サブプライムローンとは
動産の所有権に投資するタイプである。も う一つはモーゲージREITと呼ばれるもの で、資産の多くを商業用不動産ローンや住 宅ローン、およびその派生証券など不動産 債権関連資産に投資するタイプである注1。 今回は、問題の発端が住宅ローン債権と いうこともあり、後半ではこの区別が重 要になってくるが、以降特別な説明がない 限り、エクイティREIT市場を中心に議論を 進める。
注1
たとえば、National Association of Real Estate Investment Trusts(NAREIT)では、
不動産所有権、債権の両方に投資する銘柄を ハイブリッド型とし、REIT市場全体を三つの カテゴリーに分類しているが、今回は議論を 単純化させるため、ハイブリッド型銘柄に関 する議論は省略している。
図表1は、年初来8月23日までの米国REIT、
米国株式、米国長期国債利回りの推移を示 したものである。2007年の米国REIT市場は、
Blackstone Groupに よ る Equity Office Properties Trustの買収に対抗ビッドが入っ たことなどもあり、急激な上昇相場で幕を 開けた。しかしその後、2月下旬の中国株式 市場に端を発する世界同時株安で大きく下 落して以来、長期金利の上昇などもあって 比較的上下変動の激しい状態が続き、結果 として5月末時点では年初来3.5%という小幅 上昇の水準であった。
しかし、6月12日に長期国債利回りが本年
最高水準となる5.3%を記録した後、米国住 宅市場やサブプライムローンに対する懸念 がクローズアップされるにしたがい、株式 市場では価格変動幅が激しくなり、また国 債等のリスクの低い資産の利回りが低下す る一方でクレジットスプレッドは拡大し、
REIT市場も大きく下げる日が続くようにな った。6月の米国エクイティREITの市場収 益率は-9.07%、7月も-7.80%となり、単月の 市場収益率としてはそれぞれ大きな下落と なった注2。
図表2は、6月12日以降の米国株式、金融 セクター株、そしてエクイティREITの推移 を比較したものである。米国株式の動きに 比べ、特に7月下旬までの期間で金融セクタ ー並びにREIT市場が比較的相関の高い状態 で下落していることがわかる。この期間は、
サブプライムローン問題が単なる一国の住 宅ローン債権問題から、世界の金融市場に 影響与えうる問題として顕在化してきた時 期で、たとえば6月19日、投資銀行大手ベ ア・スターンズ傘下のヘッジファンドがサ ブプライムローン関連の投資失敗で資金難 に陥ったと報道されている。これ以後、サ ブプライムローンに関連する損失が更に拡 がり、世界の金融市場全体を巻き込んだ信 用リスクに発展する可能性が懸念され、金 融セクターを中心に株価が下落する結果と なった。図表2から、エクイティREIT市場 もこの時期に金融セクターとほぼ同じペー スで下げていることがわかる。
注2
FTSE/NAREIT Equity REIT Index(Total Return)基準では、過去10年間(120ヶ月)
のうち、2007年6月の-9.07%が下から3番目、
同7月の-7.80%が下から5番目の月次収益率と なっている。
米国エクイティREIT市場の パフォーマンス推移
そもそも、REIT市場で圧倒的なシェアを 持つエクイティREITとは、オフィスビルや 商業施設、物流施設、ホテル、アパートメ ント、老人ホームなど、収益不動産の所有
権に投資するREIT形態であり、基本的に個 人の住宅ローン債権には投資していない注3。 つまり、問題となったサブプライムローン との関連で言うと、エクイティREITの裏付 け資産は資産タイプ(所有権か債権か)が 違ううえ、資産の裏付けとなる不動産タイ プ並びに市場(収益不動産か個人持家住宅 か)も異なる。このエクイティREIT市場が
75.0 85.0 95.0 105.0 115.0 125.0 135.0
