5,1 はじめに
施工現場に携わる土木技術者として,施工に起因する土木構造物の信頼性への 不信,不安を起こした事例は,本研究の最大の背景である.
時代の転換期を迎え土木構造物への社会的要請は,造る側と使う側の一体化し た価値観により評価されることがより不可欠となった.むしろ現在では,設計側 の理論,施工側の理論以上に,社会的価値観に有意性がある.
環境,安全は,人間の社会生活に直結する地球的命題となっている.環境は, 自然環境との共生であり,地球環境保全に対処する循環型社会の構築である.安 全は,ライフサイクルコストを考えた長期的な確保が必要である.この両者に共 通する土木構造物への要求性能は,大半の構造物を構成するコンクリートの長寿 命,耐久性でもある.
日本における近代社会資本の整備は,戦後60年の問に世界的にも類を見ないほ ど急激な進展をした.整備された基盤施設の維持,管理や修理および更新時期の 問題は,近年多くの場面で多く提起されている.その前提となるのは,適切な施 工であり,適切な施工は,適切な手法,良質な材料が基本となる.現在,特に問 題とされているの耐久性は,不適切な施工による早期劣化である.その不適切と 指摘される施工の問題点を以下の報道事例,調査事例により考察する.考察から 本研究の目的である施工法の工学的評価による合理的選択手法の提言目的を明ら かにする.
取り扱う事例は,1.報道事例,2.ポンプ車の現状(水セメント比),3.三 省調査委員会報告,4.山陽新幹線トンネル履工技術に関する検討報告,5.コ
ンクリート構造物の不具合調査事例である.
5.2 コンクリート不具合事例の検証7‑8)
5.2.1 コンクリート劣化報道9・l仇1L】2・13,け15)
コンクリート劣化報道のキャンペーン記事に示される原因,事実を時系列にま とめて見る.見識者の意見についても検証する.
(1)新聞報道事例 1)事例116)
『福岡トンネルは1970〜1975年にかけて「コンクリートポンプ車」によって連 続的にコンクリートを流し込む工法で建設された・トンネルコンクリートは,全
体を一体化させるため乾かないうちに次のコンクリートを打継ぐ必要があるが,
塾機械の故障②パイプの詰まりのた打,コンクリートの一体化が不十分である』
とJR西日本の調査で指摘.さらに同年7/26日同調査の中間報告には『①コンク リート強度と水セメント比,海砂による塩害等の材料の問題②コンクリートボン
プ圧送の未発達③漏水の影響④列車振動と空気圧変動等の複合要因が剥落原因』
と設計,施工,施工後にわたる全行程の原因が指摘されている.
2)事例2川
高架のコンクリート片落下事故に関して『アルカリ性だったコンクリートが次 第に浸透していった空気中の炭酸ガスと反応して中性化し,鉄筋の表面の保護膜 が損なわれる「中性化現象」が発生,鉄筋がさびて膨張したため,コンクリート がひび割れて落下した.』と報道された.これは,その劣化進行が自然環境の変化
(気象,雪害等地域及び地球環境による)に影響されるとの指摘である.コンク リート構造物は建設される環境,特に厳しい気象条件や施工後の周辺環境により 劣化速度が異なるとの警告でもある.構造物の建設立地環境を考慮したコンクリ ート設計,施工が必要であるとの指摘と捉えられる.
3)事例318,19・20)
『山陽新幹線の全トンネル142本(約280km)を目視検査の結果,コールドジョイ ント現象が93本で多数の施工不良カ所計2049カ所が見つかった』と報道.さら にその原因分析として『72年3月開業の新大阪〜岡山間(トンネル数31本)の 61カ所に対して75年開業の岡山〜博多間(トンネル111本)では1988カ所(全 体の97%)と集中している.1km当りに換算すると岡山以東のトンネルは1.1カ 所,以西では8.9カ所になる.この現象を地域分析した結果として広島,山口県 で12.4カ所と集中している.
岡山以西にコールドジョイントが集中している理由に関して,①建設時期がm 年前半の高度経済成長期における突貫工事②石油ショックと重なり,良質な砂や セメントなどのコンクリート材料が不足』と調査報告と見解が示されている.施 工年代の社会経済情勢における建設産業への影響や施工体制を指摘している.こ れらの事故以後も,コンクリートの落下事故等が続き,種々の報道及びその原因 の解析コメントや構造物の維持,点検方法のあり方も併せて報道されている.そ の何点かを事例として取り上げ起因とされる施工法の問題点を抽出する.
4)事例42Ⅰ,22)
小林一輔氏は,『岡山以西のトンネル工事は,地下水に悩まされ非常に難航した.
