第7章 総合分析
第3節 日本の目指すべき方向性
これまでの「プリンター技術」に関する市場動向調査、特許動向調査、実用新案動向 調査、研究開発動向調査、政策動向調査の分析結果と有識者の意見とを総合して、今後、
日本が目指すべきビジネスと技術開発の方向性について提言する。
提言1:知的財産戦略
市場開拓を視野に置き、日本だけでなく、海外においても、より一層の知財網を構築する 知的財産戦略が重要である。
知財網は、権利化すべき部分と秘匿すべき部分を峻別し、事業展開を見据えた戦略的なも のが望ましい。また、特許のみならず、実用新案、意匠、商標も積極的な活用を検討すべき である。
生産拠点の多くが国外にある現在、生産技術に関するノウハウの漏洩防止対策も極めて重 要である。
特許出願動向からみた「プリンター技術」の日本の技術競争力は極めて高い。また、
日本市場の状況をみれば、プリンター分野においては、特許等の知的財産権は、他社の 市場参入を阻む一手段として十分機能しているといえる。
一方で、日本に比べ、圧倒的に特許件数の少ない韓国企業が、特定の分野に限られる が、世界市場でのシェアを確立している。また、EMS 企業を有する台湾の技術力は市場 要求を満たすレベルにあり、今後、韓国、中国、台湾は、日本企業による参入障壁が高 くない国を中心に市場展開を図る可能性も十分に考えられる。このような状況下で、今 後の重要な市場と考えられる新興国では、市場の発展方向を先読みし、新規参入、事業 拡大、製品投入などの事業展開時に十分に権利行使が行える状況を見据えた知財網を構 築することが有効である。また、後続する他国企業の参入意欲を削ぐような、新たなキ ーとなる技術(材料、基本構造)、及び、この技術の搭載に必須の周辺技術や近傍技術と の組み合わせ等の権利化による戦略的な知財網の構築は、技術力、ブランド力で他国に 勝る日本が有利に市場展開する上で有効である。
このように、特許権利化のグローバル展開が必要となる中においては、PCT(特許協力 条約)、PPH(特許審査ハイウェイ)などの制度をうまく利用して、事業展開に合わせた 適切なタイミングで各国での権利化を図ることが望ましい。加えて、模倣品に対して有 効な意匠、商標なども積極的に活用し、製品の多面的な保護を図るべきである。
一方で、特許出願は技術を広く公開するため、技術流出の側面も有するものである。
そのため、権利化すべき部分と秘匿すべき部分のより一層の検討が重要である。さらに、
プリンター装置においても、各要素技術間の細やかな調整やノウハウは競争力に大きく 影響する極めて重要な技術と認識されているが、これらは特許権による保護が困難な知 的財産であるため、その漏洩防止に留意した管理が重要である。特に、生産拠点の多く が国外にある現在、生産技術に関するノウハウの漏洩防止対策が極めて重要である。
また、中国においては、中国企業からの補給品ビジネス関連の特許・実用新案が急増 している。特に実用新案は、権利化が容易なため、今後中国企業からの訴訟リスクが懸 念される。日本企業の補給品ビジネスの障害となる可能性を取り除くためには、日本企
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業においても、訴訟リスクに対抗する特許、実用新案の出願と活用が急務である。中国 企業の実用新案では、補給品のプリンター本体への接続技術など、補給品の囲い込みを 意識したものも見受けられた。高速化、高画質化などの最新技術だけでなく、実施の際 の障壁になる技術についても権利化を検討する必要があろう。中国を始め新興国におけ る特許・実用新案の調査が、今後、重要になってくると予測され、特に言語に対応でき るデータベースの構築・充実が必要である。
提言2:研究開発の方向性
プリンター技術は成熟段階にあるが、中韓台企業の製品に対して優位性を維持するため、
よりコストパフォーマンスが高く、市場要求を敏感に取り入れた製品を投入できるよう、た ゆまない技術革新を続けるべきである。
プリンター技術は成熟段階に入っていると言われており、現在大きなブレークスルー はみられない状況にある。このような中、プリンターに関する基本特許は既に切れ、そ れほど機能・品質の高くないプリンターであれば新規の参入が可能となっている。実際 に、一部の中韓台企業がプリンターの開発研究を行っていることは出願件数からみてと れ、プリンター事業を続ける中で技術力を今以上に高め、台頭してくるおそれがある。
