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日本語圏の乳幼児の音声の聴きとりによる観測

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 31-39)

3.1 目的

本章では,日本語圏の乳幼児(月齢3, 8, 15, 20, 24 ヶ月)の音声に対して聴 きとりによる観測を行なった。どの月齢で音節を持つ発話が現れるか,研究協 力者が聴きとりによる観測を行った。

3.2 対象

乳幼児のそれぞれの養育者へ,書面と口答にて研究協力の承諾を依頼し,同意 の得られた養育者の乳幼児を研究対象とした。対象者は,正常な発達段階にあ る日本語を第一言語とする家庭で生活する月齢 3 ヶ月の 3 名の乳幼児(女児 3 名),月齢8ヶ月の3名の乳幼児(女児1名,男児2名),月齢15ヶ月の5名の 乳幼児(女児3名,男児2名),月齢20ヶ月の5名の乳幼児(女児3名,男児 2 名),月齢24 ヶ月の5名の乳幼児(女児3名,男児 2名)である。表3.1 に 日本語圏の乳幼児の個人ごとの身長と体重を示す(同一児のデータも用いられ ている)。身長と体重のデータから,乳幼児の身体の発育が正常な発達段階にあ ることが示された。月齢3ヶ月の日本語圏の乳幼児JF07, JF08のデータに関し ては,養育者が記録していなかったが,観察する限りにおいてこの 2 名は正常 な発達段階にあった。

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表 3.1 日本語圏の乳幼児の身長と体重。Fは女児,Mは男児を示す。

Months of age Weight (kg) Height (cm)

JF05 JF07 JF08

3 3 3

7

63

Mean

S.D

JF05 JM06 JM09

8 8 8

9 8 9

70 69 72 Mean

S.D

8.7 0.5

70.3 1.5 JF02

JF06 JM03 JM04 JM07

15 15 15 15 15

8 8 9 10 10

78 76 76 76 80 Mean

S.D

9 1.0

77.2 1.9 JM01

JF02 JF03 JM03 JF01

20 20 20 20 20

11 9 11 10 12

83 82 83 78 79 Mean

S.D

10.6 0.9

81 2.4 JF02

JF03 JF06 JM01 JM03

24 24 24 24 24

10 12 10 11 11

84 87 85 84 82 Mean

S.D

10.8 0.6

84.4 1.8

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3.3 音声データ

乳幼児の音声は,携帯録音機(Roland, R-09HR; TASCAM, DR-07)を使い,

44.1 kHzサンプリング,16ビット量子化,ステレオ形式という条件で録音を行

った。録音場所は,乳幼児が生活する一般の家庭であった。録音時間は,1ヶ月 に約2時間であった。録音機は,乳幼児から,できれば1 m以上の距離を開け て録音を行った。録音機は床からの反射音などが録音されるのを防ぐため座布 団あるいはクッションの上に乗せて録音した。テレビ,ラジオ,洗濯機などの 雑音が入らないように依頼した。録音の際,両親には,普段通りに行動するよ うに依頼した。乳幼児に発話させるための特別な手順は取らなかった。このよ うに,日豪の日常に近い自然な状況で録音がなされていることが,本研究の特 徴である。著者と九州大学芸術工学部の学生 2 名が,オーディオ・ソフト

(Syntrillium,CoolEdit 2000; Adobe, Audition)を使い,以下の基準に基づい て乳幼児音声の切り出しを行った。

1.発話前後の無音区間75 ms を含める。

2.発話間の無音区間が,1200 ms よりも短い時,全体を一つの発話と見 なす。

3.発話が成人の音声や雑音によって分離された場合,分離された部分は,

異なる発話として分析する。

4.発話が,成人の音声や雑音と重なった場合,分析対象から除外する。

5.笑い声,泣き声,叫び声,金切り声,唸り声などは,分析対象から除 外する。

日本語圏の乳幼児の総発話数,平均発話時間を,表3.2に示す。

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表3.2 日本語圏の乳幼児の総発話数,平均発話時間

Months of age Number of utterances

Average

duration of an utterance [s]

Standard

Deviation (SD)

[s]

JF05 JF07 JF08

3 3 3

52 40 38

3.5 1.7 1.4

1.6 1.1 0.6

Overall 130 2.2 1.1

JF05 JM06 JM09

8 8 8

41 83 56

1.7 2.7 2.8

1.1 1.4 1.5

Overall 180 2.4 1.3

JF02 JF06 JM03 JM04 JM07

15 15 15 15 15

98 132 111 69 74

2.0 1.1 1.0 1.2 1.7

1.7 1.0 0.6 0.8 1.4

Overall 484 1.4 1.1

JM01 JF02 JF03 JM03 JF01

20 20 20 20 20

90 102 95 85 102

1.2 1.2 1.2 1.8 1.3

1.0 0.9 1.1 1.3 1.1

Overall 474 1.3 1.1

JF02 JF03 JF06 JM01 JM03

24 24 24 24 24

101 130 124 123 108

1.8 1.5 1.4 1.5 1.5

0.9 0.7 0.7 0.8 0.7

Overall 586 1.5 0.8

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3.4 観測方法

利用機器

観測は,暗騒音 30 dB(A) 以下の防音室で行った。音声刺激はコンピュー ター(Frontier KZFM71/N)に取り付けたオーディオカード(E-MU0404) か らディジタル出力した。出力した信号は,オーディオプロセッサー(Onkyo

