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第 6 章 総合考察

6.4 今後の新しいアプローチについて

6.4.1

イエネコの希少種に対する影響評価の実施

本研究では、ノネコの食性分析と個体数推定の結果から捕食される希少在来哺乳類 の数を算出したが、これだけではイエネコによる希少種への影響評価としては十分で はない。本来であれば、被害を受けている希少哺乳類とイエネコの個体群動態のデー タを用いて個体群生存可能性評価モデル(Population Viablity Assessment)や捕食の 影響による個体群推移のシュミレーションモデルを作成し、希少哺乳類の存続可能性 についての評価を行うことが必要である。しかし奄美大島でイエネコの捕食の影響を 受けている種の生物学的知見はまだまだ不明な部分が多く、十分な評価を行うために は、これらの種の生物学的データの蓄積が不可欠である。また PVA および PHVA

(Population and Habitat Viability Assessment)の手法に関しては、絶滅危惧種の 具体的な保全計画を策定するために、IUCN(国際自然保護連合)、SSC(種の保存委員

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会)、CBSG(野生動物保全繁殖専門家グループ)によってワークショップの機会が提供 されており、日本ではツシマヤマネコ、ヤンバルクイナ、アカガシラカラスバトに関 してすでに開催されている(アカガシラカラスバトPHVA実行委員会 2008)。奄美 大島においてもアマミノクロウサギやケナガネズミに関して、このワークショップ開 催機会の提供を受けることが望まれる。

6.4.2

外来種としてのイエネコが引き起こす問題についての啓発活動の実施

島外では、環境省主導のもとノネコ・ノラネコによる希少種被害の問題についての 啓発イベントは開催されているが、島内の住民に向けての活動はまだまだ十分ではな い。最近ではノネコによる被害などが新聞で取り上げられる機会も増え、ノネコによ る希少種捕食が問題であるという島民の認識は決して低くはない。しかしながら、ア ンケート結果から適正飼養の意識は低く、放し飼いネコやノラネコがノネコ問題の発 生源一端を担っているとの認識は弱く、山で起きているノネコによる被害は別次元の 出来事だというとらえ方をしている飼育者が多いことが本研究のアンケート結果から 示唆された。イエネコはノネコ・ノラネコ・飼いネコなどと呼び方も異なるため、多 くの飼育者にとってノネコは遠い存在として意識されている傾向があるのではないか と推測される。そもそもノネコは、放し飼いネコやノラネコが自由に繁殖した結果生 まれたイエネコであったり、無責任な飼い主によって山に捨てられたイエネコであっ たりする場合も少なくない。そのような「ノネコ」に関するわかりやすい説明から、

それらが引き起こす問題、そしてノラネコや放し飼いネコとの接点などを詳しく説明 し、イエネコ全般への対策がなぜ必要なのかを伝えることがイエネコ問題解決への最 も重要な基礎となると考える。またノネコの被害を受けている奄美大島の希少種をな ぜ保全しなければいけないのかを改めて伝え、島民自らがそれらの種を守る必要があ ると認識できるような啓発活動の実施が必要である。島民の多くが奄美大島で起きて いる希少種と外来種であるイエネコの関係性とその問題について理解しない限り、外 来種としてのイエネコ問題の根本的な解決にはたどり着けない。島民がノネコ捕獲排 除(殺処分であれ新しい飼い主探しであれ)が必要であるという結論に達することが 最も望ましい展開であろう。様々なメディアや関係機関や団体などを巻き込んだ、継 続的な啓発活動への取り組みが望まれる。

このような状況の中、2014年7月に地元のネコ好きにより奄美大島における様々な イエネコ問題を解決すべく啓発活動を中心に行う「奄美猫部」が発足し、島内のイエ

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ネコ問題に対し積極的な活動を行っている。また2015年11月にはノネコ対策に関す る啓発活動や行政への提言を行うことを目的とした「奄美ネコ問題ネットワーク」が 設立した。地元の民間団体によるイエネコ問題への取り組みは始まったばかりである が、このような活動が実を結び奄美大島のイエネコ問題の解決への大きな一歩となる ことが大いに期待される。

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