第4章 考察
Ⅱ 介入の実施内容
1.教育プログラムの形態
1)参加者が主体の教育プログラム
教育の方法は「sage on stage」という教育者(指導者)が前に立ち講義を行い、学生 (追随者,大衆)がそれを一方的に聞くといった「教育者主体」の方法から、「Guide on t
32
he Side」という学生が自ら考え、自分の力で問題を解決する力を養うために教育者が学 生の横でガイドしていく「学習者主体」の教育方法へ変化し、その有用性も明らかになっ てきている。産前・産後の生活支援として支援教室では対象となる夫婦の生活や育児の多 様さから個別性が高く、一般的な知識に加えて夫婦自身の力で問題を解決する力を養うこ とが大切であると考えられる。検討した教育プログラムで採用されていた4つの方法を見 ると、「参加者同士の交流を促すプログラム」、「演習プログラム」、「カップルでのみ 行うプログラム」の3つは参加者主体のプログラム、「講義型のプログラム」は実施者主 体のプログラムに分けられると考える。
「参加者同士の交流を促すプログラム」について序論で述べた通り、参加者同士の交流 を促すプログラムであるディスカッションは日本でも行われており、父親も妊娠・出産に 積極的に関わることができ、夫婦で臨むことができるようになったと述べられている。ラ モナT.マーサーの母親役割移行過程理論のような具体的な父親モデルのない日本で、経 産婦の父親と初産婦の父親、もしくは初産婦の父親同士でも情報交換をすることは父親と して自分はどの様に行動すれば良いのかを考えるきっかけとなるのではないかと考える。
「演習プログラム」であるデモンストレーションやロールプレイング、「カップルのみ で行うプログラム」である育児・家事の分担計画表作りは、アクティブラーニングを元に 考察していく。アクティブラーニングは学習者の能動的な学習への参加を取り入れた授業 デザインの1つである。あくまでアクティブラーニングは手段であり、行うことが目的と はならない。検討した文献の中で「夫婦関係の変化・満足度」をアウトカムにした介入の 効果に唯一有意差が見られていなかったGjerdingen,D.K., & Center,B.,(2002)は、「介 入後に介入内容についてのフォローアップを行わなかったことが有意差がなかったことの 原因ではないか」と述べており、育児・家事の分担計画表を作るという手段を行ったこと で満足し、夫婦で育児・家事を分担して行うという根本的な目的が達成されなかったので はないかと考えられる。同じく「夫婦関係の変化・満足度」をアウトカムにしている他の 2文献は、妊娠中に介入を受けた介入群が産後の介入群に比べてMAT尺度において夫婦関 係に高い効果を示し(Shapiro Alyson et al.,2011)、有意差はなかったものの介入回数
33
を重ねるごとに介入群の夫婦の両方から育児を協力して行っているという報告が増えた (Frank,T.J.,Keown,L.J. et al.,2015)という結果が出ていた。Shapiro Alyson et al.
(2011)において、用いられているトリプルPという介入は、オーストラリアで開発され、
世界25ヵ国で実施されている親向けの子育て支援プログラムであり、日本ではファシリ テーターの養成講座が開かれ、セミナーや研修会が行われている教育プログラムである。
今回実施した実施者も訓練し認定を受けたファシリテーターであったことから、目的達成 に向けた教育プログラムの構成が整っており、その結果効果に反映されたのではないかと 考えられる。以上のことから参加者主体のプログラムを行う際には、目的目標を明確に定 め、それがプログラムによって達成されているかを評価し補足していく必要があると考え る。
妊娠・出産・育児という専門的な分野において「講義型のプログラム」は、最低限伝え なければいけない知識がある以上教育プログラムに必須となってくる方法となる可能性が ある。検討した文献の中でも「講義型」を取り入れた5件で「参加者交流型」のプログラ ムも併用していたのが4件(Bryan AA,2000;Doherty,W.J.,Erickson,M.F. et al.,2006;F rank,T.J.,Keown,L.J. et al.,2015;Shapiro Alyson et al.,2011)であったことから も、実施者が主体となって知識を提供するのではなく、参加者が主体となってその知識を 身に付けることができるように、「講義型」と「参加者交流型」のプログラムを併用して いくことが望ましいと考える。
2)個別性が高く、モチベーションを高めるフィードバック
教育の方法として、教育者は学習者の学ぶ力を養うために授業のデザインを考え、いか に学習者のモチベーションを向上させるかを考えていく必要がある。Ambrose,D.P.,Naga rajan,K.(2010)はモチベーションには価値、期待、環境が関わっており、これを向上さ せるために適格なフィードバックや授業内容を具体的に説明することなどを行っていく必 要があることを述べている。Benzies, K., Magill‐Evans, J. et al.(2008)の介入 は、訪問者と対象者が1対1の状況で行われ、実施後すぐに適格で対象者の個別性を考慮
34
し、モチベーションを上げるようなポジティブフィードバックを行っていたという特徴が あった。介入の効果もアウトカムである「父子相互作用の変化」について有意差が見られ ており、介入を行う際には対象者のモチベーションを向上させるような関わりや個別性を 意識していく必要があると考えられる。
3)実施者
介入の実施者について、検討した7件では統一されていなかったが、父親役割意識を獲 得することを目的としている介入であるため、今回検討した文献の講義型のプログラムの 内容として組み込まれていた夫婦関係・夫婦の協同、児の発達と特徴、児とのコミュニケ ーション方法、父親の役割、、育児に関する知識、父親が育児をする意義などの知識を持 つ人が必要となってくると考える。また今回実施者の性別を記載していたのはDoherty, W.J., Erickson,M.F. et al.(2006)のみであり、インストラクターに男性と女性の両方 を含めたことは、男性がより積極的に介入に参加することができる1つの要因となり得る かもしれない。
4)実施時期・時間・回数 (1)アウトカム毎の実施時期
介入の実施時期についてアウトカム毎に考察していく。
「父親の児への関わりの変化」をアウトカムとした文献は産前(Bryan AA,2000)、産後 (Benzies,K.,Magill‐Evans,J. et al.,2008)、産前~産後(Doherty,W.J.,Erickson,M.
