わりに,次に定義する終局的有界性を示すことができる.
† 一様終局的有界性の証明の際に有界な領域の大きさとフィード バックゲインとパラメータの関係を示す.
定義 1 (終局的有界性) [7]
次式で表される系
x˙ =f(x) s.t. x(t) : [t0,∞)→ <n, x(t0) =x0 (6.5) について考える(図6.7参照).ただし,x(t)∈ <n は時刻tにおける系の状態であり,添字 の0は初期値を意味する.閉集合 B ⊂ <n に関して,ある時刻
t0(x0, B, t0)<∞ s.t. x(t)∈B, ∀t≥t0+t0(x0, B, t0) (6.6) が存在するとき,系(6.5)式は終局的有界であるという.また,時刻t0(x0, B, t0)が初期時 刻 t0 に依存しないとき,一様終局的有界であるという. 2 終局的有界性は,実用的安定性(practical stability) [7]と関係する制御系の性質である.あ る有限な時刻 t0が経過した後,状態 xが平衡点近傍の集合 B に入り,それ以降その中に とど まりつづけることを意味する.この集合 Bが十分に小さければ,実用的に制御目的を 達成できたとみなすことができる.
x t
( )x t'
x
0B
equilibrium point
R
n( )
図 6.7: 終局的有界性
定理 3 (一様終局的有界性) マニピュレータダ イナミクス(3.1)式について考える.不確か さ θ˜ の各要素毎の上界 ρ:= [ρ1, . . . , ρm]T が既知,すなわち |θi| ≤ ρi (i = 1, . . . , m) を満 足する ρi が既知であり,パラメータ ε := [ε1, . . . , εm]T (εi > 0)が与えられるとする.ロ
バスト軌道追従SP–D制御則(6.2)式および (6.3)式により構成される閉ループ 系(6.4)式 は,領域 B(ρ,ε,K,Λ)に関して一様終局的有界である.
(証明)
エネルギー関数
V(e,e) :=˙ 1
2 sTMs+U(e) (6.7)
を定義する.エネルギー関数 V は,ノミナル制御の場合のリアプ ノフ関数(5.9)式と同じ である.対象である閉ループ 系が(5.7)式の場合と異なるため,閉ループ 系(6.4)式の解軌 道に沿って関数 V を時間微分すると次式のようになる.
V˙ = −sTKs+ 1
2 sT M˙ −2Cs+ ∂U
∂e e˙ + (YTs)T θ˜+u
= −e˙TKe˙ −ϕ(e)TΛTKΛϕ(e) + (YTs)T θ˜+u
ただし,マニピュレ ータダ イナミクスの性質(P2),ポテンシャルエネルギ ーの性質(4.5) 式,および補助変数の性質(5.5)式を用いた.右辺第3項に関してCauchy-Schwartzの不等 式を適用し,不確かさの上界を考えあわせると
V˙ ≤ −xTQx+
Xm i=1
(YTs)iθ˜i+
Xm i=1
(YTs)iui
≤ −xTQx+
Xm i=1
(YTs)iρi+
Xm i=1
(YTs)iui (6.8) となる.ただし,
x:=
e˙ ϕ(e)
, Q:=
K 0 0 ΛTKΛ
(6.9)
である.
次に,|(YTs)i|で場合分けをして補助入力 ui を代入する.
(i) すべての i に対して |(YTs)i|> εi を満足する場合:
(6.3)式より補助入力は ui =−ρi ((YYTTss))ii となる.したがって,V 関数の時間微分は
V˙ ≤ −xTQx (6.10)
となる.Qが正定行列であり,e˙ 6=0 または ϕ(e)6=0であるので V <˙ 0である.
(ii) r (< m) 個の (YTs)i が |(YTs)i| ≤εi を満足する場合:
表現上,i = 1, . . . , r に関して,|(YTs)i| ≤εi が成立するとする.実際にはm個のうち r個であればよく,順序は関係ない.
このとき補助入力は
ui = − ρi
εi
YTs
i (i≤r) ui = −ρi
(YTs)i
(YTs)i (i > r) であり,これらを(6.8)式に代入すると
V˙ ≤ −xTQx+
Xr i=1
ρi(YTs)i−Xr
i=1
ρi
εi(YTs)2i +
Xm j=r+1
ρj(YTs)j− Xm
j=r+1
ρj
(YTs)2j
|(YTs)j|
= −xTQx+
Xr i=1
ρi(YTs)i−Xr
i=1
ρi εi
(YTs)2i
= −xTQx−Xr
i=1
ρi
εi
(YTs)i− εi
2
2
+
Xr i=1
εiρi
4
≤ −xTQx+
Xr i=1
εiρi
4 (6.11)
≤ −λmin(Q)||x||2+
Xr i=1
εiρi
4
を得る.ただし,λmin(Q)は行列Qの最小固有値である.
