第
4
章から第6
章までの結果において、鉄筋振動変位が加振周波数によって変化する結 果が得られ、その加振周波数依存性も供試体の形状ごとに異なっていた。この要因を推定す るため、実験で用いた供試体と同様の形状のモデルを作成し、シミュレーションによってこ の要因を推定した結果について述べる。7-1 概要
加振レーダ法によって算出されるコンクリート中の鉄筋振動変位の妥当性を確認するた め
FEM
解析を用いた。使用したソフトウェアは株式会社フォトンのPHOTO-Series
であり、電磁場解析は
PHOTO-EDDY、弾性応力解析は PHOTO-ELAS
を使用した。EDDYとELAS
それぞれに必要な入力条件をFig. 7-1-1
に示す。また、解析に採用した鉄筋(ss4100)とコイル コア(35H360)のB-H
曲線をFig. 7-1-2
に示す。EDDY
での対称境界条件は、全ての境界面に設定する。また、ELASの変位拘束は任意の場 所で拘束行う。本論文での解析では、励磁コイルは完全変位拘束を施している。変位拘束の 場所により変位量の結果に大きく影響することから、変位拘束の妥当性の判断は重要であ る。Fig. 7-1-1 入力条件 磁場解析
EDDY
・形状データ(モデリング)
・磁化特性データ
(比透磁率、B-H曲線)
・境界条件(対称境界条件)
・印加電流(AT)
弾性応力解析
ELAS
・形状データ(モデリング)
・材料特性データ
(ヤング率、ポアソン比、体積弾性率)
・境界条件(変位拘束)
・荷重データ
53
FEM
解析では最終的に連立方程式に帰着され、その連立方程式を解くことで結果が得られ る。EDDY
ではB-H
曲線を用いていることから非線形解析を実行している。そこで、ある 時刻の計算時のニュートンラプソン法のループごとにICCG
法が実行されている。この反復 計算により近似解を求めている。例としてFig. 7-1-3
にある時刻での数値解析状況を示す。5
回のニュートンラプソン法とICCG
方が実行されてループしていることがわかる。Fig. 7-1-2 コイルコアと鉄筋の B-H 曲線
0.0
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
0 5000 10000 15000 20000 25000
磁束密度
B [T ]
磁界の強さ
H[A/m]
35H360
SS400
54
Fig. 7-1-3 ある時刻での数値解析状況
7-2 連成解析
EDDY
で解析した各節点ごとの接点力をELAS
へ受け渡し、節点力を用いてELAS
で弾 性振動解析を行う連成解析を行った。連成解析を行うことによって、高周波数による動解析 として解析を行うことができる。また、各時刻ごとの節点力を自動で受け渡していくため、解析時間の短縮にもつながるというメリットがある。そのため、EDDY と
ELAS
には同一 の時刻テーブルを設定する必要がある。連成解析実行までの流れをFig. 7-2-1
に示す。解析 動作中の流れをFig. 7-2-2
に示す。55
7-3 有限要素法による加振周波数ごとの振動変位推定
7-3-1 かぶりの異なる供試体でのシミュレーション概要
第
4
章でおこなった、かぶりの異なる供試体を対象とした実験を模擬したシミュレーシ ョンを行った。シミュレーションに用いたモデルをFig. 7-3-1
に示す。コンクリートの寸法 は実際に計測で用いた供試体と同様のW150×H100×D300 mm
の角柱であり、鉄筋径はD16、
鉄筋までのかぶりが
2 cm
及び4 cm
とした。鉄筋は振動変位の評価領域であるため、詳細に Fig. 7-2-1 連成解析実行までのフローEDDY
解析設定 ・解析モデル(EDDY
)読み込み・条件設定
・出力項目設定
・ファイル保存
ELAS
解析設定 ・解析モデル(ELAS
)読み込み・条件設定
・ファイル保存
連成解析実行 ・EDDY保存ファイル読み込み
・
ELAS
保存ファイル読み込み・連成解析実行
Fig. 7-2-2 解析フロー
EDDY ELAS
変位算出データ受け渡し
ELAS
実行EDDY ELAS
変位算出データ受け渡し
ELAS
実行EDDY ELAS
変位算出データ受け渡し
ELAS実行
各時刻56
メッシュ分割した。また、この
3
次元モデルは1/2
モデルであり、対称境界条件を用いるこ とで、フルモデルの解析と同様の解析結果を得ることができる。(a)かぶり 2cm モデル
(b)かぶり 4cm モデル Fig. 7-3-1 使用したモデル
57
電磁場解析及び弾性応力解析における解析パラメータをそれぞれ
Table7-3-1、Table7-3-2
に 示す。電磁場解析においては実際の実験と同様の電流値8 Arms
とし、コイルの巻き数が500
巻きであることから、コイル起磁力は5657 AT
とした。加振周波数ごとの鉄筋にかかる力や振動変位の変化を確認するため、以上のようなモデ ル及びパラメータを用いて、磁界分布によって鉄筋にかかる接点力及び磁界中で運動する 電荷が受ける力であるローレンツ力、振動変位を算出する。いずれも
y
方向成分のみであ る。ローレンツ力を算出する理由は加振周波数が高い場合において、鉄筋に流れる渦電流が 増加し、鉄筋中の電荷が受ける力が強くなることによって高い加振周波数において振動変 位が上昇している可能性があるためである。7-3-2 かぶりの異なる供試体でのシミュレーション結果
シミュレーションによって得られた、かぶり
2 cm
および4 cm
のモデルの鉄筋にかかる 接点力、ローレンツ力をそれぞれFig. 7-3-2、 Fig. 7-3-3
に示す。これらはFig. 7-3-1
中の鉄筋 全体にかかる力の和を算出した。また、Fig. 7-3-2、Fig. 7-3-3より算出した、接点力の加振 周波数依存性をFig. 7-3-4
