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以下の裁判例の解説において、「事件概要」及び「典型的な意義」は、最高人民法院の「2014 年 中 国 法 院 に お け る 10 大 知 的 財 産 権 事 件 に つ い て の 概 要 説 明 」 ( 出 典 : http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-14202.html)を和訳したものであり、「コメント」は、本レポ ートの執筆担当事務所が作成したものである。

2015 年に最高人民法院が公表した「2014 年中国法院知識産権司法保護十大事件」について事 件の類型別にみれば、独占禁止に係るものが1件(下記②)、不正競争に係るものが2件(下記①、

④)、商標権に係るものが 3 件(下記③、⑦、⑧)、集積回路専用権に係るものが 1件(下記⑤)、

特許権に係るものが1件、著作権に係るものが2件(下記⑥、⑩)であった。今回の十大事件の最 大の特徴は、(1)知的財産法分野と競争法分野との交差、(2)知的財産権保護と経済活動との密 接な関係及び(3)インターネットの普及と知的財産の保護の関係に焦点を当てて先行した点にあ ると考えられる。

(1)については、「360」と「QQ」の間に生じた 2 つの事例を見ればわかるように、いずれも知的 財産法分野というよりは、競争法分野(不正競争防止法、独占禁止法)に属する事例である。特に 事例②においては、独禁法分野におけるいくつかの重要な論点が極めて詳細に論述され、関連 市場の範囲の画定、市場支配的地位の判断基準について判断されており、今後の実務に大きな 影響を与えると思われる。

(2)については、今回公表された事例は、いずれも企業が当事者として関わっており、企業の経 営活動に不可欠ともいうべき商標権、著作権、特許権に関して、今回の十大事件ではそれぞれ典 型事例がピックアップされている。企業には、経営活動を通じて利益を追求する一方で、他人の知 的財産権を侵害することがないよう、法院が促しているものと評価できる。また、知的財産権を侵 害された側にも積極的に司法手段を使って自分の権利を保護するよう推奨していることも典型事 例から見て取れる。

(3)については、現在、中国では、インターネットが猛スピードで普及しており、しかし民衆の知 的財産権保護に関する意識の高まりはこれに追い付いておらず、インターネット分野における知 的財産権の侵害がもっとも深刻ともいうべき状況に置かれている。それゆえ、インターネット分野 における知的財産権保護を確立することを法院が重視しているものと考えられる。また、事例④ のように、インターネット分野の特殊性を考慮して、それに見合った知的財産権保護の判断基準 を示すことも行われた。

いずれにしても、今回の十大事件に示されている判断基準を把握することが、今後中国で知的 財産権実務を行うためには不可欠であると言えよう。

(1) 知的財産権民事事件

①「360QQ護衛」ソフトウェアをめぐる商業中傷紛争事件

テンセント科技(深セン)有限公司、深セン市テンセントコンピュータシステム有限公司vs北京奇 虎科技有限公司、奇智ソフトウェア(北京)有限公司の不正競争をめぐる紛争に関する上訴事件

〔最高人民法院(2013)民三終字第5号民事判決書〕

【事件概要】

北京奇虎科技有限公司、奇智ソフトウェア(北京)有限公司(以下、「奇虎公司ら」と並称する)

は、テンセント科技(深セン)有限公司、深セン市テンセントコンピュータシステム有限公司(以下、

「テンセント公司ら」と並称する)のQQソフトウェアに狙いをつけたソフトウェア「360QQ護衛」を開 発し、関連サイトにおいて、「QQ護衛がQQソフトウェアのユーザーのセキュリティを全面的に守る」

と宣伝したうえで、ダウンロードサービスを提供した。インストールすると、QQ護衛は自動的にQQ ソフトウェアの健全性診断を行い、赤字にてユーザーに、「QQ に重大な健全性の問題あり」と警 告を出し、緑字にてワンクリック修復を提供すると同時に、「360 セキュリティガードがインストール されておらず、コンピュータが危険な状態にある」「QQ セキュリティセンターをアップデートする」

「QQのテンプレートファイルのスキャニングをさせない」を危険項目として列挙する。そして QQに あるトロイの木馬型ウィルスを駆除する際に、「360 セキュリティガードをインストールしなければ、

トロイの木馬型ウィルスの駆除機能を利用できません」と表示し、かつ、緑色の機能ボタンにて 360 セキュリティガードのインストールとダウンロードサービスを提供する。ワンクリック修復をする と、QQ護衛では、QQソフトウェアのセキュリティコミュニケーション・インターフェースが、QQ護衛・

