クを抱えるが、同時に長所を内在させ『善い人生』を送ることを志向している 者」と捉えられる。本論文の特別調査の結果に依ると、日本の犯罪者も大枠で
この犯罪者モデルに含めて差し支えないと言える。
このような犯罪者像を基盤にして、標準的な犯罪者処遇モデルが策定され、
多くの国で共有されている。標準的な処遇モデルができるのは、実証研究に基
づいて構成された犯罪者像に即して処遇モデルが策定され、そのイ1 効性を実証研究によって検証して修正していくので、自ずとひとつの原型へと収れんして いくからである。本章では、現在多くの国で採用されている犯罪者処遇モデル
を概観する。そこに至る経緯も見ていく。各国は、そのような世界標準といえるモデルを基盤として、独自の施策を付 加している。2005年以降の日本もそうである。次章で日本の犯罪者処遇につい て考察する前に、本章では、日本も共有する標準的な犯罪者処遇モデルを見て
いきたい。
第1節 犯罪者処遇モデルの変遷 1 医学モデルから正義モデルへ1
1950年代以降の犯罪者処遇は、犯罪者の「問題性(=病理)」に焦点を ilて た介入をすれば再犯が抑止できるとする「医学モデル」に依った、,)すなわち、
犯罪者は精神内面に何らかの病理をもち、それが犯罪の原因になっているのだ から、医学の手法と同様にその病理を緩和し、あるいは除去すれば、再犯を防 ぐことができると考えられた。そして、刑事施設や保護観察所での犯罪者処遇 では、カウンセリングや処遇プログラムなどによる治療的な働き掛けが行われ
た。
しかし、1970年代には、刑事施設等で治療的な処遇を受けた者の再犯が増力ll
したのを背景に、犯罪者処遇のr医学モデル」の有効性が疑問視されるように
なった。そんな中、1974年、米国のマーティンソン(Martinson, Robert)が米国の刑事施設や社会内で実施されていた犯罪者処遇に関する231の研究の成果を
さらに検証した結果をまとめた 「What works?一一 questions and answers about
prison reform」2を発表した。彼は、刑務所や社会内で実施されている教育、職 業訓練、個人およびグループへのカウンセリング、矯IE施設内の環境の変更、
医学療法、施設内処遇よりも社会内処遇を多用する方針、社会内での精神療法、
集中的指導監督などの改善更生プログラムが再犯の減少に寄与していないとll
張し、「Nothing Works(=何をやっても効果がない)1と結論づけたL、犯罪率が高水準で推移する中で、このマーティンソンの研究は米国の刑 i}:政 策に影響を与え、「医学モデル」に依る処遇への懐疑が深まっていった。そして、
1980年前後からは、適正手続きに依って犯罪事実の認定を適lllに行い、公【llな
裁判で科された罰を粛々と執行することこそが刑罰のあるべき方向性姿だとす
る「正義モデル」が採られるようになった、、
これには当時の新自由主義に基づく政治の機運も影響した。犯罪者は物事の
是非を判断し、自らの意志に基づいて行動する合理的な存在として捉えられ(=合理的選択理論)、犯罪に対する犯罪者本人の責任が追及され、刑罰の効果をfJ 動の自由の制限に限定することが良いとされた。
2 「What Works」論と「RNRモデル」
これに対し、1980年代から「Nothing Works」論に対する揺り戻しの動きが生 じ、1990年に、カナダの犯罪心理学者のアンドリュー一(Andrews.【). A.)やボ ンタ(Bonta, J.)が既存の研究の統合的レビュー分析であるメタアナリシスの成 果に基づいて「Does Correctional Treatment Works? A Psychologically lnformcd Meta−analysis」3を発表したのがエポックとなって、処遇悲観論の流れが変わっ
た。彼らは、マーティンソンに対抗して「What Worksj論として、犯罪者処遇
有効説を唱えた。これは、「すべての改善更生プログラムが無効というわけでなく、中・高レベルの再犯リスクのある者の『犯因性ニーズ(Criminogenic Needs)』
に焦点を当てて、適切な内容の介入を本人が応答する方法で行えば、再犯リス
クを減少できる」という主張であり、「RNRモデル(Risk, Need and Responsivity Mode1、リスク・ニーズ・応答性モデル)」を提示した。アンドリューズらは、三つの原則を示してRNRモデルを次のように説明して
いる4。
・ リスク原則 Risk Princi le
処遇による介入のレベルは、対象者のリスクレベルに合わせるべきである。
高リスクの対象者に介人した場合(r=.17)の方が、低リスクの対象者に介入し
た場合(r−.03)よりも、介入と再犯リスクの低減との相関が高いことがメタアナ
リシスによって検証できている。誰が高リスクの対象者かは、静的なリスケ因
子5で構i成したスケールで測定できる。・ 二二ざ原貝1]一(Necds Pri旦ciple)
ニーズには犯因性と非犯因性のものがある。うち、犯因性ニーズ、特に叩か
ら高レベルの動的リスク因子に焦点を当てて介人すると再犯リスクが減少する。犯因性ニーズは介入すべき事項を示すので、介入に当たっては犯因性ニーズを
測定すべきである。犯因性・非犯因性ニーズの別は、表5−1のとおりである、、・ 応答性.厘別
応答性原則はどのように介入すべきかを示すものである。 一般的には認知行
動技法はどの対象者も応答するものであるが、個々の対象者の特殊な事情、す
なわち、生物的(e.g.,ジェンダー)、社会的(e.g.,文化)、心理的(e.g..パー
ソナリティ、情緒、認知能力)な応答性に配慮して介入すると、処遇効果がL
層高まる。
表5−1
犯因性と非犯因性ニーズ 犯因性ニーズ反社会的人格/否定的な情緒
反社会的な態度と認知犯罪を助ける社会的サポート 物質依存
不適切な保護者の監督としっけ 学校/職場環境での問題
貧弱な自己統制
向社会的な活動の欠如
非犯因性ニーズ ぼんやりした抑うっ感覚 低い自己評価
孤立し、排除されているといった感覚
,身体活動の欠如 被害体験
幻覚、不安、ストレス
荒廃した(disorganlzed)コミュニティ 意欲の欠如
出典:Andrews, D. A.&Bonta, J.,2012, p.310,小長井試訳
上記に示したRNRモテルの知見は、
①再犯リスクを測るアセスメントツールの開発、
②実際の処遇における測定された再犯リスクレベルに応じた介入、
③犯因性ニーズに焦点を当てた「認知行動療法」による処遇プログラムの
開発
として結実し、現在、再犯リスク管理のための処遇方法として多くの国で導人
されている。
さらに、地域で暮らす犯罪者の行動を監視し、統制するための多機関連携の 活動6も、RNRモデルが基盤となっている。
3 社会的排除論と社会的包摂施策
さらに、2000年代に入ると、先進国ではグローバリゼーションや経済の成熟
化等を背景に雇用の喪失、失業率のヒ昇、非正規雇用やワーキングプアの増加、所得格差の拡大などが生じ、排除されて社会の底辺に沈澱する一一一群の人々が構