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佐々木尚之

1 はじめに

2005年に、戦後初めて日本の人口が減少に転じてから今年で 10年を迎える。第二次ベ ビーブームの頂点にあたる1973年以降、合計特殊出生率が下降の一途を辿り、長期間にわ たり人口置換水準を下回る状況が続いている。近年、合計特殊出生率の微増傾向が認められ るものの、出生数は減り続けており、2014年に生まれた子どもは過去最少を更新し100万 3532 人と 40 年間で半数以下となった。少子化の直接的な要因は、夫婦の出生力の低下と 未婚化にある。国立社会保障・人口問題研究所が実施する「出生動向基本調査」の結果によ ると、夫婦の完結出生児数(結婚持続期間15~19年の初婚どうしの夫婦の子どもの数の平 均)は、第6回調査(1972年)以降、第12回調査(2002年)まで2.2人前後を安定して 推移していた。しかし、その後減少局面に入り、第14回調査(2010年)では1.96人とな り、初めて2人を下回る結果となった。生涯未婚率(50歳時の未婚率)は 1990年代から 急激に上昇し、2010年の国勢調査の結果では、男性の5人に1人、女性の10人に1人が 生涯未婚と推定されている。出生率低下の要因をシミュレーション分析した岩澤(2014) によると、出生率低下分のおよそ 9割が未婚化、1割が夫婦の出生力の低下で説明できると 推計しており、少子化に対する未婚化の影響の大きさを明らかにした。本稿では、未婚者の 生活環境に着目し、今後の少子化関連施策のあり方を検討する。

先行研究を俯瞰すると、未婚化が進行する要因を 3 つに大別することができる。一つ目 は、婚姻のメリットが低下したとの立場である。婚姻は社会制度として捉えられており、規 範、価値観、法律、社会的圧力などによって支えられてきた(Goode 1982)。しかしながら、

結婚に対する意識は大きく変動している。自己実現を重視する個人主義的価値観は皆婚規 範を低下させた。たとえば、NHKの「日本人の意識」調査では、「必ずしも結婚する必要は ない」と回答した日本人は 1993 年には 51%であったが、2013 年には 63%に上昇してい る。かつては、結婚することにより社会的な信用を獲得し、経済的基盤を整えることが望ま しい姿であったが、未婚者に対する社会的サンクションが薄らいでいる。また、未婚者が親 元で暮らすことに寛容であること自体が未婚化を加速させているとの指摘もある(山田

1999; 宮本 2004)。結婚して初めて一人前として社会的に認められるという作用が弱まっ

たために、無理をしてまで結婚をする必要がなくなってきたといえる。

二つ目は、婚姻のコストが上昇したとの見方である。とくに高学歴化が進んだ女性にとっ て、結婚や出産による機会コストは低くない(Becker 1973; 津谷 2011)。性別役割分業が 固定的な国では、結婚後の安定的な雇用が難しく、仕事と家庭を両立する環境整備が遅れて いるため未婚化が進むと考えられている(Blossfeld 1995; Ono 2003)。さらに、経済成長の 低下にともなう雇用状況の悪化は、結婚後の生活費をまかなうことを困難にし、結果的に結 婚を回避する力が働く。「おひとりさま」を対象にしたビジネスが発達した現在では、婚姻 による行動や金銭面での制約が男女ともにコストとして捉えられてもおかしくはない。

61 未婚化の要因の三つ目の立場は、婚姻が質的に変化したとの見方である。戦後の日本的家 族モデルを特徴づけていたお見合い結婚や職縁結婚の衰退により、個人が結婚相手を探す 必要性が生じた。その結果、対人関係能力が重要視され、配偶者選択の成否を大きく左右す るようになった(岩澤・三田 2005; 佐藤・永井・三輪 2010)。自由意思によって結婚を決 断することが可能になった反面、自身の要求水準を満たす相手を見つけ出し、且つその相手 の要求水準も満たさない限り、婚姻が成立しない。実際に、「出生動向基本調査」の結果に おいても、未婚男女の約9割は結婚する意思はあるものの、「適当な相手にめぐり会わない」

ことを独身理由として挙げる回答者(25歳~34歳)がもっとも多い。

このように、社会意識、経済・雇用環境、マッチメイキングシステムの変容により、婚姻 が成立すること自体が困難な状況になっている。恋愛を前提とした婚姻の場合、結婚の前に パートナーと親密になる必要があるが、異性間の交際自体が著しく停滞しているのが現状 である。実際に、交際相手のいない未婚者は増加傾向にあり、異性の友人さえもいない未婚 者は男性で6割を超え、女性で5割弱である(国立社会保障・人口問題研究所 2011)。未 婚化の少子化に対する影響力の大きさに鑑みると、未婚者が交際相手を見つけられない要 因を検証することが肝要である。

