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新自由主義原理と実践の相関性

第一節 学校選択制の概要

第一項 導入の背景

日本での学校選択制の導入は、1984~87年の臨教審「教育改革に関する第3次答申」に 端を発する。そこでは、「就学すべき学校について、事実上単なる機械的・硬直的な指定と なり、選択の機会に対する配慮が欠けている」とした上で、学校選択の機会を拡大してい くために通学区域制度の見直しが提言された。そして1996年行政改革委員会「規制緩和の 推進に関する意見(第 2 次)-創意で造る新たな日本-」における「学校選択の弾力化」

で、次の三点が提言された。

市町村教育委員会に対して、学校選択の弾力化の趣旨を徹底し、保護者の意向に対する十 分な配慮や選択機会の拡大の重要性の周知を図ることにより、弾力化に向けて多様な工夫 を行うよう指導すること

市町村教育委員会の取組に役立てるため、学校選択の弾力化、調整区域の設定の拡大等の 取組事例を継続的に収集し、情報の提供を行うこと

保護者の意向を生かす一つの機会である学校指定の変更や区域外就学の仕組みについて は、選択機会の拡大の観点から、現在、身体的理由、地理的要因、いじめの対応に限定さ れていると解釈されがちである「相当の理由」について、弾力的に取り扱えることを周知 すべきであること

翌年1997年1月に出された文部省(当時)初等中等教育局長通知「通学区域制度の弾力 的な運用について」においては、次の三点が通知された。

地域の実情に即し保護者の意向に十分配慮した多様な工夫を行うこと

就学校の変更や区域外就学を認める理由として、従来の理由に加え、児童生徒等の具体的 な事情に即して相当と認めるときは、保護者の申立てにより、認めることができること

通学区域制度の仕組について、広く周知すること及び就学相談の体制の充実を図ること

この通知を受けて、1998 年には三重県紀宝町が、その後2000年には東京都品川区が学 校選択制を導入した。そして2000年12月 教育改革国民会議「教育を変える17の提案」

では「通学区域の一層の弾力化を含め、学校選択の幅を広げる」と提言されており、この 提言を踏まえて文部科学省が策定した「21 世紀教育新生プラン」においても、各教育委員 会における取組の促進を掲げている。翌2001年12月に小泉政権において総合規制改革会

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議から出された「規制改革の推進に関する第 1 次答申」においても、次のような提言がな されている。

各市町村教育委員会の判断で学校選択制を導入できることを明確化

選択できる学校をあらかじめ示して、その中から就学する学校を選ぶようにする

もしも学校選択制をとらない場合は、指定された就学校以外の学校へ就学する場合の要 件や手続きを明確化するように法令を見直す。

そして、2003年3月の「学校教育法施行規則」一部改正(第32条、第33条)により、

各教育委員会の判断で事実上学校選択制の導入が可能となった。

33 条 市町村の教育委員会は、学校教育法施行令第八条の規定により、その指定した小学校 又は中学校を変更することができる場合の要件及び手続きに関し必要な事項を定め、

これを公表するものとする。

2005 年 6 月経済財政諮問会議「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」では

「学校選択制について、地域の実情に応じた導入を促進し、全国的な普及を図る。」との閣 議決定がなされている。同年2005年12月に出された規制改革・民間開放推進会議第2次答 申においては、「選択制のなによりの意義は、供給者の側に立って児童生徒・保護者をいわ ば教育行政の対象と捉えるのではなく、国民一人一人の教育を受ける権利を守ることにあ る。」「就学すべき学校を指定した後の『変更の申立』について、学校教育法施行規則の一 部を改正し、就学通知の際に『変更の申立』ができる旨を記載するように制度改正を行う。」

とされ、2006年3月に学校教育法施行規則第32条第2項を追加した。

322項 市町村の教育委員会は、学校教育法施行規則第5条第2項の規定による就学校の 指定に係る通知において、その指定の変更について同令第 8条に規定する保護者 の申立ができる旨を示すものとする。

そして 2006年 3月の初等中等教育局長通知「学校教育法施行規則の一部を改正する省 令及び学校教育法施行令第8条に基づく就学校の変更の扱いについて」において、「就学校 を変更する場合としては、例えば、いじめへの対応、通学の利便性、部活等学校独自の活 動等を理由とする場合が考えられるが、(中略)地域の実情等に応じて適切に判断するべき ものであること」とした。2007年の安倍政権においては、規制改革会議が5月の第一次答 申及び6月の閣議決定「規制改革推進のための三カ年計画」に「学校選択の普及促進等」

を盛り込み、全国展開を促進させた。また2007年6月 教育再生会議第二次報告で学校選 択制の促進と児童生徒数に応じた予算配分(教育バウチャー制)を提言した。この提言は、

