ASO
は全身に発生する動脈硬化症の一部分症であり,下肢動脈に発生した粥状硬化性閉塞症をさし,
ABI
が0.9
未満の場合と定義する.一方,動脈瘤は,動脈外径が正常外 径の1.5
倍以上に限局的に拡張した状態と定義される502). 腹部大動脈の外径は約2.0cm
であるので498),一般的には外径が
3.0cm
以上となった状態がAAA
と定義される.両疾患ともに男性,喫煙者に多く加齢に伴って増加するの は共通であるが,閉塞性疾患に固有の危険因子として,高 血圧,糖尿病,脂質異常症などがあげられる.一方,拡張 性疾患では家族歴が危険因子としてあげられている503).
2.1
閉塞性動脈硬化症
2.1.1
頻度と危険因子
わが国における
ASO
に関する大規模な調査では,男性 比率が84%
,平均年齢72.7
歳であり504),近年報告された 海外(わが国を含む世界44
か国:REACH registry
)にお けるASO
患者の男性比率:70.7%
,平均年齢:69.2
歳と比2.
末梢血管疾患の病態と重症度
較すると,わが国では高齢者が多く男性に高頻度である5).
REACH registry
における日本人5,193
例のサブ解析では,ASO
症例627
例における男性比率は83.7%
,平均年齢72.2
歳であり,前述の報告26)とほぼ一致していた5).また,ASO
による間歇性跛行の罹患率は,60
歳前後の男性で3
~6%
と報告されている5).末梢血管障害の危険因子と しては,性別(男性に多い),年齢,喫煙,高血圧,糖尿病,脂質異常症,炎症マーカー,過粘稠度と凝固能亢進状態,
高ホモシステイン血症,慢性腎不全があげられている.
TASC II
では,各危険因子の重みが報告されており(図12)497),オッズ比は喫煙,糖尿病が
3.0
~4.0
と最も高い.2.1.2
多発病変部位
非糖尿病例では,粥状硬化性病変は腎動脈下腹部大動脈 から腸骨大腿動脈までの領域を中心に発生する.これに対 して糖尿病患者では下腿動脈に最初に病変が発生しやす く,腸骨大腿動脈領域単独の病変は
5.8%
以下と報告され ている505).しかし下腿動脈病変が進行しても足部動脈は 開存していることが多く,また動脈中膜の石灰化は下腿動 脈までは高度に認められるが,足趾動脈では比較的軽度に とどまっていることが少なくない506).2.1.3
重症度と予後
閉塞性疾患でも典型的な症状を呈する症例は約
3
分の1
と推定されており,無症状か非定型的症状の症例が約3
分 の2
を占めるため,スクリーニング検査の重要性が提唱さ れている.ABI
を測定し血行障害を評価することが重要である.
50
歳以上の無症候性のPAD
も含めた検討では,初期臨 床症状として,下肢疼痛が30
~40%
,典型的間歇性跛行 が10
~35%
,重症虚血肢(安静時疼痛および虚血性潰瘍・壊疽)が
1
~3%
であり,無症候性が20
~50%
を占める.重症虚血肢以外の
5
年後の転帰は,下肢合併症としては,70
~80%
の症例が間歇性跛行のまま安定しており,間歇性 跛行の悪化が10
~20%
,重症虚血肢に至るのは5
~10%
である.しかし,
5
年間での心筋梗塞や脳梗塞などの心 血管系合併症の発生率は20%
にのぼり,5
年死亡率は10
~15%
である.死因の75%
が心血管系合併症に起因 する(図13)497).重症虚血肢の症例では,
1
年生存率は75%
と不良であり,肢の予後として大切断に至る症例が
30%
にのぼる.またABI
はASO
症例の生命予後を予測する有力な因子とされ ており,McDermott
らはABI
が0.3
以下の症例では,ABI
が0.5
~0.9
の症例と比較して死亡率が1.8
倍である と報告している507).わが国では,血管造影にて
ASO
と診断された症例791
例(平均年齢66
歳,男性678
例)を対象として生命予後 および日常生活状況について検討した報告がある508).平 均観察期間は7
年で,死亡が229
例(29%
)に認められ,死因には心疾患,脳血管障害が多くみられた.日常生活状 況は
562
例から得られ,「不自由なし」が49.1%
,「日常生 活に制限あり」が38.3%
,「不自由である」が10.3%
,「大 変不自由である」が2.3%
であり,なんらかの日常生活制 限が約半数に認められた.2.2
腹部大動脈瘤
2.2.1
頻度と危険因子
AAA
を治療または診断した症例数からの推定では,羅 患率は人口10
万人年あたり3
~117
人とされている509).50
歳以上の男性を対象としたスクリーニングでは,新た なAAA
の診断率は1,000
人年あたり3.5
人であり,5.5
年後に新たなAAA
を認めた率は2%
である510).一方,60
歳以上の日本人を対象とした超音波のスクリーニングで は0.3%
511),50
歳以上の日本人を対象としたCT
検査で は0.48%
の診断率が報告されている512).AAA
の危険因 子としては,性別(男性に多い),年齢,喫煙,家族歴が報 告されている.AAA
の罹患率は50
歳以上で増加し,男性 が女性の2
~6
倍の危険率である.男性(女性と比較して)
年齢(10年単位)
糖尿病 喫煙 高血圧 脂質異常症 高ホモシステイン血症 人種(アジア系,ヒスパニック系,
黒色人種 対 白色人種)
C反応性蛋白 慢性腎不全
オッズ比
1 2 3 4
図12 症候性末梢動脈疾患の危険因子のオッズ比
(下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針II, 2007497)より)