そもそも、なぜ結婚相手にめぐり会えないのだろうか。個人レベルの要因でもっとも顕著 なものは、経済力だろう。男性の安定的な仕事や収入の高さは、過去の多くの研究(たとえ ば酒井・樋口 2005; 佐々木 2012)において結婚を促進するのみならず、交際相手の有無に も影響することが確認されている(中村・佐藤 2010)。一方、女性の経済力が配偶者選択に 与える影響は限定的であるとの結果が多かったが(水落 2006; 津谷 2009)、経済の停滞が つづく近年のコーホートでは、むしろ雇用の安定した女性の方が恋人をもち(中村・佐藤 2010)、結婚しやすい傾向があることが示唆されている(酒井・樋口 2005; 佐々木 2012)。

次に、出身階層も結婚相手との出会いに影響する。Easterlin(1987)によると、生まれ 育った家庭の生活水準が自身の結婚生活に求める生活水準の基準となる。つまり、実際の経 済力の多寡に加えて、生まれ育った生活水準と同等もしくはそれ以上の水準の暮らしが可 能であると判断できれば、結婚に踏み切ると仮定した。山田(2009)は、経済状況の停滞に より、未婚者が出身家庭の生活水準を上回ることが難しくなったことが婚姻への決断を困 難にしていると説明する。

また、結婚相手に求める条件が実情と乖離していることも指摘されている。グローバルな 経済競争が激化する中で、若年層の雇用情勢が長期間にわたり退廃した。同時期には、高学 歴で就業意欲の高い女性が増加しつつも、差別や偏見により女性が自己実現や経済的に自 立することが困難なことから、若年女性の性別役割分業意識が固定的な方向に回帰してお り、パートナーに扶養役割を期待するようになっている(山田 2009)。しかしながら、彼女 らが求める稼得能力のある男性は極端に減少しており、結婚市場のミスマッチが発生した

(Raymo & Iwasawa 2005)。一方で、結婚・出産後のパートナーに家庭と仕事の両立を求

める男性が急増しているものの(国立社会保障・人口問題研究所 2011)、それを実現する支 援体制が整っていない現状において、男女ともに配偶者選択が困難になっている。

62 個人レベルの要因に加え、地域レベルの要因も未婚者の出会いを阻害しうるものの、これ まで検討が十分でなかった。しかし近年、人口減少の大きな要因として、若年女性の人口移 動が注目され始めている(増田 2014)。多くの若年世代が進学や就職を理由に町村部から 都市部へ転出しており、地元では就業機会の少ない女性が町村部から転出する割合が高い。

その結果、地方の町村部では未婚男性の割合が相対的に多くなる傾向がある。表1は、人口 規模別 20 歳~49 歳男女の人口および人口集中地区に居住する未婚者割合の推移をまとめ たものである。人口集中地区においては、第2次ベビーブーム世代が成人を迎え終えた1995 年をピークに、男女とも若年人口が減少しているものの、1985 年よりも2010年の人口の 方が多い。一方、非人口集中地区では、若年人口が増加していた時期においても、人口が継 続して減少してきた。また、未婚者の多くは人口集中地区に居住しており、とくに未婚女性 の約4人に 3人は人口集中地区に居住している状況である。2010年における年齢群ごとの 未婚者の性比を比較すると、高齢ほど相対的に男性未婚者が多くなり、とくに非人口集中地 区においては、40歳以上の未婚女性1人に対して、2人以上の未婚男性がいる(図1)。こ のような若年層の都市部への人口流入や性比の偏りは、未婚理由の地域差を生じさせると 考えられる。

表1.人口規模別20歳~49歳人口および人口集中地区に居住する未婚者割合の推移

総務省「国勢調査」より作成

図1.年齢群別未婚者の性比1 総務省「国勢調査」より作成

1.2010年時点での各地区における未婚女性1人あたりの未婚男性の数

28歳~42歳の男女を対象としたJGSS-2009LCS8のデータによると、男女ともに都市規

8 全国の若年層6,000人を対象に文部科学大臣認定日本版総合的社会調査共同研究拠点大阪商

1.09 1.29

1.57

1.84

2.05 2.37

1.07 1.17 1.33 1.48 1.55 1.63

0 0.5 1 1.5 2 2.5

20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 非人口集中地区 人口集中地区

1985 1990 1995 2000 2005 2010

人口集中地区 男性 17,074,074 17,954,285 18,787,437 18,054,542 17,660,395 17,574,299 女性 16,924,332 17,708,905 18,322,382 17,621,764 17,295,944 17,291,025 非人口集中地区 男性 9,640,744 8,874,848 8,687,616 8,143,024 7,562,000 6,983,141 女性 9,548,642 8,800,563 8,525,176 8,000,141 7,409,403 6,774,496 未婚者のうち人口集中 男性 68.3% 71.3% 72.1% 71.7% 71.6% 71.9%

地区に居住する割合 女性 70.9% 73.5% 74.2% 73.9% 73.8% 74.4%

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