2006.12.31 2007.1.6 2007.1.12 2007.1.18 2007.1.24 2007.1.30 2007.2.5 2007.2.11 2007.2.17 2007.2.23 2007.3.1 2007.3.7 2007.3.13 2007.3.19 2007.3.25 2007.3.31 2007.4.6 2007.4.12 2007.4.18 2007.4.24 2007.4.30 2007.5.6 2007.5.12 2007.5.18 2007.5.24 2007.5.30 2007.6.5 2007.6.11 2007.6.17 2007.6.23 2007.6.29 2007.7.5 2007.7.11 2007.7.17 2007.7.23 2007.7.29 2007.8.4 2007.8.10 2007.8.16 2007.8.22 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 米国株式 米国REIT 長期国債利回り
図表1 米国株式(左軸)・REIT(左軸)・長期国債利回り(右軸)の推移(2007年1月1日〜8月23日)
出所:BloombergのデータをもとにHeitman International LLC作成。米国株式はS&P500種指数、米国REITはFTSE/NAREIT Equity REIT Index、長期国債利回りはジェネリック米国債利回り(10年)。米国株式、REITについては、2006年12月末時点の指数を100として再指 数化(左軸)しており、長期国債利回りは利回り水準を絶対値(右軸)で表示している。
(指数値) (%)
80.0 85.0 90.0 95.0 100.0 105.0 110.0
2007.6.12 2007.6.19 2007.6.26 2007.7.3 2007.7.10 2007.7.17 2007.7.24 2007.7.31 2007.8.7 2007.8.14 2007.8.21 金融セクター エクイティREIT 米国株式
(指数値)
図表2 金融セクター株・エクイティREIT・米国株式の推移(2007年6月12日〜8月23日)
出所:BloombergのデータをもとにHeitman International LLC作成。金融セクターはS&P500金融指数、エクイティREITはFTSE/NAREIT Equity REIT Index、米国株式はS&P500種指数。全て6月12日の指数値を100として再指数化している。S&P500金融指数には、エクイティ REIT13銘柄も含まれているが、2007年8月23日時点において、金融指数全体に対するこれらエクイティREIT13銘柄の時価ウェイトは約5.5%
(2007年8月23日時点)に過ぎず、このことが金融セクターとエクイティREITそれぞれの収益率の相関関係に大きな影響を与えていないと仮定 している。
エクイティREITと住宅ローン債権
前述の期間、一般株式市場から乖離し、サ ブプライムローン問題の影響を直接的に受 ける金融セクターと極めて高い相関で推移 したことの背景はどこにあるのだろうか。
一つの考え方として、たとえ資産性や市 場が異なっても同じ「不動産」であること には変わりなく、収益面で他の企業セクタ ーに比べてより大きな負の影響を受ける
(もしくはそのように市場が判断した)とい うことが考えられる。しかし、これはエク イティREIT銘柄全体注4に関しては正しくな く、後述の通り、2007年第2四半期のエクイ ティREITの収益結果は良好であった。もし
「同じ不動産市場を通じた関連性」が一つの 背景であったとするならば、それは市場が 基礎的条件の差異を咀嚼できなかったこと を背景にしている可能性がある。
次に、比較的良く耳にしたロジックが、
CMBS市場を経由したキャップレートの上 昇懸念である。信用リスクの増加がCMBS 市場にも飛び火し、特に格付けの低いもの からリスクプレミアムが拡大している(図 表3)。CMBSは商業用不動産ローンを束ね
て証券化したものであり、このリスクプレ ミアムの拡大は原資産のオリジネーション に反映され、商業用不動産に対するローン スプレッドも上昇する可能性があり、これ は最終的にキャップレートの上昇に至ると いうロジックである。実際、この期間中証 券会社各社はエクイティREITの評価におい てキャップレートの上昇を織り込み、NAV 水準を低下させ、ターゲットとなる株価水 準の引き下げを行っている。
このほか、「そもそもREITのバリュエー ションが高く、サブプライムローン問題を 契機に調整を受けた」という意見や、これ とやや関連して「これまでREITのパフォー マンスが好調だったのは事実であり、証券 化商品の投資損失の補填に未だ益の出てい るREITが売られた」という解釈、さらには
「サブプライムローンを多く持つモーゲージ REITの収益悪化が懸念され、エクイティ REITを含めてREIT市場全体が売られた」