80 次の三つの要素から成っている。

①児童生徒・保護者の希望・個性・能力に応じて学校を選べるようにする

②「特色ある学校づくり」を促進する

③児童生徒の集まり具合に応じて予算を差別的に配分する

このうち①にあたる部分が学校選択制のことを指し、②については学校選択制導入に対 する批判として挙げられる「学校の序列化」「格差化」に対して、その心配はないとする根 拠として出てきたものである。③は教育バウチャー制のことである。以上がこれまでの学 校選択制導入の経緯である。

第二項 導入の目的

嶺井・中川(2005)は各市区町村が学校選択制を導入する目的として、公式的に以下の5 つの点を挙げていると述べている。

z 特色ある学校づくり

→各学校に他校にはない「特色」を持たせて、学校を選択することの意味を持たせると いうこと

z 児童生徒の個性の伸長

→各学校がそれぞれの「特色」を持つことを前提に、一人ひとりの個性に合った学校を 選択できるようにすることで、児童生徒の個性を伸ばすということ

z 開かれた学校づくり

→学校を選択する際の基準となる情報を児童生徒に提供するために、学校公開や情報公 開が進むということ

z 保護者の意識改革

→学校選択により保護者が各学校の見学や情報収集を行うようになり、学校に関心を持 つようになるということ

z 教職員の意識改革

→学校選択という一種の競争原理の導入で、教職員が切磋琢磨するようになるというこ と

しかし、嶺井・中川はこうした公式見解とは異なる、学校選択制を導入する本当のねらい があるのではないかと指摘している。それは①公立学校の「体質改善」、②「教育改革」の アピール、③学校統廃合の促進、④競争による「学力向上」の4つである。

①の公立学校の「体質改善」については、朝日新聞が行った東京都品川区の若月秀夫教

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育長へのインタビューから伺うことが出来る。このなかで若月教育長は、「実際は子どもた ちは『友達』『風評』で決めているのでは」という記者からの質問に対して、「学校の特色 は一年や二年ではつくれない。慶応や早稲田だって、100年近くかかった」(朝日新聞、2002、

10月23日)と答えている。そして若月教育長は「その前段階の『当たり前のことを当たり 前にできる学校』にすることだ。そこまでの今の学校はレベルが低いのかということにな るが、私は実態をしっているからそう考える。選択制によって様々な人が学校へ来るよう になった。その結果、体罰や、子どもの人権に対する配慮のなさも隠せなくなった。そう いう問題の抑止力にもなっている。」(嶺井・中川、2005、19 頁)と述べている。しかし、

嶺井・中川は若月教育長が、現在の公立学校はレベルが低く、最低限のこともできていな い状態であるとの認識を示しているということ、学校選択制導入のねらいをそういった公 立学校の「体質改善」にあるとしたことは、現在「特色ある学校づくり」を必死に行って いる現場の教師に対して混乱を招くだけではないのかと指摘している。

また若月教育長は、区教委のホームページで次のように述べている。

教育界や学校現場では、「経営」と言うわりに、実は「教育論」だけですべて押し切ろうとする 習慣や傾向が強く、経営論的発想という何か露骨で計算高く、温かさや人間性に欠けた、一段 劣る、教育という営みに馴染まないものとする情緒的・感情的見解を色濃く残している(中略)

しかし時代はすでに確固たる経営論に支えられたスクールリーダー、常に切磋琢磨し成果に基 盤を置いた、自律的学校経営の実現に向けて動き始めています。先に私は、好むと好まざると にかかわらず、結果的に「そうせざるを得ない状況」を学校のなかに意図的に作り出すこと、

「そうせざるを得ない状況」に学校や教員を追い込んでいく「組織体としての力学」を発生さ せることが不可欠であると述べました。本区ではこうした考えを基に、従来から学校経営に加 えて、経営論的発想がどうしても必要不可欠となってくる施策が大切であると考え、「通学区域 の弾力化」を含めた「品川区の教育改革『プラン 21』」を策定し、学校教育に新たな一歩を記 そうとしたのです。従って当然、学校選択制の導入それ自体が目的ではなく、あくまでも経営 論的発想に根強い抵抗感を示す学校の体質そのものを変えていくことが目的なのです。(品川区 教育委員会、2007)

これはあくまで東京都品川区でのことではあるが、全国に先駆けて学校選択制を導入し ていることを考えると、この発言は軽視できない。つまり、学校選択制という競争に投げ 込むことによって管理職や教職員の意識を大きく変えることが主目的であると見てとるこ とができるのである。同時にこれは、公立学校と私立学校を競争関係におくことへとつな がっていくとも考えられる。また、そのことが端的に表された社会経済生産性本部の議論 は、学校選択制推進論者の言うことの一つの典型であるといえる。これを藤田(2000)は、

次のようにまとめている。

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