3-1序論
緒論でも述べた通り、作物生産にとって農薬は必要不可欠である。近年では、化学農薬の 使用を減らし、微生物農薬などの生物学的防除剤との併用が支持され始めている。微生物農 薬としてよく利用されている菌に Bacillus 属細菌が挙げられ、日本でも同菌を用いた製剤 が市販されている。Bacillus subtilisは、数種類の作用によって微生物農薬としての効果を発 揮している。その中でも特に強い抗真菌活性を有する化合物に非リボソームペプチド合成 酵素(Non-ribosomal peptide synthetase)によって生合成される環状リポペプチドがある。こ の環状リポペプチドは、一定数のアミノ酸と脂肪酸残基が結合した両親媒性の化合物であ り、植物病原菌の生体膜に作用し、細胞流出による細胞死を起こす。(Zeriouh et al., 2014)。
Bacillus属の生産する環状リポペプチドはiturin、fengycin、surfactinの3クラスに分類さ
れ、中でも、iturinとfengycineは強い抗真菌活性を示す。また、Bacillus属の特徴としてバ
イオフィルム形成能が挙げられ、Bacillus属はこの能力によって植物体で強靭なコロニーを 保持するのに役立てている。特に植物個体の表面部分は温度や湿度の急激な変化、また栄養 の枯渇などのため微生物の生育に適さないが、幅広い環境で生存可能な Bacillus 属細菌を 微生物農薬として用いることで植物個体の表面部分から侵入するような病原菌の防除が可 能となると報告されている(Zeriouh et al., 2014)。しかしながら、微生物農薬として利用す るためには、一定の菌数が必要となり、そのために比較的安価な培養基質が必要となる。本 研究では、培養基質としてJatropha curcasの種子残渣に着目した。
J. curcasはバイオディーゼル燃料(biodiesel fuel: BDF)の原料作物として注目されてい
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る植物である。BDFはカーボンニュートラルな資源からのエネルギー生産であるため、温 室効果ガスの削減に貢献できると期待されている。BDFは主に菜種、コーン、パーム油、
大豆、サトウキビといった従来食料として利用しているものが多く、燃料として利用した際
に食料との競合が懸念される。そこで、非食料用油からのBDF製造が求められており、J.
curcasのような非食用で油脂生産能の高い植物が注目されている。
J. curcas はトウダイグサ科の落葉低木である。生育速度が速く、干ばつや貧栄養土壌に
も強いといった特徴を有しており、50 年に渡り種子生産が可能である(Sotolongo et
al.,2007)。J. curcasの種子は41%の外殻と59%の仁で構成されており、仁の40-50%は油
脂で構成されている (Saetae and Suntornsuk, 2011)。J. curcas 種子由来の油は優れたBDF
の候補であるが、多量の種子採油残渣廃棄物が生じる問題がある(Liang et al., 2010)。仮
に、J. curcas 種子からバイオディーゼル燃料を生産しようとすると、種子1 kgあたり500
gの種子残渣が生じる(Sotolongo et al.,2007)。 種子残渣物の30%程度はタンパク質であ
り(Makkar et al., 1997)、採油処理後の残渣物は、高い栄養と豊富なタンパク質が含有して いるが、種子には抗栄養因子であるサポニン、フィチン酸、トリプシン阻害物、グルコシノ レート、アミラーゼ阻害物などや(Rakshit et al. 2008)、毒性物質であるホルボールエステ ル類なども含まれているため、家畜飼料としては適さず、付加価値の低い植物用肥料または 廃棄物として処理されている。またJ. curcas がもつホルボールエステル類はテルペン類化 合物であり、ホルボールエステルが細胞膜を透過し、細胞内にあるジアセチルグリセロール を介した細胞増殖を促すシグナル伝達系に作用することで、細胞内の本シグナル系にある プロテインキナーゼ C を活性化し、発がんのプロモーターとなることが知られている
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(Blumberg, 1988)。
本研究では、微生物農薬候補株であるB. subtilis RB14の培養基質として油脂抽出後のJ.