インターフェースに置き換えられる。テンセント公司らは、上述の行為が不正競争を構成したとして、

訴訟を提起した。広東省高級人民法院は第一審において、奇虎公司らの前述の行為が不正競争 行為を構成し、また、テンセント公司らの経営に狙いを付け、故意に虚偽の事実をねつ造、流布し たことが、同社の営業上の信用及び商品の名声を害し、商業中傷を構成したと判断した。そこで 奇虎公司らに対して、公開で謝罪し、及び影響を除去し、並びに経済的損失及び合理的な権利保 護費用として合計500万元を連帯賠償せよとの判決を下した。奇虎公司らはこれを不服として、上 訴を提起した。最高人民法院は第二審において次のように判断した。市場競争において、事業者 が、通常、市場ニーズや消費者ニーズに応じて自由にビジネスモデルを選定できるということが、

市場経済では必然的に求められる。テンセント公司らが採用する、無料プラットフォームと広告又 は付加価値サービスとを結びつけるビジネスモデルは、本件紛争発生時のインターネット業界に よく見られる経営方式で、中国のインターネット市場の発展における段階的特徴にも適合している。

このビジネスモデルは不正競争防止法の原則的精神や禁止規定に違反しておらず、テンセント公 司らがこれによって商業的利益を図る行為は保護されるべきであり、他者は不正な妨害によりそ

の正当な権益を害してはならない。奇虎公司らの前述の行為により、QQ ソフトウェア及びそのサ ービスの安全性、完全性が壊され、正当な経営活動が妨害され、合法的な権益が害された。奇虎 公司らの前述の行為の根本的な目的は、膨大なQQソフトウェアのユーザー層に依存して、QQソ フトウェア及びそのサービスを低く評価する方法で360セキュリティガードの販売促進、普及を図り、

それにより奇虎公司らの市場での取引機会を拡大し、そして市場競争の優位を獲得することにあ り、本質としては、他者の市場の成果を不正に利用して、自らのためのビジネスチャンスを図るこ とにより、競争優位を獲得する行為に当たり、誠実信用及び公正競争の原則に反しており、不正 競争を構成する。よって、最高人民法院は上訴棄却、原判決維持の判決を下した。

【典型的な意義】

最高人民法院は本件において、インターネット市場分野での商業中傷行為に対する認定ルー ルを明確にした。その根本的な要件は、関連事業者の行為が誤解を招く方法により競争相手の 営業上の信用又は商品の名声に損害を与えたかどうかである。最高人民法院は、事業者が競争 を目的として、他者に関する商業的なコメント又は指摘をするにあたって、特に慎重注意義務を真 摯に履行しなければならず、インターネットの健全な発展には、整然とした市場環境と明確な市場 競争ルールによる保障が必要であり、競争の自由と革新の自由は他者の合法的権益を侵害しな い範囲としなければならないと指摘した。最高人民法院は、本件においてインターネット市場分野 における技術革新、自由競争と不正競争の関係を明確にしており、本件は関連するインターネッ ト企業同士の秩序ある競争、市場での資源配置の最適化の促進に一里塚としての意義を有す る。

【コメント】

インターネットにおける不正競争行為について、中国の不正競争防止法には具体的な規定が設 けられていない。裁判所はインターネット分野の不正競争事件の審理に際し、主に、不正競争防 止法第 2 条の「原則規定」を用いて判断を行ってきた。本件は、インターネット分野の不正競争事 件に関する重要な裁判例であって、中国最高人民法院が当裁判例で行った判断、特にインターネ ット分野における商業中傷の判断基準は今後の実務において重要な指針になると考えられる。以 下、本件の重要ポイントを解説する。

1. 無料プラットフォームと広告又は付加価値サービスを結びつけるビジネスモデルの安全性と 整合性は事業者にとって合法的な権益である。

本件では、奇虎公司らは、反論の一つとして、ビジネスモデル自体は権利でもなければ、法律に より保護されるべき利益でもなく、しかも、テンセントのビジネスモデルは略奪性を帯びていて、消 費者にも市場競争にも悪い影響を与えており、「QQ 護衛」にはテンセント公司らにこのようなビジ ネスモデルの変更を促す効果があることを反論の一つとしていた。それに対して、最高人民法院