工期に追われたことが,コールドジョイン+ト多発の原因ではないか.』と工事条件
の地質に対する施工対応と経済成長期の社会的要請でもあった急速施工の問題を 指摘している.大西有三氏は『コールドジョイントだけでコンクリート落下する 可能性は低いが,他のひび割れなどと組合わされると危険性が高くなる.壁の内 部でひび割れが進む場合もあり,目視検査の結果だけで安全かどうか判断するの は早急』と複合作用の危倶を指摘している.
特に注目する指摘は,不適切な施工によるコールドジョインやひび割れが他の 要因と複合的に組合わされた場合の危険性である.つまり不適切な施工により起
こる不良現象は単一に留まらず複合化するとの指摘である.
また工法に関して,江崎哲朗は1999/7/6に『̲トンネル上部からコンクリートを
湿し込む〈引き抜き工法〉工法が均等にコンクリートを充填できず事故の原因』
と1970年代のコンクリート打設工法技術の問題をあげている.さらに『70年代以
前は浄砂を使用したり,打ち込み方や湿度,温度酌割こ未熟な垂があった.』
と当時の材料問題や全般的な施工技術,施工管理面の問題を指摘している.この 指摘は,施工年代における技術面での問題,併せて施工時の品質の管理内容と方 法の把握が,今後の維持補修技術を考えるのに必要不可欠であることを示唆して いる.
5)事例523)
『山陽新幹線の高架におけるコンクリートの中性化事実が既に1987年に把握さ れていた』と「情報の公開」に関しての不備を指摘する報道がある.そしてその
中性化事実として,『中性化は通常20〜30年で1cm程度しか進まないのに僅か10 年で平均1・5cmと通常の2〜3倍の速さで進んでいる.最大3.2cm,2cm以上の中性
化は90カ所に上る』と報道し,二の中性化進捗の原因をコンクリートの品質杢星 野と断定している.
この報道は,従来と違い「安全性」に関する危倶,「危険箇所の明示」等の情報公
開の問題と早期劣化の原因が施工iこあるとの報道である.危険性の情報開示は,
建設産業のみならず日本の社会システムの変革を促すものである.この事象は,今後情報公開,説明責任等により施工法の技術的評価が,第三者 の価値的判断を必要とすることを示唆している.
6)事例624・25)
宮本文穂氏は,『事故の可能性をゼロにするためには国民もそれだけの費用を負 担する覚悟が必要』と事例5に示す情報の開示と説明責任に関するコメントを示
している・社会資本整備の選択時代における国民の認識合意の重大性を指摘して いる・今後の社会資本整備は,事業の必要性と同様にその執行形態やその実施手 段である施工法の選択が各々の位置づけにより系統化されるシステム的に評価さ れる必要がある.
7)事例726)
魚本健人氏は赤外線調査による施工段階でコンクリートの均一性を確認する方法
の提案として『施工状況がリアルタイムに分かれば作業員の意識向土につながる.
工事内容を現場レベルでデータとして評堕することが大切』と指摘している.施
工段階での品質確保とその重要性,及びその認識レベルを作業員に周知する重要性を強調している.
この提案は,本研究の施工法の量的評価と同根発想と考える.工事内容をデー タ(例えば施工中のコンクリート水分量の測定値と水セメント比)として評価する ことは,データに基づく必然的な施工法選択となる.対応する施工法もデータ評 価が必要となる.工事内容と施工法のデータ評価は「施工の目的,施工法の役割」
を明確にし,リアルタイムな管理ができる大きな要素である.
さらに魚本氏は,『将来の危険性として仕様規定から性能規定への変革が進む中, 適切な工事チェック体制は,節目ごとに行う必要がある』と指摘し従来のやり方 では,施工の適,不適は表面上判断が困難とし,耐久性や強度のチェックが必要
としている.
これらの指摘は一連のコンクリート事故における「施工体制,施工法」の問題 を具体的対策とともに指摘している.施工にかかる比重の重要性が「造る」とい った生産システムからそのシステムにおける「品質,要求機能の確保」といった マネージメントに変わる必要を指摘している.この指摘を施工法に展開すること は,経験的で定性的施工を「品質,機能」の「具体的,量的」評価により選択し て実施するシステムが必要となる.本研究での提案は,現場レベルでの施工手段 が,工学的評価による指標を示すことで,作業段階でのリスクマネージメント体 制が明確になるという発想である.
8)事例827)
10月に発生した北九州トンネルの 事故は,図5.1に示すトンネルのアーチ部と 側壁の接続部で起こった.『工法そのものに
は問題がなく,施工ミスの疑いがある』と指 摘された.本来ないはずの不連続面の発生と
「急速施工」によりコンクリートを一気に流 し込んだため側壁内部のコンクリートの比重 にばらつきが生じ,(上部が軽い)打ち込み口の 下部からひび割れの起こる可能性が高くなった.」
と小林氏は指摘している.
図5.1コンクリート落下部分図
本来ないはずの不連続面は,施工時の湧水処理が十分でなく打設時点で打ち継