2.2.2 病態
AAA
は動脈硬化のみでは発生機序を説明しきれないこ とより,現在では変性ないしは非特異的要因に起因すると されている.本疾患では中膜の弾性線維や平滑筋細胞の減 少による中膜の破壊が慢性炎症とともに発生し,インター ロイキン- 6
(IL-6
),マトリックスメタロプロテアーゼ-9
(
MMP9
),Jun N
末端キナーゼ(JNK
)などの活性化が動 脈瘤の増大につながる513).また動脈瘤の形成後は,高血圧 により瘤の増大傾向が強まるが,瘤径の増大により破裂の 危険性も高くなる.瘤壁にかかる力は
LaPlace
の法則に従い,瘤径(最大短 径)が増大するほど大きくなるが,血圧が高いほど壁応力 も大きくなる.UK Small Aneurysm Trial
では7
年間の破 裂頻度は,瘤径3
~3.9 cm
で2.1%
,4
~5.5 cm
で4.6%
,5.5 cm
以上では20%
と報告されている514).種々の報告か ら推定した年間破裂率が大動脈瘤の最大短径別に報告さ れているが(表26)515),最大短径以外に,高血圧,慢性閉 塞性肺疾患,喫煙が瘤破裂の独立した危険因子とされてい る.また大動脈瘤径が5.4cm
になるまで手術せずに経過 観察した研究結果では,年間の破裂頻度は男性で0.6%
で あり,男性を1.0
とした場合の女性のオッズ比は4.0
であり,女性で破裂の危険性が高い結果であった.この結果か ら,無症候性の腎動脈分岐部および腎動脈下の
AAA
に おいて,男性で大動脈瘤径5.0 cm
以下,女性で大動脈瘤径
4.5 cm
以下の場合には経過観察が望ましいと考えられる369).わが国では,
4.0 cm
以上のAAA 260
例を対象と して,5.0 cm
以上で手術治療をした報告があるが,5.0 cm
未満での経過観察群135
例では破裂例はなく,破裂した14
例は全例で5.0 cm
以上であった516).経過観察群が135
例と少ないものの,4.0
~4.9 cm
の瘤径の場合,欧米 での結果から推定された破裂率より低い傾向であった.他方,欧米の健常人における腎動脈下の腹部大動脈の 平均直径は,男性
1.41
~2.39 cm
,女性1.19
~2.16 cm
表26 腹部大動脈瘤における最大短径別の推定年間破裂率
最大短径 年間破裂率
4.0 cm未満 0%
4.0〜4.9 cm 0.5〜5.0%
5.0〜5.9 cm 3〜15%
6.0〜6.9 cm 10〜20%
7.0〜7.9 cm 20〜40%
8.0 cm以上 30〜50%
(Brewster D, et al. 2003515)より)
図13 5年間での閉塞性動脈硬化症の自然経過
PAD:末梢動脈疾患,CLI:重症下肢虚血,CV:心血管,MI:心筋梗塞
(下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針II,2007497)より)
切断
(CLI データ参照)
粥状動脈硬化性下肢PAD 症候群の自然経過 PAD 集団(50 歳以上)初期臨床症状
5 年後の転帰 無症候性PAD
20〜50%
他の下肢疼痛 30〜40%
典型的跛行
10〜35% CLI
1〜3%
切断 30%
死亡 25%
両下肢生存 45%
1 年後の転帰
跛行の悪化
10〜20% CLI
5〜10%
安定した跛行 70〜80%
非CV 原因 CV 原因 25%
75%
下肢合併症発生率
非致死的CVイベント
(MI または脳卒中)
20%
死亡 10〜15%
CV 合併症発生率および死亡率
と報告されている502).健常日本人で男女比
1: 1
の集団の 腹部大動脈径は1.93
±0.26 cm
(標準偏差)であり498), 健常人の腹部大動脈径からみる限り,日本人と欧米人で有 意な差があるとはいえない.とくに被覆ステントの適応に おいて,被覆ステントの単回治療のリスクが低いという理 由で,小口径のAAA
に多用されるエビデンスは乏しい.AAA
がなく総腸骨動脈瘤が単独で存在する場合は,総 腸骨動脈瘤の直径3.0 cm
未満では破裂することはないと されており,3.0 cm
までは経過観察が可能である.またAAA
の形態が嚢状の場合には紡錘状動脈瘤よりも破裂し やすいと一般に考えられているが,そのエビデンスはな く,形状の変化速度のほうが重要であろう.2.2.3 合併症
時に起こる合併症として,壁在血栓からの足趾部への塞 栓(
blue toe
症候群)や血栓形成による凝固因子の消費に より生じる播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation syndrome; DIC
)がある.DIC
の発生頻度は約0.5
~6%
とされている517).Blue toe
症候群として足趾部 の点状壊死やチアノーゼを認めた場合は,AAA
からの塞 栓症を疑って精査する.また,AAA
症例において出血傾 向を有する場合や手術を施行する前には,血小板数,フィ ブリノーゲン,FDP
(fibrin degradation product
:フィブ リン分解物)値を測定し,凝固因子の消費が生じていない かどうか検討する.まれに
AAA
の血栓性閉塞,大動脈瘤静脈瘻,大動脈瘤 腸管瘻を合併することがある.AAA
が血栓性閉塞をきた した場合は,身体所見および低侵襲検査のみでは腹部大動 脈腸骨動脈閉塞症として診断されるので,腹部エコーや腹 部CT
にてAAA
の有無を確認しておく必要がある.大動 脈瘤静脈瘻の症例では,腹部に連続性血管雑音を聴取し,造影