などの意見もあるようだが、本当のところ は論理的な背景、あまり論理的ではない背 景を含めて市場心理も重なり合い、7月末に
50 100 150 200 250 300 350 400 450
2006.12.292007.1.122007.1.262007.2.92007.2.23 2007.3.92007.3.23 2007.4.62007.4.20 2007.5.42007.5.18 2007.6.12007.6.152007.6.292007.7.132007.7.272007.8.10
(ベーシスポイント)
図表3 米国CMBS(BBB格付・期間10年・コンデュイト)の利回りスプレッド(2007年1月1日〜8月17日)
出所:BloombergのデータをもとにHeitman International LLC作成。スプレッドは米国債利回りに対するスプレッド。
NAV対比20.0%のディスカウント水準まで 下げる結果となったのではないだろうか注5。 さらに、これまでであれば、活発なM&A活 動によってこのように大きなディスカウン ト幅が放置されることはなかったのだろう が、他の一般企業セクターも含めてM&A資 金の減少が予測された時期でもあり、REIT 価格は支持されることもなく低下していっ たと考えられる。
注3
前述のNAREITでは、エクイティ型、モーゲー ジ型の分類を行うとき、「総資産の75%以上」
をどちらかの資産に投資していることを基準 としている。したがって、理論的にはエクイ ティ型REITの中に、総資産の約25%を限度に 住宅ローン債権を保有している銘柄がある可 能性があるが、実際にはそうした事例は極め て少ないと考えられる。
注4
一部特定の銘柄については、例えば、サブプ ライムローンレンダーが多くテナントとして 入るオフィスビルを所有していたため、収益 上直接的な影響を受けたエクイティREIT銘柄 もあるが、エクイティREIT市場全体から見る と、それは極めて影響度の低いことと言える。
注5
Green Street Advisors、 「Real Estate Securities Monthly」 、2007年8月1日。
冒頭でも述べたとおり、ここ数週間の米 国エクイティREIT市場は落ち着きを取り戻 しており、もしこれが今後も継続するとい う仮定において、少なくとも市場の一つの 転換点が7月末から8月上旬にあったと考え られ、これは7月16日から8月23日までの市 場推移を週単位注6で示した図表4に明確に現 れている。
このグラフでは上記期間中の米国株式、
エクイティREIT、モーゲージREITの週次 収益率を示しており、7月27日までの週と、
7月30日以降の週では各パフォーマンスに大 きな差異が生じていることが見て取れる。
実は、後に連邦破産法11条に基づく会社更 生手続きの適用申請を行ったモーゲージ R E I T 「 A m e r i c a n H o m e M o r t g a g e Investment Corp.」の資金繰り悪化が最 初に報じられたのが7月27日夕方であり、7 月30日以降モーゲージREIT各銘柄の株価は 大きく下落し、S&P500指数(米国株式)も 影響を受けている。一方、エクイティREIT 市場はこの時期を境に4週間連続でプラス収 益を確保している。
実はこの8月初旬に掛けての2週間ほどで、
エクイティREITの2007年第2四半期(4〜6 月期)の決算結果も大方出揃っている。不 動産関連債権市場(もしくは価格)の悪化 に直接的な影響を受けたモーゲージREITと 異なり、エクイティREIT銘柄は収益不動産 市場の底堅いファンダメンタルズを背景に、
市場予想を超える収益結果となった。図表5 は、証券会社二社の8月10日時点のレポート から引用したものだが、2007年第2四半期の 前年比FFO成長率は、両社のレポートで事 前予想を超える結果となっている。
もちろん現時点では因果関係はわからな いものの、7月末から8月初めのこの時期に、
American Home Mortgage Investment Corp.の破綻やエクイティREIT銘柄の良好 な決算発表がきっかけとなり、エクイティ REITとモーゲージREITの収益環境の差異 が再認識された可能性がある。また、7月下 旬 ま で 大 き く 下 落 し て い た こ と も あ り 、 NAV対比やイールドスプレッドなどのバリ 市場の転換点