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第6節 更生保護施設幹部職員へのヒヤリング調査の結果
図4−5には、このヒヤリング調査から見えてきたニーズを示したが、これは 筆者が平成20(2008)年を中心に15か所20に更生保護施設幹部職員に行った
ヒヤリングとかなり相応するものであった。そこでは、次のことが指摘された21。
元犯罪者の社会再統合に向けての更生保護の課題
①更生保護施設退所後の地域社会での継続的ケアの必要性
更生保護は、対象者の再犯予防について責務をもつ。そのことを「更生保護 法」に明記した。しかし、更生支援については人的・予算的資源の裏付けがな
く、また、処遇期間も限定されているので、十分な支援ができる態勢にない。また、刑務所の満期釈放者が多い現実を考えると、更生保護が更生支援の一.一翼
を担うべきことは明らかであるが、他の一一貫して担う機関が必要と思われる。
このような現状から、国、自治体、地域社会に犯罪のリスクを担う覚悟がな いことが窺える。犯罪のリスクは人が住む限りある。問題は犯罪のリスクをい かに低くするかにあり、可能な限りの手だてを社会全体の責務として講じる必 要がある。国や自治体が公的施策としてやるべきこと、社会資源や社会関係資
本を活用して地域でできることを有機的に組み合わせるしかない。いかにして、社会内に更生支援のネットワークを作るかにかかっている。ただし、−1三導的役 割を担う機関と、個々のケースのコーディネーターは固定すべきであるc、
②単なる就労斡旋ではない、生活自立支援を含む包括的就労支援の必要性 大半の元犯罪者は低学歴、就労経験と技能の不足、生活技能全般の不足、コ
ミュニケーション技能の不足、問題解決技能の不足など、多くの問題を複合し
てもっている。そのため、通常の労働市場で適職を見つけるのが難しい。法務 省と厚生労働省の協働によるハローワークの就労支援プUグラムさえ、元犯罪 者には要求される能力の水準が高すぎて適用が難しい。特に中高年者や知的障 害者等二重のハンディをもつ元犯罪者にはなおさら困難である。再犯リスクを 管理、生活自立支援、職業訓練、生涯教育など複合的な機能を提供する包括的
な就労支援プログラムが必要と思われる。元犯罪者を対象とした牛5・別のセーフティネットが必要である。そのために、社会的企業やNPOといった社会的経 済の貢献を得ながら、国と自治体が連携して特別のプロジェクトを推進するし
かない。
③特別のニーズに地域社会で応える必要性
高齢者、知的障害者、薬物依存者など特別の介護的な支援や精神的支持を必 要し、かっ地域生活を希望する元犯罪者に相応しい住居がない。生活全般の支 援者をもつ特別のグループホーム、あるいは生活保護を受給しつつ短時間の就 労と地域で独居生活を送れるような支援が求められる。これは従来の社会福祉 の枠組みでは難しいので、国の関与によって一般の福祉とは異なる特別の枠組 みで制度を作り、NPO等民間セクターの支援を得る必要がある。
④再犯抑止のためのアフターケアの制度化
刑事司法制度を離れて社会復帰した後に、多くの元犯罪者は社会生活上の困
難に遭遇し、再犯に至っている。更生意欲を持続させるためのサポートグルー プ、駆け込みNPO等困った時の相談場所、家族との再統合を斡旋するNPO、
コミュニケーション能力を学ぶ場所等継続的な自立支援団体などの設・∫1が望ま
れる。また、現在、通常のケースは刑事施設等を釈放後6か月が有効期限とさ れている「保護カード」を再犯率が高い期間とされる5年(平成19年版犯罪
白書、p226)まで延長し、さらに福祉機関にも有効として社会資源に繋ぐなど のルートを作ることが必要である。いずれにせよ、地域内に社会関係資本を駆 使したアフターケアのネットワークを作ることが望まれる。その際、アフター ケアシステムを十分に機能させるために、自治体が関与して地域内に支援の拠
点を作る必要がある。⑤ 元犯罪者に希望を与えるプログラムの必要性
元犯罪者の多くは人材派遣によって将来の見通しの立たない不安定な職に就 いているだけに、気持の拠り所を提供できるプログラムが望まれる。地域の社 会資源や社会関係資本を活用し、元犯罪者の特性やニーズを理解したヒで、ス
ポーツ、趣味、生涯教育等のプログラムが提供されるのが望まれる,、それには自治体による予算やソフト面での補助が必要となる。
このヒヤリングは平成20年に実施したものである。その後、高齢者や障が い者等特別のニーズのある者の更生保護施設受託期間は例外的に1年まで延長