F. et al.,2006;Shapiro Alyson et al.,2011)と全ての時期で介入されており、全ての 時期の効果において有意差が見られていた。この結果から、父親と児の関係性を良好なも のにするための介入を行う時期には関連がないのではないかと考えられる。
「父親の行動の変化」をアウトカムにした文献は、産後に介入した文献(Frank,T.J.,K eown,L.J. et al.,2015)で有意差が見られており、産前と産後を比較した文献(山口,佐 藤ら,2015)でも産後介入群有意な増加が見られていた。男性は女性のように体内に児を
35
宿すことができず、「男性は視覚・聴覚・触覚などの五感で子どもを認識して初めて父性 が芽生える」と述べている研究(田中,布施,高野,2011)や、産まれてくるまで父親とし ての実感が持てなかったことや、「児を抱いた時」に父性を強く感じたという結果から児 出生後の父親への働きかけが父親意識を高めると述べている先行研究(菊池ら,2005)もあ ることから、「父親の行動の変化」をアウトカムにする場合は産後に介入することが望ま しいという事が考えられる。
「夫婦関係の変化・満足度」をアウトカムにした文献は、産前に介入した文献(Gjerdi ngen,D.K., & Center,B.,2002)、介入全体の時期は産前~産後であるが、夫婦関係につ いてのアウトカムは産前介入によるものであった文献(Shapiro Alyson et al.,2011)、
産後に介入した文献(Frank,T.J.,Keown,L.J. et al.,2015)があった。産前に介入した文 献では結果が分かれ、Gjerdingen et al.(2002)は有意差見られなかったのに対し、Shap iro et al.(2011)は具体的な数値は示されていないもののMAT尺度で夫婦関係に高い効果 が見られていた。これはGjerdingen et al.(2002)の介入が、教育プログラムにおける根 本的な目的達成まで至らなかったのではないかということと、Shapiro et al.(2011)の 介入が参加者主体の教育プログラムを多く取り入れていたことが要因となっているのでは ないかと考えられる。また産後のみでは有意差は無いが介入の回数を重ねる毎に夫婦共同 に関する報告が増えていた。「夫婦関係の変化・満足度」の介入時期については更なる検 討が必要である。
「父親の思いの変化」をアウトカムにした場合、子ども観の変化において産後に介入が 行われた文献(山口,佐藤ら,2015)で有意差が見られていたが、平等主義的性役割態度の 変化においては有意差が見られなかった。このことから育児に関する関心は産後に介入を 行うことで高まることが予想された。平等主義的性役割態度について山口ら(2015)は
「性役割に対する認知は青年期初期に形成されており、本研究のような1回のプログラム では、性役割の認識を変化させるまでには至らなかったことが考えられる」とまとめてお り、今後も介入時期に関して検討が必要であると考える。父親としての責任感について
36
も、産前から産後にかけて介入が行われたが(Doherty,W.J.,Erickson,M.F. et al.,200 6)有意差が見られなかったため介入時期に関して検討していく。
「育児を行う上での身体的・精神的健康の状態」については、産前のみ介入が行われて おり(Gjerdingen,D.K., & Center,B.,2002)、また介入の効果に有意差が見られなかっ た。昨今は父親の産後うつについての研究も行われており、夫婦が2人で身体的にも精神 的にも健康で育児を行っていくためにも今後介入時期の検討を行っていく。
(2)介入の所要時間・実施回数
検討した7件において、文献の中で所要時間の合計とアウトカム、介入回数とアウトカ ムが同じ文献はなかった。1回あたりの所要時間とアウトカムが同じ文献は、父子相互作 用の変化をアウトカムとするBryan AA.(2000)とDoherty,W.J., Erickson,M.F. et al.
(2006)のみであり、どちらの文献も介入の効果には有意差が見られていた。他の文献と 比較はできないが、1回あたりの介入の所要時間が30分であるGjerdingen,D.K., & Cente r,B.,(2002)は全てのアウトカムにおいて有意差が見られていなかったこと、有意差が見 られた1回あたりの所要時間は最短1時間、最長2時間と大きなばらつきはなかったことか ら、1回あたりの介入の所要時間は30分では短く、1時間以上~2時間未満が良いのではな いかと考える。しかし介入の回数は、父子相互作用の変化を同じアウトカムとするBryan AA.(2000)とDoherty et al.(2006)において、Bryan AA.(2000)が1回、Doherty et al.
(2006)が8回の介入のうち父子相互作用を目標としていた回のみとしても3回と異なって いた。このことから各アウトカムで効果がある介入回数があるわけではなく、介入内容を 不備なく行い目標を達成できる介入の回数を計画の段階で検討することが必要であるとい うことが考えられる。また序論で述べた日本の父親学級から介入の回数が少なすぎるのも 効果が出ないと考えられ、目的と目標の達成状況を見つつ、回数を補足する必要性もある と考える。