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以下の裁判例の解説において、「事件概要」及び「革新的意義」は、最高人民法院の「2014 年 中 国 法 院 に お け る 10 大 革 新 性 知 的 財 産 権 事 件 に つ い て の 概 要 説 明 」 ( 出 典 : http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-14200.html)を和訳したものであり、「コメント」は、本レポ ートの執筆担当事務所が作成したものである。

「2014年中国法院知的財産権司法保護十大革新性事件」について事件の類型別にみれば、

商標権に係るものが3 件(下記①、⑥、⑦)、特許権に係るものが4 件(下記②、③、④、

⑤)、著作権に係るものが 2 件(下記⑧、⑩)、営業秘密に係るものが 1件(下記⑨)とい う構成であった。今回の十大革新性事件は、商標権、特許権、著作権という 3 つの分野に 集中しているが、各分野における今まで実務上定説のなかった問題点について明確に判断 したものが多く、今後の実務に重要な指針を示したものと評価できる。例えば、特許法第 23条第3 項に定める「合法的権利」の認定基準及び「優先」の基準時点を明確にした「白 象商標」に係る紛争(事件①)はこれに当たる。また、現行法の明確化のみならず、科学 技術の発展に伴って新しく現れる客体に対応する事件も見られる。例えば、「グラフィカル ユーザーインターフェース」という新しい種類の客体を意匠特許権の出願対象とした、ア ップル社のグラフィカルユーザーインターフェース意匠特許に係る紛争(事件④)はこれ に当たる。さらに、知的財産権に関する刑事事件で、著作物そのものを提供するのではな く、ネットワークサービスを提供することにより著作権を侵害する特殊な権利侵害態様に ついて、司法がその犯罪認定の道筋、犯罪構成要件の審査、証拠審査基準などを明確にし た事例(事件⑩)は、これからの裁判実務の参考になるものであり、中国のインターネッ ト上の知的財産権保護にとっても大きな進歩といえよう。

このように今回の十大革新性事件は、十大事件と共に、今後の実務に大きな影響を与え るものと言える。

①国家知的財産権局特許再審査委員会 vs 白象食品股份有限公司、陳朝暉の意匠特許権 無効に関する行政紛争の再審申立事件〔最高人民法院(2014)知行字第4号行政裁定書〕

【事件概要】

陳朝暉は2000年10月16日に国家知的財産権局に「食品包装袋」という名称の意匠特許(以 下、「係争意匠特許」という)を出願し、2001年5月2日に権利付与公告を受けた。白象公司が保

有する第1506193号「白象」商標(以下、「白象商標」という)の出願日は1997年12月12日であ

り、2001年1月14日に登録を認められた。2009年8月4日、白象公司は、先行商標である白象 商標に抵触しているとして、国家知的財産権局特許再審査委員会(以下、「特許再審査委員会」と

いう)に係争意匠特許の無効宣告請求を申し立てた。特許再審査委員会は白象商標の登録査定 日が係争意匠特許の出願日より遅く、合法的な先行権利ではないと判断し、係争意匠特許権の 有効性を維持する決定を下した。白象公司はこれを不服として、行政訴訟を提起した。北京市第 一中級人民法院は、白象商標の登録査定日が係争意匠特許の権利付与公告日より早く、白象 商標が先行権利を構成すると判断し、無効決定を取り消した。特許再審査委員会はこれを不服と して、上訴を提起した。北京市高級人民法院は、白象商標の出願日が係争意匠特許の出願日よ り早く、白象商標の商標出願権が先行権利を構成するとして、第二審判決にて上訴を棄却し、原 判決を維持した。特許再審査委員会はこれを不服として、最高人民法院に再審を申し立てた。最 高人民法院は審査を経て、次のように判断した。商標出願権は、特許法第 23 条に定める先に取 得した合法的権利とみなすことができない。しかし、意匠特許権が登録商標専用権と権利衝突を 構成するかどうかを判断する上で商標出願権には重要な意義がある。商標出願日が意匠特許権 の出願日より早ければ、先に出願した登録商標専用権は、出願日が遅い意匠特許権に対抗する ことができる。白象商標が登録された後、係争意匠特許の実施は客観的にそれと権利の衝突が 生じる。先行権利を保護する原則に基づき、出願日が早かった白象の登録商標専用権は、陳朝 暉の意匠特許権に対抗することができると認定すべきである。よって、特許再審査委員会の再審 申立を棄却した。

【革新的な意義】

法院は、本件において権利衝突を解決する時の商標出願日の法的意義を明確にした。法院は、

商標出願日が特許出願日より早く、かつ特許無効宣告を請求した時点で商標がすでに登録を認 められかつ有効である場合には、先に出願した登録商標専用権は後から出願された意匠特許権 に対抗することができ、さらに、意匠特許権と衝突するかどうかの判断に用いることができると説 明した。本件は、特許法第23条の規定を適用する上で、登録商標専用権が合法的な先行権利を 構成するかどうかを判断するにあたって、登録査定日をそのタイミングとすべきルールからある程 度進展しており、権利の衝突に係わる事件の審理に、一定の指導的意義がある。

【コメント】

1. 特許法第23条の沿革

特許法第23条は、2回の改正を経て現在に至った。すなわち、2000年の特許法改正により、従 来の第23条に、「特許権を付与する意匠は……他人が先に得た合法的権利と利害衝突があって はならない」との内容が書き加えられた。また、2008年(施行は2009年)の改正により、上記増加 内容に修正がなされ、第23条第3項として、「特許権を付与する意匠は、出願日前に他人が既に 取得した合法的権利と利害衝突があってはならない」という独立の項となった。