され、また、厚生労働省の予算で各都道府県に「地域生活定着支援センター」が設置された。この点では大きな改善であるが、犯罪者の中心である生産労働 年齢にある健康な、しかし、学力や就労能力・経験でハンディをもつ大多数の
犯罪者へのケアは、上記の調査時と抜本的な改善はないと思われる。1触法しょう害者に対する福祉支援の必要性とそれが満たされていない実態は、
社会福祉法人「南高愛隣会」理事長の田島良昭氏が主導して問題提起された。
その間の事情は同人執筆による論文に(田島、2008)に記されている。
2元衆議院議員であった山本譲司氏が政策秘書給与の流用に係る詐欺罪で懲役 1年6月の実刑判決を受け、2001年から黒羽刑務所に服役して、刑務作業とし て障がいのある受刑者の介護を行った体験から、触法障がい者の福祉ニーズが
満たされていれば犯罪を行うことを阻止できると訴え、田島良昭氏らとともに、平成18年度厚生労働研究、障害保健福祉総合研究事業「罪を犯した障がい者
の地域生活支援に関する研究」を遂行した。
3厚生労働省「地域生活定着支援事業」
htt:〃www.mhlw. oj/bun a/seikatsuho o/dl/kvouseishisetsuO1. df、 2012{ド
10月29日アクセス。平成21年度より「地域生活定着支援事業」として実施され、
平成24年度には「地域生活定着支援事業」に名称が変更されているL、同事業は高 齢又はしょう害により、福祉的な支援を必要とするts, 1}1施設退所者等の社会復帰 及び地域生活への定着を促進し、再犯防止対策に資することを目的として、次の事 を行っている。
ア矯正施設退所予定者の帰住地調整支援を行うコーディネート業務 イ矯正施設退所者の施設等への定着支援を行うフォローアップ業務 ウ矯正施設退所者等への福祉サービス等についての相談支援業務 工地域のネットワークの構築と連携促進業務
4 平成19年版犯罪白書では「再犯者の実態と対策」が、さらに、 lz成23年版犯 罪白書では「少年・若年犯罪者の実態と再犯防止」が特集として組まれ、平成24 年7月には犯罪対策閣僚会議で「再犯防ll二に向けた総合対策」が策定された,,
5D. A. Andrews&J. Bonta、2010、 p.500.
6Social Exclusion Unit、2002
7法務総合研究所研究部報告42「再犯防止に関する総合的研究」、2009
8 社団法人 東京社会福祉会、20099 ハンソンらによるメタアナリシスで下表のことが示され、性犯罪者の多くは多 罪種の犯罪を行うことが検証された。
表
追跡期間4〜5年の性犯罪者の再犯率
再犯の罪種 再犯率
イ査別
追跡期間
性犯罪
(性的動機以外)
e暴犯
(性的動機
ワむ)粗暴犯 全罪種 1)Hanson &
aussi6re,1998
4〜5年
13.4% 12.2% 一 36.3%2)Hanson &
aour en,2004 5〜6年 13.7% 14.0% 25.0% 36.9%
1)は、1943年〜1995年に実施された61の調査(米国30、カナダ16、英国10、オー ストラリア2、デンマーク2、ノルウェー1)のメタアナリシス、総計約28、900人の成人 性犯罪者
2)は、1943年〜2003年に実施された95の調査(米国42、カナダ30、英国3、オース トリア3、スウェーデン2、オーストラリア2、フランス]、オランダ1、デンマーク1)
のメタアナリシス、総サンプル数約31、000人の性犯罪者 出典:
Hanson, R. Karl&Bussiere, M. T.,1998, Predict in relapse:Ameta−−analysis of sexual offender recidivism studies, Journal(Z∫ Consu〃ing and C〃nicat 1)Sych ,/o&γ,
66(2)、pp.348−362.
Hanson, R. Karl and Morton−Bourgon, Kelly,2004, Predictors()f Sexual
Recidivism:・An{ノpdated Meta−A〃aly,yis, Public Safety and Emergency Preparedness Canada.
10ワシントン州も、性犯罪者の多くは多罪種の犯罪を行うことを示した。
表
ワシントン州での追跡期間5年の重罪犯罪者の再犯率
再犯のうち、
ナも重い罪種
性犯罪者 S、091人
性犯以外の暴力事犯者
@ 15、952人
非暴ノ」事犯者