したがって,
||x||> ω のとき V <˙ 0 (6.12)
ただし, ω:=
Pr
i=1εiρi 4λmin(Q)
!1
2
(6.13) であり,平衡点近傍の領域
B(ρ,ε,K,Λ) := {(e,e)˙ | ||x|| ≤ω} (6.14) に関して,閉ループ 系の一様終局的有界性が示される.
(証明終) また,この一様終局的有界性は e と e˙ で構成される空間に関して大域的であることが 示せる.
定理 4 (大域的一様終局的有界性) 閉ループ系(6.4)式は,領域 B(ρ,ε,K,Λ)に関して大
域的に一様終局的有界である.
(証明)
大域性を示すために,V(e,e)˙ 関数が e,e˙ に関して半径方向に非有界,i.e.,
e e˙
→ ∞ のとき V(e,e)˙ → ∞
となること示す.ただし,V(e,e)˙ 関数を構成する際,ポテンシャルエネルギ ー関数 U(e) が
||e|| → ∞ のとき U(e)→ ∞ (6.15)
を満足する条件を加える.
関数 V は
V(e,e) =˙ 1
2 {e˙ +Λϕ(e)}T M(q){e˙ +Λϕ(e)}+U(e)
と表せるように,||[eT,e˙T]T|| → ∞のとき V → ∞であり,半径方向に非有界である.し たがって,領域B(ρ,ε,K,Λ)に関する閉ループ系の一様終局的有界性は大域的である.あ とは,前述の定理の証明と同様に示すことができる.
(証明終) これらの定理は,閉ループ系(6.4)式に不確かさ θ˜が存在しても,追従誤差 e,e˙ は平衡 点 (e,e) = (0,˙ 0) 近傍の領域 B(ρ,ε,K,Λ) に収束し,その中にとど まり続けることを保 証している.したがって,領域 B(ρ,ε,K,Λ)が小さくなるように,追従誤差の大きさを 規定する ω の値を小さくすれば† 良好な追従が達成されることを意味する.
注意 3 領域 B(ρ,ε,K,Λ) の境界上では V˙ = 0となり,これ以上の平衡点への収束を保 証できないが,||x|| ≤ ω は達成される.したがって,要求される制御性能として ωが与 えられれば,この領域内での不確かさ θ˜に起因する摂動は許されるものであり,所望の制 御仕様を満足することになる.
注意 4 この手法は,位置誤差と速度誤差で構成されるベクトル xの大きさが ω 以下にな るような制御仕様の与え方である.したがって,位置誤差,速度誤差の大きさがそれぞれ ある大きさ以下となるような要求に対しては,要求の厳しい方を達成するように ωの値を 小さく保守的に設定することになる.ただし,収束領域の形を変えることで,位置誤差と
† 通常,このωの値はeiとϕ(ei)が1対1の関係を満足する程度には小さく設定する.したがって,|ϕ(ei)|
が小さいならば |ei|も小さいと考えられる.
速度誤差に関する要求の差違を若干考慮することができる(図6.8参照).すなわち,(6.11) 式を展開すると
V˙ ≤ −λmin(K)nλmin(Λ)2||ϕ(e)||2+||e˙||2o+
Xr i=1
εiρi 4 である.V <˙ 0の条件から
λmin(Λ)2||ϕ(e)||2+||e˙||2 > ω02, ただし ω0 :=
Pr
i=1εiρi 4λmin(K)
!1
2
となる.ゲ イン Λ の調整により破線で囲まれる収束領域を図6.8の斜線を掛けた領域のよ うに変形でき,位置誤差に対する要求制 御性能と速度誤差に対する要求制御性能に差をつ けることができる.
ϕ e
e . ω
'λminΛ O ( )
ω
'( )
図 6.8: 収束領域の調整
注意 5 パラメトリックな不確かさ θ˜ の大きさを規定する ρについて考察する.
補助入力 u によって不確かさ θ˜ を完全に打ち消すことが可能と仮定するならば ,すな わち ρ=−θ˜が成立する場合,閉ループ系(6.4)式はノミナル制御の場合と同じになり,平 衡点の漸近安定性を示すことができるようになる.しかし,一般に θ˜を正確に得ることが できない.そこで,ρ の各値を大きく設定した場合,すなわち閉ループ 系(6.4)式の右辺 が ||θ˜+u||>||θ˜||となるような場合,補助入力が逆に悪影響を与えることになる.また,
ρi <|θ˜i|となる程 ρ の各値を小さく設定した場合,領域Bに入った後も θ˜ による摂動を 抑制しきれない場合も起こり得ることになり,終局的有界性を保証できなくなる.