2. 本事件は2000年特許法を適用

そこで本件についてみると、「改正後の特許法の施行における経過規則」において、「改正前の 特許法の規定は、出願日が2009年10月1日より前の特許出願及び当該特許出願に基づき付与 される特許権に適用する」と定められているため、出願日と権利付与日がともに 2009 年 10 月 1 日以前の本件の係争意匠特許には、2000年特許法が適用された。

2000年特許法第23条は、「特許権を付与する意匠は……他人が先に得た合法的権利と利害衝 突があってはならない」と定めているが、①どの時点を基準として当該合法的権利が係争意匠特 許権より「優先」と認定するか、また、②どのような権利が「合法的権利」に当たるかは不明確であ る。特に、本件白象商標のような、商標登録が完了していないが出願が既に行われた商標につい て、商標の「出願権」は特許法第23条における合法的権利に当たるかどうかが問題である。

本事件の場合、白象商標と係争意匠特許の出願日、登録日もしくは権利付与公告日は下記のと おりである。

出願日 登録日(権利付与公告日)

白象商標 1997年12月12日 2001年1月14日 係争意匠特許 2000年10月16日 2001年5月2日

特許再審査委員会は、①係争特許の出願日を優先認定の基準とし、②「合法的権利」と認定さ れるには、商標登録を済ませなければならないとした。そして白象商標は係争特許の出願日まで に商標登録を済ませていないため、それは特許法第23条における「合法的権利」に当たらないと 判断した。

北京市第一中級人民法院は、①係争意匠特許の権利付与公告日を基準とし、白象商標の登 録日が係争意匠特許の権利付与公告日より早かったため、係争意匠特許より優先する、と判断 した。

北京市高級人民法院は、①係争特許の出願日を基準としたが、②商標登録が完了していない が出願が既に行われた商標の場合、その商標の「出願権」も特許法第23条がいう「合法的権利」

に当たると認定し、白象商標が係争意匠特許より優先すると判断した。

最高人民法院は、北京市高級人民法院の結論を支持したが、その理由を変え、①係争特許の 出願日を「優先」の認定基準としたが、②商標出願権は、特許法第 23 条が定める「合法的権利」

ではないとした。しかし、商標出願権の性質や作用――すなわち、商標法によれば、同一又は類 似する商標について複数の出願があった場合、最初に出願したほうが優先すること、また、商標 出願権は商標権に向けての権利であり、商標が最終的に登録されるからこそ意義を有し、一種の 期待権であること、そして優先権利を保護する原則から、商標出願権も保護すべきであると判断

した。

3. 現行特許法の下での実務に対する影響

現行特許法第23条第3項が、「特許権を付与する意匠は、出願日前に他人が既に取得した合 法的権利と利害衝突があってはならない」と定めている。2000 年特許法と比べて、「優先」を認定 する基準時点が「特許権の出願日」と確定された。しかし、「合法的権利」の定義について、詳細な 説明はなお存在していない。本件における最高人民法院の見解は、これからの実務にとって指針 になるであろう。

②(スイス)ELECON ASIA SA vs中華人民共和国国家知的財産権局特許再審査委員会、

劉夏陽らの発明特許権無効に関する行政紛争についての審級引上げ審理事件〔最高人民 法院(2014)行提字第11、12、13号行政判決書〕

【事件概要】

ELECON ASIA SAは「自動化機械式駐車場における車両の水平運搬に用いるブラケット」とい

う発明特許(以下、「本件特許」という)の権利者である。本件特許は 15 の請求項があり、その内 独立請求項1は、「車輪(3)の上を自走するブラケットで、…1つの部分に一対の装置(58)があり、

装置(58)は当該ブラケットの縦軸と対称的に垂直に移動することができ且つ当該車両の1つのシ ャフトの 2つの車輪を支え、中揃えにし、移動停止および持ち上げるように構造され、別の部分に も一対の装置(59)があり、装置(59)は当該ブラケットの縦軸と対称的に垂直に移動することがで き且つ当該車両の第2シャフトの2つの車輪を支え、中揃えにし、移動停止および持ち上げるよう に構造されている…。」となっている。本件特許をめぐって、劉夏陽、怡峰公司は前後して 3 回の 無効請求を申し立てた。その理由の1つが、請求項1~15に、必要な技術的特徴がなく、特許法 実施細則第21条第2項1の規定に合致しないということであった。特許再審査委員会は、「請求項 1及びその従属請求項は必要な技術的特徴が欠けているため無効を言い渡すが、請求項4及び その従属請求項の技術的解決手段は特許法第26条第4項の規定に合致している」と認定した。

ELECON ASIA SA はこれを不服として、行政訴訟を提起した。北京市第一中級人民法院、北京

市高級人民法院は前後してその訴訟請求と上訴を棄却した。ELECON ASIA SAはこれらを不服 として、最高人民法院に再審を申し立てた。最高人民法院は審級を引き上げて自ら再審を行い、

次のように判断した。独立請求項に必要な技術的特徴が欠け、特許法実施細則第21条第2項の 規定に合致しない場合、通常は明細書による支持も受けられず、特許法第26条第4項の規定に 合致しない。無効決定は、請求項に必要な技術的特徴が欠けていると認定しながら、明細書によ り支持されていると認定しており、法律適用に誤りがある。よって、特許再審査委員会の審査決定

1 訳注:2010年改正(現行法)前の条文番号。現行法においては第20条第2項がこれに該当す る。