第4章 考察
Ⅲ 日本の現状と適応
1.父親役割獲得に影響を及ぼす因子と介入の関係性
採用文献を父親役割獲得と密接な関係のある4つの要因に分けた結果、「夫婦関係」に 働きかけている文献は7件中5件と多かった。Bryan AA.(2000)とDoherty,W.J., Erickso n,M.F. et al.(2006)は「夫婦関係の変化・満足度」をアウトカムにしてはいないが、Br yan AA.(2000)はGCF(Growing as a Couple and Family)クラスの内容で生後3ヵ月まで の児の成長は目まぐるしく大変ではあるが、カップルで休暇を取りこのユニークな時間を 楽しむことを伝えており、Doherty et al.(2006)は4回分の目標に「カップルの関係の強 化」を含めていた。良好な夫婦関係が対児感情に関わってくることから(池尻ら,1998;古 田ら,1999)、アウトカムに有意差があった背景には良好な夫婦関係が築けたということ が隠されていると考えられる。
「対児感情・児との接触」に働きかけている文献も7件中5件と多かった。各文献の介 入方法は(重複あり)、3件(Benzies,K.,Magill‐Evans,J. et al.,2008;Frank,T.J.,Keo wn,L.J. et al.,2015山口,佐藤ら,2015)が実際に自分の児と直接の触れ合う方法、2件(B ryan AA,2000;Shapiro Alyson et al.,2011)が児の特徴や成長発達についての知識をビ デオ鑑賞や講義型プログラムで学ぶ方法、1件(Benzies et al.,2008)が児の反応を録画 した映像から振り返り理解する方法の3つであった。これらの介入は児についての知識を 付け、児への認識や理解を深めるということ、また直接的に児と触れ合う機会が増えるこ とで児との愛着形成が促される可能性がある。先行研究より、胎児をひとりの人として、
また意識の有る存在として認識することにより「父親としての現実的な意識」が高まり、
「我が子を育てたい」という具体的で実際的な父親意識として発達するということが述べ られていること、愛着の度合いと親性の発達は密接な関係があることからこの3つの介入 は親役割獲得に向けて効果があるのではないかと考えられる。
「具体的な父親像の想起」に働きかけている文献は7件中3件あり、各文献の介入方法 は、父親の役割についてビデオ鑑賞やディスカッションを行う方法(Bryan AA.,2000)、
父親への移行に対する現実的な期待や子育てスキルの支援、親としての関わり方、育児に
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対する積極的態度を支えるためのディスカッションやロールプレイ(Doherty,W.J., Eric kson,M.F. et al.,2006)、父親が育児をする意義について講義を行う方法(山口,佐藤ら, 2015)の3つがあった。ディスカッションをやロールプレイは、他の父親とのディスカッ ションで父親役割を自分なりに考えるきっかけとなると考えられる。また父親が育児をす る意義について産後介入群で育児時間が増加していることから、父親が育児を行う理由や メリットを理解することで父親としての役割を見出すことができたからだと考えられる。
採用文献を父親役割獲得と密接な関係のある4つの要因に分けた結果、検討した7件 中、「妊娠の受け入れ」について働きかけている文献はなかった。序論で妊娠の受け入れ が父親の責任感を促すのではないかということを述べたが、父親としての責任感をアウト カムとするDoherty,W.J., Erickson,M.F. et al.(2006)の介入の中に父親が妊娠をどの 様に受け止めているかなどの妊娠の受け入れに関する介入内容は明記されておらず、効果 も有意差が見られなかった。このことから父親としての責任感を高めるためには、先行研 究で明らかになっていた「妊娠の受け入れ」についての具体的な介入を行い、男性が胎児 を認識し、不安を父親としての責任に転換していけるよう、男性がパートナーの妊娠をど の様に受け止めているのかを確認していく事が必要なのではないかと考える。
2.日本への適応
これまでの結果と考察を踏まえ、日本への適応について考えていく。
1)教育プログラムの導入時の工夫
父親の児への関わり方について対象に差がないことと効果的な介入時期が無いというこ とから、医療者が父親に関わる機会が少ない日本の産科医療の現状を踏まえると、仕事の 都合などで両親学級に参加できなかった父親、元々母親を対象としたクラスのみを行って いる施設などでは、母親の面会時などの短い時間でも、父親に児への関わりを促すこと (抱っこ、児に触れてもらう、声をかけてもらうなど)によって父子関係は向上し、児と の愛着形成を促した結果父親としての役割を見出していけるのではないかと考えられる。