curcas種子残渣を利用し、微生物農薬として農業分野への応用を目的とした。また、培養方
法としては一般的な液体振盪培養を行った後、iturin の高生産が見込める固体培養で行い、
B. subtilis RB14の培養物を利用した植物病原菌からの感染防除試験などを行った。
60 3-2 材料および方法
3-2-1微生物
Iturin Aを生産し、植物病原菌に抑制を示す微生物としてB. subtilis RB14を、植物病原
菌 と し て Bipolaris oryzae、Fusarium oxysporum、Monilinia fructigena、Phytophthora infestans、Colletotrichum echinochloae、Fusarium solani、Penicillium digitatum、Rhizoctonia
solaniを使用した。B. subtilis RB14は、Trypto-Soya Agar (TSA)培地 (2.0% polypeptone、
0.25% glucose、0.25% K2HPO4、0.5% NaCl、1.5 % agar) にて保存した。植物病原菌の保
存はPotato Dextrose Agar(PDA)培地 (2.4% potato dextrose broth、1.5% agar) で行い25℃
で培養した。
3-2-2残渣の調整
J. curcas種子の外殻を除去しHIGH-FLEX HOMOGENIZER(SMT)を用いて約30秒間
18,000 rpmにて破砕した。破砕した種子重量の5倍量のn-hexaneを加え懸濁し、一晩以上
静置した。上清をろ紙 (No.5A 110 nm, ADVANTEC)を用いて吸引濾過し、濾液を減圧留
去した。n-hexane抽出後の残渣に acetone を用いて同様の操作を行い、中性脂質を除去し
た。溶媒抽出後の残渣を乾燥させ、ふるいにて均等な大きさにしたものを種子採油残渣とし て各実験に使用した。また、残渣は使用前に乾燥機(55℃)で乾燥処理を行った。
3-2-3 微生物の培養
2 mL LB培地(1% polypepton, 0.5% yeast extract, 1% NaCl)にB. subtilis RB14を植菌し、
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30℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。培養後8,000×gで15分間遠心分離し、上清
を捨て等量の滅菌水を加え撹拌したものを各実験に使用した。
3-2-4残渣懸濁液体培地を用いたRB14の培養
100 mLフラスコに20 mLの蒸留水とJ. curcas残渣1 %, 2 %, 3 %, 5 %, 7 %(w/v)をそれ
ぞれ混合し、121℃、15分間オートクレーブ処理を行った。作製したジャトロファ液体培地
に培養液を1 %植菌し、30℃、200 rpmにて振盪培養を行い、生菌数およびiturin A生産の
経時変化を測定した。
3-2-5 固体発酵培養におけるRB14の培養
試験管に採油残渣を0.2 g入れ121 ℃、15分間のオートクレーブ処理を行った。水を除
去するため乾燥機(55℃)にて一晩乾燥させた。残渣培地に滅菌水をそれぞれ0, 200, 500, 400,
600, 800, 1000 µL 加え、固体発酵培地を作製した。培養液を 20 µL 加えて、室温(24℃)、
静置にて5日間培養し、培養後に生菌数算定を行った。培養後の残渣培地に、培養前に加え
た滅菌水との合計が2 mLになるように滅菌水をそれぞれ加えよく攪拌した。得られた菌懸
濁液の生菌数算定を行った。
3-2-6 HPLCを用いたiturin A分析
培養後の培養液および固体発酵残渣を用いてiturin Aの抽出およびHPLC分析を行った。
培養液と等量の35 %アセトニトリル水溶液を混合し、10分間撹拌した。10,000×gにて10
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分間遠心を行い、得た上清をフィルター濾過(13JP, ADVANTEC)した。濾過後、上清を