そのような状況にあっては、中韓台企業の製品との価格差を越えた性能差を実現するた めに、プリンターのコストパフォーマンスを高めるべく、装置や部材の生産技術、耐久 性向上、制御や機能を充実させたソフトなどの研究開発が求められる。このことは、海 外市場において外部企業(サードパーティ)による安価品での参入が盛んな補給品(イ ンクカートリッジなど)に対しても同様であり、日本企業は、安価品との性能差(印刷 品質差、可能印刷枚数差、トラブル防止等)の維持・拡大、製造工程改良、材料開発や 改良を目指した技術開発を行うことが重要である。
また市場の要求を継続的に監視し、これまで日本市場で考慮されていなかった新たな ものは早期に察知して、市場要求に対応できる性能や機能を製品開発に反映させるなど、
市場要求を読み誤ることなく、また、市場要求に対して中韓台の企業に遅れをとること のないようなプリンターの開発が重要である。それとともに、新興国においても、いず れ高品質プリントが求められる市場に転換していくことも想定して、日本の得意とし、
これまで培ってきた高品質による差異化も、日本のプリンター技術の競争力の維持・強 化のために継続して検討していくことが望ましい。また、特にインクジェット分野では、
オフィスや家庭向けから、産業用途向けプリンターへの応用展開(多種多様なニーズに 応じる少量多品種生産を容易にするもの)においても、中韓台の動向を先取りする製品 開発が重要である。
提言3:グローバルなビジネス戦略の推進
中韓台の新たな競合企業の存在を意識した製品開発を行っていくべきである。
また、中国市場での補給品ビジネスおいては、マーケットに即したビジネスを構築してい くことが望まれる。
電子写真、インクジェット、サーマルのいずれのプリンター分野においても、日本企
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業の産業競争力は総じて高いといえる。一方で、サムスンやレノボといったブランドを 有する中韓台企業はある程度のシェアを占めるまでになっている。今後、これらの企業 の技術力向上に伴う市場訴求性の向上、EMS 企業の自社ブランドによる新規参入も大い に考えられるところである。そのため、コストパフォーマンスにおいて新たな競合企業 に負けず、かつ、性能面で魅力的な製品の投入を図っていく必要がある。
また、中国市場においては、プリンター装置本体では、日米メーカーが高いシェアを 占めているが、補給品ビジネスでは多くの中国企業が安価品で参入し、これまでの市場 で形成されたプリンターメーカーによるビジネスモデル(補給品を利益の源泉)の維持 が困難になりつつある。今後日本企業が進出を考える市場においては、その市場に即し たビジネスを構築していくことが望まれる。このほか、日本には、先進国において、オ フィス、公共機関などにプリンターを納入してきた経験、保守管理などのサポート体制 の提供経験が豊富にある。これらの経験からのノウハウを生かし、他業種とも連携を図 ったビジネス構築も考えられる。
提言4:国際標準
プリンター関連の日本の産業競争力を維持・強化していくために、国際標準(ISO、IEC、
ITU などのいわゆるデジュール標準)や各国の規準において日本が不利益を被ることのない よう、国際標準化、各国独自規準化の動向を注視していくことが重要である。国際標準化を 進めるか否かも含めて総合的な判断を戦略的に実施していくこと、国際標準と異なる独自規 準を制定する動向に対して必要措置を講じていくことが重要である。
グローバル市場において国際標準が製品競争力や企業の競争力の維持・向上に大きく 影響することが認識されている。
国際標準化を進めるか否かは、知的財産立国を目指す日本が不利益を被ることのない ように、ケースバイケースで戦略的に決められるべきで、国際標準の対象やレベル、標 準化のスキーム(デジュール、フォーラム)1、知的財産の活用など総合的な判断2が重 要である。
多くの国では、その規準は国際標準と対応しているが、中国では国際標準に準拠しな い規準が制定されてきており、中国市場における競争力に大きく影響する今後の規準化 動向に注意を払う必要がある。日本が不利益を被る懸念のある規準化動向に対しては、
業界団体等の機関を通じて必要措置を講じ規準の内容変更や規準化を阻止する活動が重 要である。
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デジュール標準:ISO、IEC、ITU などの国際標準化機関において明文化され、公開された手続によって作 成された標準。
フォーラム標準:企業などが自主的に集まってフォーラムを形成の上作成した標準。
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