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また、父親の行動の変化の効果的な介入の実施時期が産後であるという事が示唆され たが、日本の父親の育児参加率は欧米に比べて低いことが明らかになっている。役割は常 に個人と社会の相互作用の中で修正・再構築されていくことや良好な夫婦関係が産後も継 続してパートナーのために役割を担っていく必要性を感じるということも踏まえ、日本に おいては産前から夫婦関係に働きかけ、良好な夫婦関係を築いたうえで、父親の行動の変 化を促すことが良いのではないかと考える。
日本人は家族や友達などの自分に近い人に比べて、初対面の人など自分との関係が遠い 他者に対して打ち解けにくく、参加者が主体となり他者と交流をする教育プログラムを取 り入れる際には、ディスカッション自体がうまくいかない、または慣れていない参加者 や、躊躇いなどから発言の滞りなどが予想される。そのためプログラムを行うのに最適な 人数はどれくらいかを考え、ディスカッションのグループに関してまずは夫婦で、その次 は男女で、そして全員でと段階を踏み、相手との関係を作りながら行うのが望ましいと考 える。また実施者は、対象者と同性の人を含めることで、他人ではあるが同じ性別である という少しでも対象者の内側に入り込めるようにしていく。
2)有用性が示唆された介入方法の適応
今回採用した文献のうち、有用性が示唆された文献は全て英文献である。そのため介 入方法の日本への適応について考察していく。
(1)個別訪問
Benzies, K., Magill‐Evans, J. et al.(2008)の介入方法は、対象者の自宅へ個別 訪問を行い実施している。日本における両親学級は父親の参加率を高めるため父親の休業 日を狙って開講されていることが多いが、父親意識の低い男性などは、せっかくの休業日 が支援教室でつぶれてしまうのを嫌がり参加したくないと考える人もいるのではないかと 考えられる。また仕事が忙しく両親学級に参加できない、母親であるパートナーと育児に ついて話すことができないような人もいるのではと考えられる。そのような男性に対して の介入として、個別性が高く対象のモチベーションを高めるBenzies et al.(2008)の介
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入方法は適していると考えられる。しかし介入時期に関しては再検討する必要があるので はないかと考える。なぜなら日本ではマタニティブルーズを産褥3~10日に発症する一過 性の抑うつ状態、産褥精神病を産褥1ヵ月以内に発症する精神疾患としており、日本の女 性の多くが産褥1ヵ月までに育児負担感を強く感じていると推測できるからである。育児 負担感が強い時に夫婦で協力して育児を行っていくためにも、その前から介入を行い産褥 1ヵ月の時点で夫婦が協同できているか、疑問点や不安はないかを確認するためのフォロ ーアップ訪問を行うなどの介入の時期と回数の検討が必要である。
(2)教育プログラム
Doherty,W.J., Erickson,M.F. et al.(2006)、Shapiro Alyson et al.(2011)の介入 方法はどちらも教育プログラムである。Doherty et al.(2006)の介入方法は父親役割獲 得に向けた幅広い目標達成に向けて介入を8回行っており、役割を集団の中で徐々に見出 し獲得していくというプロセスに則っているという点では良いと考える。しかし男性は家 計を担う役割を持つという認識が強い日本において、男性が8回の介入全てに参加するの は難しく、途中でリタイアする人も出てくるのではないかと考えられる。その反面Shapi ro et al.(2011)の介入は1回で有意差が見られている。このことから、日本においては 介入の目標を厳選し介入回数を検討していく必要があると考えられる。
また介入の内容について、Doherty et al.(2006)は、プログラムの前半でカップルの 関係の強化を目的とし、後半で児との関係性を向上させることを目的としている。またS hapiro et al.(2011)は父親に焦点を当てた内容の目的を「母親と父親の両方が父親を含 む計画に関与する必要があることを伝えること」としており、2件ともに「夫婦関係」を 根本的な目的としていることが分かる。これは序論で述べた研究者の尺度である良好な夫 婦関係が父親役割意識を高め、子育てへの参加を高めるという結果と一致する。このこと から、日本においても父親役割意識を高めるために「夫婦関係」に介入することは必須項 目になると考えられる。
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