HPLCに供し、iturin A生産量を測定した。固体発酵残渣の抽出は、生菌数算定に使用した
培養液を用いて培養液と同様の方法で行った。HPLCは日本分光のLC-2000システムを使
用した。カラムは逆相系Chromolith Performance RP-18e (φ4.6 mm×100 mm)を使用し、
溶出溶媒は、pump A:10 mM CH3COONH4 、pump B:CH3CNを使用した。溶出は、流速
2 mL/min、カラムオーブン40 ℃、検出波長205 nm、分析時間は10分間pump B 35%で
測定した。
3-2-7 抗菌活性物質の熱耐性
固体発酵残渣を用いて残渣に含まれる抗菌活性物質の熱耐性試験を行った。固体発酵残
渣を121℃、2分間のオートクレーブ処理を行った。その後、0.1 gを1/10 PDA培地と1/10
TSA培地の端から1.5 cmに置いた。オートクレーブ未処理の固体発酵残渣と、未植菌の残
渣も同様に試験した。残渣を置いた後、培地中央にR. solani寒天断片を植菌した。24℃、
静置にて5日間培養し、植物病原菌に対する抑制能を測定した。
3-2-8 RB14培養物を用いた植物病原菌抑制試験
RB14 固体発酵培養物が 20%(w/v)となるように PDA培地を作製し、RB14培養物含有
培地とした。培地の中心に前述の植物病原菌を植菌し、25℃で培養し、菌糸の成長を観察し
た。
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3-2-9 植物病原菌感染防除試験
固体発酵培養で作製した培養物を用いて植物病原菌の感染試験を行った。キュウリ種子
を67.8%エタノール(エスミール WKⅡ-75、信和アルコール産業株式会社)に10秒間浸
漬し、次いで0.9%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10 分間浸漬することにより、種子を殺
菌した。その後、種子を滅菌水3回洗浄した。素寒天培地(agar 1.5%)上に種子を播種し、
2日間栽培し発芽させた。アグリポットに0.8%素寒天培地を作製し、寒天培地表面に固体
発酵培養物を0.5g添加し、塗抹した。発芽したキュウリ3個体を等間隔にアグリポットに
移植し、アグリポットの中心にR. solaniの寒天断片を植菌した。栽培は小型人工気象器内 で12時間の明暗条件のもと、25℃で栽培を行った。
3-2-10 RB14固体発酵培養物がキュウリの初期成育に与える影響
RB14固体発酵培養物は0.1、0.3、0.5、0.7、1.0 gとなるように2 mLの滅菌水にて調
整した。3-2-9と同様の手順でキュウリの栽培ポットを用意し、キュウリの双葉が展開した
後にポットの表面へ塗布した。また、比較としてLB培地で培養したRB14の菌液1 mLを
ポットに塗布した。塗布14日後に植物体を回収し、葉面積および乾燥重量を測定した。
64 3-3 結果および考察
3-3-1残渣液体培地を用いたRB14の培養
J.curcas 残渣を用いた培地で RB14 が増殖を示すか培養を行い、生菌数算定を行った
(Fig.1A)。1-7%の残渣培地とTSB培地の増殖を比較すると、100倍程度差が見られた。ま
た、大腸菌を用いた同様の試験では、残渣1%の培地は1/50 TSBと同程度の増殖を示して
おり、RB14株は残渣の分解利用能が大腸菌より高いと考えられる。残渣液体培養のHPLC
分析の結果、培養7日目においてTSB培地では26(±18)µg/mL、残渣1%培地では164
(±12) µg/mL、残渣2%培地では 232(±22) µg/mL、残渣 3%培地では 563(±31)
µg/mL、残渣5%培地では 996(±163) µg/mL、残渣7%培地では 861(±35) µg/mL
のiturin A生産を示し、特に残渣5%培地は、一般細菌培養用であるTSB培地の約40倍の
iturin A生産量を示した(Fig. 1B)。これらの結果から、J. curcas種子残渣はRB14の増殖お
よびiturin A生産に問題なく使用できると考えられる。しかしながら、残渣7%培地は固体
発酵培地のような状態であり、振盪培養に適していなかった。そこで、J. curcas残渣におけ る固体発酵培養を試みた。