• 検索結果がありません。

新規プログラムの基本的コンセプト

(1) 目的指向型のプログラム

近年行政が推進する研究事業において、「出口」が強調されることについて、

研究者から批判的意見が出されることもある。診断、治療、予防などの実用化を 念頭においた研究開発も重要であるが、そこに行きつくための基盤である学問を 疎かにすれば、基礎研究の弱体化が進み、出口への到達はむしろ遠のくのではな いか。出口に縛られることなく、研究者の自由な発想による創造性豊かなボトム アップ型の研究を重視すべきではないか、といった指摘である。

画期的な科学的知見が、必ずしも社会に役に立つかどうかは関係無く科学者が 科学的真理を探求した結果として生み出されることがあることからも明らかな ように、研究者の自由な発想を重視することはもちろん重要である。しかしなが ら、昨今、国の財政基盤が厳しさを増す中で、自らの研究が社会の中でどのよう な意味を持つのか、といった社会貢献の視点が不十分な研究に対し、国が助成す るのは困難になっている。研究費を確保するためには研究者は、自らの研究が、

社会の中でどのように位置づけられ、社会の中でどのような意味を持つのか、と いう視点を常に意識することが求められている時代である。

新規プログラムにおいては、感染症対策に資する出口を意識した研究を前提と するが、出口を狭く捉えるべきではない。感染症対策に資する研究の出口として は、一般に、診断(診断法確立)、治療(創薬)、予防(ワクチン開発)、疫学(病 原微生物サーベイランス)の4つが想定されるが、例えば、BSL4病原体を扱うこ とができる仕組みをつくることや人材確保も出口と位置付けることが適当であ る。

また、細菌学の酵素の研究からゲノム編集の技術が誕生したことからも明らか なように、感染症領域の研究から他領域に汎用できるような基盤技術のブレーク スルーを生み出すことも一つの出口である。

このように出口を広く捉えて、目的指向型のプログラムを検討することとする が、この際、先行する他の研究事業との役割分担に留意する必要がある。

とりわけ、診断、治療、予防、疫学について、出口に近い研究は、他の研究事 業において対象とされていることから、新規プログラムにおいては、将来的に革

36

新的な成果が達成されることを見据えつつ、「入口」に近い探索研究などを中心 に事業を推進することが適当である。

(2) 新規プログラムが対象とする研究開発のフェーズ

抗菌薬の創薬を例として、新規プログラムが対象とする研究開発のフェーズに ついて取り上げる。

一般に、創薬の過程は、化合物を例にとると、

ⅰ)標的探索

ⅱ)標的検証(ターゲット・バリデーション)

ⅲ)アッセイ系構築

ⅳ)ハイスループット・スクリーニング(HTS)の実施

ⅴ)リード化合物(構造最適化研究の出発化合物)の見極め

ⅵ)最適化研究(合成展開、薬効評価等)

などの段階を経て開発候補化合物を特定し、前臨床試験、臨床試験と進められる。

段階を進むごとに、シーズは絞り込まれ、企業や研究者が当初の段階で創薬シー ズとして着目した標的分子のうち、最終的に医薬品として実用化に至るのはごく 一部のものにすぎない。

このため、近年、「シーズの枯渇」が創薬における大きな懸念事項となってお り、革新的な医薬品を創出するためには、異分野の先端的な研究と連携・融合し ながら、微生物学の分野から、地道に基礎的に掘り下げ、生命科学全体に科学的 インパクトを及ぼすような研究の層を厚くすることが重要である。新規プログラ ムでは、感染症に係る革新的な医薬品の創出に向け、創薬の標的となりうるター ゲットの探索を目的とした標的探索研究に主眼を置くとともに、標的分子候補と 疾患との関係を推定し、治療につながる真の標的であることを検証する標的検証 のフェーズを主な対象とする(図8参照:緑色の矢印部分)。

標的探索と標的検証の過程を経た後のアッセイ系構築や HTS のフェーズについ ても、研究課題によっては本プログラムにおいて研究を継続することが考えられ るが、以後の創薬プロセスは、アカデミアの研究者よりも、製薬企業や創薬専門 家が強みを発揮する領域であり、早い段階で企業と連携し、企業主導で研究開発

37

図8 新規プログラムが対象とする研究開発のフェーズ

を進めるか、AMED「創薬支援ネットワーク」等の支援を受け新規プログラムとは別 個の研究事業として研究開発を継続することも考えられる。

(3) 多様性の追求

行政が推進するトップダウン型の感染症研究の事業は、研究すべき病原体や内 容を特定した上で公募が行われることが一般的である。しかしながら、SARS や MERS、ジカウイルス感染症などの流行からも明らかなように、問題となる感染症 は予測困難である。米国などでは、グローバルな視点をもって幅広い病原体や感 染症をカバーして研究が実施されているが、我が国は事後的な対応になることが 多いのが実情である。

それぞれの病原体には特有の問題があり、ある病原体に関する各論的研究で得

38

られた知見が他の病原体の対策に直結するとは限らないが、基盤的な知見や技術 が他の病原体の研究に波及効果を及ぼすことが期待できるものである。

従って、多種多様な病原体が存在する中で、新規プログラムにおいては、社会 的関心の高い病原体や感染症に過度に重点配分するなど対象を絞るのではなく、

幅広い病原体や感染症を対象とする多様性を確保することが求められる。

また、研究者の多様性を維持することも重要である。科学技術の発展により、研究 領域のタコツボ化が進行しているが、様々な領域の研究者が、異分野と連携を深めな がら研究を推進できる体制を構築することが重要である。

人に感染する微生物だけでなく、人以外の哺乳類や鳥類に感染する微生物、魚 類、節足動物、植物に感染する微生物、細菌に感染する微生物など様々な微生物 が存在する中で、新規プログラムにおいては、人に健康被害をもたらす感染症が 直接の対象となるが、研究チームを構成して研究を推進する場合には、分担研究 者として、必要に応じ、薬学、農学、水産学、昆虫学、栄養学、植物学などの領 域の研究者、あるいは構造生物学やイメージング、バイオインフォマティックス など他領域の研究者をメンバーに加え、分野横断的に連携して研究を推進するこ とにより、新たなブレークスルーが生み出されることが期待される。

(4) 研究支援体制の構築

AMEDでの研究事業は、プログラムディレクター(PD)、プログラムスーパーバ イザー(PS)及びプログラムオフィサー(PO)による統括的管理体制の下で事業 の運営が実施されることになるが、新規プログラムにおいては、PD/PS/POと協力 し、事業が機動的かつ円滑に運営されるように、以下のような研究支援活動を行 うサポート機関(仮称)を設置するのも一案である。この際に、形式的なことに とらわれて研究を阻害するようなことのない、研究者や研究活動と一体になった サポートが求められる。

① 新規プログラムでは、将来の革新的な創薬等を目指して出口指向の探索研 究を推進することとするが、これまで必ずしも出口指向の研究に慣れてい ない研究者であっても、出口を見据えて研究に取り組めるよう、目利き人 材として創薬の現場経験のある専門家などを配置し、各研究者をサポート し、必要に応じ、AMEDの創薬支援戦略部、知的財産部、臨床研究・治験基

39

関連したドキュメント