SE-U55GX), ローパスフィルター(NF DV8FL, 遮断周波数 15000 Hz), グ

ラフィックイコライザー(Roland RDQ-2031), ヘッドフォンアンプ(Stax SRM-313)の順に通され,ヘッドフォン(Stax SR-303)から後述する判定者 の両耳に呈示された。オーディオプロセッサーによってデジタル信号がアナロ グ信号に変換され,低域通過フィルターは,エイリアシング周波数を抑制する ために用いており,イコライザーはヘッドフォンの周波数特性の形状を平坦に するために用いた。音声刺激の音圧較正には,騒音計(Node Type 2075),人口 耳(Brϋel & Kjӕr TYPE 4153)を用いた。

手続き

研究者あるいは研究協力者である判定者が,乳幼児音声について以下の 2 つ の選択肢から選び,独立に分類した。また,「1.音節あり」を回答した場合,「a.

1音節」,「b. 2音節以上」かどうかについても,判定した。本観測に入る前に,

音声サンプル30個の予備的観測を行った。3人の観測者が,独立に判定して,

下記の基準を決めた。

1.音節あり a. 1音節 b. 2 音節以上 に分ける。

:日本語の音節に該当するものが一箇所でも含まれる。

例)「あ」「い」「か」「た」「ざ」「ぶ」「ぷ」「しゃ」「ぎょ」「まっ」「と ん」「ねー」

:音節が1回(da, ka, ta)だけ現れるものも含む。

:拗音は2文字で記すが1音節。

例)「き」「ぎ」「し」「じ」「ち」「に」「ひ」「び」「ぴ」「み」「り」の11 に,それぞれ小さく「や」「ゆ」「よ」を加えて書き表す音節「き ゃ」「きゅ」「きょ」「ひゃ」「びゃ」「ぴゃ」など。

:促音を含む音は1音節。

例)「あっち」の「あっ」は1音節。

:撥音を含む音は1音節。

例)「さんま」の「さん」は1音節。

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:長音は1音節。

例)「カード」の「カー」は1音節。「アー」も1音節

2.音節がない。

1に記したような音が一度も現れない。(一度でも現れたときには1.に分類す る。)

例)区切りのない(あるいははっきりしない)声が出つづけている。

笑い声。

何かしゃべっているが,音節が聞き取れない。

子音のような音のみ。

音声刺激は,ランダム順に呈示された。判定者は,刺激を何度でも聴くこと ができた。観測全体に要した時間は,判定者一名につき 7 時間程度であった。

判定者は,これを2日間から3日間かけて行なった。

研究協力者

正常な聴力を有する3名(女性2名, 男性1名)を判定者とした。判定者は,

九州大学の大学院生で,音声ないし聴覚の研究をしている者であった。

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3.5 観測結果

日本語圏の乳幼児月齢3, 8, 15, 20, 24ヶ月の音声データについて,3名の判 定者から得られた,聴き取りによる観測を,図 3.1 に示す。音節あり,音節な し,母音・子音 1 回ずつに関しては,少なくとも 2 名の判定者の結果が一致し たものである。

月齢が上がるにつれて,「2 音節以上」の回答の頻度(%)は増えていった。

月齢3ヶ月では0%, 月齢8ヶ月では18%, 月齢15ヶ月では43%, 月齢20ヶ月

では87%, 月齢24ヶ月では98% であった。一方,月齢が上がるにつれて,「音

節なし」の回答の頻度(%)は減少した。月齢3ヶ月では100%, 月齢8ヶ月で

は79%, 月齢15ヶ月では39%, 月齢20ヶ月では3%, 月齢24ヶ月では1%であ

る。

図3.1 日本語圏の乳幼児の音声に対する聴き取りによる観測。

One syllable

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3.6 まとめ

本章では,月齢 3, 8, 15, 20, 24ヶ月の日本語圏の乳幼児の音声に対して聴き とりによる観測を行なった。その結果,月齢3, 8ヶ月では,「音節なし」の音声 は,「音節あり」の音声よりも多いが,月齢 15, 20, 24ヶ月になると,「音節あ り」の音声は,「音節なし」の音声よりも多くなる。特に,月齢 20 ヶ月以上で は,全体の約 9 割以上の音声は,音節を有していることが明らかになった。つ まり,月齢20ヶ月頃になると,乳幼児は,調音器官を上手くコントロールして 発話することが可能になり,音節のある音声が増加することを示した。

Syllables

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第 4 章 日本語圏と英語圏との乳幼児

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