に示す。Fig. 7-3-4より、かぶり2 cm、4 cm
のいずれにおいても 加振周波数が高くなるにつれて接点力は低下する傾向がみられた。次に接点力とローレン ツ力の和をFig. 7-3-5
に示す。Fig. 7-3-2及びFig. 7-3-3
より、ローレンツ力は接点力と比較 して小さくFig. 7-3-5
をみてもローレンツ力の影響により、鉄筋に働く力の加振周波数依存 性は変化していない。このことから、高周波加振時の渦電流による影響は小さく、加振周波 数が高いほど鉄筋に働く力は弱いことがわかった。また、かぶりが深いほうが鉄筋に働く力Table 7-3-1 電磁場解析におけるパラメータ
コイル起磁力 5657 AT
周波数 56,187,263,324,374,420,465 Hz (1 周期 33 分割)
鉄筋の電気伝導率 6.48
×
106 S/mTable 7-3-2 弾性応力解析におけるパラメータ
空気 コア コイル 鉄筋 コンクリート
ヤング率[Pa] 0.01
2 × 10 11 1 × 10 11 2 06 × 10 11 2 42 × 10 10
ポアソン比 0.499 0.3 0.3 0.3 0.2
体 積 弾 性 率 [Pa]
1.7
1 6 × 10 11 33 × 10 10 1 1 × 10 11 1 34 × 10 10
58
は弱くなったが、その加振周波数依存性に変化は認められなかった。
(a)接点力
(b)ローレンツ力
Fig. 7-3-2 かぶり 2cm 接点力及びローレンツ力
-2
0 2 4 6 8 10 12
0 5 10 15 20 25 30 35
接点力
[N]
step
465Hz 420Hz 374Hz 324Hz 263Hz 187Hz 56Hz
-4.5 -4 -3.5 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5
0 5 10 15 20 25 30 35
ローレンツ力
[N]
step
465Hz
420Hz
374Hz
324Hz
263Hz
187Hz
56Hz
59
(a)接点力(b)ローレンツ力
Fig. 7-3-3 かぶり 4cm 接点力及びローレンツ力
-0.5
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
0 5 10 15 20 25 30 35
接点力
[N]
step
465Hz 420Hz 374Hz 324Hz 263Hz 187Hz 56Hz
-1.6 -1.4 -1.2 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2
0 5 10 15 20 25 30 35
ローレンツ力
[N]
step
465Hz
420Hz
374hz
324Hz
263Hz
187Hz
56Hz
60
(a)かぶり 2cm(b)かぶり 4cm
Fig. 7-3-4 接点力加振周波数依存性
0
2 4 6 8 10 12
0 100 200 300 400 500
接点力
[N]
Frequency[Hz]
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
0 100 200 300 400 500
接点力
[N]
Frequency[Hz]
61
(a)かぶり 2cm(b)かぶり 4cm
Fig. 7-3-5 接点力とローレンツ力の和
-6
-4 -2 0 2 4 6 8 10 12
0 5 10 15 20 25 30 35
接点力+ローレンツ力
[N]
step
465Hz 420Hz 374Hz 324hz 263Hz 187Hz 56Hz
-2 -1 0 1 2 3 4
0 5 10 15 20 25 30 35
接点力+ローレンツ力
[N]
step
465Hz
420Hz
374Hz
324Hz
263hz
187Hz
56Hz
62
次に、弾性応力解析によって算出した振動変位の時間変化を
Fig. 7-3-6
に示す。振動変位は
Fig. 7-3-1
中の鉄筋中心部の振動変位を取得している。Fig. 7-3-6より、鉄筋は特に低い加振周波数において元の位置まで戻っておらず、引き付けられたまま振動していることがわ かる。そのため、Fig. 7-3-6の極大と極小の差をとることで算出した振動変位の加振周波数
依存性を
Fig. 7-3-7
に示す。Fig. 7-3-7より、振動変位も加振周波数が高くなるにつれて小さくなっており、実験とは異なる結果が得られた。この要因としては、コンクリートと鉄筋の 界面の状況が実際の供試体とシミュレーションモデルで異なり、実際の供試体で起きてい る構造的な共振を模擬することができていないためであると考える。
63
(a) かぶり 2cm(b) かぶり 4cm
Fig. 7-3-5 振動変位時間変化
-0.5
0 0.5 1 1.5 2 2.5
0 5 10 15 20 25 30 35
振動変位
[nm ]
step
465Hz 420Hz 374Hz 324Hz 263Hz 187Hz 56Hz
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8
0 5 10 15 20 25 30 35
振動変位
[nm ]
step
465Hz
420Hz
374Hz
324Hz
263Hz
187Hz
56Hz
64
(a) かぶり 2cm(b) かぶり 4cm
Fig. 7-3-6 シミュレーションにより得られる振動変位加振周波数依存性
0
0.5 1 1.5 2 2.5
0 100 200 300 400 500
振動変位
[nm ]
Frequency[Hz]
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
0 100 200 300 400 500
振動変位