第 2 章 家族 構造( family structure)の変化と「貧困の 女性化」
2. 家族類型の変 化― 女性稼ぎ主 世 帯の増加
3.2 時間貧困の 女性 化
等価可処分所 得は 、世 帯の資源が世 帯内のす べての構成員 に均等に 配分され 、 世帯員が同じ 生活水準 と等価所得を 得ている と仮定して算 出され る が、現実に は、世帯内の 所得が す べての世帯員 に均等に 配分され ると は限らな い 。それゆ え、等価可処 分所得に 基づいて算出 される貧 困率は、女性 の貧困を 過少評価す る可能性があ る。そこ で、世帯内に おける資 源配分として 、時間資 源を取り上 げる。すべての 人は一 日 24 時間という 等し い資源を保有 している が、その活用 の仕方は性別 によって 異なるという ことに着 目するのであ る16。
16 時 間 活 用 の 男 女 格 差 に つ い て は 、 Folbre & Bittman(2004)、Folbre & Yoon( 2007)
を 参 照 。
24 図表 2-9 は、2014 年における有配 偶者世帯 について、就 業構造別 にみた夫 婦の一日の生 活時間を 表したもので ある。
図 表 2- 9 世 帯 の 就 業 構 造 別 ・ 性 別 生 活 時 間 ( 単 位 時 間 : 分 )
まず、「義務労 働時間 」をみる と、女 性稼ぎ 主世帯の男性 を別とす れば、す べ ての世帯の男 女の 「 義 務労働時間 」 はおよ そ 6 時間か ら 8 時間前 後である。中 でも共稼ぎ世 帯の女性( 8:05)が最も長 く、その次は女性 稼ぎ主世 帯の女性( 7:
50)となってお り、共 稼ぎ世帯の男 性( 6:52)や男性稼ぎ主 世帯の 男性( 6:38)
より長い 。職に就 いて いる男性は 、6 時間 前 後の有償労働 と 40 分 強の無償労働 に時間を費や している ことにたいし 、職に就 いている女性 は、 5 時間前後の有 償労働の終了 後に 3 時 間前後の無償 労働をし ている。全世 帯の 5 割 以上の世帯 の女性が職に ついてい るが、このよう な女性 に、いわゆる「セ カン ド・シ フト」
女性 男性 女性 男性 女性 男性
10:51 10:59 11:10 11:04 10:57 11:44 9:42 8:53 7:35 8:47 9:26 3:23 義務労働時間 8:05 6:52 6:05 6:38 7:50 1:59 有償労働 4:52 6:11 0:05 5:52 5:11 0:20 無償労働 3:13 0:41 6:00 0:46 2:39 1:39 3:28 4:08 5:16 4:08 3:37 8:54 資料:韓国統計庁『2014年生活時間調査報告書』、「地域別雇用調査」2015年度より作成。
注1)世帯構成割合は、2015年10月現在。
注2)必需生活時間:睡眠、食事、身のまわりの用事など個体を維持向上させるために 行う必要不可欠性の高い活動の時間。
注3)義務生活時間:仕事、家事、育児、学習、移動など家庭や社会を維持向上させる ために行う義務性・拘束性の高い活動の時間。
注4)余暇生活時間:マスメディア接触、レジャー活動、交際、休息など必需・義務生活 時間以外の各人が自由に使える時間。
夫婦共稼ぎ 男性稼ぎ主 女性稼ぎ主
[43.9%] [49.8%] [6.3%]
必需生活時間注2)
義務生活時間注3)
そ の 内
余暇生活時間注4)
世帯区分 [構成割合]注1)
25
17が 課 せ ら れ て い る の で あ る 。 そ の 一 方 、 男 性 稼 ぎ 主 世 帯 の 女 性 の 場 合 、 無 償 労働に 6 時間 を費やし ている 。
次に、余暇時 間をみる と、就業中の 男性の余 暇時間( 4:08)は、就 業中の女 性に比べ 30~40 分程 長く、男 性稼ぎ主 世帯 の女性の余暇 時間( 5:16)は 、就業 中の男性の余 暇時間よ り 1 時間程 長い。女性 稼ぎ主世帯の 男性の余 暇時間( 8:
54)を別とす れば、余 暇時間の男女 差はそれ ほど大きくな い。しか しながら、
女性の余暇は 無償労働 と同時に行わ れている 割合が高く、 余暇時間 が分断され て い る こ と が 多 い と さ れ る18。 こ の よ う な 点 を 考 慮 す る と 、 韓 国 の 女 性 の 余 暇 時間はより短 くなるの が実態であろ う。
これらの数値 は、韓国 では、家庭で の家事や 子育てなどと いったケ アの役割 および負担が 女性に集 中しているこ と、さら に職に就いて いる女性 には 、稼ぎ 手としての役 割と家庭 でのケアの役 割とが同 時に課されて いること を示してい る。職場と家 庭との過 重労働によっ て、時間 のコントロー ルが難し く、余暇時 間 な ど 自 由 に 活 用 で き る 時 間 が 不 足 し て い る 状 態 を 「 時 間 貧 困 」19と 定 義 す る ならば、韓国 の女性の 時間貧困の高 さは明ら かである。
他方、韓 国統計庁 によ る伝統的な性 別役割分 業についての 意識調査 をみると 、 伝統的な性別 役割分業 に反対する割 合が、男 性では 2004 年に 50.8%、 2009 年 に 55.0%、2014 年に 56.6%、女性で は 2004 年に 64.8%、2009 年に 66.6%、2 014 年に 71.7%と、男女ともに増え 続けてい る。このよう な変化は 、近年の韓 国 に お け る 家 族 形 態 の 多 様 化20や 家 計 収 入 構 造 の 変 化 な ど と 関 わ る も の で あ る 。
例えば、家計収 入構造 をみると、男性 稼ぎ主 世帯は減り続 け、2015 年に全世 帯の半分を下 回ってお り、それ以外 の共稼ぎ および女性稼 ぎ主世帯 が過半を占 めている( 図 表 2-9 の世帯構成割 合を参照 )。横田( 2007:94-96)によれば、1 990 年代以後 の韓国で は、労働力の 非正規化 の進展によっ て、正規 労働者世帯 より非正規労 働者世帯 が増えており、これら の非正規労働 者世帯は 、「男性稼 ぎ 主」型の正 規労働者 世 帯と違って 、「多 就業 形態」型と インフォ ー マル収入多元
17 Hochschild & Machung(1989)は、日 中 の 仕 事 を 終 え て 帰 宅 し た 女 性 に と っ て 、 家 庭 内 の 家 事 ・ 育 児 な ど は 「 セ カ ン ド ・ シ フ ト 」( 第 二 の 勤 務 ) で あ る と 述 べ た 。
18 例 え ば 、 阿 部 ( 2012:179)、 Bittman & Wajcman(2000:168-169)。
19 時間貧困については、Noh & Kim(2010)、Zacharias ほか(2014)を参照。
20 近 年 の 韓 国 の 家 族 形 態 の 変 化 の 特 徴 に つ い て は 相 馬 ( 2013) を 参 照 。
26 型の特徴を持 つという 。つまり 、「男性稼 ぎ 主」型家 計収入構 造は 、韓国の すべ ての世帯に当 てはまる 典型的な型と は言えな くなっている のである 。しかしな がら、人々の 伝統的な 性別役割分業 について の認識の変化 は必ずし も人々に実 践されている わけでは なく、近年の 家計収入 構造の変化が 伝統的な 性別役割分 業をすべて覆 したとも いえない。言 い換えれ ば、男性稼ぎ 主型モデ ルを支える 二本の柱の一 つである 「稼ぎ手 」と しての役 割は、近年相 当なスピ ードで男女 がともに担う 形に変わ って きている にもかか わらず、も う一つの 柱 、つまり「家 族ケア労働の 担当者 」 と役割につい て は、そ の変化のスピ ードが遅 く、結果と して、女性に 稼ぎ手と 家族ケア労働 の担当者 という二重の 責任が課 されている のである。